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神魔部隊Oracle 天使が抱く地獄編

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アメリカ国内で、過激派天使によるテロ事件が相次いでいた。
上位の天使が、狂信的な人間に「聖餐式」と称して血を与え、神魔化し、彼らに不信心者と認定した者への攻撃を行わせているのだ。
天使の同輩と、Oracleの任務との間で立場が悪くなっていく、天使マカライト。
そんな時、リベラル派の大物議員、アシュリー議員を狙ったテロ計画が明らかになり……?

1位の表紙

目次

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5-1 聖餐式

 数多くの人間が詰め込まれているというのに、そこは不気味な沈黙で支配されていた。

 照明は、天井から下がった古めかしいランプ、そして壁に取り付けられた燭台の、今日日、信じられないことに、蝋燭の明かりだ。

 まだらに赤っぽい光が漏れ、人間の群れは幻想的とも不気味とも取れる様態に浮かび上がっている。

 まるでおとぎ話の中の世界、世界の「正式な」言語がラテン語だった時代みたいだ。

 子細に見るなら、そこが平凡な造りの教会の礼拝堂内部であることがわかるだろう。

 白い壁、木製のまっすぐな柱が等間隔に並び、奥に大きな十字架とマリア像。

 優し気な表情のマリア像なのだろうが、まだらの光に照らされたそれは、今にも叫び出しそうな恐怖の彫像に見える。

 マリア像の手前に……天使が、いた。

 天使、としか言えない姿の存在だ。

 人間より、一回り大柄な体躯はたくましく、きらびやかな装飾に覆われた甲冑で飾られていた。

 男性的な体躯に反して中性的と言える整った顔立ちは、南国の海のような鮮やかで深い青い目にも関わらず、妙に彫刻的で酷薄な印象を与えた。

 女のように金髪を長くしたその天使は、背中の真っ白な翼を畳んだまま、大きな手に、宝石で飾られた、古代の王族が使うような杯を持っていた。

 周囲の人間は、白いローブに身を包んだまま、何も言わない。

 ただ、なにかを期待したような空気の密度を濃くする圧力のようなものが、その天井の高い空間いっぱいに満ちていた。

「ダリル・ヘイウッド」

 殷々と響く声で、「天使」が呼びかけた。

 その前に、若い男性が進み出る。

 ごく、平凡な若い男性に見えた。

 白人で、栗色の髪を短くしている。

 とんでもなく大柄ではなく、馬鹿にされるほど小柄でもなし。

 感心されるほどマッチョというほどでもなく、だからといって頼りなさを感じさせるほど貧相という訳でもない。

 美形ではなく、だからといって、人前に出るのをはばかるほど見苦しい訳でもない。

 衣装も、近隣のゲームセンターに出かける時のような平凡さ。

 単なるパーカーとジーンズ、スニーカーだ。

 そんな「ダリル・ヘイウッド」が、天使の前に進み出た。

 期待で、灰色の目がきらきらしている。

「汝を、『天使の子』に叙する」

 天使が、静かな、だが聖堂中に妙にはっきり響く声で宣言した。

「聖杯を、受け取るがいい」

 天使が、手にしていた杯を、ダリルの方に差し出した。

 会衆が、まるで待っていたかのようにざわめきだした。

 アーメン!! アーメン!! アーメン!!

 という叫びが、聖堂を埋め尽くす。

 その叫びの中で、ダリルは杯を受け取った。

 確かに、伝説の聖杯みたいに、その杯の中には、血が入っていた。

 底の方にたまっている程度だが、確かに「血液」に違いない。

 赤黒く、どろりとしている。

 立ち上る鉄臭い匂い。

 ダリルは息を吸い込むと。

 思い切って、一気にその杯の中身をあおった。

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とじる

5-2 天使もどき

 ステイシーのいる教室は、夏の始まりを告げる日差しが射しこむものの、控えめに空調が効いていて快適だった。

 目の前では、生物の教師がポールに沿って広げられた古生物のイラストを進化順に表示しながら、丁寧に進化論の説明をしている。

 トカゲとジャッカルを混ぜ合わせたような貧相な四足動物から、カバとワニを混ぜ合わせたようなずんぐりした大きな水辺の動物、やがて優美な細長い、今日見るようなクジラを細長くしたような生き物となり……。

