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ケーキはどこに消えた 完結

家族全員名探偵

更新:2018/7/25

水上下波

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日常の謎ってこういうのでいいんだっけ

1位の表紙

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 青天の霹靂。あるいは蜘蛛の糸を切られたカンダタの心境とでも言うべきか。

 天国を期待していた分だけ、裏切られたときの衝撃は大きい。

 

 早起きして退屈な講義を受けたのも、そのあとに身を粉にして労働に勤しんだのも、全てはこのときのためだったのに。

 

 時刻は午後四時。ようやく帰宅して冷蔵庫を開けた俺は驚愕した。

 

 食べようと思っていた、ケーキが無い。

 ラヴィエールの絶品レアチーズケーキが!

 

 あまりの出来事に呆然としていると、いつの間にか妹の莉々菜がキッチンに来ていて、俺の顔を覗き込んでいた。

 

「おにい、何してんの」

「莉々菜、ケーキ食べた?」

「なに、急に」

「食べようと思ってた俺のケーキが無いんだ!」

 

 勢いそのままに詰め寄ると、莉々菜は心底鬱陶しそうに上体を逸らす。

 

「ちょっと。落ち着いてよ」

「これが落ち着いていられるか。ラヴィエールのレアチーズケーキだぞ」

 

 莉々菜は仰々しく顎に手を当てながら、「ふむ」と呟いた。

 

「なるほど。つまり、事件なのね」

 

 そういえば莉々菜は、中学校で流行っているとかなんとかで、最近探偵ものに凝っているのだった。

 まあ、解決するんなら別になんだって良いけど。

 

「まずは状況の整理からよ」

 と莉々菜は言った。どうやら茶番が始まったらしい。

 

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冒頭から例えで蜘蛛の糸の例えが出てくるところがいいですね。ひとつ、欲を言いたいのですが、ラヴィエールのレアチーズケーキというものがどういうものであるのか、読者にはわかりません。なにがどのようにどうしてレアなどういうケーキが主人公が一人称でそれとなく説明すると尚いいですね(^_^)私、検索してみました。実在しないケーキなのかな??出てこなかった

湊あむーる

2018/7/25

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どういうケーキが→どういうケーキか

 か、に濁点ついてすまみせん

湊あむーる

2018/7/25

3

コメントありがとうございます。

続きの部分で軽く書いてますので、
そっちも同時に投稿すれば良かったですね。

ラヴィエールはうちの近所にあるケーキ屋の名前をもじったものですw

作者:水上下波

2018/7/25

4

あ、同時にコメント返信してたっぽい(^_^)ありがとうです!!!2話目にコメントしました!!

湊あむーる

2018/7/25

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とじる

 ことの始まりは、昨日父が近所で評判の洋菓子店、ラヴィエールでケーキを買ってきたことだ。

 四つのケーキは、もちろん家族全員の分だ。

 つまり、父、母、俺、莉々菜の四人分。

 

 ラインナップは次の通り。

 

 まずは定番の、苺のショートケーキ。

 正道にして王道。原点にして頂点。

 シンプルだからこそ、そのレベルの高さが窺える絶品だ。

 

 次は、これも定番の一つ、ガトーショコラ。

 ラヴィエールのガトーショコラは、濃厚なのに決して重くなりすぎないバランスが絶妙。

 ブランデー風味が強めに効いていて、大人の味といった感じ。

 

 それからフルーツタルト。

 ミカン、リンゴ、キウイ、ベリーなど、溢れんばかりのフルーツをふんだんに使った、ラヴィエールの看板メニュー。

 その華やかさを目で楽しむのはもちろんだけれど、それ以上にその全てが調和した味わいはもはや芸術品の域に達していると思う。

 

 そして最後がレアチーズケーキ。

 なめらかでふわふわでクリーミー。どういう作り方をすればこんな食感になるのか。

 さらにこのレアチーズケーキは底が砕いたチョコレートクッキーになっていて、白と黒のコントラストが見た目にも美しい。

 チーズに混ぜ込まれたレモンの風味が仄かに香るだけじゃなく、中にフルーツソースが隠されているのもポイントが高い。

 

 

 どれも美味しいことは間違いないのだけれど、どれか一つだけを選ばなければいけないのならば、レアチーズケーキだろう。

 昨日の夕食時にもそう宣言して、皆が承認してくれていたはずなのに!

