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マイマム・イズ・マイヒーロー 完結

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 2148年。人物はとうとうX遺伝子のみの人口受精に成功
 これにより、子孫存続の為の『男性』が必要でなくなった

 人の生態系の常識が瞬く間に崩壊し、男性は法律等でも守られる事が無くなり人権は女性のみに適応される事となり、僅か10年で男性は2割消滅した

 だが、その更に5年後、異常事態が起きた
 宇宙外生命体の襲来である
 
 世界各国はそれに対抗すべき策を講じ、ある島国の辺境にて開発されていたパワードアーマー『アマテラス』が、生物存続に希望の光を灯した

 そしてアマテラスの総重量、体力等の関係から『男』の方が圧倒的に有利である事がデータで実証されたのだ

 これにより、男性は再び社会価値の象徴となり、男性主体の対宇宙外生命体の部隊が世界中で地球の危機を救い、彼らは英雄として讃えられる事となった

 この物語は、その戦いから3年後の2166年
 とある母子が起こした奇跡の話

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目次

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始まりはいつだって退屈から現れる

 2166年。その時の私は、ただひたすらに退屈を噛みしめていた。

 

「はい、じゃあこの問題、解る人? 」

 担任の女教師が、そう言うと、周囲で一斉に甲高い声が挙がる。

 それもそうだろう。

 この教室に居る28名のクラスメイトの内、女子が27名。つまり、私以外はそのクラス………いや、この全校生徒312名、そして全職員48名の内

『男』は、私と、用務員の職員の2名しか存在しないのだから。

 特殊戦闘部隊『ユグドラシル』が発足して以降、この日本を始め、世界の『男』は皆その隊員になれるように、幼少の頃から特別な教育機関に通っていた。

 え? じゃあ何故、この頃の私がそこに居ないのかって?

 …………それを語るには、私と、私の家族の話をしなければならない。

 では、少し場面を変えるとしよう。

 ここは、その特殊戦闘部隊『ユグドラシル』の地区支部隊区。

 いわゆる、肉体を鍛え、持久力、瞬発力、戦闘思考力。様々な英才教育が行われ、戦闘員の教育や、所轄内で宇宙外生命体が発見された時は、殲滅まで試験的に行っている。

 今や、この星の平安は、警察や法律、政治ではない。

 間違いなく彼らによって支えられていたのだ。

 そんな精鋭とも言える戦士達の中に、不似合いな人物が、チラホラとみられると思う。

 そう、彼女達は『女性兵』だ。

 主にパワードアーマー『アマテラス』を装着して戦闘を行うのは『男性』であるが、先にこの星で起きた『男性迫害事件』によって、地区。いや、ひどい所では『国』として、男性が戦士として不足する程になっていたのだ。

 そこで、世界各国は『ある条件下』において戦士の数を確保する。結果。少数ではあるが『女性』が戦士として部隊に属する事となったのだ。

 そして…………話を戻す。

 そこで、賄い婦の如く、こき使われている小柄な、女性。

 それが、私の『母親』だ。

 因みに、先述に対してだが、私達の国は、男性人口の減少はあったが希望者でない限りは、女性戦士の募集は行われていない。

 だが数は少ないが、ユグドラシルに志願する者は居る。

 彼らの任務は『生命』のやり取りが日常茶飯事に行われる。

 その為、国の税金が彼らの報酬となっている。

 もう幾年も前に他の国家組織は事実上機能は無くなっている為、税金の殆どがそれに回されている。

 つまりは『給料』が破格なのだ。

 その分保険や休暇というものは期待してはいけないが、ここに居る人達は承知の上であるから、そう重要な事では無いのだろう。

 そういう事だから、私が子どもの頃、母親は運動会や授業参観等の学校行事には一切参加していない。

 以上から当時の私は、こう理解したのだ。

 母親は、この給料を目当てで私をユグドラシルに派遣しないのだと。

 ユグドラシルの給料は、訓練兵の時は全く入らないシステムとなっている。つまり、女性戦士であっても、子どもであった私が戦士と成長する間にそれを超える額を得る事が出来る。