 嗚呼、テレビで牧師さんが言っていた。

 生物は神が作ったのだ、「進化」などしていないと。

 自分の祖父くらいの年齢のその牧師服のおじいさんは、自分みたいにハイスクールで生物の授業を受けなかったのだろうか。

 世界のあちこちからわんさか掘り出される、様々な今は存在しない生き物の骨と、自分の信仰の折り合いの付け方が下手すぎるんじゃないかと思う。

 形あるものは壊れるのだ。

 神様が作ったものだって、壊れるだろう。

 生き物たちは自分たち全部が壊れる前に、新しい形質を身に着けた子孫を残しただけのこと。

 その果てに人間だっている。

 何も不都合はないんじゃないか。

 気の狂った大人のぎらぎらした目つきを頭から追い出し、ステイシーはノートにペンを走らせ――

 ふと、違和感を感じて、窓の外を見た。

 ひゅいっ、と、奇妙な音が喉で鳴った。

 窓の外に、人間が、いた。

 昼前の黄色みを帯び始めた日差しに照らされ、その人影は、どこかで見たような不気味な笑顔を浮かべて、教室の中のステイシーを、いや、生物学教室にいる教師と生徒全てを睨みつけていた。

 敵意と悪意のたっぷり混じったその目がなければ、ステイシーは割とすぐ、その存在をこう定義付けることができただろう。

「天使」と。

 その人影は若い男性で、背中には大きな翼があった。

 それなりに真面目な生徒であるステイシーは知っている。

 人間の背中に翼を生やしたところで、空を飛ぶのは不可能だ。

 骨格と筋肉を根本的に変更しなければ、鳥のようには飛べず、そしてそう変更されたらそれはすでに人間とは言えないであろう。

 しかし、ガラスと数フィートの空間を挟んでそこに存在している「それ」は、明らかに「人間」だった。

「天使」ではない。

 天使が、その辺の安売りショッピングサイトのお買い得品みたいな、ロゴ入りパーカーを着ているものか。

 目鼻立ちだって、美術の教科書に載っている宗教画の天使のように高貴な雰囲気ではない。

 本当にその辺のライブ会場から帰ってきたような、ごく平凡な白人男性の顔。

 しかし。

 そいつの背中の翼は、黒々した影を落とし。

 そして、なんと言ってもその体が空中に浮かんでいる。

 この教室は――三階にあるのだが。

 思わず腰を浮かしたステイシーに気付いたクラスメイトが、こっちを見。

 そして、彼らも気付いた。

 一瞬の凝縮した沈黙の後、悲鳴が上がった。

 あれよという間に、教室は火事場のようなパニックとなる。

 雪崩を打つように、生徒たちが窓辺から離れた。

 中には、スマホを取り出して撮影している猛者もいるが、ステイシーはその男子生徒に、やめて、逃げるのよと叫んでいた。

 あの、悪魔としか思えないような、邪悪な目つき。

 何もかも吹っ切ってしまった人間の、底のない邪悪さと狂気しか、そこには窺えない。

 ステイシーにはわかった。

「それ」は何かをしようとしている。

 この教室にいる全員に。

 いっそ、どこぞで聞いたような、自動小銃でも持っていたら、わかりやすかったのだろう。

 だが、手ぶらでも、「それ」が何らかの危害を加える手段を持っていると、ステイシーにはわかる。

 あの地獄の釜を覗いたような悪意と害意の燃え盛る目が、いたずらだけで済ますつもりなものか。

「速やかに教室の外へ出て!! 早く!!」

 年配の教師が叫んでいた。

 いつの間にか、窓の外に見える「天使もどき」の数が増えていた。

 視界に入っただけでも、十人近くいる。

 いずれも男性で白人らしいことは見て取れた。

 どいつもこいつも、土曜日に犬の散歩でもするような平凡な衣服の人間だというのが、異様な違和感を引き起こす。

「アーメン!!」

「天使もどき」が、確かにそう呼ばわった。

 その瞬間、飛来した無数の火の玉が、窓ガラスを粉砕して室内に飛び込み、燃え上がる。

 炎が窓辺に居残って撮影を続けていた命知らずの男子生徒の元に迫り……

「おい、小僧。大人の言うことは聞くもんだ。逃げろって言われたら、さっさと逃げるんだよ、ほれ!!」

