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イレイズ~裏アカウント撲滅代行事務所へようこそ!~

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電脳世界に自由にアクセスできるようになった近未来。
東都の雑居ビルの一角にあるイレイズ事務所に一つの依頼が飛び込んできた。
裏アカウントを使い、電脳世界のゲーム上で暴れまわっているプレイヤーがいると。

事務所代表兼・裏アカウント撲滅代行の白崎嘉良(しらさき・から)は言う。
「その撲滅依頼、受け賜りましたー」

1位の表紙

目次

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1 大事件

ピコン!

ある平日の正午、白崎嘉良(しろさき・から)のメガネ型のスマートフォン・VG(ヴァーチャル・グラス)に新規の依頼メールが届いた。

「なになに?」

白崎はVGのメールを読み上げる。

「アクセス式オンラインゲーム・エデンフィールドにて裏アカウントを使った不正プレイが増加しています。つきましてはイレイズ事務所に削除をご依頼したいと思いご連絡差し上げました、と」

「なぁ、千路(チロ)ちゃん、エデンフィールドってゲーム知ってる?」

白崎が事務所にあるソファで寝転びながら漫画を読んでいる坂道千路に尋ねる。

ミディアムロングの髪は襟足だけ青く染めていて、上着はセーターを着ているくせにショートパンツ、アンバランスに見える服装に風邪でも引くんじゃないかと白崎はいつも思っていた。

「え、先輩知らないんすか?エデンフィールドって言えば、今や全世界1000万人のプレイヤーがいる超人気オンラインゲームじゃないですか」

「あー、そうなの。じゃあこれは大手からの依頼ってことね。ふんふん、おいしい案件じゃん」

「削除依頼ですか~?」

ソファから首だけひょっこりと出して千路が言う。

「そうそう。てなわけで行ってくるわ、サポートよろしく~。すぴー……」

「はやっ!もうアクセスしたの!」

千路のツッコミはもう白崎に聞こえていない。

―ACCESS―

脳内に直接映像が映し出されているかのように白崎は電脳世界にアクセスした。

「あ~、気持ちわる……。やっぱ慣れねーなぁ」

人によっては電脳世界にアクセスしてから数分、乗り物酔いに似た症状が現れることがあった。

電脳世界のホーム画面はまるで巨大なターミナル駅のような姿をしていた。

駅の窓口でゲーム名を告げれば、そこからゲーム世界にアクセスできる。

靴底が擦れるような歩き方で白崎は窓口へと歩いていく。

「あ、姉ちゃん。エデンフィールドにアクセスしたいんだけど」

窓口の若干、厚化粧の女性オペレーターに白崎は話しかける。

「エデンフィールドですね。初回ログイン、8500コインになります」

「たっか……何、最近のゲームって8500円もすんの?」

「人気ゲームですので」

「はいはい。払いましたよ。あとデータで領収書もお願いしまーす」

バーチャル通貨決済を済ますと、窓口から切符を渡される。

「どもー」

白崎は切符を近くの改札口に通し、そこを通過する。

映像が数秒後には切り替わり、白崎はいつの間にかエデンフィールドの初回ログイン地点の七色の噴水広場に転送されていた。

白崎と同じようにリアルタイムで続々と新規プレイヤーたちがゲームにログインしてくる。

「ん?あー、今気づいた。このゲーム、リアルフェイス式のオンラインなのね……。たしかにアバタ―の設定項目がなかったもんな」

噴水に映る自分の顔はありのままの白崎嘉良だった。

20代後半にしては老け顔で、おまけに生まれつきなのか目つきも悪かった。それを補うために黒縁のメガネをかけてはいるが効果のほどは分からない。しかし、この仕事をする上で若く見えすぎるというのも考え物だと白崎はそこまで容姿について深く考えはいなかった。

「さーてと……、まずは情報収集か」

空想データベースを表示し、そこからイレイズ事務所とのホットラインを繋ぐ。

「あーもしもし、千路ちゃん、聞こえる?」

『ふぁい、聞こえまふよ』

白崎の聴覚に直接、音声が入ってくる。ついでに咀嚼音も。

「え、何食べてんの?」

『なひも~』

「いや、なひもって明らかに口に何か入れて喋ってるじゃん。もしかして山本ベーカリーのプレミアムメロンパンじゃないよね?俺が楽しみにとっておいたプレミアムメロンパンじゃないよね!?」

