5

【#異世界勇者】魔王の頭に聖剣が刺さったまま勇者が倒れました【募集中】 完結

ポイント
156
オススメ度
5
感情ボタン
  • 7
  • 7
  • 2
  • 0
  • 0

合計:16

聖剣の台座と化した魔王が、友人の手を借りて不慣れなSNSで聖剣を抜いてくれる異世界の勇者を探すハートフルストーリー。

1位の表紙

すべてのコメントを非表示

「いい話と、悪い話……どちらから聞きたい?」

 艶のある黒髪をショートカットに切り揃えた少女が偉ぶるように言うが、その話は聞くまでもなく内容が分かっていた。 というか見えていた。

 完全に少女の頭に剣が突き刺さっているのだ。

「悪い方は、お前の頭に剣が突き刺さっていることだろうから、いい話から聞かせてくれ」

「長年の宿敵である勇者を倒した」

 勇者がいなくなったというのは、魔王である彼女からすれば吉報なのだろう。

 人類代表としてはいい方の話は良い話とは言い難いものだったが、友人としては祝ってやってもいい。

 彼女は既に血が止まっている額の血をハンカチで拭きながら、気だるげに椅子へ腰掛けた。

「それで、悪い方は」

「……聖剣を唯一引き抜くことの出来る勇者を倒した」

 言葉は変わっているが、同じ意味である。 人類の希望である勇者を倒し、魔王の率いる魔物と魔族の軍勢が勝利したということだ。

 少し目線を上げて魔王の顔から上を見る。

 斜め上から剣が突き刺さっている。 デザイン重視の華美な装飾がなされた剣はどうにも見覚えがあるものだ。

「……」

「……えっ、抜けないの?」

「……」

「……」

 魔王は黙る。 難しい表情をしたまま、頭に刺さっている聖剣をチョンチョンと突つく。 試してみろということか。

 力強く聖剣の柄を握り、空いた手で魔王の顔面を掴みながら思いっきり引き抜こうとするが、ビクともしない。

 魔王の端正な顔立ちが手の形に歪むが、聖剣が抜ける気配はなかった。

「……これは、大変なことになったな」

「ああ、大変なんだ」

「このままだと、光と闇が合わさって最強に見える」

「いや、それは最強に見えるだけで、全く意味ないよね」

「どうするんだよ、寝るときとか。 枕がズタズタになるぞ」

「そういう問題でもないよね」

 魔王は溜息を吐き出して、俺に言う。

「このまま聖剣の台座として生きていかないとダメなのかな……。 勇者ってだいたい100年スパンだったよね」

「毎日一個枕をズタズタにするとして、おおよそ4万個の枕が必要……」

「どれだけ枕のことを気にしてるの。 この聖剣、悪の心を持ったものしか斬らないから枕は大丈夫だったよ」

「あっ、そうなんだ。 近くにいたら振り向いたときとか危ないから友達やめようかと思ってたけど、それなら大丈夫だな」

「いや、君はアウトだと思う」

 こんな心優しい人間を前にして何を言うのか。 隣の家の扉が叩かれ、この家の扉が叩かれたと勘違いした魔王が振り返ってそちらを見ようとしたことで、聖剣の刃が俺の頰を掠める。

 頰から血がゆっくりと流れて出てきてしまう。

「あっ、すまない。 ……というか、お前……やっぱり斬れてるじゃないか」

「……さすが魔王、振り返る仕草の余波だけでかまいたちを起こすとは」

「いや、無理だからそんなの」

「……最近、肌が荒れてたから」

「どんなひび割れだよ! 認めなよ、悪の心を持ってるって」

「いや、違うだろうな。 単純に悪の心と表現されてはいるものの、人間が決めてるわけじゃないんだから曖昧な判断基準じゃないだろう。 もっと魔導機械的な判断に任されてるはすだ。 ……ほら、魔物と関わってるからそれが悪って判断されたんだろ」

「いや、当の魔物の私にはダメージないんだけど」

 魔王のくせに悪の心を持ってないのかよ。 というか、魔王に対する最終兵器である聖剣が魔王にダメージ通らないとか勇者が可哀想だ。

 頭ざっくりいってるのに。 鉄の剣、いや、ただの鉄の棒でも殺せていただろうに。

「どうしたらいいと思う? 人間だし、色々知ってるだろ?」

「聖剣や勇者のことなんて最高機密だぞ」

「流石に知らないか……」

「勇者を召喚するための魔法しか知らないな……」

 魔王は俺を見て、パチパチとまばたきをする。

「えっ」

「ん?」

「……えっ、知ってるの?」

「まぁ、魔法は知っていても「すまーとふぉん」という魔道具がなければ使えないんだけどな」

「あっ……そうなんだ。 そのすまーとふぉんって、人間の城とかにあるのかな?」

「いや……どこにあるのかまでは……」

 俺がそう言うと、魔王は溜息を吐き出して落ち込む。

「たぶん、どっかタンスの中に閉まってたと思うんだけどなぁ……」

「えっ、持ってるの?」

「なくしたかも。 家の中にはあると思うんだが……」

「……まぁ、君に突っ込むのはやめにしておくよ」

 適当にタンスを漁ると、すぐに板のような魔道具が見つかった。

 魔王の前にそれを置いて、電源を立ち上がらせる。 魔力は問題なく残っているようだ。

「どうやって使うんだ? 