 

 それなのにどうして。

 どうして冷蔵庫の中にはフルーツタルトしか残っていないのだ。

 

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1

なるほど順々に説明がなされていくのですね(^^♪第一話をだけを拝見し、早合点しまして失礼しました(^^)そうか主人公のお気に入りなのですね!!それは食べられたらガッカリだ。蜘蛛の糸から落ちた気になりますね!!

湊あむーる

2018/7/25

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とじる

 

 

 さて。まず初めに聞いておかないといけないことがある。

 

「一応確認だけど、お前は食べてないよな?」

「私は苺ショート食べたじゃん。おにいも見てたでしょ」

「……ああ、そうだったな」

 昨日の夕食の後、スイーツは別腹という言葉を体言するかのように、確かに莉々菜はその場でケーキを食べていた。

 俺だけじゃない。家族全員が目撃しているから、アリバイは完璧だ。

 

「ってことは、母さんか父さんか、どちらかがレアチーズを食べたってことになるわけだ」

「そうとも限らないよ。他の可能性が無いわけじゃないもん」

 

 本題に入る前の前提確認というくらいのつもりで言ったのに、以外にも莉々菜はそれを否定する。

 

「他のって?」

「おにい自身が食べたという可能性」

「……俺は記憶喪失なのか?」

「そういうことじゃなくて」

「……?」

 

 言ってる意味が分からない。

 莉々菜は軽くため息をついた。

 

「つまりね、おにいが言う通り、実際にお母さんかお父さんが食べちゃってた場合。この残ったケーキは誰のものになる?」

「そりゃあ、俺だろ。俺は食べてないんだから」

「そういうこと。本当はおにいが食べちゃってても、食べてないってことにすれば合法的にもう一つケーキを食べれるでしょ」

「……なるほど」

 

 言われてみれば確かにその通り。俺は被害者だったはずなのに、いつの間にか容疑者の一人になっていたなんて。

 

 ただ、それよりも意外なのは莉々菜のことだ。馬鹿な妹だと思っていたけれど、意外と頭が回る。伊達に探偵の真似事をしているわけではないということだろうか。

 

「でも、となると困ったな。食べてないことを証明するのは難しそうだ」

「そこはほら、状況証拠ってことで。どうせ物的証拠なんて出ないわけだから、一応可能性は考慮しておかないとね」

「疑われてるのは心外だけど仕方ない。それで、これからどうするんだ?」

「お母さんとお父さんを尋問してみよう」

「尋問って」

「何か知らないか聞いてみるってこと」

 

 まあ、そりゃそうか。随分物騒な言い方だ。

 

「父さんはまだ帰ってないから、メールを送っておくか。……『父さん、ケーキ食べた?』と。これでそのうち返事が来るだろう」

「次はお母さんだけど」

 

 と莉々菜はそこで初めて母が居ないことに気が付いたみたいに、あたりを見回す。

 

 母は買い物に行っているみたいで家には居ない。

 まあこっちもそのうち戻ってくるだろうが。

 

 

 で、

「……進展しねえな」

「そんなことないよ。空き時間があるなら推理を進めたらいいでしょ」

「というと?」

 

 俺が尋ねると、莉々菜は待ってましたとばかりに、芝居がかった動作で腕を組んだ。

 そればかりかさらに、そのまま狭いキッチンの中を器用に歩き回り始める。

 

 だから仕方なく俺は壁際に寄って、莉々菜の通り道を作った。

 