 この時の私は、こんな仕事。それも『男』の職場にのうのうと給料目当てで。図々しく入り込んでいる母親に反抗心を抱いていた。反抗期だったのか。

「先生。質問でーす。」

「あら? ミーナちゃん、何かしら。」

「なんで、アリタカ君は、男なのに、普通に学校に通っているんですか? 」

 教室の空気が一瞬止まった。

 私も、この時は思わず、どうしたらいいのか解らなかった。

 ああ、アリタカというのは、私の苗字だ。『小鳥無』と漢字では書く。因みに、フルネームは『小鳥無 光次郎(こうじろう)』という。

 思わず、私はその質問をした女子生徒、ミーナちゃんを睨み、そのまま女性教員の方に視線を動かした。

 女性教員は、初めこそ、口角を引くつかせていたが、やがて笑顔を浮かべると言った。

「今でこそ、男の人は中々生活で見る事はありませんが。先生が子どもの頃は珍しいものでは無かったのよ。ミーナちゃんは『恋』って、知ってるかしら? 」

「知りませーん。」

「今はね? 皆人工交配で誕生する事が主流になってるけど、昔は男の人と、女の人が『恋』をしてそして、子どもが出来ていたの。それが、人物の相続の過程だったのね。」

 立ち上がっていたミーナちゃんは話をはぐらかされた事に気付いて、頬を膨らませ、着席してしまった。

 女教員の方は、ほっと胸を撫で下ろすと、時計を確認した。

 もう間もなく、本日最後の授業も終わる頃だった。

「ただいま。」

 その日は珍しい日だった。

「お帰り。コーちゃん。」

 私が帰宅した時に、母が在宅していたのは。今思い出しても、指で数えられるくらいだった。

「………早いね。仕事クビにでもなった? 」

 私がそう言うと、母は、小さな身体を目一杯動かして。

「グサァ‼ 」と自分で言うと、胸を押え、お道化ていた。

「ふざけてないでさぁ。つぅかさぁ、母ちゃん………

 いい加減、俺も『ユグドラシル』の訓練兵に志願させてよ。」

 私が、こう言うと、いつも決まって母は、同じ事を返す。

「駄目よ。コーちゃんは一杯勉強して、

 お母さんが入れなかったような大学に行って。お偉い人になるの‼ 」

 

 そう言うと、母親はもうその話を切断して、夕食の準備に入った。

「飯作ってるの⁉ いいよ。適当に満腹中枢刺激装置で済ますから。」

 そう私が言うと、母はいつも怒って返してくる。

「駄目でしょう⁉ 生物は皆食べて寝る事だけは誤魔化しちゃ駄目なの‼ 今日は、コーちゃんの大好きなオムライスにしたげるからっ。ほら、手を洗っておいで。」

 当時の私は、溜息をつくと、ランドセルを投げつけて、自分の部屋のある二階へと駆けあがった。

 

 おっと。書き忘れていた。

 何故、うちは母が、働いているのか。と言う所の説明だ。

 何となく、先の会話や状況で解ると思うが。

 私の家庭には『父親』が存在しない。

 まぁ、この時代に『父親』が居る事というのは、本当に極々稀な事であり、殆どの家庭が母親の細胞からによる、単X遺伝子人工着床で出来た。母娘の家族であったから幾分不思議ではないのかもしれない。

 だが私の場合の父親が居ない。というのは無論、『今』は一緒に住んでいない。という意味だ。でなけれ私が産まれる時は最早この星で未来が無かった『男』に私が産まれる理由も無い。

 つまり、母はあの星が滅亡するかもしれない危機の中で父と恋に落ち、その男の、子を。つまり私を身籠ったのだ。

 そして、母が教えてくれた限りでは、父は八年前、つまり宇宙外生命体が攻めてきたその戦いで帰らぬ人となったらしい。ただ、この真相は母しか知らない。

 母親は、お世辞にも美人とは言えないし。まぁ、不細工でもない。一般的な女性の顔。と言えばいいのだろうか。目立つ事も無い。普通の女性だ。

 私は、母が父にいい様に言いくるめられたのだと思っていた。

 母は、人を信用しすぎるから。

 その証拠に『ユグドラシル』に配属になった当時、私の知らない『母の親族』とやらが毎日の様に家に訪れ、金を貸してくれと頼んでいた。

 母は、その人達に出来る限りお金を貸した。

 結果は、見ての通り。

『ユグドラシル』の給料は、母の様な下っ端でも、先で記入した通り破格である。

 平均的な女性年収の大体7倍程支払われていると、当時の資料で確認している。

 それなのに、私の家庭は贅沢という言葉も知らない程、質素な生活なのはそれが理由であり、私は馬鹿でお人よしの母のせいだ。と憎んでいたのだ。

 そして、学校で受けるストレスも相重なって、私は結構ひどい反抗期を迎えていたのだと思う。

「コーちゃーん⁉ ご飯出来たわよー⁉ 」

 下の階から聴こえる母の声を無視して、立体水蒸気モニターを開いて、ネットプラウザを起動させた。

『母ちゃん。ウザいナウ』

 ほんの少しの間の後、返信が付く。

『そうなの? 私、お母さんをそんな風に感じた事無い』

『普通に、遺伝子の殆どが一致してるから、以心伝心だろjk』

 

「…………こいつらも皆、女かよ。」

 吐き捨てる様に悪態をつくと、私はモニターを消去して、低反発マットレスに倒れ込む様に横になる。

「ちょっと! コーちゃん! 何で、降りてこないの⁉ 」「ガラッ」

 この時は声の後に、戸の開く音が聴こえた。

「ぎゃあっ! な、ば、ババア‼ か、勝手に入ってくんなよ‼ 」

 私は、飛び起きて悲鳴を挙げた。まぁ、この母の行動は、珍しい事じゃないんだけどね。

「何言ってるの‼ 何? お腹でも痛いの⁉ 

 早く降りてきて、お母さんのご飯食べなさい‼ 」

「め、飯食うか決めるのは、こっちの都合だろ‼ 」

「ぽかっ」

 母が、私の頭を叩いた。

「お母さんが、せっかく作ったご飯を無駄にするの⁉

  お母さん、そんな食べ物を粗末にする子は許しません‼ 」

「ぽかっ」

 

 私は、この痛くもない間抜けな拳骨が苦手で苦手で。

「わ、分かったから。食うから。もうそれ止めれ。」

「おいしい? 」

 母にしても。女性とは自分の作った物を相手に食わせている時に、こう尋ねてくる生き物らしい。まぁ……これも、私が結婚してから知った事なのだが。

 今ではこの問いの正解も知っているが。この時の私は確か、煩わしさを表情に出して、オムライスを掻き込んだんじゃなかったかな?