「この画面を触ってな、このマークを触って、呟き機能を立ち上げて……。 と、ここに文字を打ち込むと、異世界の人間と文通が出来る。 ここで」

「ほー、なるほど。 便利だね」

「とりあえず、勇者を募集する文でも書いてみろ」

 簡単な操作方法を教えると、魔王はたどたどしく画面人差し指でチョンチョンと突いていく。

『魔王なのですが、勇者に聖剣を頭に刺された状態で勇者を倒してしまいました。

 聖剣は勇者にしか抜けないので、頭に刺さったままで引き抜くことが出来ません。

 頭の聖剣を引き抜いてくださる親切な勇者の方はいないでしょうか? また、引き抜いた聖剣は好きにしてくださって構いません。

 どうぞ、我こそは、という方はご連絡ください。

 #異世界勇者と繋がりたい』

「……ふぅ、書けた。 最後に書けって言われた、この#異世界勇者と繋がりたいってなんなの?」

「これはこの発言を見やすくするための文字だな。 この文字列で検索してくれるとすぐに見つかるんだ」

「へー、なるほど。 便利なものだね」

「じゃあ、連絡くるのを待て。 そして帰れ、その聖剣が近いとなんか気持ち悪くなる」

「やっぱり悪の心を……」

「違う、正義の敵は悪ではなくまた別の正義なんだ。 その聖剣も、別の正義である俺を敵として認識しているのだろう」

「……うん、そうだね。 魔道具ありがと。 連絡きたら、またくるね」

 魔王は俺を可哀想な目で見て去っていく。

 魔王城で生活しているのに頭に聖剣なんて刺さってて大丈夫なのだろうか。

 まぁどうでもいいかと考えながら、ベッドに寝転がった。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/07/20)

修正履歴を見る

  • 1拍手
  • 2笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

やっぱ枕は大事、ですよね笑(^^♪

湊あむーる

2018/7/20

2

可愛い魔王様と(なぜか)人間のお友達の掛け合いが楽しすぎましたww
ホラーな見た目のはずなのに笑えるwww
やはり異世界から来たのであろう悪の魔法使いさん? の強弁がおかしすぎました( ´艸`)
この魔法? で引っかかった? 異世界の勇者様の先行きが心配です( ̄▽ ̄)

大久保珠恵

2018/7/20

コメントを書く

とじる

 

 魔王が手土産も持たずに俺の家にやってきた。

「なんか茶菓子ぐらい持ってこいよ。 魔王城饅頭とか余ってねえの?」

「なんで魔王城で饅頭を発売してると思ってるんだよ」

「あー、頭に棒が刺さってる魔王にちなんで、串に刺さってる団子とかか」

「勇者に刺されて一日二日で名物にされる魔王の気持ちにもなってみなよ」

「すごく悲しい気持ちになった」

「だろ?」

 魔王は慣れた様子で椅子に腰掛けてだらりと腕を伸ばして高価そうなマントを乱雑に放る。

「仕方ない。 勇者村饅頭でも食うか」

「なんでそんなのがあるんだよ。 勇者が生まれた村でも饅頭の出来には関係ないだろ」

「観光地は儲かるからな。 それに勇者が生まれた村じゃなくて、旅の途中で立ち寄った村だ」

「人間は俗物すぎるぞ」

 そう言いながら彼女は机に身体を乗せるようにしてだらける。 威厳というものがまるでない。

「よく聖剣が刺さったままで魔王城で生活出来るな。 近くにあるだけでキツイし、弱い魔物なら二、三人殺してしまいそうなものだが」

「んー、幸いなことに、聖剣が近くにあってダメージになる魔物がいなかったから助かったよ」

「もはや魔物ってなんだよ。 それならもう問題ないし帰れよ。 人に当たったら危ないだろ」

「人間でも君以外はダメージにならないみたいだから人里でも危なくないよ」

「もはや俺専用の武器じゃねえか」

 彼女は困ったように溜息を吐き出しながら、この前のすまーとふぉんを取り出す。

「全然連絡がこないんだけど、どうしたらいい?」

「あー、じゃあ自分から見つける感じだな。 適当に見つけて召喚すればいい」

 魔王から魔道具を受け取ってプロフィールに勇者が含まれている人物を表示する。

「なるほど、こいつら全員に声かけたら、一人ぐらいは引き受けてくれそうだな」

「悪質なスパムとしか思われねえよ。 ちゃんと選べ。 それに本物の勇者以外も混じってるからな」

「人間は嘘ばかりだものな」

「急に魔物っぽいこと言うなよ。 ……うーん、本物っぽいやつ見つからねえな」

 だいたい何かの小説を書いている奴か漫画を書いてるやつか、そのファンばかりだ。

 若干面倒になりながら、勇者を自称している人物を見つける。

「おっ、こいつとかどうだ?」

「どの人?」

「この人、本名っぽいし名前まで出してるのにエロアカウントフォローしまくってる。 まさしく勇者だろ」

「多分勇者じゃない」

「じゃあこの、自分の半裸写真をあげまくってるモジャモジャのおっさんは?」

「仮に勇者でも引き抜かれたくない」

「ほら、腹のホクロが北斗七星みたいになってるし、勇者の可能性高そうじゃないか?」

「仮に勇者でも引き抜かれたくない」

「じゃあ、真名の勇者と七星の勇者はダメ……と」

「カッコいい名前付けないで」

 魔王はお茶をこくこくと飲んで饅頭の二つ目を手にする。 こいつ、手土産の一つも持って来たことないくせに遠慮がない。

 王ならなんか金品の一つでもくれたらいいのに。

「じゃあ、検索条件絞るか。 どんなのがお好みだ?」

「いや、普通のならいいんだよ」

「魔王お前、簡単に普通とかいうけどな? 普通がどれほど難しいか分かってるのか?