「まずお母さんだけど、クリームやチョコレートみたいなベタ甘系は苦手よね。ということは、お母さんが狙うならフルーツタルトの可能性が高い」

「ああ、そうだな。母さんは元々甘いものはそんなに好きじゃない」

「逆にお父さんだけど、お父さんはフルーツが苦手よね。食べると口が痒くなるってよく言ってるし、軽い柑橘アレルギーなんだっけ?」

「となると父さんがフルーツタルトを食べるはずないから、ガトーショコラかレアチーズを食べたのかな。つまり、誰がレアチーズを食べたかを考えると、父さんの可能性が高いということになるわけだ」

 

 莉々菜はテーブルの周りを回りながら何かを考え込んでいたみたいだけれど、しばらくして急に立ち止まった。

 

「ちょっと待って。その推理には無理があるわ!」

「……なにが?」

「ラヴィエールのレアチーズケーキの中にはオレンジソースが入ってるじゃない。だからさっきの好き嫌いの推測は間違ってるのよ」

「……ええと?」

「オレンジソースが入ってるなら、アレルギー持ちのお父さんにはレアチーズは食べられないってことになるでしょ? それに、オレンジソースの酸っぱさで甘さが抑えられるから、お母さんがレアチーズを食べないとも限らない」

「ふむ……」

「つまりお父さんが食べたのはガトーショコラの線が濃厚ということよ!」

「なるほどね。そういうことだったのか」

「謎は解けたわね。そして消去法的に、おにいのレアチーズケーキを食べたのは、お母さんということになるわ!」

 

 莉々菜はビシっと勢いをつけて、俺に人差し指を突きつける。

 待て。これじゃあまるで俺が犯人みたいじゃないか。

 

 そのとき、タイミングよく父からの返信が届いた。

『食べた。チョコのやつ』

 

 そのメールをみせてやると、莉々菜は大きく頷く。

「これで確定ね」

「ああ、どうやら、そうみたいだな」

 

 俺はさっきの莉々菜のマネをして、満足げな笑みを浮かべている莉々菜を指差す。

 

「莉々菜、お前が犯人だ」

 

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/07/25)
  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/07/25)

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とじる

 莉々菜は信じられないといった様子で目を見開いている。

 

「……おにい、何言ってるの」

「お前が食べたんだろ? 苺ショートを食べたのに、さらにレアチーズまで、さ。まさか二つも食べてたなんて盲点だったよ。それに、探偵役が犯人ってのは、禁じ手だよな」

「何それ、そんなことするわけ無いじゃん。なんでそんなこと言うの」

「墓穴を掘ったな、莉々菜。なあ、どうしてレアチーズの中にオレンジソースが入ってるって知ってるんだ?」

「どうしてって……、前にもお父さんが買ってきてたときに、おにいが言ってたんじゃん。中にソースが入ってて、それがアクセントになってるって」

「よく憶えてたな。そう、確かにラヴィエールのレアチーズはソースが特徴的で、だからこそ美味いんだ」

「……うん。そう、でしょ?」

「でもな、前に食べたときは、ストロベリーソースだったんだよな」

「……え?」

「つまり、中に入るフルーツソースは、季節によって変わるんだ。今がオレンジソースだってのは俺も知らなかったんだけど、そっかぁオレンジソースかぁ。美味そうだよなあ」

「…………」

「それを知ってるってことは、お前が食べたってことだろ?」

「そんな……」

 

 莉々菜が言葉を失っていると、玄関から物音が聞こえてきた。

 

「ただいまー」

 

 母が帰ってきたらしい。

 母は、キッチンで向かい合う俺たちを怪訝な表情で見やった。

 

「あんたたち何してんの」

「母さん、冷蔵庫にあったケーキって食べた?」

 

 犯人は莉々菜でほぼ確定だろうけれど、

 まあ、一応聞いておかないと、ね。

 

