1

好きな後輩への愛を綴った裏アカが後輩に見つかる話 完結

ポイント
53
オススメ度
6
感情ボタン
  • 1
  • 0
  • 0
  • 0
  • 3

合計:4

妙なテンションのラブコメ短編

投稿された表紙はありません

この物語の表紙を投稿する

すべてのコメントを非表示

「……このアカウント、知っていますか?」

 黒いブレザーの制服の裾から、白い指だけがちんまりと出て、飾り気のないスマートフォンを握っていた。

 高校で背が伸びるからと、親を説得して買ってもらった一回り以上は大きい制服。

 それに身を包んだ背の低い少女は、こてりと首を傾げて一歳違いの男子生徒に尋ねる。

 スマートフォンの画面に映されているのは、誰でも知っているような人気のSNSアプリのページだ。

「先輩? ……アカネ先輩、聞こえてます?」

 男子生徒、アカネの耳に少女の声は届いていなかった。

 アカネが吐き出した吐息は嫌に熱く生々しい。 気にしたこともない息の熱や、血の巡り、心臓の音。

 こてんと傾げられた少女の可愛らしい顔に見惚れていたのではない。

 アカネはひたすらに焦る。 何故、そのアカウントがバレたんだ……! と。

 本名でやっているアカウントとは別の、可能な限り個人情報を伏せているはずのアカウントであり、バレるはずはないはずだった。

 だが、アカネが焦っているのは、バレるはずがないアカウントがバレたからではない。

 そのアカウントでやっている内容が……後輩の少女が可愛いというだけの話をし続けているものだからだ。 もちろん、後輩の少女とは目の前の彼女のことだ。

 ちなみにフォロワーはほとんどいない。 当たり前である。

「し、知らない。 ……何の話だ。 ウラ」

「……おかしいですね?

 よくある初期設定のアイコン、プロフィール画面も特段変わったものではありません。

 今の画面表示で見れるのは、名前とプロフィール、それに加えてせいぜいがつぶやき一つ程度」

 後輩の少女、ウラは淡々と艶のある唇を動かす。 蛍光灯の光を輪にして光らせる長い黒髪が、窓から入り込む風に揺らされる。

「……もし、知り合いのアカウントだったとしてももう少し見なければ分からないでしょうし、バズったアカウントや有名人のアカウントの可能性もあるので、こんな画面で判別することは出来ないはずなんですよ。

