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カップ麺の要請 完結

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りんこさんの『カップ麺の妖精』に触発されて、このお題2作目。
ちょうど3分で読めるくらいになったかと思います。3分では読み切れないよ、という方はうどんのカップ麺でお試しください。基本は5分ですが、10分経っても美味しくいただけます。

1位の表紙

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 チャイムが鳴ったのでドアを開けると、一人の少女が立っていた。

 知り合いではない。

 日曜日の午後、独身の中年サラリーマンの住む1Kの安アパートを訪れる少女、とくれば大体想像がつく。

 「すみません、宗教には興味ないんで」

 ドアを閉めようとすると、少女が隙間に足を挟んできた。

 「待ってください! 閉めないで! 話を聞いて欲しいのです!」

 怪我でもされたら面倒なので無理に閉め切ることはしなかったが、強引な宗教勧誘だな。

 「宗教と株の話には乗るなと、死んだ婆ちゃんの遺言で……」

 「宗教でも株でもありません。私は、カップ麺の妖精なのです」

 季節は春をとっくに過ぎて、もう夏なんだが。

 俺が憐みを込めた目で見ていると、彼女はその場で飛び上がった。

 「論より証拠、ほら、ちゃんと受け止めてくださいね」

 ポンっという音と共に、彼女は姿をカップ麺に変え、俺の手のひらに着地した。

 とりあえず部屋の中に戻り、彼女、もとい卓袱台の上のカップ麺と対峙した。

 「本当にカップ麺の妖精なのか?」

 「本当にカップ麺の妖精なのです」

 しゃべるカップ麺など見たこともないから、どうやらそういうことらしい。

 どこから声を出しているのかは謎だ。

 「で、そのカップ麺の妖精さんが、何故俺のところに?」

 「私は、先程あなたに助けていただいたのです。なので、そのお礼に参りました」

 今日は昼前に起きて、ビールを飲みながら昼飯替わりにコロッケを食って、あとはテレビを見ていただけなんだが……ああそうか、コロッケを買いに近所のスーパーに行ったな。

 幼稚園くらいの男の子が二人、スーパーの中を走り回っていた。

 親がどこにいるのか、それらしいのは見当たらない、完全放し飼い状態。

 やれやれ、うかつにぶつからないよう気をつけないと、逆に文句を言われそうだ。

 彼らに背を向けて総菜コーナーに向かった瞬間、何かが崩れる音がした。

 振り向くと、積み上げられていた特売のカップ麺が、無残にも崩れ落ちている。

 重要参考人である男の子たちが、慌てて逃げ去って行く。

 やれやれ。

 どうせ彼らもその親も、崩したカップ麺を直しに来たりはしないだろう。

 正午の少し前、レジはごった返していて、すぐ片づけに来られる店員さんもいそうにない。

 俺は手早く、カップ麺を元通りに積み上げた。

 ぐずぐずしていると、俺が犯人にされてしまう。

 

 ……ということはあったが、それでか? と聞くと、それでなのです、という答えが返って来た。

 なるほど、善行はおこなうものだ。

 とはいえ、目の前にあるのはカップ麺の妖精と称するカップ麺だけで、一体なんのお礼をしてくれるのだろう。

 「すまないが、ウチに機織り機はないんだ。何か手伝ってくれると言うなら……そうだ、ゲームでなかなか倒せない敵がいて、先に進めないんだ。俺の代わりにクエストをクリアしてくれないか?」

 「いえいえ、そんな能力は私にはないのです。この姿でお返しすることしかできません」

 「その姿で?……いや、それはやめておこう。高校生ならともかく、いい歳をしたオッサンがすべきことではない」

 俺の考えを察したのか、こころもちカップ麺が赤くなった気がした。

 「そ、そ、そーゆーのではないのです! 私はカップ麺の妖精ですから、カップ麺としてお礼をするのです! さあ、フタを開けてお湯を注ぐのです!」

 「つまり、君を食べろと?」

 「そーゆーことなのです」

 確かに、コロッケを食っただけなので、小腹は空いている。

 「では、遠慮なくいただくか」

 俺は彼女を手に持って、台所へ行った。

 フタを開け、電気ポットからお湯を注ぐ……前に、彼女が警告してきた。

 「ちゃんと! 沸騰したお湯を使うのです!」

 俺は節電のため、電気ポットの保温を90度に設定している。

 普段はこのままカップ麺を作るのだが。

 「再沸騰のボタンを押すのです!」

 ……まあ、沸騰したお湯の方が、美味しくなるのかもしれない。

 2~3分待つと、電気ポットが鳴いて、再沸騰完了を告げた。

 「じゃあ、お湯を注ぐぞ?」

 「ちょ、ちょっと待つのです!」

 今度は何だ?