 身長170cm以上は確かに普通だろ。 顔が不細工ではないのも普通だ。 働いて平均的な給料をもらってるのも、酒癖が悪かったりヘビースモーカーだったりしないのも、ギャンブル癖や暴力暴言がないのも、オタク趣味がないのも普通だ。

 だけどな、平均170cmってことは、170cm超えてるのは半分しかいないんだぞ? その時点で2人に1人だ。 他の条件も満たしている普通の人、なんて何千人、何万人に一人の高スペック人間ってことに気がつけよ!」

「……何の話をしてるの?」

「勇者の選り好みをせずに七星の勇者でいいだろって話」

「七星はダメだろ」

「七星でいいだろ。 こういうおっさんが案外マトモなんだよ。 本当にヤバいやつはな、こう、投稿している文章が読みにくいんだ。 読みやすい文章を書いてる時点である程度の教養があるから、会ってみると普通なんだよ、七星は」

「七星の勇者を押しすぎだろ。 金でも受け取ってるのか」

 強情な面倒くさい魔王だ。 ハッキリと「イケメンの勇者がいいのぉ〜↑ ちょべりば〜↓」とでも言ってくれればまた楽なのに、普通普通と言って聞かない。 

「あー、じゃあこうしよう。 俺が選んだ七星の勇者と、お前が選んだ勇者を二人召喚する。 それで、どっちの方がちゃんと勇者してるかを比べる」

「……いや、そんな遊びみたいなので人を召喚するのはどうかと思うぞ」

「七星が勝ったらお前の聖剣に七星をぶっ指す」

「なんでだよ。 刺さったら抜けないんだぞ」

「大丈夫だって、ちょっと離れられなくなってトラブるだけだ」

「ちょっとどころじゃないトラブルだろ。 魔界の危機だ」

「大丈夫だって、普通の奴を呼んだらいいだけなんだろ? 楽勝楽勝」

「まぁ、勝てるのは間違いないけど……」

 そう言いながら彼女はすまーとふぉんを弄り、数分後顔を顰める。

「ま、まともな人がいない」

「そりゃな」

「もっと勇気があって普通の奴はいないのか!?」

「SNSで勇者自称してるやつにまともなやつがいるわけないだろ」

「そもそもこいつら本当に勇者なのか? 聖剣抜けるのか?」

「抜けるか抜けないか。 二分の一……つまり、二回試せば絶対に抜ける」

「なんだそのガバガバな理屈は」

 魔王が食べかけで置いている饅頭を奪って食べながら、彼女が見つけるのを待つ。

 腹は減ってきたが飯を作ったらねだられそうなので、作るのも面倒だ。

「おっ、この人とか良さそうだな。 腕っ節も強そうだ」

「ん? どれどれ……。あー、まぁ、ねえな」

「なんでだよ。 強そうじゃないか? 喧嘩で不良を五人も倒したらしいぞ?」

「魔王が不良を五人とかで感心するなよ。 魔物ならワンパンしてくれるだろ」

「いや、同族を五体相手しても勝てるのはすごいだろ?」

「まぁ、そりゃそうなんだけど、多分嘘だろそいつ」

「中村は嘘なんて吐かないよ。 君とは違うんだ」

「中村は嘘つきだよ。 同じ嘘つきの俺には分かる」

「君に中村の何が分かるって言うんだ!」

「お前もだろ! ……分かった、中村と七星を召喚して、どっちの方がまともか勝負だな」

 夕食はもう少し後になりそうだ。 魔法陣を書くために魔王と協力して机と椅子を退かす。 

 少し聖剣の聖なる力が苦しくなってきたので、窓を開けて換気をしてから魔法陣を床に書き込む。

「なぁ……君、床汚しても大丈夫なのか? 敷金とか」

「賃貸じゃない……」

「そうか。 なら、君の勝手だけど」

「先にどっちから召喚する? 七星でいい?」

「まぁ……魔王なのに先手を取るのも申し訳ないし、譲ろう」

「分かった。 七星の勇者が聖剣を引き抜くから、中村の出番はないけどな」

 スマートフォンを魔法陣の中央に置いて、魔王を軽く下がらせる。

 舌がちゃんと動くことを確認してから、魔法陣に手をかざして息を吸い込む。

『我は紡ぐもの。 二つの理、二つの意思、二つの神、二つの世界を紡ぐもの。

 其の世界の名は『地球』、此の世界の名は『レチウト』。 彼の者の名は『おっさんにゃんこ@裸勇者』。

 異界の道具『すまーとふぉん』を標とし、紡げ、繋がれ。

 星海魔術:【#異世界勇者と繋がりたい】!』

 小さな部屋の中が、強力な光に満ちた。

  • 1拍手
  • 2笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

前回以上に冴えわたる、邪悪な魔法使いさん? の強弁。
そもそもなんで魔王様はこの人と知り合いなんでしょうか(;・∀・)
そしてろくでもないことになる予感がヒシヒシとするのですがそれは……(;´・ω・)