「おいしすぎて、返事どころじゃない? 」

 そう言って微笑みを浮かべると、母は少し寂しそうに、料理機の片付けにキッチンへと消えていった。

「……………うまいよ。」

 聴こえる様に言ってやればいいのにね。

「ところで、コーちゃん。勉強はどう? お母さん、宿題見てあげようか? 」

「いいよ。ババア、本当に見てるだけじゃん。」

「お母さんに向かって、ババアはないでしょう‼ 」

「ぽかっ」

「だぁ~……それ、止めろって。」

「謝りなさい。」

 私は、急いで母から距離を取ると「誰が、謝るかー」と言って部屋に逃げ籠った。

 まぁ、母と過ごす夜は大体いつもこんな感じで流れていった。

 今、思うとこの時、母はどんな表情を浮かべてたのか。とか。

 どう思って、眠っていたのか。そう考えると、胸がしくしくと痛む。

 翌朝、テーブルに食事が並べられ、

 脇に汚い字で書かれた母のいつものメモがあった。

『しっかり、朝ご飯は食べる事‼

 コーちゃん。戸締りよろしく。お勉強も頑張るのよ』

「たっく、たまに早く帰ってきたら母親面しやがって。」

 そう、文句を吐きながらも。私は残さず、その朝食を平らげた。

 母の部隊支部は、決して大きいものではない。

 しかし、この島国では都市に次ぐ功績を挙げており、高い戦闘能力を持った戦闘員が居る。

 その一人が、支部隊長の『五頭 軍治(ごとう ぐんじ)』さんだ。

 齢16にて『ユグドラシル』に入隊し、僅か2年で支部隊長にまで昇りつめて、この年隊長として4年目を迎えていた彼は、我が島国で最も宇宙外生命体の討伐をこなしている、いわば『最強の戦士』としてこの星では、知らぬ者が居なかった程だ。

 身長198センチ、体重98キロの恵体に、美青年と言うに相応しい整った顔立ちに、おさげに結んだ亜麻色の髪が印象的だった。

「小鳥無さん、すいません。また怪我人の治療に回ってもらえませんか? 」

「畏まりました。」

「すいません。宜しくお願いします。」

 ゴトーさんは、とても礼儀正しい方だったと、母から聞いていた。

 母は、その指示を受けると医療棟に向かう。

 そこは主に医療班、科学技術班、そして女性戦士が主に担当している。

 母も、医師から指示を受けると、戦闘によってダメージを負った戦士の治療を。場合によれば死を看取っていたらしい。

「えーーーーーーーー。ゴトー君⁉ 

 今回の対象を生け捕りにしたって本当かーーーい? 」

 緊張感の張り詰めた、命のやり取りがある棟内でそんな大声を出したのは、科学技術班の『潺 咢(せせらぎ あぎと)』博士だったそうだ。

「ええ。」

「いいなぁ、ねぇ、その検体‼ 科学技術班にも回ってくるかなあ? 」

「え? いえ、恐らくは生体調査班に渡ると思いますが。」

 その言葉を聞くと、

 彼は、不潔に伸ばした髪と髭を両手で掻き毟っていたらしい。

「はぁ~~~? 生体調査班んん? 