 予想された惨劇はなかった。

 その代わり、信じられないものが目の前に展開している。

 窓ガラスそのものが炎と入れ替わったように、紅蓮の業火が窓と壁一面を覆っていた。

 火山弾のような炎はそれに呑み込まれたらしく、跡形もない。

 危うく難を逃れた男子生徒を子猫のように捕まえているのは、人間離れした巨躯の、不可思議な人影だった。

 闇夜に燃え盛る炎のような金髪を長くし、実際炎がまといついている。

 浅黒い肌に緋色で炎が描かれた肉体は、彫刻のように筋肉質で見事だった。

 腰回りに奇妙な衣服らしきものを巻き付け、上半身は剥き出しである。

 何より、鉤型の突起がいくつも突き出たような、奇怪な形状の剣を、手に持っていた。

 何者だ、と思うより先に、ステイシーは、放り出されてよろめいた男子生徒の手を引いて、引きずるように、教室を後にした。

 あの天使もどきを見た時とは真逆の、震えるような畏怖と共に、妙に安らいだ気持ちを抱きながら。

 ◇ ◆ ◇

「どういうことだ……」

「天使もどき」たちは呆然としていた。

 目の前の攻撃目標――ニューヨーク州のとある高校――が、突如炎に包まれ、自分たちの火山弾の攻撃を呑み込み、上回る炎で消し飛ばした。

 そして、まるで異教のいけにえの祭りのように、炎は塔型に噴き上がり、中に呑み込まれていたはずのがっちりした造りの校舎は消え去っていた。

「落ち着け!! 奴らだ!! Oracleの連中だ!!」

 天使もどきの中の誰かが吼えた。

 今や十数人となった、背中に翼を生やした「神魔化」した人間は、軍の小隊のように一定の距離を開けて陣を組み、敵の攻撃に備えた。

「そうにゃよ~~~。あんたらに勝ち目なし!!」

 柔らかく可愛らしい爽やかな声が、どこからか聞こえた。

 天使もどきたちは周囲を見回すが、どこにも何もない。

 ただ、乾いた白線のグラウンドに立つ、校舎を呑み込んだ炎の柱だけが、何かの啓示のように、赤々と燃えている。

「うわっ!?」

 天使もどきの一人が、思わず頭を手で払った。

 いきなり、どこからともなく現れた優雅な四足の獣が、ボンネットに乗っかる猫のように、天使もどきの一人の頭に座っていたのだ。

 払われた瞬間、まるでそこにいなかったかのように、その優雅な獣は消え去った。

 だが、側にいた天使もどきの目には確かに、その可愛らしい額に輝く、鮮やかで深みのある色彩のルビーが焼き付いた。

「ここは、あたしの作り出した魔法の空間、にゃあ」

 またもや、別の天使もどきの頭の上に、宝石の獣が姿を現した。

 銀色と新緑のような薄緑の鮮やかな毛皮。二又の楽し気に動く尻尾、山猫のように優美なスタイル。

「あなた方の術は、ここじゃあ、何の効果も現さないにゃあ~~~。何にもない空間に、火山弾ぶちまけて面白いかにゅう?」

 またもや別の天使もどきの頭の上に現れ、優美な獣はけろけろと笑う。

「捉えろ!! カーバンクルだ、間違いない!!! Oracleのメンバーだ!!」

 天使もどきのリーダー格らしい男が怒鳴った。

 複数の手が、その宝石の獣、優美なるカーバンクルに伸びるが、まるでその姿は幻のように捉えどころがない。

 手に触れるかと思った矢先に消え去り、また少し先に二匹となって現れ、ことごとく天使もどきたちの先回りをする。

 どれが本物か幻かもわからず、天使もどきたちは宝石の獣に翻弄されるばかりだ。

「オッケー、アミュレット!! もういいぜ!!」

 陽気な若い男の声が響いた。

 溌剌とした声が歓声を上げると共に、空が輝いた。

 激しく光り輝く、大きな「星」が降ってきたのが、大部分の天使もどきが最期に目にした光景だった。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/21)
  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/16)
  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/12)