大久保珠恵

2018/7/21

コメントを書く

とじる

 溢れ出た光が収まる。 そこには……黒いスーツの男性が、呆気に取られたような表情で立っていた。

「こ、これは……いったい……」

「夢の中の世界とでも思ってくれればいい」

「夢……それにしては、あまりに……。 君達は……?」

「まぁ……何にせよ、用がすんだらすぐに帰れるからあんまり気にしなくて大丈夫だ。

 俺は善の魔法使い。 こっちは悪の魔王だ」

「魔王……魔法使い……」

 スーツの男性、あるいは七星の勇者が戸惑ったように俺達を見る。

「いや、突然呼び出されて戸惑う気持ちも分かるんだけど、ちゃんと帰れるから安心してくれ。 なんなら、一回戻してからもう一回呼ぼうか」

「……すみませんが、混乱しています。 私は確か徹夜で残業をしていたはずで……」

「あー、一回寝るか? 時間経っても元の時間に返せるし」

「……いや、そういうわけにも……。 申し訳ないのですが、説明していただけませんか?」

 魔王の方を見て、ふふんと笑って見せる。 魔王は悔しそうに歯噛みする。

「な? まともだろ?」

「……お、思ったよりはしっかりしているが、まだ中村の勇者の資質が優っている可能性は充分にある」

「負け惜しみが気持ちいいわ、ふはは」

 七星の方に向き直り、端に退ていた椅子に座るよう伝える。

「異世界召喚……といっても、ピンとこないか」

「あ、いえ……娘がそのような本を読んでいたので、なんとなくですが……まさか、私が魔王を倒すための勇者に……!?」

「えっ、まぁ勇者だな。 七星の勇者として、この聖剣を引き抜くんだ」

「なるほど……? 台座じゃないんですね。 このお嬢さんは剣の精霊的な方ですか?」

「いや、魔王だ。 引き抜いたら聖剣でぶっ叩いていいぞ」

「あ、あまりにも据え膳な魔王退治……」

「ダメージはないけど気分は悪いからやめろ」

 魔王は嫌そうな表情をしながら、七星の勇者の前に立つ。

「……これ引き抜いたら、妖怪を倒す羽目になったりしない? 虎に似てるから虎って名前付けていい?」

「妖怪ってなんだ。 さっさと抜いてくれ」

 七星は困り顔で魔王の頭に刺さった聖剣を掴み、引き抜こうとするがズルズルと魔王が引きずられるだけだ。

「……抜けないな」

「勇者じゃないってことか……想像だにしていなかったな」

「残念だけど当然だよ」

「勇者の器はあったはずが……! 服を脱いでないからか?」

「関係ないよ。 ……しんどそうだし、無理させてあげないでよ」

 仕方ないな。 と思いながら気力と体力を全回復する魔法をかけて、魔王のアカウントだけ伝えて強制的に帰らせる魔法を練る。

「か、身体が二十代の頃のように!?」

「じゃあ、また機会があれば、七星の勇者……いや、七星のおっさん」

「えっ、いや、何がなんだか分からないんですけど……」

「あっ、これ魔法の治療薬。 一錠でわりと何でも治るから腕が取れたりしたら使ってくれ。 お土産だ」

 七星のスーツポケットに薬の入った瓶を突っ込み、魔法を発動させる。

「ま、待ってくれ! こ、この薬は……」

 七星の声は光に紛れて聞こえなくなっていく。 質問に答えないのも申し訳ないのでもう一度召喚する。

「はっ、夢か。 いつものオフィス……じゃない!?」

「いや、なんか聞きたいことがあるみたいだったから」

「そ、そうか。 お手軽なんだな。 ですね」

「それで、質問はなんだ?」

「この薬って、髪の毛にも効果ありますか?」

「死んだものは蘇らない」

 七星の勇者を送り返す。 

「……君って、なんか色々雑だよね。 というか、あんないい物があるなら私にもくれよ」

「いや、七星には迷惑かけたからその迷惑料的なものだ。 お前には迷惑しかかけられてないからな。 というか、その貸してるすまーとふぉんの方が貴重だ」

 早速アカウントが七星にフォローされたのを見る。 フォローし返すと、なんか汚い裸のおっさんだけをフォローしてる変なアカウントになってしまったが、まぁ俺の名義じゃないから大丈夫だろう。

 すまーとふぉんを魔王に手渡すと彼女は露骨に表情を歪める。

「お前な、上手くいかなかったとは言っても協力してくれた優しいおっさんだぞ? その態度は酷いだろ」

「お前に人道的なことを説かれるとすごく腹立つんだが、お前でも嫌だろ。 この機能を開くたびに、裸のおっさんが並び立つんだぞ?」

「いや、俺ならすぐにブロックするけど。 嫌な顔はしない」

「君って人生で我慢したことなさそうだよな」

 今も飯を我慢しているというのになんて言い草か。

「……とりあえず中村呼ぶか」

「いや、ちょっと気になったんだけど、そもそも勇者ってなんなの? 勇者召喚で出てきた七星は勇者じゃなかったわけじゃないか」

「あー、そういうところからか。 ……まぁ魔物は研究する暇もないか。 いいか、勇者ってのは勇気があるやつだ」

「それぐらいは分かるよ。 アホなのか?」

「いや、マジで一定以上の勇気があったら聖剣抜けるんだって。 俺が一時期いた国での研究成果で、人工的に勇者を作る実験したりしてたんだよ」

「人工的にって……道徳の講義でも受けさせるのか?」

 七星も真名の勇者も、知人が見るかもしれないのに恥を晒していたから勇気があるのかと思ったが……どうやら、あまり考えていないか、あるいはそれ以上にストレスが溜まっていたかだ。