 判別するには材料が少なすぎやしませんか?」

 初手からの会心の一撃。 確かに少女が言う通り、そのアカウントを知っているかどうかなど、しっかりと確かめなければ分からないだろう。

 ほとんど情報がない画面で「知らない」と答えられるのは、知っているから以外ではありえない。

 この画面を見ただけでは「知らない」はありえないが、「知っている」はありえる。

 ウラの頰が上がろうとした、その一瞬……アカネは鼻を鳴らす。

 わざと判別しきれない画面を見せることにより、初手からボロを炙り出そうとしたウラの奇策。 だが、それは反対にアカネの逃げる道を多く残したままの策でもあった。

「いや、俺SNSとかほとんどやらないからな。 そもそも友達のアカウント見せられたとしても知らないとしか言えないから」

 圧倒的な力技。 「知らない」を突き通す、力技だった。

 友人のアカウントだろうが、バズったアカウントだろうが、有名人のアカウントだろうが、全部「知らない」だから「知らない」と、一瞬で答えられた。

 一見して無理な言い訳だが、確かに道理は通っている。

 ウラの奇策、その失敗の理由は一つ。 焦りすぎた。

 淡々とした表情の裏、おそらく自身への愛をひたすら書き綴られたアカウントを知り、平静ではいられなかったからだ。

 一つ、別のクッションを置けばよかっただけのことだ。 例えば、自分が始めたからフォローし合おうといった話を一度すれば、そのような逃げ道はなかったはずである。

 そんな簡単な見落としをしてしまったのは「もしや両想いなのではないか」という強い期待感。 それから起こる早く好意を伝えられ、伝えたいという焦燥。

 それがウラの奇策の綻びとなった。

 歯噛みするウラに、アカネはわざとらしくアカウント名を読み上げる。

「えーと、後輩への愛を叫ぶアカウント……ね。 ふーん、あれ、ほとんどフォロワーもいないみたいだけど……よく見つけたな。 こういうのよく検索しているのか?」

 一転してアカネは攻勢に立つ。

 真っ赤な顔をしたウラは図星を突かれたことで反論しようとした口がパクパクと動かすが、混乱した頭では言い訳も思い浮かばず、声が出ることはない。

 事実、週に26回程度のペースで「男性は年下の女子が好き」みたいな話を探して、それを読むことによって足りない自信を補っていたウラだ。

 このアカネの裏アカを見つけたのも、その一環でのことであり、つまりは完全な図星だった。

「にゃ、にゃにを言ってるでござる? そ、そんなこと全然ないでござるよ? これは友達が教えてくれたもので……」

「焦りすぎてござる口調になってるぞ、ウラ」

「エアーのせいですよ。ユーは少しばかり思い込みが強いみたいですね」

「英語……いや、ルー語になってるぞ」

「そ、そうでしょうか? 気のせいではないでごモンキー」

「慌てすぎて、ござるとルー語が合体してるぞ」

 もはや意味が分からない。 ウラは自分が攻勢だと頭が働くが、劣勢に回ると完全なアホだった。

 顔を真っ赤にしながら手を振って制服の袖をバタバタとしながら後ずさる。 まさにアホの仕草だ。

「っ! 知らないなんて、しらばっくれてるだけです! こんなに私と先輩の行動と、この二人の行動が一致してるなんてありえません!」

「……例えば? 俺とお前なんて、だいたい部活一緒なだけだろ? よくあることだろ。 会話内容もそんなに珍しいものではないしな」

 これは厳しい言い訳だろう。 ひとつひとつは珍しくなくとも、重なれば重なるほどに可能性は高まっていく。

 そんなことはウラもアカネも分かりきっていた。 だから……アカネは言葉を続ける。

「それに、まさか俺との行動や会話を逐一覚えているわけでもないだろ?」

 あくまでも、力技。 照れさせることにより追求を防ぐという、策というには人頼りにすぎるものだ。

「え、にゃ、い、いや、そういうわけじゃないですけど……」

 だが、効果はある。 と分かりきっていた。

 彼女はそういう性格だと、知っているからだ。

「でも、重要なイベントは被って……!」

「つまり、そんなにたくさん遡って見たのか」

「……いえ、被ってるか、今から確かめたらいいじゃないですか」

「いや、確かめたいのはお前だろ? 俺は違うってわかってるから興味ないしな」

 だから押し通る。 普段クールぶろうとしている後輩の性格を考えれば、見ないという限りなく黒に近い灰色だったとしても確定を防ぐ手を使うだけで大丈夫だ。

 後日調べてくるなどと、ウラが言い出したとしても「何必死になっているんだ」の一言で封殺が可能。

 だがそれは「今までのウラであれば」の話である。

「……気になるから確かめる。 ……です。 学校行事のカレンダーと照らし合わせて、日付を指定して調べるだけなら十分も必要ありませんよ」

 逃げることなく、顔を真っ赤にしながらウラは言った。

 アカネは驚きに口を開く。

 アカネの知っている彼女は、自分が圧倒的な有利な条件以外で戦うことはない。

 確かな決意を秘めた瞳は、自身を真っ直ぐに見据える。 多少の損害や羞恥を無視するという確かな意思は、アカネの力技を押し返すだけの凄みがある。

「それとも、調べられたら困るのですか?」

 己という殻を破ったウラは、いつものアカネを真似るように鼻を鳴らす。 無理を押し通す決意、ウラにとってその象徴がアカネであった。

 人の癖を真似するというのは、同一視による自己洗脳の一種ではあり、そう簡単なものではないが……手本はいつも見ていて、いつも思っていた。

 何度、鼻を鳴らす仕草を見たことか。 思ったことか。

 アカネがウラを知っているのと同じ通りに、ウラもアカネを知っていたのだ。

「……まぁ、そういうわけではないけどな」

 アカネのその言葉に、ウラは勝利を確信する。

 この自身への愛が大量に綴られたアカウントを白日の下に晒すことが出来る。

 ウラにとって、それは避けようのない未来……に、思えただろう。

 基本的に特定は不可能だが、すでに特定された状況で学校行事や自身らの行動を照らし合わせて確かめることは容易。 つまり、ウラがアカウントを見つけた時点で遅かれ早かれ、決着は決まっていたのだ。