 くっそー。

 上層部は何も理解ってな……いなぁ………

 ねぇねぇ、ゴトー君。検体。こっそり回してくんない? 」

「理由は何です? 」

「勿論、今後の対宇宙外生命体戦闘への貢献だよ。」

 そう言うと彼は、おおよそ『信頼』とは真逆の笑みを浮かべていたそうだ。

「上に、言っておきますよ。」

 ゴトー隊長の言葉に、彼は襟元が黄ばんだ白衣を振り回して、それはそれは喜んだそうだ。

「イィィィィイイイイィッヤッホォォォオイ‼

  流石はゴトー君だぁ。見どころあるよぉ、きみぃ‼ 」

「セセラギ博士………ただし、生体調査班の解剖調査の後になりますよ。」

「おんっ‼ 構わないさ。彼らに奴らの真相を暴けるとは思えないしね! 」

「…………成果を期待しています。」

 母は、そこで殉職者の看取り、負傷者の治療が済むと、棟の裏で涙を流していたそうだ。

 しかし、いつまでも泣いている訳にはいかない。

 母は、真っ赤に腫らした目のまま、雑用任務に戻っていた。

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とじる

母が泣いた日

「来月の社会科見学は『ユグドラシル』支部基地となりましたので。皆さん、向こうで戦士の方達にする質問を宿題にしておきます、考えておいて下さい。」

 女教師の言葉に、当時の私は複雑な心中だった。

 『ユグドラシル』に行ける事は正に至福ではあるが同時に、あまり考えたくない状況を想定していたのだ。

 そう、そこは母の職場なのだ。そして、母の性格上もし、向こうで出会うなんて事になれば………

 私は、それを想像して身震いしていたもんだよ。

「それと、

 今月のお誕生日会の予定も立てますので、日直さんは司会をお願いします。」

 そう女教師が言うと、ミーナちゃんとセツナちゃんが電子スクリーンの前に立って、ミーティングを始める。

「えっと…………じゃあ、えっと………

 セツナちゃん。今月って誰が誕生日なの? 」

 ミーナちゃんがグダグダとセツナちゃんに訊くと、セツナちゃんはキビキビっと背筋を伸ばして、眼鏡をクイクイっと揺らして答えた。

「今月当クラスで誕生日を迎えるのは、小鳥無 光次郎君のみです。彼の8歳の誕生日が、19日となっています。」

 セツナちゃんは、いわゆる『オタ』の女の子で、こういった喋り方をよくしていたが、先日会った時は、まぁ、年相応というか。普通な感じに落ち着いていた。

「じゃあ、アリタカくん。何かしてほしい事はありますか? 」

 突然のその提言に、教室中の視線が私に向いた。

 この時は、本当に参ったね。ミーナちゃんは、この直線的な性格が原因で、この先色々と苦労したそうだと、セツナちゃんがこないだ嬉しそうに語っていたのを思い出すよ。

「え? …………いや…………」

 私は、困惑していた。

 誕生日。この時はまだ僅か7回しか経験していなかったそれは、当時の私にとっては『普段の1日』と何ら変わりのないものだったから。

「では、小鳥無君。希望が無いのでしたら、今回のお誕生日会のプランは、通常通りのAプランBで、宜しいですね? 」

 セツナちゃんの意味不明な言葉に、私は頷いた。とっとと話題を変えてほしかったからだ。

「こほん。セツナちゃん?

  まず、Aプランなんて作って無いし、

 そもそも、AプランにもAとBがあったら、ややこしいわぁ……」

 女教師がにっこりと微笑んでいた。

 

 その日、帰宅するとまず私は、母に見つからない様に宿題を済ませる事にした。

 見つかる危険性を回避する為にも、母の帰っていない時間に終わらせるのが得策であると判断したんだろうね。

 でも、その思惑はあっさりと崩れ去る事を知ったんだ。

「コーちゃん。来月、お母さんの職場に社会見学に来るでしょー」

「ぶっ」と食後の茶を吹き出した。

「な、なんで、ババア知ってるんだよ‼ 」

 私の文句に、母は、いつも通り走ってきて「ぽかっ」っと拳骨をいれる。

「ババアじゃない‼ 

 コーちゃん、学校でも、

 お友達とかにそんな悪い事言ってるんじゃないでしょうね⁉ 」

『友達』その言葉に、私は怒りで震えた。

 それは、私がその時、最も欲していた存在であり、憧れであったからだ。

 でも、それは決して得る事の出来ないものだったのだ。

 何故なら、私は……孤立していたから。

 男と女は、同じ種族の生き物であっても、全くと言っていい程、価値観や、考え方が違う。

 いや、本当はそれに合わせる事で彼女達とも、友人関係は築いていけた。と、今の私なら考えられるが、この時の私はそれが『不可能』な事だと決めつけていたのだ。

 この後の事はよく憶えている。

 私の一言で、初めて母を…………

「うるせえ! クソババア‼ 

 お前が、男なんか産みやがったから! 

 学校に男の俺の居場所なんて、今の時代ないんだよ! 

 こんな事なら、いっそ生まれてこなきゃよかったよ! 」

 いつもの家の中なのに。

 まるで、全く知らない場所のように思えた。

 私は、子ども心に「言い過ぎた」と罰が悪くなって、おどおどと母の顔を見たんだ。

 そして固まったね。

 いつも、私が文句を言うと、お道化てみたり、本気ではないけど怒ってみたりして、元気に反応を返してくれていた母がその時だけは。

 対して大きくもない双眸を見開いて。

 声を殺して、涙をぽろんぽろん溢していたんだ。 

「あ………………」

 言い過ぎたり。

 相手を怒らせたりしたら。本当に仲直りしたい時は、すぐに謝るんだ。

 一番やってはいけない事は。

 

 この時の私みたいに、その場から逃げ出す事だ。

 恐ろしくなって、私は駆けて部屋に上がってしまった。

 そして、母の涙にショックを受けて、すぐにマットレスに飛び込んで、顔を埋め込む様に隠して、外気。つまりは現実に身体が触れない様にして、それから逃避する事に決めたんだ。

 翌朝は、わざと少し遅くまで部屋で寝ていた。

 下に人の気配が無い事を確認すると、きょろきょろと周囲を見渡して、リビングに、こそこそ向かったよ。

 そこで、私は視覚よりも嗅覚の情報を掴む。

「あ………」

 そこには、いつもの朝食が用意されていた。いつものメモが添えられて。

『コーちゃんへ。

 朝ご飯はしっかり食べる事。

 それと、昨日の事は、またお仕事が早く終わった時に話しましょう。』

 私はそのメモを読んで肩が軽く震えたんだ。

 勿論、怖かったからじゃないよ。

 理解(わか)るだろ?

 

 でも、母の仕事はこの頃より、かなり多忙を極めた。

 それは、今思えばある『大きな出来事』の前兆だったんだ。その口火を切った場所は、薄暗く、床が機械の部品や、食いカスのごみで散らかりきっている。その部屋だった。

「…………にわかには………受け入れがたい事実ですね……」

「推測。ではなく、事実。と判断してくれるのかい? ゴトーくん………」

 この時の事を、ゴトーさんは、こう教えてくれた。

 セセラギ博士は、自他共に認める変人である。

 変人ではあるが、彼の宇宙外生命体に関しての個人的な研究は、余りにも辻褄の合うものであり、他の研究者が発表した研究結果とは、レベルの違う論説を立てていたのだと。以前からの、その彼の研究成果を踏まえたうえで、彼を『仲間』として判断したのだと。信用に足る人物と認めたのだと。

「それで…………貴方の事ですから、対応策も練っているんでしょう? 」

 セセラギ博士は、そのゴトーさんの言葉に、洗ってない長い髪の毛を搔き目尻と口角がくっつきそうな位の笑顔を見せたそうだ。

「ああ。そりゃ、もうばっちり。君が二年前からこっそりくれていたアマテラス・咢号の戦闘データと…………僕がアマテラスよりも先に目を付けていた『あの』パワー変換システム。ようやっと、このパーツで試作品が作れそうだよ。」

