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落ちこぼれ魔法使いの勇者探し 完結

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魔法使いのリンは異世界から勇者を呼び出す事にした。…が、現れるのは勇者違いばかり

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 大陸の中央に位置する国は、各国の商人が行き交う経済の中心地でもある。

 お金の集まる場所には当然、悪さをする者も集まる。

 なので、この国には村毎に勇者が存在する。

 そんな中でただ一つ、勇者の存在しない村があった。

「うーん困りましたねぇ…早く勇者を見つけないと…」

 村唯一の魔法使い、リンは悩んでいた。

 今のところ、村が襲われたりした事はないのだが、この先も無いとは言いきれない。

 だからといって、村に移り住んで守ってくれる者が簡単に見つかる訳もなく、有力な者はそれぞれに守る村がある。

「どうしましょうか」

 リンが周りに目を向ける。

 リンが今居るのは村の広場で、村人達が集まっている。

「異世界から召喚するというのはどうでしょう?」

 村人の一人が提案する。

「そうですね、やってみましょう」

 一見無謀に思える提案だが、リンはあっさりと答える。

 どうやら召喚術が使えるらしい。

 何かを呟くと、リンの前の地面に魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣が光を放ち、中央に何者かが現れる。

 現れたのは、品の良さそうな中年男性。

「えっと…あなたが勇者ですか?」

「ゆうしゃ?私はゆうしやです」

 その答にリンが首を傾げる。

「ゆうしや?」

「ええ、融資屋です。資金のない、でも可能性を秘めている若者に融資を行う会社を経営しております」

 その説明を聞いて、リンが瞳を輝かせる。

「可能性に…やはりあなたは勇者なのですね」

「勇者?私が?」

「ええ、利益になるからではなく可能性に融資、中々出来ることではありません。それが出来るあなたは立派な勇者です」

 言われて、男性が照れ笑いをする。

「初めて言われましたよ。恥ずかしいですが嬉しいですね」

「でも、それならばこの村の勇者になって頂く訳にはいきませんね。突然このような場所に呼び出して申し訳ございませんでした」

 男性に向かってリンが頭を下げる。

「ちょうど昼の休憩に入るところでしたから、気にしないで下さい」

「ありがとうございます。これは、この村だけで採れる果物です。お詫びにお持ち下さい」

 言って差し出したのは、いつの間に用意したのか、籠に入った小粒で真ん丸のマンゴーのような果物だった。

 一つを手にとって口にする。

「おお、これは美味しい!」

 男性が、その美味しさに感動する。

「では、私の方からも」

 持っていた鞄から小さな袋を取り出して、リンに渡す。

 受け取って袋を開けると、中には赤い石のような物が入っていた。

「綺麗ですね…赤い宝石のようです」

 それは、ルビーのような輝きを放っていた。

「それは果物の種なんです。融資した若者が開発に成功した物で、どのような環境の土地でも埋めた後は毎日水を与えるだけで腰の高さくらいの低木になり、実をつけます。収穫した実の一つを同じように育てれば、簡単に増やすことが出来ますよ」

「とても素晴らしいです!大切に育てますね!あ、でも…こんなに貴重な物を頂いてもよろしいのですか?」

「私を勇者と言ってくれたことのお礼です。お受取り下さい」

「ありがとうございます!では、元の世界にお送りします」

 言葉と共に、魔法陣が光り出す。

「私で役に立てることがあれば、いつでも呼んで下さい」

 そう言葉を残し、姿が消えた。

「求めていた勇者ではなかったけど、凄い物を頂いたね」

 リンが村人に話しかけると、皆が頷いた。

「では、気を取り直して…」

 リンが魔法陣に意識を向ける。

 次に現れたのは、高齢の男性だった。

「勇者…ですか?」

 勇者に年齢は関係ないので、一応、訊いてみる。

(そうだとしても、働いて頂く訳にはいきませんね)

 老人に、村を守るというキツイ仕事をさせるなど考えられなかった。

「勇者?ああ、確かにそうとも読めるな」

「読める?」

 勇者であると認めるのではなく、読める。

「わしの国の言葉で、勇者と書いて『いさひと』と読む。わしの名だ」

「勇者違いでしたか。でも、素敵なお名前ですね」

「勇気ある者に育って欲しいと両親が名付けたそうだ。期待に沿えず頑固な偏屈ジジイになってしまったがな」

「そんなことはないと思いますよ。頑固ということは意思が強いとうことで、自分の意志を貫き通す勇気を持っているということです。あなたもまた、勇者なのではないでしょうか?」

