1

裏アカ警察、廃業します 完結

ポイント
129
オススメ度
34
感情ボタン
  • 6
  • 0
  • 0
  • 0
  • 0

合計:6

大人には分かんないだろうけど、SNSには私たちの青春の全部が詰まっているのだ。

1位の表紙

すべてのコメントを非表示

私は高校2年の女子。

趣味はない。休みの日は友達と写真を撮ったものをインスタに上げたり、アプリで面白い動画を見るだけが時間つぶし。

授業はつまんないし、成績は普通。美術も体育も好きじゃない。

でも、そんなつまんない私にも好きな人がいる。

「よう、金井。元気か?」

金井というのは私の名前。

私は今日も職員室に放課後呼び出されていた。

私を呼び出したのは担任の錦城先生。メガネで背の高い男性の先生。

この先生はクラスメートから「裏アカ警察」と呼ばれている。

人の裏アカを探すのが異常に上手だからだ。

みんな私が放課後、先生に呼び出されているのは、私の裏アカが先生にバレていて何かと説教をされているからだと思っている。でも違うのだ。

「お前、吉沢のアカウント調べられない?」

そう、本物の裏アカ警察は私なのだ。

私は錦城先生のために、クラスメートや他の生徒の裏アカを探している。裏アカ探しがすごく得意なのも、本当は先生じゃない。

私だ。

先生は黒い髪を耳にかきあげた。

先生は高校の国語教師にしては髪が長すぎだと思う。

「髪切った方がいいんじゃないですか」

私がいうと、先生は「子供は黙ってろよ」と言って私のおでこをペンで突いた。

思わず俯いてしまう。顔が直視できない。

だって私は入学した時からずっとこの先生が好きなのだ。

先生は今年26歳らしい。とても顔がかっこいいので生徒から人気だ。

裏アカ警察だって、先生に頼まれたからやっている。

先生は裏アカを見つけては、いけないことをしている生徒を探して指導をしているのだ。

そんなことをしても先生の人気が落ちないのはたぶん先生の顔がいいから。

先生が調べて欲しい吉沢君というのは私のクラス一の不良男子生徒だ。

何が不良なのか詳しくは知らない。でも、週に一回くらいしか学校に来ないので、出席日数はかなり危機的な状況のはずだ。

先生が学校を休んで彼が何をしているのか、知りたがるのも無理はない。

その日から、私は裏アカ警察活動を始めることにした。

裏アカを探すには先ず本アカからーー。

そんなことわざはないが、これは真理だ。

ということで私は先ず、吉沢君の本アカウント探しから始める。

これはクラスの髪を染めている数人の男子のアカウントを辿ると、すぐにわかった。

吉沢君のインスタの本アカウントには、夜の街の写真しかなかった。

吉沢君は深夜コンビニの前によくいるということがインスタからわかる。なかなか荒れた暮らしをしているみたいだ。

とりあえず私は先生に吉沢君のアカウントを報告した。

「ふーん。深夜のコンビニねー」

錦城先生はつまらなそうにインスタを眺めている。

「なんであいつはそもそも学校に来ないのかな。眠いのかな」

そんなこと聞かれても知らないよ。

「絶対裏アカあると思うんだよねこいつ。頼むよ」

錦城先生に肩を叩かれて私はまた顔が赤くなった。

それから私は毎日吉沢君のインスタを見るようになった。

私のインスタアカウントは、クラスメート監視用の裏アカウント一つだ。

20歳の、男子高校生が好きな東京のOLという設定になっている。この設定は姉から借りた。

アイコン画像はコンビニの少年誌の表紙のえっちなお姉さんの写真をスマホで撮って加工したもの。

つぶやきはゼロだ。だから誰も私に毎日チェックされていることに気がつかない。

私はSNSでは透明な存在なのだ。

吉沢君の投稿はことごとく毎日夜だった。

クラスメートと写っていることもあるし、お酒を片手に持っているお姉さんと写っている時もある。

家族の写真や昼の写真はほとんどない。

ただ一つ、吉沢君は一回だけ猫の写真を投稿していた。

文章はシンプルだ。

「ねこ」

その写真にはおでこに変な黒い模様の入った茶色い猫と、ネコチュールが写っていた。

これは今猫に大人気なゼリー状の猫の餌だが、私の目に入ったのはそれじゃない。

ネコチュール購入者限定50人に当たるネコハウスが画面の端に写っている。

これだ。

私は

「ネコハウス 当選 ネコチュール」

で検索をかけ片っ端からあの茶色い猫をもう一度探した。

……あった。

あの変な黒い模様の茶猫。それに「ネコチュールハウス、当たった。嬉しい」の文字。

フォローは企業の広報アカウントが3つくらい。フォローしている人は誰もいない。

吉沢君の写真は一枚もないけれど、紛れもなく吉沢君の裏アカウントだった。

「吉沢のアカウントあった?」