「それが出来上がれば、ようやっと、このアマテラスでは防げなかった殉職者を出さなくて済む様になるんですね…………セセラギ博士………一日も早く………完成をお願いしますよ。」

 そう言うと、彼らは目の前の『それ』を隠し、その場を別々に離れていった。

 

 そこから、戦闘員棟に向かう途中、彼は母と出会ったらしい。

「お疲れ様です。小鳥無さん。」

 母は、そんなゴトーさんの明るい挨拶にも気付かない程、心ここに在らず。な状態だったそうで、彼は訝し気にもそれが気になって母の肩に触れたそうだ。

「…………きゃっ‼ ご、ゴトー隊長? ど、どうなさったんですか? 」

 

「し、失礼。

 挨拶に返事もなく、余りにも様子がその………おかしかったので……」

 母は、その言葉に、顔を赤めて愛想笑いを浮かべて

「ちょ、ちょっと……息子に怒られまして………」

 と、つい、年下で上司のゴトーさんに話してしまったそうだ。

 その日の昼休憩、戦闘員棟の休憩広場にて、母はゴトーさんに詳しく私の事を相談したそうだ。

「そうですか。息子さんがそんな事を……………」

「ええ。でも、確かに息子も可哀想だと思います。

 男性は人物を含め、生物に不必要に…………」

 母は、本当に口が滑りやすい。慌てて申し訳なさそうに、目の前の男性である相談相手に頭を下げた。

「いえ。いいんですよ。小鳥無さん。続けて………下さい……」

 母は、申し訳ない気持ちもあったが、やはり女性であった。そんなゴトーさんの包容力に素直にその時は甘えてしまったと、後に恥ずかしそうに言っていた。

「いっその事、本当の事を話されてはいかがですか? 」

 その提案に母は、顔を俯かせた。

「あの子…………優しいから……………それは…………出来ません……

 ………それに………実はあの子に言われた事…………

 私も……………時々………思うんです。

 本当に、この選択で………よかったのかな………って。」

「小鳥無さん。私も、男に生まれて色々とありました………今思えば父も母も、何故この時代に私を産み――そして育ててくれたのか。

 …………多分。

 貴女と同じ気持ちだったからでしょうね。」

 そう言うと、ゴトーさんは優しく微笑んだ。

「ゴトー隊長………」

「きっと。

 きっと息子さんが貴女の気持ちを解ってくれる日が来るはずですよ。」

 ゴトーさんの計らいで、母はここに勤めて初めて指定日に、一日休暇を得る事が出来た。

 それは、今月の19日。

 そう。

 私の誕生日だったんだ。

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とじる

力の代償

 時は、少し過ぎ。私の誕生日の前日。

 舞台は東の大陸『ユグドラシル』本部、極秘会議室。

 円状に囲まれた机の周りに座るのは、私の住む島国の最高権力者や『ユグドラシル』の総司令官。そして、各大陸の『ユグドラシル』のトップ。

 つまり、現在の人物達の中で最もこの星の存亡に影響する者達だ。

「信じられん。くだらない酔狂だね。」

 西の大陸の隊長と、白衣の研究員が同時に、そのデータを投げ捨てる。

「残念ですが。

 ほぼ100に近い可能性で僕は、これが事実だと認識しているよ」

 その二人の厳しい言葉に、真っ向から立ち向かうのは、正面の壇上に上がり、データを背に、講義をしている、少しだけ清潔になった、セセラギ博士の姿だった。

「では、尋ねよう。何故、このような結果が導かれたのか。その要因を」

 次に、彼に言葉の槍を向けたのは、南の大陸の真っ黒な肌をした男だ。

「僕は、実は彼らがこの星にやって来た8年前。

 その時既に、僕は奴らに何か………

 そう、それは共有感(シンパシー)に近い何かを感じていた。

 そして、初めて軍用戦闘機が、宇宙外生命体を一機撃ち落とした時の部品で、

 それは確信に変化しました。」

 そこで、彼は顎の剃り忘れた髭の触感を楽しみ、先走りそうな心を落ち着かせた。

「僕が考案した『アマテラス』は、彼らの残骸。

 つまりは死骸から共用したパーツにより完成したのです。

 要するに彼らは…………いや。この星を襲ったあの物体は。

 生物ではない。人工的に作られた『兵器』なのです。それも、我々の兵器『アマテラス』などよりも、遥かにハイテクノロジーな……ね。」

「‼ 」

「⁉ 」

「‼ ⁉ 」

 

 その場に居た全員が、その言葉に戦慄を覚えた事だろう。

 それは、そうだ。彼らは今まで、この星を襲っているそれは、ただただ自分達を滅ぼそうとしてくる、悪物にしか見ていなかった。

 いや、見ようとしていなかったのだ。

 自分達を襲ってくる相手なのに。何故?

 見たくなかった。知りたくなかったのだ。

 それを知ってしまえば。

 自分達が唯一『有利』と思っている部分が。消滅してしまうからだ。だから、目を閉じて。自分達の部下をその不確かな相手にぶつけた。

 それが、どれほど。愚者の浅知恵だと、セセラギ博士は…………いや、彼以外にも、そう叫びたかった者は、各部隊に居た事だろう。

 セセラギ博士が、これを明らかに出来たのは、彼の最大の支援者がこの星を代表する超戦士のゴトーさんだったからだ。

「そして、ここからが、本題です」

 まるで、その場に居た者が一斉に息を呑んだようだった。

「先の結論が導き出せたのなら、我々を襲ってくるこの侵略者の正体も、

 朧気ながら見えてきます。」

「正体だと? 」北の大陸の大男が口を挟んだ。

 しかし、セセラギ博士は一向に構わない。と言った態度で話を続けたそうだ。

 

「ええ。そうです。

 我々を八年前に恐怖に陥れた、あの見た事も無い異形のモノ『宇宙外生命体』と名付けられた彼らは造られた物だったのです。

 では、誰に造られたのか?