「わしのことをそんな風に言ってくれたのは、あんたが初めてだ」

 老人も先程の男性のように照れ笑いになる。

「それにしても、ここは空気が澄んで緑が綺麗な所だな」

 老人が周りを見渡して言う。

「お気に召して頂けましたか?」

「ああ。こんな場所で残りの人生を過ごしてみたいの」

「では、この村の住人になりませんか?」

 その言葉に、老人が驚いた顔をする。

「あ、ご家族がいらっしゃいますよね。無神経なことを言って申し訳ございません」

「いや、わしは天涯孤独で身内はおらんが…こんな年寄りを受け入れてくれるのか?」

 老人が驚いた理由はこれだった。若者ならばともかく、年寄りが増えるのはあまり歓迎はされないものだからだ。

「もちろんです。人生経験豊富な方が増えるのは大歓迎です」

 リンがそう答えると、

「そうですよ。お独りなら寂しいでしょう?この村は子供も多くて賑やかですよ」

「丁度良い空き屋もありますし、着る物も食べ物の心配もいりませんよ」

 続いて、村人達からも次々と声が上がる。

「だが、わしはこの世界の人間ではないし、ただ世話になるだけというのも…」

 本気で言ってくれていることは感じ取れるものの、だからこそ、ただ世話になるだけというのは心苦しい。

「では…先程果物の種を頂いたのですが、これを育てて管理して頂くというのはいかがですか?」

 リンがそう提案する。

 先程の男性がくれた種は、水やりだけで他の手間はかからないと言っていたので負担はさほどないだろう。

「そんなことで良いのか?」

「村の新しい特産品となる果物です、世話は楽ですが重要な仕事です」

 老人が気兼ねしないで済むよう、そう付け加える。

「…では、こちらに移り住むとしようかの」

 老人が決断すると、歓声が上がった。

「ありがとうございます」

「礼を言うのはわしの方だ。残りの人生に色を添えて貰えるのだからな。ありがとう。そして、よろしく頼みます」

 リンの言葉にそう答えて、広場にいる皆に頭を下げた。

「住人も増えたところで、三度目の正直といきますか」

 心なしか、リンの声が弾んでいるような気がする。

 周りの村人も、次は何が出るのか?とわくわくしたような雰囲気が伝わってくる。

 勇者探しは二の次になっている気がするのだが…気にしている者はいないようだ。

 リンが再び魔法陣に意識を向ける。

 次に現れたのは…

「え…犬…?」

 赤いマントをつけた犬だった。

「犬じゃない!おいぬさまだ!」

 現れた犬が二本足で立ち、腰?に手(足か?)を当ててふんぞり返る。

「しゃべった…」

「犬がしゃべって何が悪い!」

(今…犬じゃないと言っていたような…)

 と、心の中でリンがつっこむ。

「大体、世界が違うのだ。自分達を基準に判断するんじゃない」

 言われてハッとする。

(そうだった。異世界の勇者を召喚していたんだった…勇者?)

「あの…あなたは勇者…なのですか?」

「そうだ。僕は伝説の勇者『おいぬさま』の直系で現在の勇者だ」

「そうなんですね」

 言われて笑みが浮かぶ。

 姿はどうあれ、ようやく望んでいた勇者が現れたのだから。

「ところで、僕を呼んだ理由は?」

 姿はともかく(こう思うのも失礼なのだが)、理解力というか知能は高いようだ。

「実は…」

 リンが現状を説明する。説明している間は四つ足に戻っていた。どうやらずっと二本足で立っているのは辛いらしい。

「そうか…出来れば協力したいのだが、僕は現在、世直し旅の真っ最中なんだ。それが終われば国も継がなければならないし…申し訳ない」

 おいぬさまが申し訳なさそうに答える。

 それに対して、ちょっぴり残念ではあるものの、落胆はしなかった。

(やはり、勇者にはそれぞれ守るものがある、ということですね)

