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双士奏逢【そうしそうあい】~怪盗は今宵歴史を盗む~

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合計:18

時は20世紀初期。
場所は大西洋に位置する諸島――独立国家「アルカモニカ」
人口わずか7千人のその平和な国に各国の警察が押し寄せたのはある予告状が届いたからだ。
「今宵、この国の邪悪な秘密を頂きに参ります」

それは、全世界のあらゆる宝を次々と盗み、そして正体の影すら掴ませない伝説の怪盗「マスターシーフ」からのものであった。
その小さく平和である筈のこの国の邪悪な秘密とは?
マスターシーフがそれを盗む目的とは?
全ての謎が絡みある歴史を動かす事件が今、幕を開ける。

1位の表紙

目次

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生ける伝説『マスターシーフ』

 今宵も月明かりは妖しく街を照らし暗闇は静寂を以て夜を導いている。

 それは、この地球(ほし)が出来てから幾度となく訪れる夜の筈だった。

「追え‼ 追うんだ‼ 我がフランス国家の誇りに懸けて『マスターシーフ』を絶対に逃すな‼ 」

 その暗闇を真っ向から否定する程の松明の灯りが赤の光を放ち、男達の地鳴りとも言える程の足音が大地を揺らす。

 何事かと、眠りに落ちていた住人達がぼんやりと光る蝋燭を持ち、外の様子を伺うべく窓を開くと、あり得ない光景が暗闇の中から見えた。

 はじめそれを見た者は、まさかそれが人とは思わなかったと言う。

 彼らが見たのは、身をブラウンのマントに包み込み、弾丸の様に次々と建物の壁を走り抜ける影だった。

 その夜、パリの夜に安寧は訪れなかった。

「やはり、一国家ではマスターシーフを捕らえる事は不可能」

 マスターシーフ。

 それは、19世紀末期から突如として現れ次々に世界中の国宝級の宝を盗んだ怪盗の呼称である。

 誰がそれを名付けたかは不明であるが、彼らはそのあだ名に恥じない数々の犯罪をこなした。

 そして、恐ろしいのは幾ら世界各国の誇る警備機関がそれに立ち向かっても予告の盗みを防げるどころか、マスターシーフと呼ばれるそれが、彼或いは彼女なのか、いやそれどころか単独犯なのか、集団なのか。それすらも把握すら出来なかった事である。これは、前代未聞の事であった。

 そうして、今宵もマスターシーフはフランスの楽器製造家『アルツハイン』が17世紀に残したと云われる彼の作品で最高傑作と言われるアコーディオンを見事に盗み取った。

――――――

 米国某所。

 薄暗いその部屋は、地下を思わせる湿気と冷気を肌に感じさせる。

 茶色のマントに身を包んだその者は、更にそこを降っていくと木製の扉の前に立った。それがとても大きいのか。それともその者が小柄だからか。或いはその両方か。余りにも不釣り合いなバランスだ。

「カッカッカ」三度ノックをした後「カッ」もう一度。

「トントン」すると、内側から二度のノック。

「戻った。開けてくれ」

 その者から発せられた声は男性のそれとは違い、高い――女性の声であった。

「おかえり――シルク」

 その大きな扉を内から開けたのは長身で細身の欧米人。髪は黄金の様に輝き、瞳は青天を思わせるブルー。そして整ったきめ細かな顔立ちは正しく美男子という言葉が相応しいだろう。声には桃の様な色気が混じっている。

「遅かったなぁ。ニンジャの足でも流石にフランスからアメリカまではキツかったか? シルク」

 そして奥で大きな建物の展開図をいじっていた中年の――先の彼とは正反対の外見の欧米人がケタケタと笑いながら瓶ビールの栓を開け、シルクと呼ばれた人物に投げ渡した。

 茶色のマントから覗いていた細い腕が射線の如く動くと、先まで宙を泳いでいた瓶がその手に握られていた。驚くべきは瓶からビールが一滴も零れておらず。そして泡立つ音すら立てていなかった事だ。

「マルクス……緑茶を頼む」

 その者は少し進んだ先のテーブルに瓶ビールを置くと、先の美男子にそう言った。

「うん……もう準備してるよ。席に座ってて」

 嬉しそうに言うと、マルクスと呼ばれた美男子は奥へ足早に向かった。

「おいおい、俺の酒が飲めねーってか? シルク、お前さん今年で26だろ? 」

 ビールを煽っている彼の傍にゆっくりと進むと、彼女は遂にそのマントを取った。

「バラク……忍びは酒はたしなまん……それと……今回の作戦は完璧で非常に楽だった。ありがとう」

 そこから現れたのは、どう見ても14~5程の可憐な少女だ。

 顔のつくりはアジア系。忍びという言葉から恐らく日本人か。首程に伸びた後ろ髪を括り、耳の前の髪も顎下まで伸びている。その色は美しい程の滑らかな煌めきをもった黒。

「はは、シルクの身体能力を計算に入れた作戦だったからな。ハッキリ言うと、あくびが出る程イージーな想定だったぜ。フランス警備、マジ雑魚」

 バラクと呼ばれた彼が「ガハハハ」と豪快に笑うと後ろから「お待たせ」と、色気に塗れた声が聞こえた。

 席に座りマルクスが置いた茶を一口飲むと彼女は「さぁ」と一声あげる。

 二人も、その声を聴いて表情を締めるとバラクが背後の部屋から布に厳重に包まれた重そうな物体を持ってそれを彼女の前にゆっくりと置いた。

「謎に包まれた楽器制作士、アルツハインの最高傑作のアコーディオンか……しかし、こんな邪魔になる物を欲しがる奴もいるんだな」

 バラクが嘲笑のトーンを言葉に混ぜたのを、マルクスはムッとして言い返した。

「あら? 芸術品はいつの時代も収集家や芸術家の心を奪うものだわ。バラクの様にお金に通ずる物にしか興味がない方が、泥棒としてちょっと問題よ

 でも、本当にこのアコーディオン不思議よ。こんな物が200年近く前に作られていたなんてとても信じられないわ。というか、今現在でもアルツハイン以外に作る事は出来ないでしょうね」

