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主人公は、つらいよ。 完結

大量発生!!!!!

更新:2018/8/9

カンリ

ポイント
81
オススメ度
12
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合計:4

『モテ☆モッテ2018』の主人公、愛野エメラルドはおかめ系平安美人の女子高生。
たまにはダラダラしたい。そんな彼女へ襲いかかる、作者による無数のラブトラップ。 
男キャラの名前は、世界の砂漠の名前。

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 私の名前は愛野エメラルド。至って平凡な、おかめ系平安美人の女子高生。けれど私には、この世界の誰とも被ることのない、ある特徴がある。

 そう、私は『主人公』なのだ。

 私が主人公を務めるこの物語の名は『モテ☆モッテ2018』。平凡な女子高生がある日いきなり男子にモテまくる、というストーリーである。ちなみに私は『エメラルド』という名だが、ハーフでも何でもない。本当は『美子』という名前で内定していたのだが、出産当日のはっちゃけたテンションで親が名前を変更した為、こうなった。

「なあエメラルド、今日暇? 一緒に帰ろーぜっ」

  帰りのホームルームが終わると、クラスメイトの元気系サッカー少年、田倉 真寛(たくら まかん)が話しかけてきた。私はボッチ系根暗女子なのだが、クラスのムードメーカーである彼はこのように何かと話しかけてくる。

「あ……ごめんね。今日は家でやりたい事があるから」

「そーなのか? チェッ、ついてねーな」

 彼と関わると、ファンの女子から体育館裏に呼び出されて、リンチされそうな所を彼から助けられる羽目になる。私は田倉からの誘いをサラッとかわし、鞄を持って教室を出ようとした。

「おっと、待ちな」

 廊下に出た瞬間、私の手は何者かによって掴まれる。そして壁に押し付けられたかと思うと、顔の真横で手を『ドン!』とされた。

「今日こそこの契約書類に判を押してもらうぜ、未来の副会長サン」

「あなたは……沙原(さはら)先輩!」

 彼は俺様系生徒会長の沙原先輩だ。入学してから何かと目を付けられていて、こうして事あるごとに生徒会への勧誘をされる。生徒会室へ行ったが最後、壁ドン顎クイ祭りが待っているので、これも断る事にする。

「ごめんなさい、今日も用がありますので」

「オイオイ、どれだけ俺様を焦らせば気が済むんだ。テメェはまるで小悪魔だな」

 背後で白薔薇が舞い散っている沙原先輩の横をさっとすり抜け、私は足早に下足ロッカーへ向かう。しかし曲がり角で、誰かと思いっきりぶつかってしまった。ぶつかった拍子に、相手の持っていた本が辺りにバサバサと散らかった。

「イテテ……おや、愛野じゃないか!」

「波武(なみぶ)先生!」

 癒し系新任教師の波武先生は、生徒内で最も人気のある先生だ。拾い集めた本を先生へ手渡すと、波武先生はズレた眼鏡を直しながら微笑んだ。

「ちょうど良かった、これから暇かな? この本を資料室まで運ぶのを手伝って欲しいんだ」

「先生……申し訳ないんですが」  

 言われるままに資料室で手伝いをして、鍵が壊れて外に出られなくなり、そのまま彼と二人っきりで夜を明かした事があった。嫌な予感を察知した私は先生の依頼を丁重に断り、急いで学校を出た。

 このように私の日常は、作者によるラブトラップで満ち溢れている。『モテ☆モッテ2018』は冴えない女子モテまくり系のラブコメなので、1話につき最低1回は男子とのラブイベントに臨まなければならないという縛りがある。これを無視すると物語のテーマがおかしくなる上に、この物語の存続自体も危うくなってくるので、これまでは出来る限りラブトラップにはハマってきた。現に午前中も体育でバレーボールに蹴躓いて気を失い、貴公子系ヤンキーである五火(ごび)君にお姫様抱っこをされるというイベントをこなしてきたばかりだ。