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とじる

5-3 古なる神々と、天使になり損ねた者たちの抗争について

 それは、黄金に輝く巨大な狼だった。

 乗用車より大きい体躯、ふさふさした毛皮はまさに太陽のような黄金だ。

 そして普通の狼より、明らかに牙や爪が発達した、怪物的狼である。

 そんな「狼」が、天使たちの集団のすぐ近くにいた。

 一体、いつそんな巨大な化け物が、と思えた天使もどきは多くない。

 最初に激しく輝きながら降ってきた流星の雨に打ち砕かれ、八割がたの天使もどきが沈んでいた。

 凄惨な見た目となって落下した彼らは、地面に着く前に羽毛と光の粒になって四散する。

「やあ、坊やたち、ゴキゲンって訳じゃなさそうだな?」

 狼の口から、陽気な若い男性の声が飛び出た。

 こんな時でも、なんとなく警戒心を解いてしまいそうになる、気安く嬉し気な調子だ。

「で。君らは、天使の血を授けられ、飲み干した、元人間。そうだよな? 趣味が悪いぜ? 吸血鬼の真似事なんか素人のするもんじゃない」

 それを言われた時、生き残りの数人の天使もどきは目を見開いた。

 Oracleに、かなりの情報が渡っている。

 情報源はやはり……

「てめえらに血を飲ませた天使はどいつだ? やっぱりウリエルなのか?」

 今度は背後で声がした。

 天使もどきたちが振り返ると、そこには、禍々しい炎を身にまとった、炭のように黒い肌の巨人がいた。

 黄金の髪に奇怪な形状の剣らしきものを持ち、更に、その精悍で整った顔の半分は、凄惨な傷に覆われている。

「アーメン!!」

 その神魔の一番近くにいた天使もどきが声を上げた。

 祈りの言葉に応じるように、天から赤くどろりと輝く何かが降り注いだ。

 先ほどの狼の降らせた星とは違う、明らかに半固形の不定形な物質――溶岩だ。

 数千度の溶けた岩が巨大な人影と狼に降り注ぐことはなかった。

 彼らの前にそれぞれ展開された、大きな炎の幕が、一瞬で降り注ぐ溶岩を呑み込み、どこへともなく消え失せさせる。

「この炎の神、火之迦具土に炎で挑むとは馬鹿な奴等だ。てめえらみたいな三下の炎が、俺の『女神殺し』の炎に通じるかよ」

 生まれ出ずる時に、大地たる母、伊耶那美命(いざなみのみこと)を焼き殺した火之迦具土(ひのかぐつち)の炎は、まさに「神火(しんか)」。

 まだ神魔としての力をもてあまし気味なくらいの「天使もどき」の炎が、通じる訳もない。

「このっ……!!」

 天使もどきの一人が、どこからともなく手の中に出現させた剣でもって、黄金の狼に斬りかかった。

 炎の壁を一息に乗り越え、黄金の狼になだれ落ちる。

 巨躯の狼はしかし、稲妻のように素早かった。

 瞬間的に身をかわし、突きかかった剣を真横からがっちりくわえ込む。

 天使もどきがぎくりとした。

 思わず剣を牙の列から引き抜きにかかるも、まるでコンクリートに固められたようにびくともしない。

 そのわずか一瞬の後、ばきりという嫌な音が響いた。

 目の前で、巨大な狼の顎が神に授けられたはずの剣を噛み砕いたなどとは、いくらなんでも信じがたい。

 あまりのことに、少し前まで普通の人間でしかなかった天使もどきの反応は遅れた。

 気が付いた時には、目の前に真っ赤な狼の口腔が迫り。

 自分の喉笛も、あの剣と同じくらいにやすやすと噛み砕かれたなどとは、彼は最期まで信じられなかっただろう。