 そう言って、長く細い人差し指を彼の鼻に突き当てた。

「や、やめろ、気持ち悪い。さて、シルク。この摩訶不思議な依頼の仕上げと行こうぜ」

 その言葉を聞くと彼女は、椀の茶を飲み干し立ち上がった。

「ああ、行こう」

 ――米国 イエローストーン国立公園。

「よし……周囲に怪しい者は居ないな……」

「一応、あたしも調べたけどFBIもICPOにも特に情報はなかったわ」

 二人の話を聞くと、彼女は一度頷き、その荷物をもって滝の前に向かう。そして、布を剥ぐとそのアコーディオンを担いだ。小さな身体の殆どが隠されてしまう。

 そして、満月の方向を見上げるとそれを奏で始める。

「……上手いな、意外な特技だ」

 背後に隠れてその様子を伺っていたバラクの言葉にマルクスはうふふ。と口元に手を当てて笑う。

「なんだよ」

「長い事、私達――相棒(バディ)を組んで来たけど……まだまだ知らない事だらけね? 」

 そう言うと、バラクに体重を預けようとしてきたので、バラクはそれを力いっぱい阻止した。

「まっ、恥ずかしがって‼ ウブね‼ 」

 二人の男がそうこうしている内に彼女が奏で始めて一小節が済んだ。

「しかし、本当に奇妙な依頼だな」

 バラクの言葉を補足する様にマルクスが続ける。

「依頼主は姿を見せず……手紙と前渡しの金貨のみが届けられ……

 挙句――盗み出したアコーディオンを指定した日時、この場所で奏でてほしい。だなんて、確かに不思議な依頼ね」

 バラクはそれを聞くと両手を後ろ頭に組んで、ふんぞり返る。

「全く、こんな事に何の意味が……」

「見て‼ バラク‼ 」

 気を抜いていたバラクに、マルクスの焦りの叫びが届く。

「……‼ 」 

 その現象に、彼女はアコーディオンを抱えたまま迎撃体勢をとった。

「シルク‼ 」

 後ろから見守っていた二人が飛び出して彼女に駆け寄る。

 丁度地に居る三人と天にそびえる満月の中間くらいであろうか。

 そこに在るのは今現在は月夜の闇に塗られた黒の空間。それだけの筈だ。

 だが、まるでコーヒーに混ざるミルクの如く、そこが螺旋状に歪み、所々に雷が走るが如く火の粉を帯びた電気の光が瞬いている。

 三人は、ただその光景に身構える事しか出来ない。

 だが、次の瞬間、更に驚く光景が広がった。

「え⁈ 」

 最初にマルクスが声を挙げた。

 先の歪んだ空間の中心が吸い込まれる様に穴を開けたそこから覗いたのは、紛れもなく人の足だったからだ。

「人が……出て来るぞ⁉ 」

 見て分かる事をわざわざ口に出したのは、バラクの余裕の無さが滲み出ている証拠である。

「女の子……だわ……」

 そう、そこから搾り出される様に姿を見せたのは、小柄な少女の様に見える。マルクスがその者の外見を確認した時、空中に保持されていたその少女がまるで重力を思い出した様に地に落下した。

「‼ ――シルク‼ 」

 二人が声を発した時には既にシルクは、目にも止まらぬ速度でその落下地点にスライディングで到達しその少女が地にぶつからぬ様保持した。いつの間にか抱えていたアコーディオンは背に回している。

「見て‼ 空の穴が⁉ 」

 マルクスの叫びを聞き、その方向を見上げると、先の空間がゆっくりと形を戻していく。間もなく、そこは見慣れた普段の光景となった。

「なんだってんだよ……」

 そう言ってシルクにバラクはゆっくりと近づいた。

 彼女が救ったのは、やはり幾ばくも無い少女の様だ。特に特徴的なのが。

「アジア……まさか、シルクと同じ……日本人か? 」

 バラクがそう言った瞬間、その少女が「んん……」と吐息を漏らし、目を開いた。

 そうして、暫く呆けた瞳でシルクを見つめる。

「あ……ここは……」

 少女がそう、言葉を発しようとした瞬間。

「フリーズ、動くんじゃねぇぞ? 」

「ごめんね。ちょっと大人しくしてね? 」

 正に有無を言わさぬ様にバラクとマルクスは拳銃を少女に向けて構えていた。

「とりあえず、アジトに戻って、そのお嬢ちゃんに詳しく話を聞こうか」

 バラクの言葉にシルクは頷くと、少女を優しく立ち上がらせその手を引いて乗用車へと乗せる。

 続いて、バラクがその後を追って運転席へと向かった。

 マルクスは、その途中振り返ると先の空間をもう一度見上げた。

「楽器を奏でると、次元空間から女の子が出て来る――まるでサイエンティ・フィクションだ……」

 呟くと、その言葉を自分自身が一番否定している事に気付き、思わず笑ってしまった。

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これは音符が女の子になる事態以上に、背景設定、舞台設定が凝っていて読ませます!!
なんでその三人が怪盗稼業をしているのか、そして不可解な依頼と、音楽が奏でられると共に降りてきた女の子は何者なのか。
興味は尽きないです!!(´∀`*)ウフフ

大久保珠恵

2018/8/10

2

コメントと表紙ありがとうございます。
こちらは「勇者くんが迎えにやってきた」のリベンジ作品ですね。
骨格は宮崎駿先生の「ルパン三世カリオストロの城」をモチーフに、ライトノベル風にジュブナイル、SFを混ぜて書いています。
多分6~8万文字で着地予定なので、すっごいサクサク進む予定です。読者さんの興味がある内に書き切れるよう頑張ります。