「……まだ無いです。ごめんなさい」

「いやいや、いいよ。SNSなんてまあ遊びだし、あったらでいいからね」

翌日になっても、私は錦城先生に吉沢君の裏アカを見つけたことを言えないままでいた。

こんなことは今までなかったのに。自分でもどうして吉沢君のアカウントを先生に教えたくないのかよくわからない。

あのあと、吉沢君の裏アカを一年分遡ってしまった。他の人にはこんなこと、したことない。

私はあんまり他人に興味が湧かない方なのだ。

吉沢君は裏アカウントをほとんど日記のように使っているようだった。

アップされている写真は半分が猫で、半分が食事。

それも吉沢君は自分の食事を自分で作っているらしいということがだんだんわかってきた。

昼はほとんどコンビニのお弁当。

吉沢君はコンビニのバイトを昼でも夜勤でもやっているみたいだった。

書かれている言葉は少ない。

「つかれた。ねこかわいい」

「夕飯はチャーハン。焦げた。おいしくない。醤油は最後に入れるべき。覚えた。」

「バイト行きたくない。でも猫にチュール買ってやりてーからシフト増やした」

見ているうちに、私はだんだん目が熱くなってきた。吉沢君は不良生徒なんかじゃ無いんだと思った。

翌日金曜日に、珍しく吉沢君は登校してきていた。

私はなんとか、なんとかして吉沢君に話しかけたかった。でも、教室の中でズカズカと彼の方に行くのは憚られた。

金髪でちょっと不良でかっこいいと評判の吉沢君の机にはいつもクラスの中心の女の子や男の子がたかっている。

休み時間になるまで、私はずっと吉沢君を見ていた。

昼休みになり、彼が廊下の方にすっと抜けて行くのを見計らって私は彼を追いかけた。

吉沢君は屋上にいた。

屋上には鍵がかかっているはずだけれど、吉沢君は針金を鍵穴に突っ込んでドアを突破していた。

恐る恐る、ドアを開けて屋上に出ると、一人で吉沢君は空を見ていた。

「君、誰?っていうかなんで今日ずっと俺のこと見てんの?」

吉沢君は私がついてきているのがわかっていたみたいに振り返って私を待っていた。

私は鼓動がいきなり速まって、何を言っていいかわからなくなってしまった。

「あなたの……裏アカウントを見つけてしまって」

私はそれだけ絞り出した。

「そうなんだ」

吉沢君はそれだけ言った。

なんで?とか、どうやって?とか何も聞いてこない。

私は自分がすごく気持ち悪いことをしたような気がしてきた。いや、実際気持ち悪い。ストーカーだと言われたら言い逃れできない。

「見ててもいいよ。でもあんま人に言わないで」

吉沢君はそれだけ言って私を通り過ぎて屋上から出て行った。

怒ってもいないし、笑ってもいない。どうでも良さそうな顔だった。

私は一人で屋上にしばらく立っていることしかできなかった。

その日は金曜日だったので、錦城先生に一週間分の宿題を提出する時間があった。みんなが一人ずつ、錦城先生に宿題の進捗ノートを渡して帰る。

吉沢君が教壇で先生に呼び止められた。

「お前、先週からいなかったのに、どれが宿題か、わかってんの?」

ドッとクラスから笑いが起きた。

「……わかって無いっす」

吉沢君も笑っていた。パン!と小気味良くノートを教壇に置くと、教室から出て行った。

私はその背中を見ながら胸騒ぎがした。

来週も、当たり前のように吉沢君は学校に来なかった。私はなぜ吉沢君が学校に来ないのかわかってきた。

彼は平日も夜勤のコンビニバイトのシフトを入れていて、

しかも家族が家にほとんどいない。起きられないんだと思った。自分で三食用意している。

本アカウントの方には相変わらず、夜の楽しそうな友達との写真しか上がらない。

先週金曜日、放課後深夜の吉沢君の裏アカの投稿には

「久しぶりに宿題ちゃんとやってったのにクラスで笑いもんにされてつらたん」

とだけ書かれていた。

つらたん。写真は猫。

私は吉沢君の裏アカを最後まで遡ってしまった。猫は吉沢君の家の前に捨てられていた猫だということまでわかってしまった。

こんなことをする自分が大嫌いだ。

吉沢君はまた次の金曜日に登校してきた。

そして昼休みに屋上に向かって行く。

私は彼を追いかける。

屋上に登ると、私が追いかけてきていることに気がついているのか吉沢君は振り返りもしなかった。

「屋上入っちゃいけないんだよ」

それだけ言って空を見ていた。空はすごく青くて、吉沢君の金色の髪がすごく良く映えた。

  私は知っている。彼が高校生に見えないように、自分で髪を染めていること。バイト上がりに来る女の人と仲良くするのは家までタダで送ってもらうためだってこと。とても真面目にバイトしていること。本当は先生にもっと褒められたいと思っていること。猫が大好きなこと。夜は一人で寂しいこと。