 彼が使っていた道具は、この星には存在しない物でした。

 しかし、仕組みが解れば、代用の品は、存在しました。

 そうして、作られたのが『アマテラス』です。

 つまり。

 我々と彼らは同じ構成を考える事が出来る。つまりは。

 この星以外で。

 我々『人物』と、同じ進化を遂げた生命体の可能性が高いのです。」

「はっ‼ 」

「馬鹿馬鹿しい‼

  我々に対して、その様なまるで、子どものおもちゃドローンの様な方法で攻撃をしているだと⁉ そんな、確実性の無い方法をとるなど、やはり、奴らには知性の欠片も感じぬ。」

 そこでセセラギ博士の意見を痣気笑ったのは南の大陸の戦士隊長『グルンガスト』さんだった。

「……そうでしょうか?

  僕は、宇宙外生命体が、我々よりも、遥かに合理的且つ確実的な手段を打っていると思います。」

 全員が、セセラギ博士の言葉の続きに耳を傾ける。

「彼らは、機械を遠隔操作リモートコントロールしているだけです。

 我々の様に、個を犠牲にして、戦力。つまり残存する人物数を減らさずして、こちらを攻撃している事になるのですよ? 」

 「……………素晴らしい。素晴らしい見解だ。Mr.セセラギ。」

 全員が、呆気にとられ、冷汗を浮かべる中、東の大陸の総督、李馬(リヴァ)さんが、拍手でセセラギ博士の論に賛辞を送った。

 男でありながら、彼は背中まで伸びた艶やかな鈍色が、印象的だったという。そして、細く、相手に威圧感を与えるその瞳で、さらに続けた。

「ところで、そこまで解ったのなら………君の事だ。当然、対策も………もう、あるんだろう? 」両手を顔の前に組み、李馬さんは妖しく微笑む。

「正直言って、根本を解決させるメドなどは、全くありません。

 何故なら、彼らの正体が見えただけで、我々は彼らと接触する事が出来ていませんから。唯一解読出来た暗号信号は『エゴイスト』という言葉だけ。

 これが何を意味しているのか。彼らの名前なのか?

 それとも、僕らこの星の人物に対して向けたメッセージなのか?

 それすらも解りません。

 ただ…………

 先日、五頭軍治率いる、我が部隊が『新型』の宇宙外生命体を確保し、そのシステムを解読する事に成功しました。

 彼らは、この勢力を三年間にも、少しずつ『兵器』を改良していたのです。

 そして、それがこちらにも使える事が解りました。」

 そこまで言うと、セセラギ博士は、その会議室の中央に、立体水蒸気モニターに、それを浮かび上がらせた。

 「そうですね。これにはまだ名前を付けていません。

 前作が、我が島国に伝わる神の名を借りたので、これは、その上を行くとして……その神のモデルの惑星。

 『タイヨウ』とでも名付けましょうか。」

 そのモニターに映し出された3Dモニターは、人型パワードスーツ。

「なんだ。向こうのテクノロジーを奪った割には、無人機ではなく、また人物を主体とした補強スーツなのか? 『アマテラス』と、そう変わらんように見えるが。」李馬が、眉をしかめて、その映像を見、そしてセセラギ博士に向きなおった。

 その様子に、セセラギ博士は「待ってたよ」と言わんばかりに、机を叩く。

「いいでしょう。何故、この『タイヨウ』が有人を必要とするか。

 それは、僕が10年以上前から着手していたシステム『意識力等値変換システム』通称ISが深く関与します。」

「意識力等値変換システム………? 」

「皆さんは、100数年前、この星で流行っていた『ヒーロー映画』を見た事が有りますか? この島国をはじめ、全ての大陸で文化として根付いていたものです。僕も子どもの頃に彼らの活躍を見て。その幼心を熱く燃やしたものです。」

「なにが言いたいのだ‼ 」堪らず、グルンガストさんが部屋が揺れる様な怒号を挟んだ。

 

「静かに………今、セセラギ博士の説明中だ…………」それを冷たく制するのが、李馬さんの注意だったという。

「…………話を続けて宜しいでしょうか?

 きっと、皆さんにも憶えがある筈なのです『この画面の向こうのヒーロー』になりたい……と。

 しかし、彼らは我々人物とは、根本的に違います。身体は鋼鉄の様に丈夫だし、それを抱える山をも砕く筋力もあり得ません。

 全ては、己の脳内の中で想像……妄想している事しか……出来ませんでした……

 でも………

 でも……………最近の宇宙外生命体のパーツで………遂に、そのテクノロジーの領域に達せたというなら? 」

 

 その場に居たほとんどの人物が「出来たのか‼ 」と立ち上がった。

 セセラギ博士は、一度深く息を吸い………続けた。

「出来たのか。という質問にはNOと答えます。

 ですが………

 出来るのか? という質問には……………YES……です。」

 次の瞬間、立体水蒸気モニターに別の画像が、各大陸の説明文付きで、映し出された。

「脊髄から、延髄、小脳、大脳皮質へと、コネクトカテーテルを通し、脳内にて分泌されるアドレナリンや、βエンドルフィンといった脳内ホルモンの増加………つまり『感情の高ぶり』を感知する事により、連結されたパワードスーツ『タイヨウ』へと情報がリンクされ、その性能を変動させる事が理論上、可能となりました。」