 魔王の可愛らしい発言を鼻で笑い、話を続ける。

「薬だな。 薬物投与。 思考を鈍らせて恐怖を感じにくくさせる実験」

「……えっ」

 魔王は焦ったように自分の額に刺さった聖剣を触る。

 自分が倒した勇者が、自分の意思で戦ってたのではなく、薬物で無理矢理戦わせられていたのではないかと考えたのだろう。

 魔物……特に魔王のような高位の魔物は誇りを命よりも重視する。 魔王は基本的に心優しい奴だが、人間とは考え方が違う。

 自分に挑んでくる者がいれば、見逃せば誇りを傷つけ生き恥を晒してしまうだろうと考えて、戸惑いなく殺す。

 魔物として、それが「優しい」行動なのである。

 故に……誇りを持って挑んできていない相手を殺したのだと思えば、それは……ただの殺しになってしまう。 少なくとも彼女の中では。

「まぁ安心しろ。 その実験は失敗してるからな。 「勇気がある」と「恐れがない」は全くの別物だった。 結果としての行動に見分けはつかないがな」

「そ、そうか。 ならよかった。 それにしても100年に1度しか現れないのに結構簡単なんだな」

「聖剣持てて、剣を振るえて、その時の権力者の思い通りに動くような、死んでもいいけどそこそこ良い血の貴族の男が100年に1人なんだよ」

「……えぇ」

「そうじゃなければ手伝っていられるか。 人間の寿命は短いんだよ」

 なんとなく落ち込んでいるようだ。 人の世は世知辛いからな。 気持ちは分かる。

「それなら、そこら辺の連中に抜いてもらうのはダメなのか? 部下たくさんいるが」

「聖剣は人間限定の武器だ。そこら辺の人間に頼んだら、流石に魔王ってバレるから無理だしな。 口止めしても数こなせば絶対通報される」

「うーん、やっぱり異世界召喚しかないのか……」

「まぁ人間の国乗っとるとかでもいいと思うが」

「いや、評議会に政治乗っ取られてて、私の発言力皆無だから」

「だせえ」

「殺すぞ」

「断末魔の悲鳴あげるぞ」

「人間の街でそれは勘弁してくれ」

 勝った。

「中村はまた明日にしてそろそろ帰れよ。 飯喰いたいんだよ」

「私のことなら気にしなくていいぞ。 別に君の手料理が食べれないほどは嫌ってない」

「なんで食わせてやるの前提なんだよ。 帰れ」

 魔王を退治した。 俺こそが勇者だったのかもしれない。

  • 2拍手
  • 1笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

七星のおじさまが本当に(少なくともリアルでは)まとも……!!
そして話はどんどん世知辛い方向に……。
この世界では魔物より人間の方がタチ悪いような気がして仕方ありません(;´Д`)
そこの魔法使いとか魔法使いとか魔法使いとか国王とか……_(:З」 ∠)_

大久保珠恵

2018/7/22

コメントを書く

とじる

 魔王がそろそろ来るかと思って高級な茶と菓子を隠していると、丁度ガサ入れがやってきた。

「おい、その隠している物を見せろ!」

 慣れた手つきで茶菓子を見せる。 軽く服の上からポケットを調べられたあと、見張り付きで椅子に座っていることを許可される。

「あー、多分もうちょっとで友達くるんだけど、早くしてくれないか? そもそもなんの疑いだ?」

「言えば隠すだろう」

「こんな状態じゃ隠しようもないだろ」

 本当に何の容疑だろうか。 そのまま確保ではなく、捜索するということは……何かが欲しいということだろうか。 簡単な物なら、俺を捕まえてから探そうとするだろうし、捕まっていないということは俺の協力が必要な違法なものか。

 となると、いくつか絞られるが……。

「おーい、こんにちは。 あれ、なんか人が多いな。 パーティ?」

「魔王……おーい、ここに魔王がいますよー。 なんか捕まえてー」

 部屋にズカズカと入り込んできた魔王を指差して言うが、兵達は「何の言ってるんだこいつ」とでも言いたげな表情で俺を見る。

 確かに見た目はただの可愛らしい少女だけれど、服の織り方とか魔物のそれだろう。 ……戦争に行ったこととかない奴等なのか。

 頭に刺さった聖剣は髪飾りだとでも思っているのだろうか。

「……君って本当に最低だな」

「いや、真っ当だろ」

「友達を一瞬で売ろうとする人間が真っ当なわけない」

 俺の近くに兵が立っていることもあって、魔王は若干気まずそうに椅子に座る。

「お茶くらいちょうだいよ」

「いや、一回帰れよ」

 聖剣、あるいは魔物に詳しい人物に見つかれば一瞬でバレるだろう。 この魔王のように完全な人型は珍しいが、いないことはない。 聖剣か服をじっと見ればおかしいことぐらいはバレるだろう。