 そう、ウラは確信していた。 そして、勝利の確信とは同時に油断となりうる。それ故に、アカネの行った起死回生の一手を見逃すこととなる。

 確かめるためにと彼女のスマートフォンを手に取って二人で見ながら操作しようとして……アカネの手がウラの触れる。

「て、手が……っ!」

 単純な身体接触に気恥ずかしさを覚えてスマートフォンから手を離したウラの手を追い討ちをかけるように握る。

「おいおい、あんま暴れると危ないぞ。 狭いのに」

 恥ずかしさのあまりウラは手を振り払い、急にアカネが手を離したせいで盛大に空振り、机の際に置いてあったアカネの鞄にぶつかる。 教科書やノートをぶちまけながら鞄は落ち、ウラは慌てて謝りながらそれを拾おうと椅子から降りてしゃがみ込む。

 アカネの手にスマートフォンを渡したまま、だ。

 すぐに拾い集めたウラはもう一度謝罪してから、机の上にあったスマートフォンを手に取って近場にあった事から順に確かめていく。

「クレープを食べに行ったの、日付や時間に加えて、注文もあってますね」

「おかしいな。 そうだな」

「運動会の日付も被ってて、同じ白組になったのも、です。 僕が借り物競走で転けたことも、あってます」

 こつこつ、と証拠を積み立てていく。 戦後処理をしているだけのつもりであるウラは、否定しないアカネが観念したと判断して彼を見る。

「ここに書かれている後輩は、間違いなく私のことで……アカウントの持ち主は先輩ですね。 何せ……このことは先輩と私しか知りませんから」

 ウラは一つの発言を表示しながら伝える。 どうしようもない敗北にアカネは表情を歪ませ……るようなことはなく、不敵な笑みを浮かべた。

「そうだな。 俺と……「お前」だけしかいない」

「……認めましたか」

「……俺にはアカウントに覚えがない。 これはお前が作ったアカウントなんじゃないのか? 俺の視点のフリをして」

「…………は、はい?」

「だから、なりすましアカだ。 俺の視点で書かれているからと俺のアカウントとは限らない。 他の奴がなりすますのは、ネットでは難しい話ではない。

 明らかに背丈も何もかもが違う……背の低い少女だとしても、俺のフリは出来る」

 勝つためには、手段を選ばない。 ウラの手法はあくまでも理詰めにより淡々と証拠を提示していくことだ。

 それに対してアカネは、手段を選ばずに勝ちのみを追求する。 理屈から答えを出すウラと、答えを決めてから理屈を選ぶアカネ。

 常道では絶体絶命であろうが、逃げ道は作ることが出来る。

「な、何を馬鹿な。 このアカウントの持ち主は私か先輩しかありえない。 私からすれば先輩が持ち主であると、ハッキリ確定しているんですよ?」

「だが、俺には覚えがない。 俺からすると……ウラがアカウントの作成者だと確定しているな」

 確定はしていても、まだ足掻く。 互いの主観では分かりきっていることだろうが、客観的には依然として分からないままだ。

「……先輩は、そんなに私のことが好きだったんですね」

「自演をするな。 お前がアカウントを用意して、こうなるようにしたのだろ?」

 あくまでも徹底抗戦。醜悪さまで感じるほど力強い意思を見てウラは戸惑う。

 もしかして、本当に別の人のアカウントなのではないだろうか、と。

「なら、先輩のスマートフォンを見せてください。 それで、はっきりとすることでしょう」

「俺は構わないが、なら、お前のも見せろよ?」

 互いのスマートフォンを渡し合って机の上で件のSNSアプリを開く。

 ウラの持つアカネのスマートフォンに表示されたのは、アカネのアカウントだ。 一応本名でやっているが、投稿はほとんどなく内容もない。

 友人らと相互にフォローしているものの、その数も少なく放置されているという印象が強い。

 問題はそこではなく、他のアカウントだ。

 ログインしているアカウントの一覧を見て、そこに名前があるかどうか……。 ウラは存在を確信していたが、そこにはアカネの通常のアカウントしかなかった。

 ログアウトをしていれば当然表示されないだけだが、いつも発言しているならわざわざログアウトしているとは考えにくい。

「な? 俺じゃないだろ。 ……じゃあ、次はお前の方だな」

 トリックは、そう呼ぶことも出来ないほど簡単だ。 ログアウトやログイン程度の操作は数秒もあれば出来る。 わざと鞄の中身をぶちまけさせて、ウラが拾っている間にその操作を行った。