 だから明日までは適当に過ごせると思ったのに。今日は何故だか、作者のラブトラップが妙にしつこい。

「増刊号でページ数増えてるのかな……。どうせなら午前中のラブイベントをもっと掘り下げりゃあいいのに。こっちも暇じゃないんだよ」

 主人公だって。主人公だってたまには、だらけたい。散らかった自分の部屋で寝っ転がっておケツボリボリ掻きながら、ポテチを食べて録りためていたアニメのCM抜きをしたい。ついでにダビングだってしておきたい。

 なのにこの作者は、私をダラダラした休息から頑なに遠ざけようとする。

「ただいまー……って、あれ?」

 細心の注意をはらいながら帰宅すると、玄関に見慣れた男物のスニーカーが散らばっている事に気が付いた。その持ち主を予想するよりも先に、本人がリビングのドアから顔を出す。

「おっせーぞエメラルド!」

「ちょっと太並(たなみ)! あんた幼なじみだからって勝手に家にあがらないでよね!」

 コイツはダメ男系幼なじみの太並。家が隣同士のうえに親同士が親友だから、勝手に将来結婚することになっている男だ。親はコイツを未来の息子同然に扱っているので、同じ食卓を囲むのは勿論、時たま同じ部屋で寝させられそうになるから、本当に苦手なのだ。

「ていうか何で家にいるの? 早く帰ってよね」

「お前知らねーの? 俺らの親達、今日いきなり海外赴任が決まったらしくてさ、これからしばらくこの家で共同生活しろって」

「は!? 何それ、海外赴任ってこんな前触れも無く決まるもんなの!?」

 慌ててケータイを確認すると、ほぼ同じ時刻に上記の4人から似たような内容のメールが届いていた。皆しがない地方公務員の筈だ。海外赴任だなんて聞いたことがない。

 ゲンナリしていると、太並が見覚えのあるポテトチップスを食べながら、晩ご飯をせびってきた。

「なあなあ今日のメシ何? 俺ハンバーグとエビフライとカツカレーがいい」

「ってアンタそれ……私が食べようと思ってたポテチ! 何勝手に食べてるんだよ!」

「え? 食っちゃダメなの?」

 それでも尚食べるのを止めようとしない太並を睨み付けると、私は踵を返して家を出た。至福のダラダラタイムには、大好物であるポテトチップスがどうしても欠かせないのだ。

 私は自宅から一番近いコンビニに到着した。その自動ドアをくぐり、目を瞑ってもたどり着くことの出来るポテトチップスの棚へと足を進める。が、そこで思いもよらない人物から声をかけられた。

「あっ、愛野ちゃんいらっしゃいませ~! 久しぶり~ぃ」

「ゲッ……! 亜高間(あたかま)さん!?」

 ドジっ子系コンビニ店員である彼の事を、私はこれまでずっと避けていた。隠密にこの店のシフトを調べあげ、絶対に鉢合わせないよう気を付けていたのに、まさかポテチ欲しさに彼の存在を忘れてしまっていたとは。

 これは、マズイ。そう思った時にはもう遅かった。亜高間さんはホワ~ンとした効果音付きで、笑みを浮かべながらこちらへ近付いてくる。

「これぇ、新作アイスの試食ど……うわぁっ!」

 