 流石に勇者召喚はこの場では出来ないし、あまりいる意味がない。

「まぁそれはそれとして。 それで、何やらかしたんだ?」

「いや、分からないな」

「覚えが多すぎてか?」

「思い当たらないからだ」

「神妙に縄についた方がいいんじゃないか?」

 そんな簡単に見つかるようなことはしていないはずだ。 魔王はジトりとした目で俺を見ながらも、流石に勇者やらなんやらの話をするのは控えてくれるらしい。

「どうする? 街でも歩くか?」

「いや、ここから出ちゃダメっぽい」

 兵に睨まれる。 怖い。

「風呂でも借りようかと思ってたのに、人がいるとそうすることも出来ないな」

「俺の家をなんだと思ってるんだ」

「外暑いんだよ……。 それに、私のような可愛い子が湯上がりだったらテンション上がるだろ?」

「いや、頭のそれからへんな汁が出てきそうで嫌だ」

「お前、隠す気なくなったな」

「人間、いい心も悪い心も両方持っているもんなんだよ。 それをな、片方だけで判断しようってのが間違ってる。

 悪い心もあるけど、それ以上にいい心もある。 悪い心はないけど、いい心もない。 ……なぁ、どっちの方がいい奴なんだろうな」

「少なくとも君には悪の心しかないよ」

 魔物の価値観ではそうなのだろう。恐ろしいことだ。 人間と魔物はどうやっても分かり合えないということなのだろうか。

「……ところで、君はこの男の知り合いか?」

 近くに立っていた兵が、魔王に声をかける。

 勇気のある男である。 少し感心した。

「ん? ああ、そうだが……どうかしたのか?」

「この男には恐ろしい容疑がかかっていてね。 疑いが晴れるまでは関わらない方がいい。 可憐なお嬢さん」

「私が可憐なのは周知の事実だが、一体何の疑いだ?」

「……まぁ、何も言わないでは離れにくいか」

 この兵士、女には甘いな。 そういうところから組織が腐っていくんだよ。

 魔王がこてん、と首をかしげると、兵士は少しどもりながら魔王に伝える。

「えっ、あっ、そ、その。 ……あれだ、ここに魔物の痕跡が発見されたとかで、魔物を育てている疑いが」

 俺は魔王を見る。

 魔王は兵士をジッと見つめる。

 兵士はあたふたと別の兵士を見つめる。

「なぁ……」

「なんだ」

「とりあえず、こっち向け」

「寝違えてて、首の向き変えれないんだ」

「じゃあ体ごとこっちに向けろ」

「……金縛りで動けない」

 俺が立って移動する。 魔王は体を動かして視線をそらす。

「おい、逃げるな」

「逃げてない。 これはただのポルターガイストだ」

「おい、魔法使い。 不審な行動をするな。 少女が怯えてるじゃないか」

「お前は職務を果たせよ。 そこの魔王倒せよ。 なかなかのチャンスだぞ? 人間の街で囲んで倒せるって」

「……お前は何を言ってるんだ?」

 真実だよ。 この兵士の目は節穴か。 魔物特有の訛りとか思いっきり出てるし、匂いも人間とは違うし、服の布の織り方とかも、色々と文化的な違いがあるだろ。

 気づけよ、おかしいなって。

「……まぁ、君が怒る気持ちも分かるよ。 だから、今日は君のために作ってきたんだ」

「何をだ」

「団子」

「この前のは別に団子食いたかったわけじゃねえよ」

「えっ、わざわざ作ってきたのに……手もほら、切って怪我して」

「団子作る過程でどうやったら手を切る」

「いや、城……じゃなくて、私の家に戦士……じゃなくて強盗……いや、押し売りの奴がやってきてな」

「……ああ」

 すごい誤魔化しながらの会話だ。 しかもすごく誤魔化し方が下手だ。 もう黙ってろよと言いたい。

「その商人の名刺によって放たれた究極奥義、天雷地炎売りが私の手に当たってな。なんとか買わずに済んだものの、なかなかの名刺の使い手だったようで手傷をな」

「酷い押し売りもいたものだな」

「お前はそろそろ気づけよ」

 魔王の作ってきた団子を三人で食べる。 なんでこいつまで食ってるのか不思議で仕方ない。 魔王より鬱陶しい存在が存在したことに驚きながら、そろそろ家の中を調べ終えられたのを横目で見る。