「脊髄や、脳にカテーテルを通すだと‼ バカな⁉ そんな事をして、人物が生命機能を維持出来るものか‼ 」

 部屋の中が騒然となる。その様子を静かにセセラギ博士は見ていた。

 後に教えてもらった。このポイントこそがこのシステムの最大のデメリットであり、彼らに理解を得る為に、最後までその口説き文句を考えていたのだと。

 そうして、彼は。『悪魔の提案』を囁く。

「皆さんの言う通り、このシステム介入手術の成功率は………サルなどを使った事前実験で成功率7%という低確率のものでした。

 …………その7%の内、後日に異常動作が見られ死亡したサルが80%………

 しかし、700匹のその実験の内、今も生きているサルが……2匹います。

 そう………

 不可能では………無いのです。今…………今現在は共通の脅威が現れた為、我々人物は種族一体となり、奴らに立ち向かっています………が。

 200年前までは、我が島国も、其々の大陸も………同じ人物同士で皆争い、多くの犠牲が払われました。

 彼らと、今回のこの件を一緒にする気はありません。

 しかし、脅威を退けるという意味で、我々は必ず代償を払わなければならないのです……」

「だが、これはあまりにも…………分の悪い賭けだな。男が少ない個所としては、貴重な戦力を失う訳にもいかない。現存の『アマテラス』をグレードアップする事で、現在の宇宙外生命体の進行を抑えきれているという事実からも、これを全大陸で容認は………出来ないだろうな。」

 最後まで、口を挟まず、その説明を受けた李馬さんから、否定的な意見が放たれ、それを皮切りに、その場に居た皆が李馬さん側に付き、否定を始めた。

「そうだ。こんなもの人権を無視した悍ましい計画だ。」

「人物改造などと、生物を作り与えたもうし神への冒涜だ。」

 その批判に、ゴトーさんも、瞳を落し、口を紡ぐ。

「しかし、相手がもし『アマテラス』では防げない様な……………そんな兵器を隠していれば?

 それがこの星に送られた時。

 この『タイヨウ』が使えなければ。

 それから手術をして、戦う事など、それこそ不可能です。

 今こそ、我々は決断する時なのです。

『犠牲』の上の全人物の『守護』をとるか。

『犠牲』を払わず。相手が『その力』を持っていない事を祈って、脅えているか。」

 李馬が、その言葉に、セセラギ博士の属する島国の『ユグドラシル』の代表に視線を移した。

「と、いう事は……………貴方達の国は、この実験………もとい研究に前向きなのですね? 」

 その言葉に、ビクッと肩を震わせて私達の島国の『ユグドラシル』代表は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 その様子を見て、ゴトーさんがそれに答えた。

「無論。我々の国は。潺咢氏の提案と研究、並びに推測を肯定します。」

「では、実験により、逆にこの星の戦力が低下して、壊滅に向かった際に、責任をとると? 」

 

「………その時には、この星の防衛の為に、死力を尽くすのみです。そもそも、この星が壊滅に向かったとして…………我々は誰に、責任をとるというのですか? 」ゴトーさんのその反論に、相手は思わず怒りを瞳の中に浮かべた。

「それと、一つ。これについて、我々の国から提案があります。」

 その、ゴトーさんの続きの言葉………つまりその……私達の国の『提案』に、各大陸の代表は、驚愕することになる。

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臆病者のお父さん

「ハッピーバースデー! コーちゃん‼ 

 ………………なんか違うな? 」

 母が飾り付けた家の中で一人、何度もそのフレーズを叫び私を喜ばせようと練習をしていた。

 何故、私がそれを知っていたかというと………

 実は、窓から、その様子を見ていたからだ。

 ――やっぱりか。

 小さな私は溜息をついて、背を向けた。両手には学校でもらった要りもしない寄せ書きやら折り紙のプレゼント。全て学校行事の誕生日会でもらったものだ。

 あの日以来、私は、今日という日まで、なるべく母との接触を避けて来ていた。

 気まずかったのだ。

 何より、母があの後も普段と変わらず、私に接してくるのが。

 とても辛かったのかもしれない。

 ――どうしたものか………

 そう悩んでいた私の足元に、トカゲがちょろちょろと這った。

「んぎゃあああ‼ 」

 思わず、持っていた物を全て投げて、私は壁に背を付けた。

 どうにも、トカゲ。というものが私は今も、苦手でね。爬虫類なんてペット以外は、ほとんど絶滅したのに、何でこれだけはこの時代でも野生でも生きているのかね?