作者:ジョセフ武園

2018/8/10

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とじる

未来来訪

「……さて、お嬢ちゃん……つまり、何か? 俺達にアルツハインのアコーディオンを盗むよう依頼したのは、あんただったってのか? 」

 先の地下のアジトに戻った四人。

 ソファにリラックスした態度でバラクはそう言って、コーヒーを一口啜る。

 

 少女に銃を用いてまで行っていた警戒を二人が解いていたのは、少女の横にシルクが腰かけていたからだ。それは、彼らにとって銃よりも信頼における防衛手段。

 その会話の合間をぬって奥からマルクスはトレイに乗った緑茶の椀をシルクと少女の前に置いた。

「あ、ありがとうございます」少女は慌てる様にそれを飲み干すと、咳き込んでからバラクに答えた。

「は、はい。そうです」

 バラクは、依頼の手紙をパタパタと揺らす。

「じゃあ、この依頼書に書いてたクラマってのが、あんたの名前かい? 」

 少女は頷いた。

「ちょっと小便」バラクは立ち上がるとマルクスに視線を送る。さすれば彼は足音を殺してそこに向かった。

「どう思う? 」

 トイレへ向かう廊下で二人に聞こえぬ様バラクは囁いた。

「そうね、あの前金の金貨――あれは、間違いなく本物だったわ。量からいって数十万ドル……少なくとも子どもが持てる様な物ではない事は確かね」

 バラクはマッチを擦り煙草に火を点け、その大きな口から大量の煙を吐いた。

「……何者だ」

「さぁ……でも、それよりもあたし達が訊かなきゃいけない事はあるんじゃないかしら? 」

 その言葉にバラクは唸った。

 解っていたからだ。最も尋ねなければならないのは――少女があの場に現れた、あの方法。

 だが、バラクの頭には予感よりも近い何かの感覚が在った。それを――尋ねて出るのは間違いなくジャかオニの類だと。

「くそ……悩んでいる暇はねぇな」そう言うと、まだ半分以上残っていた煙草を壁でもみ消し、先の部屋に戻った。マルクスがその背を見ながら吸い殻を拾うと静かにゴミ箱に棄てる。

「さて、お嬢ちゃん。じゃあこっからが本題だ。

 なんのこたぁ、ねぇ。お嬢ちゃん。あんた、さっきの公園にどうやって来た? 」

 バラクが出した結論は、回りくどくなく、単刀直入に核心を尋ねる事だった。

 クラマと名乗った少女は、それを聞くと顎に手を当て少し考えていた。

「そうですね。信じてもらえるか解りませんが……

 私は、タイムマシンの時空転送の力によって、西暦2094年の未来から来ました。

 先の――私は見ていませんが、恐らく皆様がご覧になったのは、時空が未来と繋がり、私が転送される様子だったのだと思います」

 そして――ゆっくりと真顔でそう答えたのだ。

 部屋を、沈黙がただただ流れる。

「おい」

 その沈黙を破ったのはバラクだった。冷や汗をかいて固まっているマルクスに一本煙草を揺らして見せる。マルクスは近づくとマッチでそれに火を点けた。

 それに合わせてバラクは大きく息を吸い、部屋が霞む程の煙を吐く。

 その煙がゆらゆらと流れるのを四人が、沈黙のまま見つめていた時だった。

「ガッッッッ――ハッハハハハ‼ 」

 マルクスとクラマが驚いて身体を揺らす程の大きな笑い声が部屋に木霊した。

「ハーハ、なんだっけか? アインシュタイン? あの若造の研究者がそういや、こないだ発表してたな? なんだ、遂にリーマン幾何学で時空の逆流点でも見つけたのか‼ そりゃあよかったな? 」

 マルクスは、マッチを捨てると囁く様に促す「落ち着いて、バラク」

 その、バラクの嘲笑を聞いて、クラマは小さく唇を噛む。蕾の様なそれから少量の血が滲んだ。

「そう――お嬢さん、僕達はね? 徹底的な現実主義者なんだ。君が何を思ってそう言ったのか。そして……僕達を『マスターシーフ』と解っていて近付いたのか。

 それを、僕達は納得しなければいけないんだ。それが、出来なければ。残念だけど僕達は僕達を護る為に……」

 マルクスは、言葉を区切った。出来ればその先の事は伝えたくない。ましてや相手は幾ばくも無い少女だからだ。

「残念ですが……アインシュタインさんは生涯の内にそれを完成させる事は出来ませんでした。そして、この世界線ではある人物によって彼は『奇想天外な発表をした学者』という扱いにされてしまいます」

 その返事にバラクは「お手上げた」と両手を上げて見せた。

「でも、彼は本当の歴史では、光電効果を理論的に解明しノーベル物理学賞をとり20世紀最高の物理科学者と、後世にまで評価されているのです」

 続く話に、遂に苛立ちを抑えれずバラクは机を叩く。空気が少し震えたのか、それともクラマが震えたのか。

「いい加減にしな、嬢ちゃん。悪いが俺達は世界に名の通った大悪人だぜ? それ以上からかうなら……」ゆっくりと懐に手が入っていく。

 クラマはその小さな喉を鳴らした――だが、その瞳には一切の怯えも躊躇いもない。

「そうですか? 貴方の頭脳なら……本当はアインシュタインさんの唱えた理論の意味が真実だと――理解(わか)るんじゃないんですか? 」

 そうして「すぅっ」と隣のシルクにまで聞こえる程大きな息を吸った。

「バラクス・アルヴァ・エディスンさん――‼ 」

 まるで、部屋全体に彼の鼓動が響いたのではないかという程、その胸が衝撃を覚える。

「何故……」

 バラクの言葉を遮る様にクラマは続ける。

「そして――その妖艶なる色香で、片方の性別の者だけでなく男女双方の心を奪い続け、国家を超えた情報をその手に収めた……通称『催淫魔』FBI、ICPO、ソビエトの現代……いや、歴代でも最高峰のトリプルスパイにして無限の情報屋。マルクス・ラゴー」