『ちがいますよ~』

「あ、そう。信じるからね、俺、信じてるからね。―――で、裏アカウント保持者の足取り、いつも通り調べてくれた?」

『あーはい。真藤奎吾21歳、調査書には職業・ハッカーって書いてありますね。エデンフィールドの運営が足取りを最後に確認したのが時計塔ステージってとこですね』

リンゴ―ン、リンゴ―ン。

まるで狙ったかのようなタイミングで白崎の頭上にある時計塔の鐘が鳴り響く。

「あ、ここだ」

『当該対象者は不法レベルアップソフトを使用し、数々のゲームバランスを崩壊させ、エデンフィールド内での最強ボスも一撃で倒したそうでーす』

「簡単に最強になって、なーにが楽しいのかね。オジサンわかんなーい」

『今の若者は課金すれば簡単に強くなれるって刷り込まれた世代ですから。先輩には理解できないかもですね』

「うわー、めっちゃディスってくるじゃん。全国のおじさんに全力で謝りなさい」

『いやです』

はぁ、遅れてきた反抗期かなと白崎がため息をついていると、時計塔ステージが何やら騒がしくなっていた。

悲鳴に近いプレイヤーたちの叫び声は時計塔ステージの平和の女神像近くから聞こえた。

白崎が騒ぎの中心に駆け寄っていくと女神像が持つ槍に男性プレイヤーが突き刺さっていた。

「うわお……こりゃ大事件」

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2 裏アカウントプレイヤー

『どうしたんですか~』

白崎の耳に、ホットラインで繋がった千路の声が聞こえてくる。

「えっとね、人が槍に刺さってる」

『うわ、グロ……』

「このゲームってプレイヤーキルって可能だっけ?」

白崎は千路に聞く。

『いーえ、エデンフィールドで倒せるのは魔族やNPCのキャラクターだけです』

「なるほど……でも裏アカウントなら可能だね」

『でしょうね』

裏アカウントは簡単に言えばリミッター解除のようなものだった。

ゲーム内で規制されるべき倫理的な行動がすべて行える。

実際に裏アカウントプレイヤーが人殺しをしたという実例は挙がっては来ていないが、それが間接的な原因となり、プレイヤーが自殺に追い込まれたという例は過去にあった。

VG(ヴァーチャル・グラス)は五感を一時的に電脳上へ移行させることができる。

そこでリミッターの外れた裏アカウントプレイヤーが正規のアカウントプレイヤーを攻撃したとしたらどうなるか。

リアルの自分は怪我をすることはないが、電脳上では痛覚は実際にある。

白崎は槍に刺さっているプレイヤーの苦悶の表情を見ながら渋い顔をした。

「あれは痛いだろうなぁ……ご愁傷様です」

その心的ショックで自殺するプレイヤーが昨今、問題になっているのだ。

しかしVGは民間でもう規制できないほど流通してしまっている。

電脳世界が生み出した新たな闇、それが裏アカウントによる犯罪被害なのだ。

「おい大丈夫か!?健児!!」

槍に刺さった男性のもとに友人と思われる太った男性が駆け寄っていく。

「うぅ……いてぇ、いてぇよぉ……」

「おーい、健児くん?早くログアウトしなって。そうすれば痛み消えるから、ね」

白崎が太った友人の後ろから男性に声を掛ける。

「そ……そうだ、健児!ログアウトしろ!リアルのお前は刺さってなんかないんだから!」

「そうそう、そゆこと」

「わ……分かったぁ……」

ほどなくして槍に刺さっていた健児という男性はログアウトし、電脳上から消えていった。

「ねぇ、君、健児くんの友達だよね?」

白崎がステージに残っていた太った男性に尋ねる。

「あ、はい。そうですけど……」

「健児くんとは今日、ずっと一緒にゲームしてたの?」

「いや途中までですね。アイツ、最近、レベル結構上がったから時計塔の上層階に挑戦するって意気込んでて……」

「なるほど。じゃあ、健児くんはあの上から降ってきたと……」

白崎が人差し指で時計塔を指す。

「た……たぶん」

「ふ~ん。どーもありがとう」

白崎は耳に手をあて、千路とのホットラインをふたたび繋ぐ。

「千路ちゃん、どー思う?」

『時計塔ステージはエデンフィールドの始まりの地点でもあるみたいですけど、同時に最難関ステージでもあるみたいですね~』

「なるほどね。この時計塔の最上階で真藤圭吾は踏ん反り返っているかもと……」

『可能性は高いでしょうね』

「よし。じゃあ、昇りますか」

『頑張ってくださーい』

「うっわ、千路ちゃん冷たーい。これからお仕事頑張るおじさんに励まし言葉とかないのー?」

――プツンとあちら側からホットラインを切られてしまい、白崎は「最近の若い子は……」と、また溜息をつく。

「はぁ……イレイズ、始めますか……」

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  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/08/02)