「我が神よ!! 我に悪魔を退ける力を与えたまえ、アーメン!!」

 天使もどきが天に向かって祈りを捧げる。

 ビームのような、白い強力な光が降り注ぎ、炎の巨人を呑み込み……

「んで? これがどうかしたか?」

 白い光の滝の中、炎をますます燃え上がらせ、炎の巨神はにんまり笑った。

「アホな奴だな。こういう攻撃は、本当におめえらの言うところの地獄に属するような悪魔にしか通じねえっつうの。俺は神だ。他の神の『浄化』なんか通じるかよ」

 炎の神が哄笑を上げ。

 光の中で振り上げられた、七支刀が、一瞬だけ天使もどきの目に映り。

 真っ二つに断ち割られた天使もどきが落下していくのを、炎の神は興味なさそうに見送った。

「おお、主よ!! 主よ!! 悪魔の手にある私を救いたまえ!!!」

 現実逃避なのか何なのか。

 最後に一人残った天使もどきが、天を仰いで必死に呼び掛けていた。

 応える者はいない。

 当然だろう。

 迷える本物の天使すら、放置されているというのに。

 炎の巨神と、黄金の狼が、なんとなく気まずそうなというか、当惑したような表情で互いに顔を見合せた。

「……こう仰ってるが。どうするよ、オービット」

 火の神、火之迦具土が、狼に呼びかける。

 オービット(軌道)というのが、黄金の狼のコードネームらしい。

「どうするって言われてもなあ。作戦通りに尋問するしかないだろ、イグニス? おっと、拷問は駄目だぞ、わかってるか?」

 狼がやる気なさそうに、火之迦具土のコードネームを出した。

 まるで目の前に神が出現したかのように涙ながらに祈りを捧げる天使もどきを、ため息と共に眺める。

 どうも呼び掛けても無駄そうな現実逃避ぶりの天使もどきを、後足で耳の後ろを掻きながら眺めやった。

「にゃあ~~~ん。今、このボンクラには、イエス様の幻を見せてるにゃあ。当分大人しいと思うにゃあ。イエス様のフリして、尋問し放題にゃよ~~~~」

 いままでどこに隠れていたのか、額にルビーを戴いたカーバンクルがとてとてと寄ってきた。

 ひょいと、イグニスの、剣を持っていない方の腕の中に飛び込む。

 イグニスは慣れた様子で、指でつやつやの毛皮を撫でてやりながら考え込んだ。

「俺、そういうの苦手だからよう。オービット、おめえに任せた」

「HAHAHA!! やっぱりそういうお鉢は、俺に回ってくる訳だねえ!! うーん、こう、正気がげしげし削れていくこの感じ、サイコー!! 俺のケツを舐めろ、サイコ野郎が!!」

 やけっぱちで、涙を流す天使もどきに向き直りながら、オービットは口を開こうとし。

 ふと、気付いたように、仲間に呼び掛けた。

「ああ、イグニス、学校内の電話にかけて、パニックを収めておいてくれ。アミュレットは、こいつに幻覚魔法継続。場合によっては深度を増す指示を出す。どうだい、一緒に正気を削ろうぜ!!」

 黄金の狼の姿でも、いかにもアメリカンな若者が悪ノリしている様子が見える雰囲気でそう指示を飛ばし、オービットは再び天使もどきに向き直る。

「ちっ。ガラじゃねーんだよなあ……。まあ、ガキどもを怯えさせたままじゃ可哀想か……」

「にゅー。いってらー、子供に泣かれる神様」

 きゃらきゃら笑うアミュレットを、オービットの背中に移し替え、イグニスは剣を担いだまま、地面に降下していった。

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