 俺が魔物を育てている証拠を見つけられなかった兵士達は謝罪もなく帰っていく。 若干、何人かが息苦しそうにしていたのは聖剣のせいだろうか。

 人にまで効果があるのはどっちかと言うと魔剣に分類されるんじゃないだろうか。

「……帰ったか、もう面倒だしさっさと中村呼ぶか」

「団子美味かったか? 結構頑張ったんだが」

「そこらへんの店で売ってるやつの方が美味い」

「……そうか」

 落ち込む魔王を横目に、手早く魔法陣を描く。 昨日描いたばかりのこともあり、昨日よりも幾分か早くに書き終わる。

「略! 【#異世界勇者と繋がりたい】! 出でよ中村!」

 昨日と同じく光が溢れ出て、人の気配がする。 慌てた高い声が聞こえ……光が収まる。

「えっ、えっ!?  な、なにこれ」

 異世界の学生が着るというセーラー服に身を包み、手には異世界のペンを握って、魔王より一回り大きく、俺よりも一回り小さい少女が、簡素な椅子に座って召喚されていた。

「……あれ? 中村は女なのか?」

 魔王に尋ねると、彼女も困惑顔である。

「間違えて別の奴を召喚したんじゃないか?」

「俺の召喚魔法は完璧だ。 先代の勇者を召喚したのも俺だからな」

「……えっ、今とんでもないこと言わなかった?」

「おい、そこの小娘」

 俺の召喚魔法にミスはありえない。

「お前は中村か?」

「えっ、いえ、清水ですけど……」

「清水……逆に中村か?」

「いえ、真っ当に清水です。 あの……これは一体……」

 少女は戸惑ったように目をキョロキョロと動かす。

「ゆ、誘拐ですか?」

「まぁ似たようなものだが……勇者召喚……と言って通じるか?」

「え、ええ、なんとなく……ですけど」

 やっぱり異世界の奴は説明が楽でいい。

「中村じゃないとなると……手違いのようだな。 仕方ないし帰ってもらうか」

「ちょっ、ちょっと待ってください。 異世界召喚なんですよね?」

「……そうだが、どうかしたのか?」

「そういうのって、もっと夢と希望が詰まった冒険とかあるもんなんじゃないですか?」

「いや、手違いだしな……。 ああ、じゃあ悪の魔王が作った団子をやろう」

「えっ、食べたら魔物化したりします? それともヨモツヘグイ的に帰れなくなるとか……」

「若干米粒の食感が残ってる団子だ」

 清水は手足を慌ただしく動かしながら俺に言う。

「え、えーっと、私、昔から異世界に来るのが夢だったんですけど!」

「いや、そうは言っても……中村じゃないしな」

「私、中村な気がしてきた!」

「いや、清水だろ」

「清水 中村なんだ、名前。 清水が家名で中村が名前」

「嘘つけ。 それに探してる中村は、中村 海賊王(モンキーディ)だ」

 俺がそういうと、清水はせわしなく動かしていた手足を止めて、目をパチパチと動かして耳を赤く染めながら俯く。

「それ、私の作ったボット……」

「……おい魔王」

 魔王を見ると、彼女は話についていけていないと言う様子で首をかしげていた。

「ボットってなんだ?」

「勝手に時間やらで決められたように書き込むだけの人が入ってないやつだ」

「あー、ゴーレムか」

「お前がそれを見抜けなかったから召喚したのがその製作者になった。 つまり俺の勝ちだ。 聖剣に七星のおっさんを突き刺す」

「ま、待て、なら、召喚された方の中村、清水で評価すればいいじゃないか」

「諦めろよ。 せめてもの慈悲として、背中合わせになるように刺してやる」

「全力で抵抗するぞ」

「……あの、置いてけぼりなんですけど……」

  • 1拍手
  • 1笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

【モノコン2018物語部門予選通過のお知らせ】するする楽しく読ませてもらえる作品ですね。特にリズム感ある会話が冴えわたっていてそばで聴いている感覚になります。この後の展開もすごく気になるので、続きも楽しみにしています。

2

予選通過おめでとうございます!!
そしてますます混迷を極める事態……(^o^;
魔王様と清水さん可愛い。
清水さんお若いのに意外とマニアックな知識をお持ちだなあ……(゜o゜;

大久保珠恵

2018/7/23

3

予選通過おめでとうございます(^_^)確かに台詞がノリがいいですね!!!