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3 時計塔攻略組

時計塔の一階に足を踏み入れる。

「へー、なんとも荘厳な造りで……」

白崎のもとにシスターのような黒い装束を着たNPCが歩いてくる。

「旅のお方。この時計塔に挑戦いたしますか?」

「あ、はい。挑戦しまーす」

「それでは奥の扉から2階層へ上がっていってください。10階ごとにセーフゾーンが設けられます。そこまでに倒された場合は1階から再スタートとなります」

「ご親切にどーも」

シスターが右腕を挙げると、奥にあった木製の扉がギィーと音を立てて開く。

白崎はNPCのシスターに手を振り、2階層への階段を上がっていく。

2階層への扉を開けると正面に鎧を着た骸骨・スカルナイトが立ちふさがっていた。

「なるほど、一階ごとに敵がいて、それを倒すと次の階に行けるってことか」

「よし、バッチこーい!」

両手を広げ、襲いかかるスカルナイトを白崎が迎え撃とうとしたときだった。

ザシュ!!とスカルナイトの剣が何メートルも伸び、白崎の腹部を貫通した。

視界が暗転し、気づいた時、白崎は時計塔の一階に戻ってきていた。

眼前にはさっき別れたばかりのシスターが立っている。

「ハハ……ただいま」

NPCのシスターから返答はない。

助けを求めるように坂道千路に白崎はホットラインを繋いだ。

「ねぇ、千路ちゃん、困ったことになった」

『時計塔の魔物のレベルが高すぎて歯が立たないってとこですか?』

「えっと、エスパーか何か?」

『この早さで連絡してきたんで、その時点で大体予想はつきますから』

「どしよっか?」

『そうですね、たとえば強い人と一緒に攻略するってのはどうです?』

「え、いいの、それ?」

『先輩、いつのレトロゲームの時代からやってきたんですか?高難度ダンジョンは多数で攻略するのが鉄則ですよ?』

半ば呆れたように千路が言う。

「はっはー……なるほど。千路ちゃん、クライアントへの調査依頼費、かさ増しで請求していて」

『りょーかいでーす』

白崎はそそくさと時計塔を出ていき、女神像の前に戻ってきた。

ある程度の人だかりを確認すると、女神像の真下で白崎はスッーと大きく息を吸い込む。

「時計塔攻略組を募集しまーす!!!見事、最上階まで到達できた暁には50万バーチャルコインを進呈しまーす!!さー寄ってらっしゃい、ツワモノたちよ!!!」

白崎の馬鹿でかい声に広場に集まっていた多数のプレイヤーが反応した。

その中には一目でゲームの熟練者だと分かるような、強力そうな武器や甲冑を身に着けるプレイヤーもチラホラいた。

「なー兄ちゃんよ、50万コインって本当か?」

大きな体に顔の下半分を覆った髭。おまけに背には特大の斧を背負った屈強な男性が白崎に話しかける。

「もちろん、ただ条件がある。挑戦は一回だけ、失敗したら金は渡さない。いいかい?」

「乗った!俺は土居謙三(どい・けんぞう)、レベルは65のウォーリアだ!高難度ステージは幾つか制覇してる。どうする兄ちゃん?」

「よろしく頼むよ」

「ガハハハハハ!!!任せとけ!!」

「あの~、私も志願しても?」

群衆の中から深緑のローブを羽織った不健康そうな男が手を挙げる。

「なぁんだ、貧相な身体しやがって?そんなんで時計塔を攻略できるかってんだ!」

土居がやせ細った男性に食ってかかる。

「まぁまぁ、落ち着いて。志願すると言うことはある程度、腕に覚えがあるってことですよね」

土居をなだめながら、白崎は男に尋ねる。

「はい。見たところ、土居さんは前衛特化の装備ですし、後衛のサポートが必要かと」

「なーる。ということはあなたは……?」

「ハイソーサラ―の宇野渓人です。一応レベルは70ですので、時計塔の難易度でも問題ないかと」宇野と名乗った男性は空間上にデータベースを表示し、自分のステータスに嘘偽りがないことを示すように土居に見せた。