 「手に持ったまま、お湯を注ごうというのですか? それでは水平が保たれないので、ちゃんと内側の線までお湯を注ぐことができないのです!」

 面倒くさいことを言う。

 が、確かに適量のお湯を注いだ方が、美味しくなるのかもしれない。

 だいたいいつも、俺は適当にお湯を入れるので、味が濃すぎたり薄すぎたりすることがある。

 とはいえ、電気ポットの注ぎ口からカップ麺までは、それなりの距離がある。

 このまま『給湯』ボタンを押すと、お湯が飛び散る危険がある。

 俺は部屋から読み終えた雑誌を何冊か持ってきた。

 これを下に敷けば、ちょうど良い高さになる。

 準備を整え『給湯』ボタンを押そうとすると、またもやカップ麺が喚きだした。

 「待つのです! これでは水平が保たれていないのです! ちゃんと水平を確認してからお湯を注ぐのです!」

 まあ、確かに。

 中綴じの雑誌を敷いていたので、三次元的に傾いているのは否めない。

 俺は雑誌の代わりにプラスチックケースを持ってきた。

 その上にカップ麺を置き、さらに水を入れたペットボトルを置く。

 これで水平を計測できる。

 微妙な傾きを補正するため、プラスチックケースの下に葉書などを何枚も差し込む。

 数分後、ようやく前後左右に水平な状態を創り上げた。

 「じゃあ、お湯を注ぐぞ?」

 「ちょっと待つのです! あなたがモタモタしている間に、お湯が冷めてしまったのです! もう一度再沸騰させるのです!」

 全く面倒くさいヤツだが、ここまで言うからにはきっと美味いのだろう。

 再沸騰を待つ間、俺は彼女に聞いた。

 「お湯を注いだ後の注意事項があれば、今のうちに聞いておくが?」

 「お湯を注ぎ終わったら、すぐにそこにあるお皿で上から押さえるのです。このプラスチックケースの上から動かしてはダメなのです。システムキッチンの金属の上に置くと、熱が逃げてしまうので」

 うん、確かに理には適っている。

 「時間も、ちゃんと測るべきだよな?」

 「当然なのです! キッチンタイマーをセットしてからお湯を注ぐのです。ロスタイムを勘案して、2分50秒にセットするのです」

 キッチンタイマーが、2分30秒を回った。

 もうすぐ出来上がりだ。

 「ここまで厳密に作ったんだから、さぞかし美味いんだろうなぁ。なんか、わくわくしてきたぞ」

 「それはもう、この世のモノとは思えない美味しさなのです。でも……」

 「でも?」

 「カップ麺の妖精は、お湯を注がれて3分経つと消滅してしまうのです」

 「なんだって?」

 その途端、キッチンタイマーが、2分50秒を告げる。

 ロスタイムはあと10秒。

 お湯を注ぎ終わってからスタートボタンを押すのに2秒ほどかかったから、実質残り8秒か

 俺は右手で皿を避け、左手でカップ麺のフタを剥がし、右手と口で割り箸を割った。

 電光石火の早業で麺をつまみ、口元に運ぶ。

 せめて、一口!

 しかし、俺の舌が麺に届く寸前、カップ麺の妖精はドロンと消え失せてしまった。

 ご丁寧に、お湯だけ残して。

 俺は水浸しになったプラスチックケースを拭きながら、悔しさに涙を流した。

 俺がカップ麺を2分30秒で食べ始める理由は以上だ。

 他人に強要するつもりはないし、やっぱり3分経ってから食べた方が美味いというのはわかっている。

 でもあれ以来、俺はお湯を注いで2分30秒が経過すると、食べずにはいられないんだ。

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1

舞殿王子さん、ありがとうございます~っ(≧∇≦)
カップ麺の妖精を書いていただけて、すごくうれしいです!!
舞殿王子さんのカップ麺の妖精さんは、とっても可愛いですね(*´∀`*)
で、ああ、なるほど!! だから『要請』なのね! と、爆笑しました!
ラストにも大笑いしました、すごく面白かったです♪( ´▽`)

りんこ

2018/7/8

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笑ってしまいましたww
思いがけないコラボですね(´∀`*)ウフフ
これは麺が伸びますねwww

大久保珠恵

2018/7/8

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いちいち細かい、うるさい妖精というのが、むしろイイのでしょうね(^^♪結末で寂しさを却って倍加させる気がする

湊あむーる

2018/7/12

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とじる

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