 母はちょっとだけ意表を付かれたみたいでしばらく何かを考え込んでいたけれど、すぐに合点がいったという風に何度か頷いた。

 

「そういうことね。莉々菜がお兄ちゃんのケーキを食べちゃったんでしょ」

 

 これには俺も莉々菜も、度肝を抜かれた。

 

「なっ」

「お母さん、なんで分かるの?」

 

 母は事も無げな様子で説明してくれた。

 

「主婦である私以上に冷蔵庫の中身を把握してるひとなんて居ないでしょ? だから冷蔵庫の中のケーキがフルーツタルトしか残ってないことも当然知ってるわ」

「……それは良いけど、なんで私が食べたって分かったの?」

「お兄ちゃんが食べたんだったら、ここにあるはずのものが無いのよ」

「……えっと?」

「お兄ちゃんはケーキを食べるとき、必ず温かい紅茶と一緒に食べるでしょ? なのに乾燥機の中には、カップもティーポットも無い。ってことは、お兄ちゃんがレアチーズを食べているはずが無い。もちろんお母さんは食べてないし、お父さんは会社に居るから食べられるわけない。以上のことから、レアチーズケーキを食べたのは莉々菜である。証明終了」

 

 そこまで言い終わると、母は俺たちをキッチンから追い出してしまった。

 曰く、夕飯の支度するんだから邪魔しないで、と。

 

 廊下に二人並んで、俺たちは顔を見合わせる。

 多分、考えていることは同じだ。

 

「なんだろう、この……」

「完敗だー!」

 

 ケーキを食べたのが莉々菜だと分かったときは、どうしてやろうかと思っていたけれど、気が付くとなんだか毒気を抜かれてしまっていた。

 

「莉々菜。コンビニにケーキ買いにいくからついてこい」

「えー。やだよーめんどくさい」

 

 頬を膨らませる莉々菜に軽くデコピンを食らわせてから、言った。

 

「俺のケーキ食った罰だ。ついてきたら、アイス買ってやるよ」

「ホント!? やった! じゃあ行く」

 

 莉々菜は早速玄関に向かって駆け出す。

 その後姿を見ながら、思う。

 

 本当に、現金な奴。

 こうやってなんだかんだ甘やかすから、ワガママに育つのだ。

 だから俺のケーキを食べられる。

 要するに、元を正せば俺の自業自得というわけ。

 

 もうすぐコンビニに着くというところで、三歩先を歩いていた莉々菜がくるりと振り返って言った。

「ねえ、アイスだけじゃなくて私もケーキ買っても良い?」

 

 逆光で顔は見えないけれど、どんな表情をしているのかは容易に想像が付く。

 俺はため息をひとつ。

 

 結局のところ、この勝負は俺の一人負けということになるわけで、

 だからだろうか。

 普段は何も思わないのに、今日だけは、沈みかけた西日がやけに目に沁みるような気がした。

 

 

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読み終えました(^_^)先ほどは早合点しましてすみませんでした。家族全員名探偵とお題が出ると、家族が本当に業として探偵の仕事をしている一家の作品を書きがちですが、本作は日常の家庭生活の中での自然な推理でいいですね。妹の性格もちゃっかりしているようで非常に好感がもて、お兄ちゃんも妹想いで兄弟愛が描かれ、そんな二人のことを手に取るように分かるお母さんもすばらしいですね。

湊あむーる

2018/7/25

2

同じケーキを題材にした作品を見つけたので読ませて頂きました!テンポがよく、さくさく読めました!キャラの設定もとても面白かったです!

成ぺー

2018/8/9

3

【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】
ケーキ紛失⇒家族が推理を始める……日常的な事件を題材にしているところに好感が持てました。推理の内容も家族の性格に基づいていたりと、なんだかほっこりさせられます。ケーキの次は何が消えるのか、もう楽しみです。

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とじる

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