 マルクスは腕組みをしたまま無表情でクラマを見つめるが、その顎から一筋汗が落ちた。

「最後は……マスターシーフの実行担当を掌(つかさど)る、東洋の島国――日本で、隠密、謀略の専門家として頂点に位置する忍者という異能者。その中で毛利家に仕え、日本三大奇襲に数えられる厳島の戦いでは、その力を以て毛利を勝利に導いた……世鬼(せき)一族の末裔……世鬼 キヌさん……コードネーム……シルク……‼ 」

 そこまで言い終わった瞬間、背後で鍵が鳴る音が聴こえた。マルクスが閉めたのだ。そのまま入り口の扉に背を預けると、行く末を見守る。

「オーライ、お嬢ちゃん。どうやらあんた――只者じゃないようだ。

 俺やマルクスの事ならまだ解るが、シルクの素性まで……

 悪いがこれからは、俺達の質問にのみ答えてくれ。もし、それが呑めないのなら……」

 そこまで言うと、懐に入れていた手を取りだした。真っ黒に輝く拳銃が姿を見せる。

「こいつが、火を噴く事になる」

 だが、クラマは意を決した様に、言葉を捲し立てた。バラクの言葉を無視したのだ。

「そんな――この時代をその手中に収めた貴方達だからこそ‼ どうかその力を貸して下さい‼ 」

「なにぃ? 」発言権を奪おうとしていたバラクが思わず聞き返した。その勢いと内容に思わず。といった感じだ。マルクスは両手を組んで扉に背もたれたまま見守り続けている。

「私が未来からこの時代に来た理由は一つ。

 私と同じく未来から過去に飛び、己の欲求のままに歴史を改変した者

 その者から――『本当の未来』を奪い返す事‼

 そして、その目的の為――歴史上、最も世界を欺いた怪盗『マスターシーフ』貴方達に、その協力を申し出る為です‼ 」

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/08/26)

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1

なんと、この世界はそういうことだったのですね。
パラレルワールドか……。
科学の発展が思いっ切り遅れそうだなあ……(;´・ω・)
そして、クラマちゃんみたいな子供がなんでそんな使命を帯びてきたのかは気になるところです……(◎_◎;)

大久保珠恵

2018/8/12

2

えふっえふっえふ――ここからは、作中に伏線を張りまくりになりますのでコメントで襤褸出さない様になるべく黙っときます。

作者:ジョセフ武園

2018/8/12

3

文章力、世界観、構想の設定力、
勉強になります!
マスターシーフ、なってみたいです

4

おっす、ささまる二等兵‼
オラの作品が勉強になっか⁉ そっかー、いいトコだけ盗めよ?
マスターシーフになりてぇか?
そっだな~、バラクはエジソンの血筋だからIQというか、発想力が普通じゃない。無理だ。
マルクスは、男には女として相手を狂わし、女には男として相手をイカレさす。並のイケメンじゃ無理だ。
キヌは忍者だ。空を飛ぶし分身もする。カカシくらいなら倒すくらいだ
マスターシーフになるのは止めとき。

作者:ジョセフ武園

2018/8/14

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とじる

王女

「バラクさん‼ 洗濯物は他にありますか? 」

 その薄暗い部屋に場違いな明るい声が響く。

 しかしバラクは、その言葉に返すでもなく無言で何か作業を続ける。

「何を作ってるんですか⁉ 」

 にゅ、とクラマの小さな顔がバラクの肩から出てきた。

「うわっ‼ こ、こら‼ 仕事の邪魔すんじゃねぇ、クソガキ‼ 」

 思わず跳び上がると、バラクはその胸を押えて呼吸を整える。

「すっご~い。この、変装マスク……‼ この時代の何を使えばここまで精巧に……」

 だが、そのバラクの怒声に怯みもせず彼女はバラクが作っていたそれを手に取っていた。

「触るな‼ ったく、ここまで図々しいなら出て行ってもらうぞ‼ 」

 その言葉にずいっとクラマは顔を近づけた。

「さすが、伝説の発明家の甥といったところですね‼ 」

 バラクは、一瞬カッとなる感情を噛み殺すと、舌打ちを聴こえる様に放つ。

「全部、もう知られてるって事かよ。ああ――俺はその才能の全てを犯罪に注いだ極悪人だよ」

 クラマはその言葉を真剣な顔で聞くと、ゆっくりと体勢を整え――凛とした言葉を放った。

「それは、世界が貴方の才能を『肌の色』を原因で見なかったからでしょう? 」

 バラクは、思わず横顔を触り、そのまま殺気に満ちた目でクラマを睨んだ。

「あんたが、俺達の全ての事を知っているのはよぉく、解った。そして――何故かシルクがあんたを信用してるってのもな。だが、俺とマルクスはまだてめぇの事を信用したわけじゃねぇ」

 その言葉を悲しみが混じった瞳で受け止めると、クラマは一度お辞儀をして、その場を足早に立ち去った。

 その後姿が見えなくなるのを確認するとバラクは綺麗に整頓された机の引き出しを開ける。

 そこから出てきたのは、膨大な計算が記された紙の束だ。

「ち……時空超越(カイロス)音響……まさか……本当に? 」

―――――――

 場面は、二日前あの日に再び移る。

「未来……だとぉ? 」

 クラマから放たれたその言葉にバラクは先の迫力を失い「カカカ……」と右掌で両目を押え乾いた笑いで返答する。

「バカげている……ですか? 」

 しかし、彼女は真剣な眼差しを崩さずに、続けた。

「時間超越……タイムマシンの研究は1850年代から秘密裏に世界中の国家で行われていたのはこの時代でも常識の筈です。そして――その長年に渡る全ての研究成果の下、ある独立国家の科学者がそこに遂に到達しました。