「気にしないで下さい。勇者が見つからないから…と安易に異世界から呼び出そうなんて考えた私が悪いのですから」

 実際に提案したのは村人だが、それを良案として実行したのは自分だ。なので、リンは決して村人が悪いなどとは言わないし思わない。

 そんなリンを、おいぬさまがじっと見る。

「ところで、その衣装は良く似合っているが、赤は好きか?」

「ええ、大好きです」

 訊かれて、ニッコリ笑って答える。本当に好きなようだ。

「魔法使いは赤はあまり好まないのですが、私は大好きで、好んで身につけています」

「そうか。ならば…」

 言って、また二本足で立つ。

 片手を腰に当て、もう片方はビシッと擬音が聞こえそうなほどに真っ直ぐ伸ばされ、リンを指さしている。

「お前が勇者になれ!」

「え、ええ――!」

 言い切られて、リンが声を上げる。

「赤は勇者の色だ。お前には勇者の資格がある」

「む、無理ですよ―!私は攻撃系の魔法は一切使えない、落ちこぼれ魔法使いなんですよ!」

「攻撃は最大の防御とは言うが、戦うだけが勇者じゃないだろう。そう思っているようにも見えないが」

 指摘されて、またハッとする。

 何より、リン自身が先の二人を勇者だと言ったばかりなのだから。

「力が必要になれば、その力を持つ者を召喚すればいい」

 リンが召喚術を使えるという事実に、そう意見する。

「でも、私の力ではピンポイントに呼び出すことは…今回も勇者違いの方ばかりでしたし」

「それは、呼び出し基準が曖昧だからだ。火の攻撃術を持つ者とか焦点を絞って呼び出せばいい」

「あ…」

「それに、防御の魔法は優れているように思う。この村を覆う強固な結界はお前が敷いた物だろう?」

 その言葉に驚いたのは、リンではなく村人だった。村が結界に守られていることを知らなかったようだ。

「そうですが…よく判りましたね」

「僕は、おいぬさまだからな!」

 言って、また、両手を腰に当ててふんぞり返る。どうやらこれが、自慢する時のポーズらしい。

 その姿はコミカルで、嫌味に見えずに可愛らしいと感じる。

「それと、お前は誰よりも村を大事に思って全力を注いでいるのだろう?その、村を思う気持ちが一番大事な勇者の条件ではないか?」

 それは、青天の霹靂というか目から鱗。

 確かに、一番大切なことだった。

「誰よりもこの村の勇者に相応しいのは、お前ではないか?」

 その言葉に、村人が皆、頷く。

「そうですよ、リン様」

「リン様はいつも我々に勇気を与えてくれています」

「陰ながら守ってくれていることも今日知りましたし、もし、襲われるようなことがあったら皆で守ればいいのです」

「リン様は一人じゃないんですよ」

「皆さん…」

 村人達の言葉に、胸が熱くなる。

「それに、お前は自在に異世界と繋がることが出来る。それは大きな力だ」

 実は、魔法の中で召喚術が一番難しいことを、おいぬさまは知っていた。

(どこが落ちこぼれなんだか)

 そう思いはするものの、本人は本気で落ちこぼれだと思っているようなので口にはしなかった。口にして自信を持つタイプならば言っているが、リンはそんなタイプには見えないからだ。

「では、僭越ながら私がこの村の勇者を務めさせて頂きます」

 そう言っておじぎするリンに、拍手が贈られる。

「これで、問題は解決したようだな」

「はい。色々とありがとうございました」

「問題解決も勇者の仕事だ」

 答えて、また、ふんぞり返る。

 よほど、このポーズが気に入っているのだろう。

「何かあればまた呼んでくれ。そうだな『おいぬさまとお供二人』と定義して呼び出してくれれば、供の二人も連れてこれる。剣士と水の術に長けた者だ。少しは役に立つだろう」

「それは、とても心強いです。でも、出来ればお呼びしないで済むように頑張りたいです」

「遊びに来い、でもいいぞ。期待に応えるのも勇者の仕事だ」

 その言葉に、リンが笑う。

「ええ、ぜひ」

「では、またな」

「はい。ありがとうございました」

 リンが答えて、おいぬさまの姿が消えた。

(人に頼るばかりではなく、自分が守る。何故、今まで気づかなかったのでしょう)

 それは、自分が落ちこぼれだと思っているせいなのだが、それに気づくことは一生なさそうだった。

「リン様、まずは何をしますか?」

「そうですね…」

 特に急いですることは何もないように思うが…と考えていると、リンのお腹が派手に鳴った。

「…まずは、お昼ごはんにしましょう」

 その言葉に村人が爆笑するが、あちらこちらでお腹が鳴る。

「折角集まっているのですから、この広場で皆でお昼にしましょうか。勇者さんの歓迎会も兼ねて」

「賛成です!では、準備しますね」

 リンの言葉に賛同して、村人がそれぞれに散ってゆく。

「リン様と勇者さんも手伝って下さい」

「おう、今行く」

 自分の歓迎会でもあるというのに、勇者が嬉しそうに呼ばれた方に歩いていく。

 異世界の勇者達、キビキビと動き回る村人達を見て思う。

(誰か一人が勇者なんじゃない)

「全ての者が、勇者なんですね」

 呟いて、リンも手伝う為に村人のもとに向かう。

 その後、

 一番強い繋がりの出来たおいぬさまは、

 呼ばれなくても時々村にやってくる………らしい。

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【モノコン2018物語部門予選通過のお知らせ】後味の良いまろやかな物語。この世界では人々が幸せに暮らせていそう。「落ちこぼれの魔女」にもっと多くのキャラクターが出会って幸せになるようなこの世界の物語をもっと読んでいたいです。

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モノコン2018予選選考スタッフA様、コメントありがとうございます。予選通過とても嬉しいです!これからも頑張って物語を綴っていきたいと思います!

作者:時間タビト

2018/7/31

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とじる

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