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酔いどれ探偵 山崎響 ◆インターミッション◆ 完結

家族全員名探偵

更新:2018/7/22

舞殿王子

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116
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合計:3

『名探偵 山崎響』シリーズの幕間、という感じで書いてみました。

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 「まさか、家族全員が怪盗だったとはなぁ」

 深夜の大阪港。

 埠頭の倉庫の片隅で、大阪府警の大和川警部は顎に伸びた無精ひげをさすった。

 「らから……やまらさん一家があやしいって……最初からいってたじゃないれすか」

 その横に、真っ赤な顔をして足元のおぼつかない女性が、かろうじて立っている。

 「警部! 山崎響さんの身柄を確保、もとい、支えてもよろしいでしょうか!?」

 「倒れそうになったら構わんが、それまではやめておけ。セクハラで訴えられるぞ」

 「はっ!」

 傍らにいた制服の若い警官が敬礼する。

 「いーのいーの。岸辺くんは、おねーさんに触っていーのよー。大和川さんは、らめ。倒れそうになったら、岸辺くんがたすけてねー」

 「はっ! この命に代えても、響さん、もとい、山崎さんの安全を確保します!」

 酔わないと推理できないとはいえ、呑みすぎだ。

 大和川警部は、鞄から水のペットボトルを取り出し、山崎に渡した。

 彼女は500ミリリットルの『意外とおいしい! 大阪市水道局の水』を一気に飲み干すと、空のペットボトルを大和川に返した。

 捨てておけ、ということらしい。

 大和川がため息をつきながらそれを鞄に仕舞う。

 岸辺がペットボトルを凝視している。

 これ、欲しいんだろうなぁ。

 でも、渡したあと何するか想像がつくから、渡したくないよなぁ。

 流れを変えようと、大和川は無理矢理話題をこしらえた。

 「今回の犯人は家族全員が怪盗だったわけだが、その逆で、家族全員が名探偵、というのはあり得ると思うか?」

 とろん、としていた山崎響の眼に、光が灯った。

 「まず、家族の定義が必要ですね」

 「同じ家に住んでいる親族、というところでどうだ?」

 「ふむ、悪くないですね。法的なことはさておき、内縁の配偶者なども含むものとしましょう」

 「本人が家族だと言い張っても、ペットは除外だな」

 「そうですね。犬やチンパンジーが名探偵、というドラマはありましたが、現実的ではないですね……で、大和川さん。そういう条件で『家族全員名探偵』は存在しうると思いますか?」

 「そうだなぁ……」

 大和川は、顎の無精ひげを撫でた。

 「理屈の上では存在しうる。だが、現実にそんな一家があるかというと、ないだろうな」

 「ほうほう。その理由は?」

 「そもそも名探偵の数が限られているし、名探偵ってのは個人の資質だ。遺伝するものでもない。頭の良さは、多少引き継がれるかもしれないが」

 「ふぅん。じゃあ大和川さんは『家族全員名探偵はいない』に賭けますか?」

 「賭けるという単語は不適切だが、どっちに張るかと言われれば、いない方に張るな」

 「ふふふ。それでは私は、いる方に賭けますね。勝った方がお酒を奢ってもらう、ってことでいいですか?」

 このくらいなら賭博にはならないかな、と大和川は思った。

 どうせ最初から、山崎にはなにかしらお礼をするつもりでいたのだ。

 彼女はボランティアで、この難事件の捜査に協力してくれたのだから。

 しかし。

 「捜査を手伝ってもらった上に、酒を奢ってもらうのは悪いような気がするが?」

 「んー、大和川さんって、ホント良い人ですよねー。でも大丈夫。家族全員名探偵は存在しますから」

 「ホントか?」

 「はい!」

 そうして山崎響は、右手の人差し指で、自分の顔を指した。

 「赤ん坊の時に捨てられたので親兄弟はなし、配偶者もいません。私の家族は私だけ。だから私は、家族全員が名探偵、なんですよ。一人っきりの家族ですけど」

 響は、寂しそうに笑った。

 たぶんこれは、彼女の鉄板ネタなんだろう。

 他人に貶められる前に自虐することで、世間を渡ってきたのだ。

 「……なあ、山崎さん」

 「はい?」

 「今ここで俺が君にプロポーズして、それを君が受け入れたら、その時点で『家族全員名探偵』でなくなるんじゃないか? ほら、俺はこの通りヘッポコ警部なわけだし」

 「……それは将来のお話で、先ほど賭けを持ちかけた時点とは状況が異なります」

 「そうか、そうだな……」

 二人の間に、少しだけ沈黙があった。

 「さて。ホテルのラウンジで年代物のウイスキーを奢ってもらおうかと思っていたのですが、気が変わりました。酒造蔵直営の、安くて美味しい居酒屋があるんですよ。そこにしましょう。大和川さん、日本酒もいけますよね?」

 「あ? ああ。」

 響は大和川の腕に手を回し、立ち去って行った。

 翌朝。

 「岸辺くんが来ていないだって? ……もうちょっと静かにしゃべってくれ。二日酔いで頭がガンガンするんだ。明け方まで呑んでたからな。車の運転は控えた方がよさそうだ。こんなことなら、単価は高くてもホテルのラウンジにしとくんだった。日付が変わるころには閉店だからな。あの居酒屋、確かに日本酒は安かったが、肴がどれもこれも料亭並みの値段だった……給料日までどうやって過ごそう……」

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【モノコン2018物語部門予選通過のお知らせ】きらりと光りつつ更にとても良い味の物語を堪能しました。お題に対してちょっと斜めからの回答をしつつも、それだけにとどまらない人間模様が見え隠れするお話で素敵でした。本編もシリーズで堪能したいです。

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予選通過ありがとうございます。家族全員名探偵が成立する可能性を考えてたら、こんなお話になりました。かわいく酔っ払った主人公を書くのは楽しかったので、また登場させたいと思います。

作者:舞殿王子

2018/8/6

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とじる

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