 彼の名前は『アルツヘン・カラスハイトJr.』2094年のアルカモニカ国の総督研究員です」

「アルカモニカ……」

 マルクスがようやっと、扉から離れ、再びバラクの傍に戻った。

「知っているか? 」

 それを解っていた様に、バラクが問い掛ける。

「ええ……確か大西洋の方角にある諸島の独立国家よ。でも――あんな小国にそんな大掛かりな研究が出来る設備があるだなんて情報……聞いた事もないわ」

 バラクは「ふぅ」と溜息を吐くと、両手をブラブラと揺らした。

「だ……そうだ。悪いがお嬢ちゃん。こいつの情報網をなめてもらっちゃ困るぜ。こいつの『聞いた事が無い』は、俺達にとっちゃなによりも確かな真実だからな」

 反撃とばかりに「ダン」と、クラマが机に両手を突いた。勢いで着ていた服のフリルがふわりと宙を泳ぐ。

「バラクさんの分からず屋‼ そんなの‼ この時代だと何の成果も出ていない島国の小国の事が世界各国に知られている訳無いでしょ‼ もう‼ マスターシーフの作戦担当……参謀が、なんでそこまで解らないんですか⁉ 」

 その、突然の興奮に、思わずマルクスとバラクは一寸身を退かせた。その中シルクだけはそれを気にするでもなく手を添えて緑茶を啜っている。

 

 それを落ち着かせる様に静かな口調でマルクスが返した。

「一つ、確かなのはタイムマシンの研究ね。確かにそれは聞いてる。CIAの情報だから間違いないわ。でもそれは米国や独国、あとはソビエトといった資金や研究員が豊富な大国……

 だけど……

 だけど私達は貴女が出て来るところを見たわ。百聞は一見に如かず……その意味を貴女が説明出来たなら……きっと、私もバラクも信用するわ……シルクは……判んないけど」

 その言葉に、クラマは正に「ハッ」とした様に顔を挙げる。

「……そうだ。そうですよ。

 貴方達は、もう見てたんだ。タイムマシンその物を」

 言うと、クラマは立ち上がり、あの赤いアコーディオンの傍に行った。そしてそれを手に取ると、先の机の上に置く。

「この……依頼の盗品が……何だってんだ? 」

 クラマは、グッと彼に顔を近づけると宣言する様に言った。

「この、アコーディオンこそがタイムマシンの一部。そう――伝説の楽器製作士『アルツハイン』とは、未来から過去に行った時にアルツヘンが名乗った名です」

 バラクの眉間に皺が寄り、マルクスは息を呑む。

「このアコーディオンが……タイムマシンだと? 」

 その問い掛けに重ねる様にクラマは返す。

「ええ。ただし条件によって送れるものが変わる、初期型の物です」

 続けて「信じられない」とマルクスがゆっくりとそのアコーディオンを触る。

「……確かに、使われている部品が新しすぎて……不可解だとは思った……でも、これが……? そして『アルツハイン』の正体が未来人? 」

 そこで、マルクスは手に持っていた手帳を開く。

「このアコーディオンは確かに謎が多かったわ。まず、持ち主が不明で、何故フランスに在ったのかすらも解らなかった。一言、アルツハインを名乗る者から『絶対に使用してはいけない』とだけ約束されそして状度されたと。そういう事になっているみたいだけど……」

 クラマがマルクスの顔を見つめると、一度頷いた。

「これは、間違いなく未来から転送された物ですので、その情報は創作されたモノです」

 マルクスは眉を少し揺らして手帳を閉じた。

「おい……その言葉。そりゃ、さっきの仕返しか? そもそも、お前さんが送った物を、フランスは何で大層大事に抱えていたんだよ」

 クラマは、その言葉に眉を引き締めると顔を近づけ、息を殺した。

「アルツハインの作品という事を添えて我々が未来から送ったからですよ。彼のサインに『この真実は口外してはいけない』という言葉を添えてね」

 バラクがその言葉に即座に反応した。

「嬢ちゃん、よし解った。でも、あんた何故そんな事を知っているんだ? 」それはとても、軽い口調だが、その目は光っている。この質問は核心の部分に近付く重要な問い掛けである。もし、誤魔化す様な仕草が見え隠れたならば、発言力は再びバラク達に移るだろう。

「……私が。

 私、クラマが、そのアコーディオンを19世紀のフランスに未来から送ったからです。

 そして同時に、郵便局に貴方達への依頼状も送り――そして」

 そこで、マルクスが右手を前に出し、会話を止めた。整理の時間をくれ。という意味らしい。

「ごめんなさい……えっと……このアコーディオンが……タイムマシンで……それを作ったのがアルツハイン……正体は21世紀末のアルカモニカの科学者、アルツヘン。

 ……そして、それを使って今のこの状況を生み出した貴女は……何者なの? 」

 この話の筋を反れる質問だったろう。

 だがそれは、一つ目の扉の鍵で間違いなかった。

 現に、クラマは少し躊躇いながらではあったが、それを話すしかない。

「私は、クラマ……クラマ・アルカモニカ7世……2094年のアルカモニカの国主……王女です」

 そうして――物語はこれよりその姿を見せ始める。

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1

なんとそんなことだったとは!!
これは最初からは予想もできない筋立てですね……(;´・ω・)
どんな国なんだ、アルカモニカ……。
しかし、クラマちゃんの正体にはびっくりですね。
そんな人が、わざわざ御自ら!?

