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ツヨシ兄ちゃんのお嫁さんになります 完結

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「1年生の女の子とばーっかり遊んでるって、同級生に随分からかわれたよ。毎日手繋いで学校行くしさ」
ツヨシ兄ちゃんは近所の優しいお兄ちゃんでした。

1位の表紙

2位

目次

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再会の朝

 日差しが強くなる前に犬を連れて出ると、ラジオ体操帰りの小学生たちとすれ違った。子どもの頃通学路にしていた、あの細い路地に足が向く。

(ここ、いつも三毛猫が乗ってたなぁ)

 懐かしい板塀を過ぎると、きれいに刈り込まれたイチイ。生垣の向こうから剪定バサミの音がする。ゆっくりになった私の足音に気付いた庭仕事の男性が、生垣越しに朝の挨拶をした。おはようございますと返すと、下駄の音が慌てて歩み寄る。

「あれ? シイちゃんじゃないか?」

「やっぱり、ツヨシ兄ちゃん」

「しばらくだねー! 何? 今、実家に遊びに来てんの? 8月頭までいられるなら、お祭り見て行きなよ」

「そっか、もうすぐお祭りなんだよね。私、4月にこっちに帰って来て、実家に住んでるの。息子と」

「そか」

 察してくれたツヨシ兄ちゃんは、少しだけ表情を曇らせた後で、息子と一緒にお祭りに『かだれ』と笑った。参加しなさい、という方言をわざとらしく使ったツヨシ兄ちゃんに、心が解れた。

「3歳だから、笛とか太鼓はまだ無理だよ」

「ここらの子たちに混ざって、山車引っ張らせたらいいだろ。引き子は多い方がいいんだから」

「うん。そうだね。そうする」

「3歳か。可愛い時だなぁ。息子さんの名前は? 何ていうの?」

 幼馴染との思いがけない再会が嬉しくて、少し立ち話しをした。

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とじる

近所の優しいお兄ちゃん

 小学校に上がって初めての夏休みの朝、ラジオ体操の帰りには毎日ツヨシ兄ちゃんの家に寄った。玄関先にしばらくしゃがみ込んで、ミドリガメと遊ばせてもらったのを、よく覚えている。

「ウラシマン、元気だね! こっちだよ、おいでおいで」

「まだ自分の名前分かんないかもしれない。ウラシマン、そっちじゃないよ、こっちこっち。シイちゃんが呼んでるだろ?」

「ねぇツヨシ兄ちゃん? ウラシマン、なんさい?」

「まだ赤ちゃんだよ。多分1歳ぐらいじゃないかな」

「カメって、長生きなんでしょ?」

「ウラシマンはお祭りのカメすくいで取ったカメだから、長生きしないかもしれないって、お父さんが言ってた」

「お池でおよがせてあげたら? 広いところなら、うれしくて長生きするんじゃない?」

「ははは。シイちゃんは可愛いな。嬉しくても長生きするとは限らないよ。池だと、鳥とか猫に食べられるかもしれないんだってさ。でっかい鯉もいるし、水槽で飼うよ。ねえ、シイちゃん?」

「ん?」

「さっきから、パンツ丸見えだぞ」

 私が小学校に入学した年、ツヨシ兄ちゃんは6年生だった。面倒見のいいツヨシ兄ちゃんは、いつも一緒に学校に行ってくれたし、よく遊んでくれた。名前は強そうだけど、ケンカや悪だくみとは無縁の、メガネをかけた秀才タイプ。ひとりっ子の私は、優しいツヨシ兄ちゃんを本当の兄のように慕っていた。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/07/25)

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とじる

朝のおしゃべり

 仲良く遊んでいたあの頃から35年。ツヨシ兄ちゃんが小学校を卒業して以降、一度も顔を合わせなかったわけじゃないけれど、久々に再会したツヨシ兄ちゃんは『ツヨシ』という名前がしっくり来る男性になっていた。

 坊主頭にスクエアフレームの個性派眼鏡。がっちりした体つきなのに威圧的でないのは、人柄を感じさせるやわらかい表情と、優しい声のせいだろう。甚平に下駄という夏の普段着が粋で格好いい。