 何故かそこに食べ捨ててあったバナナの皮を踏んだ亜高間さんは、ポテチ棚へ豪快に突っ込む。私はたちまち倒れてきた棚の下敷きになった。

 私が頑なに彼を避けている理由がこれだ。彼は作中きってのトラブルメーカーなのだ。

「わわわ、ごめんねぇ! 今助けるよぉ」

「ぐっ……! 結構です……っ」

 とはいえ私は主人公なので、体はかなりタフに出来ている。棚の隙間から自力でなんとか這い出ると、ポテトチップスを購入して足早に店を後にした。

 主人公補正とでも言うべきなのか、体の丈夫さには自信があった。これまで色んな目に遭ってきたが、このようにぴんしゃんとしている。

 私の死イコール物語の終わりなので、そこらへんの待遇は手厚いらしい。これに関しては作者に感謝なのだが、ラブトラップはいつも突然やってくる。

「ギャッ! 何でこんな所に穴がっ!!」

 道を走っていた私は、急に落下した。どうやらマンホールの蓋が外れていたらしい、その上を通ってしまったのだ。赤いコーンも立ち入り禁止の看板もない所に作者の悪意が透けて見えるが、幸いにも落下途中で私は誰かに手を掴まれ、最深部へグチャッと落ちるのを免れた。

「クッ、大丈夫かエメラルド!」

「荒日亜(あらびあ)さん! 何故あなたがこんなマンホールの中に!!」

 片目に眼帯をした彼は、中二病系探偵荒日亜さんだ。何故か自身も宙ぶらりんになっている荒日亜さんは、ファイト一発で私を片手で引き上げると、そのたくましい胸板に押し付けるように抱き締めた。

「俺が追っている闇の組織、『漆黒の羽』が来日したと聞いてな……こうして尾行していたのだ」

「えっ、漆黒の羽って前に言ってたイタリアンマフィアの? どうしてわざわざこんな ひなびた町に」

「奴等にやられた眼帯の古傷が疼くぜ……! 感じるぞ、すぐ近くに漆黒のオーラを……っ!!」

 どうやら荒日亜さんはしばらくここに潜んでいるらしい。私は穴から這い出ると、落ちていたポテトチップスを拾って駆け出した。

 先程からラブイベントを拒否し続けているせいなのか、段々とトラップの危険度が増しているようだ。でも今日だけは絶対に譲れない。今日こそは、自分の思うままにダラダラすると決めたのだ。そこだけは絶対に譲れない。

 だがその後もラブトラップは何度も私の行く手を阻んだ。それらの全てを避ける事には成功したが、悲しい事に家へ戻ってきた頃には既に真夜中になっていた。

 日付がリセットされると、ラブイベント受け入れ数がリセットされ、より多くのラブトラップが発生しやすくなってしまう。私は大急ぎで自宅の階段を駆け上がると、滑り込むようにして自室へ入り、慌てて窓とドアを施錠した。

「怪しげなトラップは……ないっ! よしっ!」

 急いで着古したスウェットへ着替え、ブルーレイの電源をオンにする。人を堕落させるソファをテレビの前にセットし、ケータイと各種リモコンをその傍らに置いてソファの上にダイブした。

 やっと、これでやっと待ち望んでいた至福の時間に浸ることが出来るのだ。不思議な達成感のような物にうち震えながら、私はポテトチップスの袋を開いた。

 その時ちょうど、時計の針がまっすぐゼロを指した事にも気付かずに──。

──こんばんは。聞こえる? ボクの声──

 私の心に直接語りかけてくる声。開けたばかりのポテトチップスの袋から、不思議な具象気体が目の前へと現れた。

「初めまして、選ばれしニンゲンよ。ボクはポテトチップスの精。あなたは今日から魔法少女となって、この世界を守るのです──」

 突然の路線変更。

 主人公は、つらいよ。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/08/09)

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1

おもしろかったです(≧∇≦)!!
笑いすぎて、お腹が……!

りんこ

2018/7/12

2

笑ってもらえてとても嬉しいです!
お気に入りやオススメポイントもありがとうございます!

作者:カンリ

2018/7/12

3

セリフが皆、イキイキしていますね。キャラの。見習いたいです(^^♪

湊あむーる

2018/7/12

4

湊あむーるさん
お褒めの言葉をどうもありがとうございます!
とても嬉しく思います。

作者:カンリ

2018/7/12

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とじる

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とじる

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