大久保珠恵

2018/8/26

2

会話パートは飛ばしたいくらいですが、ここで物語のルールを決めておかないと、後の伏線が活きて来ませんからね。クラマの詳しい正体とかは、勘の良い人なら次回くらいで予想つくかもです。

作者:ジョセフ武園

2018/8/27

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とじる

時空超越(カイロス)音響

「王女……」

 二人はもう何度目か。顔を見合わせると奥歯を少し噛む。

「確かに」バラクが言いたくなさそうに口を開いた。

「一つ……辻褄があう……今回の依頼の報酬のあの金貨。あれは古代欧羅巴の王国金貨。一般の民には決して広まらない物だ。あんたが、未来のアルカモニカのお姫様なら……それを使うのは訳がない。

 それにしても、王女が国主か。米国でも『男女雇用平等』など、政治家(まつりや)共の口約束(マニフェスト)が流行っているが……未来ではすっかり実現されたようだな……」

 マルクスはその言葉に首を横に振るった。

「違うでしょ、バラク。問題はその未来の王女様、国主様という身分の彼女が態々過去までやって来た事よ。どう考えても異常だわ。普通依頼のみだとしても余りにも危険な事だし、そんな身分の人が来る理由がない」

 竹を割った様な声だった。その言葉にクラマは言葉を搾り出す様に返す。

「今のお二人の言葉、それぞれ答えさせて頂きます。まず、金貨。あれは私たちの時代では最早無価値の物となっています。未来では通貨の役割を果たす物が水となっていますので……そして、マルクスさんの言われたそれ……そう……私が過去にやって来たこれは当然の『責務』です」

 その言葉にマルクスが「責務? 」とおうむ返しに尋ねる。

「タイムマシンを創り出したアルツヘンは――自国を裏切り、それを私利私欲の為に使用したのです。

 結果――2094年現在では地球の89%がアルツヘン自治国の領土と化しています。

 原因は、彼による過去の改変による改変の構築。

 先の――アインシュタインさんも、この時代では権力をもったアルツヘンによってその研究は闇に帰されてしまい、自分以外の文明、科学の進歩を妨害しつつ、圧倒的な進歩、進化したその文明の力で――世界を暴力で支配してしまいました。

 その悪夢の様な世界を――創り出してしまったのは……彼を止めれなかった私達『アルカモニカ』の者達にも責任があったのです。そして、最もその責任を負うべきは、その時代の国主――つまり私でした。」

 その言葉を聞くと呆れた様にバラクはソファに覆い被さった。

「この世界が――未来人によって既に支配されているってのか」

 クラマは、静かに頷く。

「それで、過去のアルカモニカのタイムマシン研究を阻止しようって? でも、そんな事で未来が変わるの? 」

 マルクスの言葉に彼女は視線を合わせる。

「恐らく――変わります。だからこそ――奴……アルツヘンもこの時代に来ているのでしょう」

 二人が、思わず息を呑む傍らで、シルクは両手で印を司り瞑想を始めた。

「おいおい、お前さん以外に未来人が来てるってのか? 」

「何故、そんな事がわかるの? 」

 二人の質問が一斉に放たれた。

 その言葉に、大きく深呼吸を吐くと、彼女は先のアコーディオンを手に取った。

「これは、奴が創り出したタイムマシンの試作機である物です。現在は完成した物も在りますが、アルツヘンが国を裏切った際に全て奪われています。

 この試作機が完成した時、彼が時空超越の鍵にしたのが『音響』でした」

 バラクが身体を少し前屈みにする。

「音……? 馬鹿な……そんな遅いもので時間を越える事など……」

「はい、しかし『音』の概念は振動だけではなく『音波』果ては『光音』まで様々なのです。

 そんな中、アルツヘンは先人達の科学の遺産を更に突き進め、果てには『音響』の中に、遥か先までそれを伝える特殊なそれ……『カイロス音響』を見つけました」

 バラクもマルクスもこめかみに生温かいそれを感じた。

「このカイロス音響は、あくまで試作段階のタイムマシンにしか用いられていません。何故なら情報量の多い人体などで時空を超越する場合、複数を要し過去と未来で繋がる『共音』が必要な不充分な物だったからです」

「共音だと? 」「まって、それってひょっとして」

 クラマは沈黙を以てそれを肯定する。

「シルクに演奏まで依頼していたのはそれが理由だったのか……」

「それは解った。で、話は戻るわ。

 何故、アルツヘンがこの時代に来ている事が解るの?

 そして、それを理由にこの時代のアルカモニカの研究を止める事で歴史の改ざんを戻せる保証があるの? 」

 彼女は腰掛けていた皮が捲れた赤いソファから立ち上がった。

「はい。それは――現代のアルカモニカにあるスーパーコンピュータの計算で抽出された事実です。

 そして――私がこの時代に無事辿り着き――伝説の怪盗マスターシーフと出逢う。そしてアルツヘンの陰謀を話す。本当ならこの時点で歴史は、私が元居たその時軸から反れる筈なんです。

 でも……」

 彼女は白色のフリルスカートから時計の様な物を取り出した。

「それは? 」

 バラクの問い掛けに応える様に、彼女がそれを見せる。

 それは、正に見た目は時計の様だが、表面に付加式な数字や文字の羅列が見えた。

「…………16進法? 」

 バラクの呟きには答えず、彼女はそのまま続ける。

「詳細については私も説明できませんが、これは私が居た未来の時軸の位置を示すものです。ですが、この数値は私が過去に向かった時と何一つ変化していません……何者かがそれを妨害している――という事です。