「サキトの衣装なら貸してやるよ。一式出しとくから、明日でも明後日でも、また寄って」

「うん。ありがとう」

「シイちゃんの犬? 可愛いなぁ」

「実家の犬。ブンタっていうの」

 サキトのお祭りの衣装を借りに、次の日もツヨシ兄ちゃんの家に立ち寄った。以来すっかりブンタが懐いて、ツヨシ兄ちゃんの家にずんずん歩き出すものだから、朝の散歩のルートが固定した。ツヨシ兄ちゃんも、鉢植えにハサミを入れながら、私が通るのを待ってくれた。

「40を目前にしてようやくサキトを授かったんだけど、出産まで入退院繰り返しちゃって。持病もあったから、色々大変だったの。でも、無事に生まれてくれた」

「そか。ごめんな。へんなこと聞いて」

「いいのいいの。同級生で早く結婚した組は、もう、子ども成人してるもんね。息子3歳って言うと、びっくりされるよー」

「小さい頃の元気なシイちゃんしか、俺、知らないからさ」

「そうだよね…… 子どもは諦めてくださいってお医者さんに言われてたんだけど、どうしてもほしくて。でも、いざ子ども出来たら夫に負担かけちゃって…… うまく行かなくなっちゃった。子は鎹って言うけど、結局ね……」

「頑張った頑張った。シイちゃん、過去はいい。せっかく授かった宝物だ。サキト大事にしてやれ。な?」

「うん。朝からごめんね、こんな話して」

「いやいや、俺がサキトのこと聞いたから、かえってつらいこと思い出させちゃって、ごめんな。俺でよかったら何でも聞くから、抱え込むなよ。倒れないように、気を付けてな」

「今はだいぶ体調落ち着いてるの。ありがとう」

 お互い、アラフォーとかアラフィフとか呼ばれる世代になって、つい愚痴っぽい話をする日もあったけれど、ツヨシ兄ちゃんは、黙って聞いてくれて、時には励ましてくれた。大人になっても、やっぱりツヨシ兄ちゃんは、優しかった。朝の少しの会話で、その日一日を元気に過ごせたし、ツヨシ兄ちゃんが傷を癒してくれる感覚は、間違いなくあった。

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じんわり人生を感じるお話。
アラフォーアラフィフともなると、若い頃当然だと思ってたピカピカがそんな都合のいいもんでもないとわかってきたり。
でも、生きていくし、優しい人は優しい。
そんな風に思えます(´;ω;`)

大久保珠恵

2018/7/23

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大久保珠恵 さま
会えなくて 中略 の部分が長くても、再会すればすぐに子どもの頃に戻れる幼馴染や同級生。昔と変わらないようでも色々経験してるんですよね、お互い。

作者:花ミズキ重

2018/7/23

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とじる

夏の祭り

「あれまぁ、サキト、めんこいねぇ。お祭りの着物着せてもらったの」

 お祭りデビューを心待ちにしていたサキトは、ツヨシ兄ちゃんが貸してくれた衣装を着ると喜んで、ばぁばに見せる、と母のところへ走った。母はサキトを可愛いと何度も褒め、携帯のカメラで撮影して、私に画面設定の方法を聞いた。

「詩織、壁紙を新しいサキトにするのは、はじめに『アプリ』というところを押すんだっけ?」

「そう。次は『設定』で、『壁紙』」

「ああ、そうだったそうだった。あんたも着物で行くの? あんまり着物で出る人はいないけど」

「サキトがこの格好だし、せっかくの機会だから」

「そうかい。混んでるから、気ぃ付けて歩くんだよ」

 ばぁばも後で見に行くからね、と母はサキトに目尻を下げた。

「サキト、何て言って、お祭りにかだるんだっけ?」

「ヨーイヨーイ、ヨイサーヨイサー、ヨイサーノセー!」

「そうそう、上手だねぇ」

 市内の三大神社の歴史あるお祭りは、時代とともに余興行列が華やかになり、現在では27台の大型山車が美しさを競い合う、夏の大イベント。市の中心街を通行止めにしてパレードが行われる。

 サキトと私は地元町内から出る山車を引く。ツヨシ兄ちゃんは山伏神楽の舞い手として、神社行列に参加する。サキトはお祭りを見るのさえ初めてだから、山車の運行より先に出発した神楽を見せてやった。

 立ち止まる神社行列。法螺貝の音に続いて笛と太鼓が始まる。獅子舞のような出で立ちでずらりと列をなした舞い手たちは、黒い獅子頭の権現さまを高く掲げ、金色の歯を、カカカンカカカンと一糸乱れず打ち鳴らす。