湊あむーる

2018/7/23

4

わーい、ありがとうございます

作者:ウサギ様

2018/7/23

コメントを書く

とじる

 清水改め中村に向き直る。

 どこか見覚えのあるセーラー服に顔をしかめながら「なんだ」と声をかける。

「えっと、あの……つまり、私の作っだボットが本当だと思って……。 呼び出したらアカウントの持ち主である私が呼び出されちゃったと」

「ああ、悪かったな。 詫びに魔王団子をやろう」

「君のために作ってきたんだから、もう少しは食べろよ! 一個しか食べてないだろ」

「……えっと、気持ちだけ受け取りますね」

 中村はそう言いながら、落ち着かなさそうにソワソワしている。 よほど異世界に来たのが嬉しかったのか、チラチラと窓の外を見ていて忙しない様子だ。

 無理矢理、送り返してもいいが……あまり傍若無人を続けていると、聖剣の聖なる気に対する耐性が弱まってしまう。

 まぁ今更といった感覚もあるが、どうせ暇なのだから付き合うぐらいなら問題ないだろう。

 目を輝かせた彼女を見ながら、飲んでいた茶を飲み干す。

「……そんなに観光したいのか?」

「えっ、あっ、はい。 えっと……その、色々、不都合あったりしますか?」

「買い出しついでなら構わない。 簡単に説明しよう」

 俺がそう言うと、魔王はブスっとした目で俺を見る。

「……その子には優しいんだな」

「お前な……」

 俺が魔王に文句を言おうとすると、彼女はつまらなさそうに口を尖らせて、まくしたてるように言う。

「さっさと出かければいいだろ。 私は汗を流しておくから」

「何怒ってるんだよ……。 まぁ好きにしたらいいが」

 魔王はしっしっ、と俺を追い出そうとする。 家主だというのに理不尽だ。 流石は悪の魔王である。

 中村が気まずそうに歩いて、俺の後ろに来た後、二人で外に出た。

「……えっと、彼女さん怒っちゃったみたいですけど……大丈夫ですか?」

「あれは恋人じゃない。 というか、人間じゃないしな。 魔物だ」

「魔物……あの、そもそもなんで、中村を呼び出そうとしたんですか?」

「魔王のアホの頭に剣が刺さってただろ。あれ聖剣なんだけど、頭に刺さったまま勇者が倒れてな。 ほら、そっちでも聖剣は勇者しか抜けないって話にあるだろ?」

「えーっと、魔王……さんの頭に聖剣が刺さって、抜けなくなったってことですか。 ……抜いても大丈夫なものなんですか?」

「聖剣は悪の心を持つものしか傷つけないから、実害はほとんどない」

「ええ、魔王なのに……」

 不思議そうに声を出す中村に、近くで売っていた屋台の料理を買って押し付ける。

「悪の心ってのは、立場がどうこうってものでもないからな」

「あ、ありがとうこざいます。 ……悪いことしようとするかどうか、ですか?」

「悪事を働こうと思い、悪事を働いたらだ」

「心なのに、実際に何かをしないと……なんですか?」

「聖剣は甘いからな。 罪を犯そうとしても、思い留まれば許されるし、犯したとしても故意でなければ責めることはない」

 中村は不思議そうに首を傾げる。

「あのアカウント、アホな武勇伝的なものを語ったりするネタがあっただろ。 魔王がアレを勘違いして、本物だと思って勇気があるやつだと勇者候補にした」

「えぇ……ものすごく雑な厨二病ネタ垢ですよ」

「こっち、そういう発想ないからな」

「ええ……」

「すごいのいるぞ。 ただの火の球を出す魔法に【極炎地獄球】って名前付けたり、ただの袈裟斬りに【天雷地炎斬】って名前付けてる流派がいたり」

 中村は俺を見て、首を傾げたまま新たな疑問を口にする。

「魔法使いさんは、日本……地球出身なんですか?」

 いや、こっちで生まれ育っている。 まともに会話が通じるのは、そっちの知り合いが多いから文化を多少知ってるからだ」

「……そう、ですか。 ……あの、魔法って私にも使えますか?」

「こっちの世界ならな。 あっちだと使えないらしい」

「簡単そうに送り返すって言っていたのに、行ったことないんですか?」

「行って魔法が使えなかったら帰って来れないだろ」

 適当に買い物をして、家に戻る。 ずっと中村はキョロキョロとしていたけれど離れてどこかに行くようなことはなかったこともあり、特に問題もなく戻ってこられた。

 扉を開けると聖剣の嫌な気配が広がり、気分が悪くなる。 急いで換気していると、魔王が濡れた髪のまま俺を睨んでいた。

「可愛い女の子とのお出かけは楽しかったか?」

「いや、別に……。 というか、あんま理不尽なキレ方してると死ぬぞ?  悪になったら容赦なく聖剣が脳みそを傷つけるからな」

「……分かっている、そんなこと」

 自分の言葉を聞いて、少し疑問を持つ。 ……何故……勇者は、あいつは剣を魔王の頭に突き刺した。 普通の場合、突きは頭にはしない。 丸く硬い頭蓋骨が剣を滑らせるから、勢いよく当たったとしても大した怪我になることはない。

 あの歴戦の勇者がそれを知らないはずはなく。 突きをするなら、腹だろうし、即死を狙うなら首にだ。 最悪でも頭に向かっての振り下ろしだ。 頭部への突きなど、殺意がある攻撃とは思えない。

 だが、殺さない手加減しているというのもおかしな部位で……。

 まるで、聖剣が魔王を傷つけずに通り抜けていくことが分かっていたような、そんな攻撃だ。

「……なぁ、魔王。 勇者を倒したってのは、勇者は死んだのか?」

「ん? あ、いや……逃げられたけど、利腕を斬り落としたから……君が回復魔法を使ったりしない限りは戦闘不能だな」

「そうか」

「使うなよ? 流石にもうあんなのの相手はしていられない」

「俺立場的に勇者側だからな? ほら、正義の魔法使いだから」

「いい加減悪って認めなよ。 今更だけど色々聞きたいことがあるんだが……」

 中村は不思議そうに俺と魔王を見る。

「君はいったい。 何者なんだい」

「お前の友人のナイスガイだ」

「真面目な話だからな。 ……よく考えてみたら……私は君のことを何も知らない。 友人だから詮索はしたくなかったけれど……」

 魔王は幼げながらも整った顔を悲しげに歪ませる。

 人の家で勝手に淹れたお茶を軽く飲み……。

「って、お前、それ、俺が隠してた高い茶じゃねえか!」

「なんだ、そんなことで誤魔化されはしないぞ」

「いや、そうじゃなくて……それめちゃくちゃ楽しみにしてたんだよ。 取れる量が少ないから、金出してもなかなか買えないしな」

「えっ、悪い。 城にあるいいやつ持ってこようか?」

「お前のところ、管理悪すぎて酸化したり湿気たりで味落ちてんだよ。 魔物は馬鹿舌しかいねえから。 しかも淹れ方雑だしよ……」

 最悪な気分である。 せっかくいいものを勝手に飲まれた上に、大量の砂糖で泥水みたいにされている。

「……あ、私、お茶買ってきましょうか? 地球の」

「マジか。 じゃあ頼む」

「よし、これでまた異世界に来れる! スマホ持ってきて、写真撮らないと」

「そんなことはどうでもいいけど……君のことを教えてくれ。 名前すら知らないんだぞ」

 魔王は俺に詰め寄る。 湯上がりのせいか少し赤い頰……魔物らしい、意思を突き通す瞳。 話さないことは出来ても、誤魔化すのは無理だろう。

 中村もいるのに、と思いながら、大した話ではないから別にいいかと頷く。 

「……俺は、処刑を生業にする家の生まれだった」

 つまらない人間のつまらない身の上話に、魔王は一言も聞き逃さないようにと耳を傾けた。

  • 1拍手
  • 0笑い
  • 1
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

なんですか、突然のシリアス展開になったじゃないですか!!
話が違う!!(違いません)
言われてみれば勇者さんって何を考えてたんでしょうねえ。
なんでこんなグロい攻撃を……(;´・ω・)

大久保珠恵

2018/7/24

コメントを書く

とじる

オススメポイント 5

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。