 そして……それが出来るのは……同じく未来の時軸を把握している者……」

 バラクがその時計の様な物を手に取ると、ソファに深く沈み込みながらそれを掲げてマジマジと見つめる。

「つまり、これの数値が変われば、未来が変わるってか? 」

 クラマが力強く頷いた。それと――ほぼ同時だったろう。

「悪いが、マスターシーフはあんたの件とは関わらねぇ。

 その話は聞かなかった事にしてやるから、今回の報酬だけ置いてさっさと消えてくれ」

「……え? 」

 彼女は、その言葉を受け動きを停止させる。

 そして、それは部屋全体にも行き渡る程の冷感を以て、意味を浸透させる。

「なんで……? 」

 バラクは、手を組むと、前屈みに沈み、サングラスの向こうから鋭い視線を見せる。

「不透明なんだよ。お前さんの言ってる事はな。

 そもそも、そんな奇想天外な事を依頼された事もないし、そんな世迷言を信じる人間も俺達の中には居ない。それだけの事だ……例え……万が一、いや京が一にもそれが真実だとしてもな」

「そんな……」

 言葉を震わせクラマはソファに腰を砕かせる。

「あたしは、受けるよ」

 その言葉は――そんな沈黙の中を割る様に部屋に響いた。

「は……? 」

 今度動きを停止させたのはバラクとマルクスだ。

 視線の先には、少女にしか見えない黒髪の女性が、真直ぐにその目を貫いていた。

「シルク……作戦担当、頭脳役は、マスターシーフ結成の時に俺が担うって約束だったよな? その俺がこの依頼は受けねぇって、言ってんだぞ? 」

 サングラスを外すと、バラクは血走った眼光でシルクを睨んだ。

「うん……理解(わか)ってるよ。だから……これは、あたしが一人で受ける。マスターシーフ。としてではなく……世鬼 キヌとして……この依頼を受ける」

 その言葉に、バラクとマルクスは頭を撃ち抜かれたような衝撃を。クラマは思わず喜びで身体を震わせた。その時だった。何度も激しく動いていたからか、彼女のフリルスカートの奥にしまわれていた、小さなそれが、音を響かせ部屋の床に落ちた。

「その鈴……」

 それを確認したマルクスが呟く。そう、彼女が落としたのは一見変哲もない鈴である。

 しかし、それには見覚えがあった。

「確か……シルク……貴女も似た物を……持ってたわよね? 」

 視線がシルクに集中する。

「そういう事かよ……お前……俺達を裏切ったのか‼

 シルク……お前はそいつとどういう関係だ‼ 」

 シルクの眉間にバラクの銃口が定められる。

 その死線――だが、彼女は表情を一変もさせず、無表情でそれを見つめている。

「知らない……鈴なんて日本に行けば、幾らでも手に入る物だし。あたしは、こんな娘は知らない。でも、この依頼は受ける。そう決めたの」

 そう言うと、展開に一喜一憂し、確かに混乱していたクラマの横に立ち上がると、シルクはゆっくりと目を閉じた。

「止めなさい‼ シルク‼ 」

 マルクスの叫びの刹那。その瞬間。

 クラマは確かに感じた。いや、見たのだ。

 シルクの手元に――持っていなかったはずの刀が斬撃を走らせたのを。

 それは、あっという間に自分の喉元に届き、刃を通過させた。

 死。

 何よりもリアルな光景に、クラマの脳はそれを理解し――機能を停止する。

「なんて、無茶な事するのよ」

 マルクスが抱きかかえるクラマは、問題なく首は身体に繋がっている。

「あたしの仲間なら――殺気くらいで気をやったりしない。そんなの足手まといにしかならない……」

 その言葉の意味が解ったのはシルクと組んでいた二人だけだ。

 彼女はこの少女と組んで自分達を嵌めようとした。それを否定する為だけに、相手の脳に後遺症を与えかねない暴力を目の前で見せたのだ。あまりにも滅茶苦茶だ。

 それを言うと、シルクはマルクスからクラマを受けとり、肩で担ぐと歩き出す。

「今まで――ありがとう……バラク……マルクス……元気でね? 」

 そう言って、出口に向かうその小さな背中に。

「待て‼ 」

 バラクは叫んでいた。そして顎に指を突き刺すと、豪快に顔を引き千切った。

 それは――マスクだった。

 破かれた白人中年のマスクのその下から黒人の男性が現れた。

「くそが……マスターシーフは、別れねぇんだよ……

 捕まってくたばる時まで、一蓮托生……そう言う約束だろうが……」

 マルクスがその言葉を聞いて、やっと微笑を浮かべる。

「――次の仕事にとりかかるぞ‼

 標的(ターゲット)は奪われた正しい歴史‼

 それを奪い返す‼ 」

 バラクのその声を、少し離れた場所で聞いたシルクもまた、確かに嬉しそうに微笑んでいた。

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1

時を超える音響……。
そういうのがあるんですな。
魅力的な道具立てでありギミックに心奪われます!!
バラクが自分をさらけだすのもとても良いです(*´艸`*)
そして、とうとうマスターシーフが奪われた歴史を奪い返すために動き出すのですね……。
なるほど、繋がりました!!

大久保珠恵

2018/8/31

2

割かし少人数で回していく物語ですので。どう考えてもバラクがリーダー張ってもらわんと、お話が進まないんですよね~、あとリーダー的熱血漢も好きな設定なので、バラクには見せ場を最初からガンガン入れていきます。エ~ジソンは~えらいひっと~♪ カイロス音響は、この物語の根本用ギミックなので今は何も書けない……書いて口を滑らしたらラストまで台無しに……解りやすく言うとシュタインズゲートの着メロと思って頂ければ

作者:ジョセフ武園

2018/8/31

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とじる

潜入

 その日――世界が揺れた。

 本当ならラジオすら普及していなかったこの時代で、何故それが世界中に瞬く間に流れたのか。それを知るは恐らく未来から来た者達だけだろう。

「今宵、この国の邪悪な秘密を頂きに参ります マスターシーフ」

 予告状――歴史上、実際にそれを行った犯罪者はほぼ皆無に等しいそう言ってもいい程の数である。態々犯行に不利になるであろう予告を行うその意味は――1つには相手の冷静さを奪う目的がある。