「ママ? どれがツヨシにいちゃん?」

「踊りが終わったら、お顔出すから、見付かるよ。どれがツヨシ兄ちゃんかなぁ」

 清めの舞いの披露を終えると、舞い手たちは獅子頭を肩に担いで顔を見せ、拍手を浴びながら歩き出す。列の中のツヨシ兄ちゃんを、サキトはすぐに見付けた。目印はきっと、あの坊主頭。サキトは私の手を振り解いて混雑をすり抜け、神社行列に駆け寄ってしまった。ツヨシ兄ちゃんの手を捕まえて花笠姿のサキトが一緒に歩き出すと、沿道から軽く笑いが起こった。

「あれ見て、あの子はお父さんと歩きたがって権現さまにかだった。めんこいことー」

 ツヨシ兄ちゃんはサキトを抱き上げて、ニコニコとサキトと何か話すと、沿道から呼んだ私を見付けて駆け寄った。

「シイちゃんも着物で来たのか。可愛いな。運行終わった頃、俺、山車んとこ行くから。また後でな」

「うん。後でね」

 サキトを私のところへ置いて、ツヨシ兄ちゃんは神楽の列に戻った。

「ママ、ツヨシにいちゃんが、わたあめかってくれるって!」

「そう。よかったね」

「ママ、かわいいって」

「ふふふ。そうだね」

 もう可愛いと言われる年齢じゃないのに。35年前のツヨシ兄ちゃんが、口癖みたいに私に言っていた『可愛いな』を、また聞けるとは思わなかった。サキトとツヨシ兄ちゃんが親子に見られたのにも、少し笑えた。後からふわっと、嬉しくなって。

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とじる

Yシャツの香り

 北の短い夏が過ぎ、虫の声が秋の深まりを告げる頃、ツヨシ兄ちゃんは、ちょくちょく私とサキトを遊びに連れ出してくれるようになっていた。遠慮するなと言うツヨシ兄ちゃんに甘えて、一緒に過ごす時間を増やすうち、ついツヨシ兄ちゃんをサキトの父親役のようにしてしまっていた。

「週末、サキトの誕生日だろ? 水族館にでも連れて行ってやろうか?」

「ごめん、じぃじとばぁばと、食事に行くことになってるの」

「そか。お祝いしてくれる人がいるなら、よかった。美味しいものいっぱい食べといで」

 ツヨシ兄ちゃんの笑顔に、涙を堪えた。泣いちゃダメだと強く言い聞かせたのが逆に作用して、ぼろぼろ涙がこぼれてしまった。

「シイちゃん、大丈夫か? どした」

 ツヨシ兄ちゃんは私の肩の後ろをトントン叩いて抱き寄せた。なだめてくれるYシャツは、ビターな香り。夫がつけたことのない香水に、涙を止めようがなくなった。

「どうして私、子どもを愛せるひとと結婚できなかったのかな」

「ああ、思い出しちゃったか。ごめんなー」

 ツヨシ兄ちゃんは、黙って胸を貸してくれた。今サキトを大事に思ってくれるのも、私の心を支えてくれるのも、もう、夫だったひとじゃない。ツヨシ兄ちゃんのYシャツに、しがみついて泣いた。

(抱きしめてくれないの?)

 声に出すことが出来なかった思いに、ツヨシ兄ちゃんの腕が応えてくれるはずがなくて、離れた。私は大袈裟に笑顔を作って、涙を拭いた。

「ファーレンハイトだね。私、この香り、好きなんだ」

「そか。俺も」

「シャツ、シワになっちゃったかな。お仕事行く前なのに、ごめんね」

「平気だよ」

 次の日から数日、私はツヨシ兄ちゃんに会わずに過ごした。確信してしまった恋心をクールダウンしたかった。

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  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/07/30)

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ああ、こういうことで恋心を自覚してしまったのですねえ。
辛かった以前と比べてしまって、優しさに心ほぐれる……わかる気がします(´;ω;`)
そういえばツヨシ兄ちゃんは家族関係とかどんな感じなんでしょうね?

大久保珠恵

2018/7/24

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大久保珠恵 さま
香りの趣味に惚れる みたいな要素も加わり、ってところでしょうか。
ツヨシの事情は明日から3日連続でポツポツ出てきますよ~

作者:花ミズキ重

2018/7/24

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とじる

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