「吉沢君!私になんか知ってほしくないだろうけど、知ってるから」

私は喉から気持ちを絞り出す。

「吉沢君が……毎日めっちゃ頑張ってて……本当は超いい子で……でもそういう……私みたいなやつに分かった口利かれたくないから黙ってるの知ってるから!」

私はほとんど叫んでいた。何を言っているんだ。

「じゃあ何しに来たのお前」

吉沢君はやっと振り向いた。笑っている。

金色の髪が夕日に透けて光っている。こうしてみると彼はかなり整った顔をしているのだった。

「応援してるって言いに来た」

私はそれだけ言うと、いたたまれなくなって吉沢君に背を向けて非常階段に続くドアを開けた。

恥ずかしい。帰りたい。

「ありがと」

吉沢君にそう言われた気がするけど、遠かったし私は非常階段のドアを勢いよく閉めてしまったのであとはわからない。

私は非常階段を降りながら気がついていた。

私が吉沢君のアカウントを錦城先生に教えたくない理由、わかった。

私は吉沢君が好きなのだ。

猫が大好きで、自分のご飯を自分で作っていて、バイトもして、でも友達にはカッコつけたいからがんばっている自分は絶対見せたくない、そんな吉沢君が好きになっちゃったのだ。

階段を降りながら私は泣いていた。

私は何をしてたんだろう。

裏アカ警察だって。こんなひどいことをする私のこと吉沢君が好きになってくれるはずがない。

悲しい。恥ずかしい。こんな自分もうやめたい。

「あれ?金井じゃん。泣いてどうしたの」

前から錦城先生が歩いて来ていた。ちょっと前の私だったら錦城先生に走っていって抱きついていたかもしれない。

でもなんだか私は足が止まった。

錦城先生って、よく見たら顔にシワがある。

やっぱりこの人は私より10歳年上なんだ。

「私先生に言わなくちゃいけないことがあって」

「ん?」

先生は近くに来るとタバコの匂いがした。やっぱり大人なんだ。

「吉沢君の裏アカ見つけられなかったし、私裏アカ警察廃業しようと思います」

私は先生の顔を見て言った。

先生はちょっと驚いた顔をして

「いやいや、また別の人のお願いするかもだし、そんな間に受け取らなくてもいいよ」

と言う。

でも、違うんだよ、先生。

私たちはいつも真剣だし、SNSだって遊びでやってるんじゃない。

先生から見たらちっぽけな私たちとどうでもいい投稿かもしれないけど、それって私たちの全部なんだよ。

「先生、違うんです。私、先生のこともう好きじゃなくなっちゃったみたい。だからもう先生の言う通り人の裏アカ探せない。ごめんなさい」

先生は驚いた顔をして、そして笑い出した。

「あはは。そっか。俺こそごめん、なんか悪いことさせたな」

先生は私の頭をポンポンして廊下を歩いて職員室の方に歩いていった。

ふと、窓の外を見た。久しぶりにスマホ画面じゃないものを見た気がする。

青い空に入道雲だけの光景だけれど、学校の無機質な窓枠に切り取られてすごく新鮮だった。

私はそれをスマホで写真に撮った。

誰かに見て欲しくてたまらない気持ちになった。

裏アカ警察は廃業だ。

私は本名でちゃんとインスタアカウントを作ろう。

それで、これからどうやって吉沢君に似合う女の子になるのか、よく考えて生きていくんだ。

  • 6拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

1

【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】陰鬱なイメージが付き纏う「裏アカ」が、人の本質を知るためのアイテムとして提示されています。あるいはその気づきが主人公の成長にも繋がっています。きれいにまとまった作品ですが個人的には、「裏アカ探偵の女子高生」&「名ばかりの裏アカ警察の教師」でバディーを組み、学校に巣食う闇を「裏アカ」という側面から解き明かしていく、学園ミステリーを期待してしまいました。

2

スタッフE様  読んでいただきありがとうございます。選評をいただきとても励みになります。「裏アカ探偵の女子高生」&「名ばかりの裏アカ警察の教師」のバディーもの面白そうですね。新世代のGTO感があります。時間がありましたらそのお題でまた別に投稿させていただきます。引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。

コメントを書く

とじる

オススメポイント 34

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。