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青い鬼 完結

あやかしたん

更新:2018/8/10

amiy

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85
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18
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一回こういうのが書いてみたかっただけです。細かいことは気にしないという広い心で読んでいただければ幸いです。

1位の表紙

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もうずっと昔の話、私は“あやかし”に出会った。

「…さつき、なんかあったんなら相談乗るよ。」

「別に頭がおかしくなって言ってんじゃないわよ…。」

あー、もう話さなきゃ良かった。両親がいないからって、晴香が家に泊まりに来て、ホラー映画なんか見てたからだ。ふとあの時のことを思い出したのだ。

まだ小さかった私は、近所の夏祭りで迷子になった。不安で心細かった時、とても見事な金の蝶の刺繍が施された青い着物を着た女の人に出会った。彼女は母親が私を迎えに来てくれるまで、私の話を聞いてくれた。そのとき何を話したかは忘れてしまったが、多分大した話はしてないと思う。

母が私の名を呼んで、私が母に駆け寄った後、彼女は音もなく、まるで最初からそこに何もなかったかのように消えてしまった。母は夢でも見たのだろうと言ったが私は絶対に違うと知っている。

だって、

『珍しいのぉ、あんさんが人にあやかしの話をするなんてなぁ。』

「ちょっとまだ話しかけてこないでよ。」

『なんや、別にええやないの。もう周りに人なんておらんのやし。』

「それとこれとは違う。ここはまだ一応私が住んでる世界だもん。」

『面倒やなぁ。』

私はこの鬼に囚われたままなのだから。

別に彼らが住む世界にお邪魔するのに、特別な場所も儀式も必要ない。ただそこにいる者たちに、その世界に気づければ誰でも簡単にそこに行ける。だから私はいつものように、彼らの声を、気配を追う。

目を閉じて、彼らの世界に自分が混じっていくのを待つ。

音が消える。

あぁ、きた。

ざわざわ、がやがやとした音がだんだんと大きくなる。

ここはもう、うちの近所の通りではなく、彼らの暮らす世界だ。ここは、あっちと違って時間の進みが曖昧で、早かったり、遅かったり、色々だ。だからあまりこちらにいてはいけないのだと彼女は教えてくれた。

『今日も上手に来れて偉かったのぉ。』

「…アオイ、私もうそんなに子どもじゃないよ。もう16歳になったんだよ。」

声の方を見れば彼女がいた。相変わらず見事な青い着物に、艶やかな黒髪を可愛らしい小花が連なった上品な簪でまとめている。青白い肌に映える桃色の唇に、切れ長の憂いをおびた目。美しい青い一本角をもった彼女はくすくすと笑っている。

『おやおや、ようこそ。鬼の姉さんに人間の嬢ちゃん。今日は随分とお早いお着きですなぁ。』

「どうも、仙(せん)さん。」

私たちが立っていた場所の前に佇む立派なお屋敷。ここが仙さん、目の前のこの男性の住処だ。

『相変わらず二人とも別嬪さんやのぅ。』

「仙さん。私は美人じゃないよ。」

『そんなことあらしません。あんさん程きれいな子は他におりませんわ。』

「…なんでアオイが言うの。」

『でも姉さんの言う通りですぜ。嬢ちゃんみたいにきれいな目した、俺らを見れる人間は少なくなってしもうたからな。』

寂しそうに彼は自慢の二股に分かれたしっぽを揺らした。頭の三角の耳もぺたんと元気がない。彼の感情は表情よりもその耳としっぽが表している。

『猫又、どうでもいいから早くしてちょうだい。わたしらの時間が無駄になってしまうやないの。』

『おっと、こりゃ失礼。どうぞ中に入ってくだせぇ。』

仙さんの家の大きな門がひとりでに開く。これは、仙さんの他の猫又にはない特別な力だって聞いたけど、本当のところは知らない。

玄関の扉は普通に仙さんが手で開けて、屋敷に入る。なんで門だけ格好つけるんだろ。ガラガラと音を立てて中に入れば、廊下にいた猫たちが足にすり寄ってくる。あぁここの子猫ちゃんたち、本当にかわいいなー、すごい癒し。

『嬢ちゃんは人気者ですなぁ。客にはそっぽ向くんに、嬢ちゃんにだけは寄っていくんですわ。』

そう聞いて悪い気はもちろんしない。一番近くにいた猫を撫でると甘えるようにニャーと鳴く。もっとじっくり撫でたいけどアオイに急かさのでいつもの奥の間に急いだ。

『まぁ、茶でも持ってこさせましょうかねぇ。』

『のんびり茶飲む暇あるならさっさと話しぃ。』

「アオイ…。」

仙さんはアオイの態度にも怒った素振りはない。まあまあといつものちょっと胡散臭い笑顔で笑う。

『まぁ、姉さんを待たせるのもよくありませんなぁ。手短に話します。今回は“あやかし”のせい、っちゅうより人間のせいって感じですなぁ。』

「人間の?」

『えぇ、まぁ、あやかしなんてもんは自然が生んだと言ってもええですが、俺や姉さんのように意志を持って行動してるやつがほとんどです。でも、たまに純粋な人間の悪意から生まれることもある。そういうやつに意志なんてもんはないからのぅ。生み出した人間の悪意によって動く厄介なやつや。』