「レベル70ぅ?こんな成りでか!?」

土居が驚いたように言う。

「よしよし、決まりですねー。では三人一組ということで早速……」

「―――私も連れて行ってください」

「ん?」

白崎たちが同時に凛とした声の方に向く。

そこには白銀の鎧を身に着けた女性が立っていた。

髪は今風の茶髪で、表情は若干幼さが残る。千路と同じくらい……まだ大学生くらいかと白崎は思った。

「おいおい、嬢ちゃん、まさか付いてくる気じゃねーよな?」

土居が笑いながら言う。

「強ければ、いいんですよね?」

真剣な顔で女性は白崎を見つめる。

「勿論。性別や見た目では判断しないよ」

白崎は笑顔で頷く。

「じゃあ……」先ほど宇野がやったのと同じように女性は自分のステータスを表示する。

「……レベル72……!?しかも嬢ちゃん、“グランド”の称号まで持ってんのかよ!?」

「土居さん、すみません。グランドとは?」

白崎が尋ねる。

「今現在、エデンフィールドには5つのステージがある。そのすべてのステージにいるボスキャラを倒したプレイヤーに贈られる特別な称号だよ。俺も見んのは初めてだ……まさかこんな嬢ちゃんがな」

「じゃあ、連れてって問題ないですね。よろしく、白崎嘉良といいます」

白崎が女性のもとに歩いていき、手を伸ばす。

「咲良彩音(さくら・あやね)です。よろしくお願いします」

コクンと頷き、白崎は咲良と握手をした。

「それでは、改めて時計塔、攻略といきましょー!」

白崎は腕を振り上げ、意気揚々と時計塔に向かった。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/14)

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1

【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】電脳世界に自由にアクセスできる世界を舞台に、オンラインゲーム上で不正を行うプレイヤーを取り締まる「裏アカウント撲滅代行業」の主人公の活躍を描く。舞台設定がキャッチーで、電脳世界の描写も上手く、短い冒頭部分でキャラクターの個性も描かれている。ぜひある程度ボリュームのある物語として最後まで書き上げてもらいたいです。この先のストーリーに期待しています。

2

ありがとうございます。 
続きも頑張ります!

作者:佐伯春人

2018/9/12

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とじる

4 グランドナイト

―――――ズガン!!

「グゲッ!!!」

土居のブレイブ・アクスがスカルナイトを一刀両断する。

「いやー、見事な一閃!こりゃもう、安心して進めそうですねー」

その光景をただ横で見ていた白崎はパチパチと手を叩く。

「はっ!まだ始まったばかりだろ?時計塔は何階まであると思ってんだよ?」

「え?20階くらい?」

「馬鹿!50階だ!最上階のボスは70レベルが3人いたとしても苦戦するってのに、なんでお前、初期装備なんだよ!」

「いや、お三方に頑張ってもらおうと」

「ったく、こっちは金さえ貰えればいいけどよ。兄ちゃんがホストユーザーなんだからよ、道中、死ぬなよ?」

「最善をつくしまーす」

時計塔攻略は白崎一人で苦戦したのが嘘のように順調に進んでいった。

ホストユーザー、いわゆるチームのリーダーが倒されると他のユーザーが生き残っていても全員ゲームオーバーになってしまう。

故に白崎は土居たち熟練者の後ろに付いているのが一番の正解だと思った。

◆ ◆ ◆

時計塔20階

白崎たちを待ち受けていたのはグレーターデーモンという悪魔種族の中でも最もランクの高い敵だった。

「おい飛んだぞ、宇野!撃ち落とせ!!」

前線にいた土居が後方の宇野に指示を出す。

「分かってますとも!――――重力よ、形となれ!グラビティ・ストーン!!!