 ウラの考えは論理的だ。 確実な方向に進むそれは、見ていればどういう風に進むのかがよく分かる。

 どうしようもない手詰まりが発生すれば、逃げようもない方向へ……つまりこうやって確かめようとすることが確実な手だ。

 アカネはウラと同じように操作して、ウラのスマートフォンの画面を変える。

「……あるな。 どうやらあれは、お前のアカウントだったらしいな」

「…………えっ」

 目を離した隙に、ウラのスマートフォンでログインしておく。 それだけのことだが……一瞬、時が止まる。

「な、なんで、こんなっ!」

「どうやら、お前が勝手に作ったらしいな! そんなに俺のことが好きだったのか。 こうやって自分を慰めなければならないほどに」

「っ! ち、違います! これは何かの間違いで──! というか、私からしたら先輩が私のこと大好きなの分かりきってるんですから、こんな言い訳しても意味ないじゃないですか!

 好きってバレるのが恥ずかしいって小学生か何かですか!」

 混乱、理解、そして、暴走という過程を経て真理を突いた。

 そう「ぶっちゃけ、言い負かす必要はなくね?」というひとつの真理だ。

「なっ!? ひ、卑怯だぞそういう開き直りは!」

「あいらぶゆーとでも言ってくださいよ! ぱーどぅん?って言いますから!」

「なんで英語なんだよ!」

「日本語に愛情表現の言葉はないんですよ!」

「自分が口に出来ないのを日本語のせいにしてんじゃねえ! というか、むしろそっちの方が俺より丸分かりだからな? 毎日ちらちらこっち見てるし、そもそも、お前この部活に全く興味ないだろ!」

「ぎゃ、ぎゃくぎれです! 今は私が先輩が好きかどうかの話じゃなくて、先輩が私のことを好きって話です!」

「好きじゃねえし! 全然興味ないから!」

 二人は息を切らせながら互いを睨み合う。 頰の赤さを笑ってやろうとして感じる耳の熱さ。

 好意を笑ってやろうと思えば鳴る心臓の音。

 吐けば返ってくる生ぬるい吐息。

「……ウラ」

「……先輩」

 名前を呼べば、名前が呼ばれる。

「……なかったことにしよう。 互いにそちらの方が得だろ?」

「ご、強引過ぎやしませんか? 追い詰めてるのは私ですよ?」

「じゃあ、追い詰めればいい。 そして、自分に好きというように強要すればいい。 ……だが、それはお前の好意を裏付けることにもなるがな」

 好きと言ってとねだるなど、ウラに出来るはずはない。

 認めることはつまり好意を伝えることであり、認めろと強要するのは愛の言葉をねだるようなもの。

 事実そうであるかは別として、アカネはそういう風に受け取る宣言であり脅し。 それを分かっていて続ければ、それこそ先に自分の好意を伝えるようなものだった。

 どちらにせよ、敗戦。 けれど一矢報うための言葉は……確かにウラに届く。

「……分かり、ました。  今回は頷いてあげましょう」

 互いに心臓の限界。 停戦の協定が結ばれた。

 そして平和の世が顔を出す……と、ウラが考える。

 安心しているウラの横で、アカネが彼女のスマートフォンを軽く触る。

「今、お前のスマホでアカウント確認した時に見つけたんだけどな。 これ、お前の裏アカだよな?」

 そこには、先輩への愛をひたすらに綴ったアカウントがあった。

 似た者同士である。

  • 1拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 3惚れた

1

【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】ネガティブな「裏アカ」話ではなく、リズム良い掛け合いの会話がステキです。意地の張り合いが微笑ましくて楽しくなりました。二人はどんな学校生活送っているのか、他のエピソードも読んでみたいです。

コメントを書く

とじる

オススメポイント 6

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。