アオイはさっき、仙さんのところで働いてる猫又ちゃんが入れてくれたお茶を飲んで怪訝そうな顔をしている。

『それって、あやかしじゃのうて、呪いやないの。』

『まぁ、そうかもしれんな。』

『なら、わたしらには関係あらへんな。帰りましょ。』

『待ってくだせぇよ。話はまだ続いてますぜ。俺も最初はそう思った。けどどうもそいつ、貌(かたち)を得ちまったみたいでね。』

「かたち?」

『そう、呪いも貌を得ればあやかしになる。俺らのように少しでも話が通じれば姉さんと嬢ちゃんを頼ることもなかったんだけどなぁ。相手が悪い。どうも相性が悪くて俺じゃ対処できませんわぁ。だからお願いしますよ嬢ちゃん、俺を助けてくだせぇ。』

仙さんは深々と頭を下げた。仙さんは飄々としているように見えるけどこういうところはきちんとしている。今回の件でも自分で一度確かめた上で、対処しきれないと判断したのだろう。

「分かりました。ごめんアオイ手伝って。」

『…わたしは、あんさんの決めたことに従います。でも、あぶないと思ったらすぐ帰らすからな。』

『いやー。二人ともありがとうございますぅ。報酬はきちんと分け前渡しますんで安心してくだせぇ。』

『…その報酬全部もらってもええんじゃないかのぅ。』

『堪忍してくださいよぉ。俺がこんな仕事してるんだって銭のためなんですから。』

そう言って、仙さんは苦く笑った。

どうして、あんな女を選ぶの

私の方がかわいいのに

私の方がお金持ちなのに

私の方が優れているのに

あいつは全部私より劣ってるのに

な ん で わ た し じ ゃ な い の

『醜いのぅ。惚れた男に振り向いてもらえんのは。』

だれだ

『あんさん、そんな姿で好いてもらえると思うてん?』

うるさい

『自分の姿よく見てみぃよ。あんさんまるで、』

だまれ

『化物やよ?』

だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれ

き  え  ろ

「蒼蝶(そうちょう)。」

それはほんの一瞬のこと。

醜く歪んだその身は切り裂かれ、無数の蝶へ変わる。

なにが起こったかその化け物には分からなかった。

少女は青白く光る日本刀を手にし、化物だったものを見る。それは青い蝶へと変わり、空へ消えた。

そして、その場に残されたもの見る。同じくらいの歳の普通の女の子に見えた。彼女は叶わぬ恋に身を落とし、一度は化物にまでなった。

「…私もいつかこうなっちゃうのかな。」

『させませんよ。』

青白く光る刀はいつのまにか美しい鬼の貌をなしていた。

嫉妬に身を焦がし、その想いに支配された女は、愛した者を切り殺し、いつしか鬼になっていた。

『皐月だけはわたしが守ります。』

彼女は私を抱きしめ、優しく囁く。

あぁなんて綺麗なんだろうこの鬼は。

青き鬼に魅入られた少女はもう決して逃げられない。

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日常の裏に、思いがけぬ近さで異界がある。
そんな設定に心惹かれました。
「憑かれて」はいても、この場合は幸せな関係でしょうね。
アオイさんと皐月さんの絆は妖しくも美しい。
そして青い蝶のシーンも非常に印象的でした(*´`*)

大久保珠恵

2018/8/10

3

にうさんコメントありがとうございます。
感想いただけてうれしいです!

作者:amiy

2018/8/10

4

大久保珠恵さんコメントありがとうございます。
とっても素敵な表紙までつけていただいてありがとうございます!

作者:amiy

2018/8/10

5

こんにちは
とても楽しい読書時間でした。
ほかの作品を出すと、ご気分を害されるかもしれませんが、鬼太郎の世界が心の真ん中にあるぼくには、クリーンヒットでした。
個別に見てもアオイさんの京都弁や、仙さんの侠客感、醜くなってしまった物が美しい物に変じる結末、
そしてそれら全てが、ギリギリまで削り落とした状況描写で書かれていることのリズムの良さ。

一から十まで素敵なお話でした。
ありがとうございましす

順手

2018/8/10

6

順手さんコメントありがとうございます。
自分も鬼太郎好きなのでそう言ってもらえてうれしいです!

作者:amiy

2018/8/10

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とじる

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