呪文の詠唱とともに空中を飛翔したグレーターデーモンの頭上に重力の塊が落ちる。

『ッゲガガガガ!!!!』

その重みでグレーターデーモンが地上に降りてくる。

「よっし!一気に攻め込むぞ!!」

威勢よく土居が敵に走っていこうとする横を烈風のように白銀の騎士が駆けていく。

「あ?」

土居は呆気にとられるような顔をしていた。それもそのはずだ、ゲーム素人の白崎ですら咲良の動きは一目で熟練者のそれだと思った。驚くほどの俊敏な身のこなしで咲良はグレーターデーモンとの距離を一気に詰めていく。

敵の翼から巻き起こる風をモノともしない、光りほとばしる剣先でグレーターデーモンの脳天に白銀の刃が突き刺さる。

「グォオオオオオオ!!!!!!!!!」

「スピードスキルをつかった高速移動に合わせた輝聖剣の一点突き。急所に命中して一撃ですね。さすがグランドナイト……」

白崎の横で感心したように宇野が咲良の一連の動きを解説していた。

「ほうほう、ようするにすげー強いってことね」

白崎は納得したように首を縦に振る。

「……あの、ほんとに分かってます?白崎さん」

「うん、なんとなくねー」

「…………」

◆ ◆ ◆

セーフポイントの25階まで到達したところで休憩が挟まれた。

宇野と土居は一旦ログアウトし、ステージには咲良が一人残っていた。

「凄かったね、さっきの一撃」

隅っこで体育座りをしていた咲良に白崎が声をかける。

「ありがとうございます……」

「…………」

「…………」

「あのー、ご飯とか食べてこなくて大丈夫?」

「お腹、空いていないので……」

「ああ、そう」

白崎が横に座ると、咲良が少し距離をとる。

距離をとられた分を埋めようと咲良に近づくと、また距離をとられる。

「……あれおじさん、嫌われてる?」

「いえ、人見知りなので」

「ああ、なるほど……咲良さんはどうして参加してくれたの?お金が必要だった?」

「違います」

間髪入れずに咲良は答えた。

「即答だね……じゃあどうして?」

「知り合いが時計塔にいるかもと思って……ソロプレイだとこのダンジョンは攻略が難しいので」

「はぁ~、知り合い、ね」

「もともと、二人でこのゲームをプレイしてたんですけど、ある日突然、俺は一人で強くなるって言いだして」

「ふーん。彼氏とか?」

「ち……違います!」

あまり感情を表に出さないように見えた咲良が大袈裟に手を振って、否定した。

千路もこれくらい可愛げがあればなー、と白崎は内心思った。

「ただ最近、連絡しても返信がなくって。それで、心配で……」

「ほうほう……やはり恋ですな」

「違います!」

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/14)