 例えば、予告を受けた相手がそれに対し、過敏反応で手当たり次第に警備を雇うとする。そうなれば、いちいちその者達の素性を探る事などしない。正確には出来ないのだ。わざと犯行時間をそう仕向け、その時間を奪うのだ。そうして己はそれに乗じて難なく潜入が行える。

 これこそが最大の効果と言えるだろう。

 2つ目に、その犯行が――自分達の犯行。と世界に知らしめる目的がある。ただただ、名を知らせるだけの、犯行には何の得にも損にもならない。ただの自己満足である。

 ――と……傍では思われるだろうが、怪盗達(かれら)の最大の意義はそこに在る。

 一国が或いは世界が「護る」と決めた物を奪う。その特別性。それが彼らの自尊心(プライド)であり信念(ポリシー)なのだ。

 自分達を……ある者は仕えていた主人に見放され一族を滅ぼされた。ある者は肌の色だけでその頭脳を否定され、その血脈すら認められず。あるものは国の道具として生かされ、自分を欲望のままに貪られる肉体として扱われた。

 これは――

 彼ら(マスターシーフ)にとって自分の存在の意味を否定した世界への――叛逆なのだ。

 アルカモニカ国、予告状認知より1時間後。

 場所は、アルカモニカ城、地下水脈。

「ぷはっ」

 水面から顔を出し吐気を大きく放つと、その者は命からがらといった様子で、水門の壁へと身を寄せた。

「はあはぁ……」息を切らしながら水中ゴーグルを外すとそこから現れたのは、少女の顔――クラマである。

「あ……」気が付くと、その眼前に小さな掌が差し出される。

 差し出していたのは、小豆色一色の服に身を包んだ女性――シルクだ。

「へへ……」その手を握ると、クラマは思わず驚いてしまう程の力で水面から引き上げられた。

 ――すっご……

 水を吸収しないウェットスーツと言えど、43キロのクラマの身体には水圧が掛かりかなりの重さであったろう。それを難なく引き上げたそれは、筋力だけの仕掛けではない。

 ――ボディメカニクス。

 それは行う動作の際に、己と相手の関節の位置を移動させ『てこ』の力を以て、筋力以上の力を扱う事が出来る技術である。

 このメカニズムは、21世紀頃では主に介護、看護の現場で用いられるようになったものであるが。その根本の知恵は彼女達には既に備わっていたとしても何の不思議はない。

 ボディメカニクスなど、名前は無くとも「こうすれば楽に持ち上がる」と、彼女達の先祖から受け継がれた知識なのだ。

「ほら……上がったなら、行くよ。

 早くしないと、マルクスが折角掴んでくれた見張り交代の時間に遅れちゃう」

 冷静で頼りがいのある声に、クラマは頷くとウェットスーツを脱ぎ捨ててその後に続いた。

 地下水脈は、思ったよりも湿気を感じない。この時代なのに石段で作られたその造りのおかげだろうか。クラマはそれを見て洞窟や鍾乳洞を連想した。

「止まって」小さいシルクの声が前方の暗闇から聞こえると、彼女は身を小さく屈め意識を集中する。

 100m程だろうか? 先に、小さく揺らめいている火の灯りが二つ。松明の火である。

「時間ぴったし……情報に一切の間違いなし。流石マルクス」

 シルクは満足そうにそう言うと、ジッとその先を見はっている。

 2分程……だろうか。重なっていた火が再び二つに別れ、その内の一つが離れていった。

 完全にそれが見えなくなったその時だった。

 確かに感じていた筈のシルクの気配が消えたのをクラマが感じた時。

 その時には既に――

 不意打ちで人間を行動不能にする際――効果的な攻撃はなんだろうか?

 凶器により首、或いは心臓を切断しての殺害? 確かに後に至り、侵入者を確認した者を生かしておく事には相応の危険性(リスク)がある。だが、もし一撃で仕留め損ねた場合。命を守ろうとする人間の力の恐ろしさを、シルクは知っている。だから――敢えて彼女は殺害を試みない。

 そう――彼女は素手で相手を行動不能に陥らせるのである。

 それを、聞いて連想される光景の一つに、よく首の後ろに手刀を入れて、失神させる光景が時代劇等で見られる。

 しかし、あの方法で意識を完全に断つならば、脛骨を損傷させる程のダメージを追わせる必要が有る為、実用性は限りなく低い。

 人間を素手で――失神させる。それもコンマ数秒で。

 その方法は――

「グハッ‼ 」

 そう、小さく呻いた時には見張りの男はその身体を小柄なシルクに預けた。

 シルクは男を支えると、そのまま曲がり角の壁にもたれかけさせ、持っている物を素早く物色する。

「……うん……‼ 」

 小さくそう言うと、彼女は幾つも連なった鍵束を手に取り、クラマの元へと戻った。

「鍵を入手したよ。さぁ、研究室まで――早く行くよ」

 クラマはその姿を見て、確信した。

 この者は――この者達は……本当に難なく未来の力すらも超えてしまうと。

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1

いよいよマスターシーフ始動ですね!!
さりげなく凄い少女二人、しかし、果たして運命の女神は彼女たちに微笑みますかね。
そして元々の三人、凄い目に遭ってきたのですな(;´・ω・)
彼らも報われるといいのですが……。

大久保珠恵

2018/9/5

2

読んで下さる方がいると、すごくやる気がでますね
はい、ここまでの逸材が何故「怪盗」という犯罪者に染まったか。それは――やはり憎しみの力なんですよ。
あと、彼らも報われてほしいとの事ですか^^
一応、このお話は過去のお話なので、正史の皆の未来をお伝えします
バラク――人種差別でこの世に絶望し自決――享年44歳
マルクス――スパイ容疑でソビエトにて銃殺処刑――享年32歳
キヌ――不明
となってます^^

作者:ジョセフ武園

2018/9/5

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