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1

白崎さんの咲良さんに対する絡み方がおじさん……(;´・ω・)
何にしても彼女が何か鍵っぽいですね。
真藤さんの関係者だったとかですかねえ。
うーーーん。

大久保珠恵

2018/9/13

2

大久保さん、コメントありがとうございます(^^)
たしかにおじさんですね。
白崎さん、一応まだ20代後半くらいの設定なんですけど笑

作者:佐伯春人

2018/9/13

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とじる

5 ウィルス感染

30階への階段を上り、ゲートを開いた時、異変は突如起こった。

いや正確には白崎が来る前から起きていたのだ。

「……はぁはぁ、やめてくれ、もう頼むから……」

「あぁ……痛い、痛い……がぁあああああ!!!!!」

「熱い!!!!やめろぉおおおお!!!」

白崎の眼前に飛び込んできたのは数多のプレイヤーたちがドラゴンに蹂躙され、もがき苦しむ姿だった。

あるプレイヤーはドラゴンの巨大な手の下敷きになり、また、あるプレイヤーは業火に身体を焼かれ、あるプレイヤーはドラゴンの噛み砕かれる最中だった。

「なんだよ、アイツら、本当に痛そうなんだけど……」

巨漢の土居が思わず緊張からか、身じろぐ。

「いや土居さん、本当に苦しんでるんだよ」

白崎は努めて冷静な口調で言った。

「……は?」

白崎は過去の経験から現場の状況を瞬時に読み取った。

ここはすでに危険地帯で、そして自分たちの目の前にいるこのドラゴンもすでに“ウィルスに感染している”と。

裏アカウントプレイヤーはゲームにとって、いわばガン細胞のようなものだった。

なぜなら裏アカウントでプレイしているということは、ゲーム内に異物が入り込んでいるのと相違ない。

このドラゴン、いや、時計塔の一部のステージ自体が裏アカウントプレイヤーという異物によって毒され、正常なデータのステージとして機能しなくなっているのだ。

白崎はすぐに耳に手を当て、千路とのホットラインを繋ぐ。

「千路ちゃん、緊急事態だ。エリアの“洗浄”を頼む」

『了解でーす。座標データの送信をお願いします』

「悪いけど、データを送ってる暇はなさそうだ。口頭で言う。ZXP-120769901だ」

『――――確認しました。裏アカウントのよる影響がかなり出てますね。ウィルスに感染したのはエンパイアドラゴン、エデンフィールドにおける最上位クラスのドラゴン種です。強いですよ』

「うそん……」

白崎は今も目の前で暴れまわるエンパイアドラゴンを見上げる。

『“洗浄”は10分と36秒で終わらすので、エリアからプレイヤーを脱出させるまでお仲間さんと踏ん張ってください』

「倒せっかなー……」

『エンパイアドラゴンの攻略法を先輩のエデンフィールドのアカウントに送っときました。それで何とかしてください』

「仕事が早いね、千路ちゃん」

千路との通信を切り、白崎は一呼吸を置く。

「よし、と。―――――土居さん、宇野さん、咲良さん!!!陣形を作るぞ!!」

白崎の号令にエンパイアドラゴンを目の前に立ち竦んでいた3人が振り向く。

「ヒットポイントの多い土居さんは前線だ!エンパイアドラゴンの鉤爪や突進攻撃に注意を払いながら、ヒット&アウェイの要領で攻撃!」

「お、おうっ!!」

一瞬、戸惑ったように見えた土居だが、さすがは熟練者。

状況を察知したのか、大きく頷く。

「宇野さんは土居さんの後方サポートへ!遠距離攻撃の礫(つぶて)はドラゴン種の弱点の雷撃魔法で撃ち落としてくれ。隙を見て、脳天に上級の雷撃魔法を!」

「りょ……了解です!」

白崎の命令と共に宇野が詠唱を始める。

「咲良さん!君は……」

「コアですね。エンパイアドラゴンは半分までヒットポイントを削ると胸部に急所のコアが出現します。それを狙います!」

咲良は白崎の言葉を遮り、そう言った。

「完璧だ!皆、頼んだ!奴からの攻撃は極力受けるな。本当に痛覚に作用し、痛みを感じてしまう!」

「痛みを感じるだと?」

土居が驚いたように言う。

「悪いけど詳しく説明してる時間はない。ここから脱出するにはあいつを倒すか、10分経過するまで耐えるかの二択だけだ」

裏アカウントプレイヤーのもとにまで辿り着ければ、3人にはその直前で謝礼を払い、ログアウトしてもらうつもりでいた。完全な判断不足だったと白崎は思わず唇を噛む。

「あの本当に悲鳴を上げているプレイヤーたちは、そういうことですか……」

宇野が倒されたプレイヤーたちを見て察知したのか、そう言う。

「ゴォオオオオオオオオオ!!!!!!!」

エンパイアドラゴンが白崎たちより前に来ていたプレイヤーを狩りつくし、エリア内が振動するほどの咆哮を上げる。

「―――――来るぞ!!」

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これは来ましたね……(◎_◎;)
いやもう、本当に「洗浄」って手間がかかるんですね。
そして白崎さん、軍師っぽくてかっこいいですな!!
千路さんもナイスサポート!!
咲良さん、やっぱり只者ではない……?

大久保珠恵

2018/9/14

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