 それが、遠くにカサカサと逃げていくのを確認して、子どもの私は、深く安堵の溜息を吐いた。

「おかえり。コーちゃん。」

「‼ 」

 物を拾う手を止めて、ゆっくりと振り返ると。

 窓から、母がこちらに微笑んでいた。

「はいっ‼ ッコーちゃん、8歳の誕生日っ、おめでとーーーーー‼ 」

 母は、そう言うと、もたもたと小型コンピュータに命令を打ち込み、立体水蒸気映像で、部屋中に花火を打ち上げた。

「……………どうすんだよ。この唐揚げとかの大量の揚げ物………」

 目の前には、もう一般家庭では滅多に見られない、

 唐揚げ、エビフライ、ハンバーグ………

「母さん、腕によりをかけたからねーしっかり、食べてよー」

 そう言うと、その小さな身体が浮かび上がりそうな程、手をぶんぶんと回していた。

「ゴン」そんな事をしてるもんだから、思いっきりテーブルに手をぶつけた。

「お、おいしい? 」

 真っ青に右手の甲を染めながら、母は震える笑顔でそう尋ねてきた。

「う…………うん………そ、その手、医療ロボに診てもらったら? 」

 私のその言葉に、嬉しそうに笑うとその手で私の髪を、母は撫でてきた。

「コーちゃんの顔はね? お母さんにそっくりだけど。

 声と髪の毛の柔らかさは……お父さんによく似てるわぁ………」

 そう言うと、ずーっと髪の毛を撫でている。

 その手を払ってやろうかと思ったけど、痛々しく青痣を浮かべるその手に免じて、大人しくしていたね。そのかわりといってはなんだけど、私は、前から聞きたかった事を尋ねる事にした。

「ねぇ、母ちゃん………父ちゃんって、どんな男だったの? 」

 母の撫でていた手が止まる。

 恐る恐るだが。私も前髪越しに母の目を見た。

 その表情は、とても穏やかだった。

「お父さんと出会ったのはねぇ。お母さんが、丁度高校を卒業した頃だったわ。あの頃はフライングボートで、皆移動してたんだけど、お母さん、ああいった乗り物、すっごく苦手だったの。だから、徒歩で町を歩いていたのね。」

「うん、だろうね。」

「…………それでね。あの日、丁度宇宙外生命体が、この島国にも近づいていて……町には警察や、自衛隊員の人が警備してたの。」

 母は、思い出す様に瞳を瞑った。

「一瞬だったわ。 海の向こうが光ったと思ったらね。物凄い爆風と、轟音が辺りを包んだの。まさかとは思っていたけど、この国も攻撃されたんだ。って、すぐに理解したわ。そして、自分はそれで死んでしまったのかと思ったの。」

「どうして? 」

 私の問い掛けに自慢げそうに母は笑って続ける。

「その大きな音でね? 耳が暫く聴こえなくなっていたの。ビックリしたわ。

 人物って、あまりにも大きな音を聴くとね?

  耳がキーーンってなって、何も聴こえなくなるのよ。」

 

「そこで、父ちゃんに助けてもらったの? 」

 母は、瞳を閉じたまま、少し笑って首を横に振った。

「ううん。でも、その時お父さんに出逢ったのは、確かよ。

 ようやっと、自分が生きている事に気付いたお母さんは、顔を挙げて驚いたわ。

 町が滅茶苦茶になっていたの。

 建物の瓦礫が、人の上に落ちて、潰れてしまっているのも見たわ。

 正直、気が狂いそうだった。

 その時、私の横で頭を抱えて、お尻を突き出して、震えている自衛隊員さんが、居てね?

 それが、お父さん。」

 その母の言葉に「えっ‼ 」と驚いたのを憶えている。勝手ながら、父親の想像図とかなり違ったからだ。この時の私の父の想像図は、本当にチャラい感じの軽薄そうなお兄ちゃんか、怪しいオジサンで、母は、騙されたのだと前述の通り思っていたからだ。

「お母さん、何とか耳が治ってきて、お父さんに近付くと、必死で頼んだわ。『助けて下さい、隊員さん』って。でも、お父さんたら、ガタガタ震えて『ひぃ~~~』って脅えてるだけなの。だから、流石にお母さんも必死になって、無理矢理お父さんの顔を起こしあげたの。『しっかりしてよ』ってね。」

 母のイメージからは中々想像つかない展開だ。そう思っていた私に気付いた様で母は、少し笑うと「お母さんも必死だったのよね~」と呑気に続けていた。

「だって、お母さんでは、その時どう動いたらいいのか。周囲で苦しんでいる人達を助けようにも、助け方自体が解らなかった、知らなかったの。そしたらね、お父さんたら、私を突きのけて、逃げちゃったのよ。」

「逃げたの⁈ 」私は、思わず、フォークに刺していたエビフライを落した。

「そう。すぐそこの角で、見つけたんだけどね。ビックリしたわ。立ち上がると、すごく大きかったんだもん。お母さん、突き飛ばされてすっごい吹っ飛ばされたんだから! 『痛いじゃないの‼ 』って、文句言ってやったのよ。」

 そこで、母は、悲しそうに目を伏せた。

「それで…………父ちゃんは、どうしたの? 」

 母は、少し話すのを迷った様に、最初の言葉を濁らせてから話し出した。

「子どもみたいに、泣き出したの。あんまりにも、悲しそうに泣くから、お母さん、唖然として、泣き止むまで、何もしなかった。

 泣き止む頃。お父さんが話し出したの。『自分は、皆と、同じ様に平和にのびのびと、生活したかった。だのに、男に産まれたせいで、仕事は物騒なものにしか就けず。そして、宇宙外生命体が攻めてきた時は、命を捨てて戦う様に、国から前もって言いつけられていた。』って。」

 母は、こちらに目を向けず、どこか遠くを見る様な表情を浮かべて、話を続けた。

「そうなのよね~

 丁度、お母さんが学生位の頃から、男の人が少なくなっていたの。それまで男の人がしていた仕事とかは、殆ど機械が代用されていたし、お母さんも、海外で先行されていた『女性遺伝子性染色体単立着床』で産まれたから『お父さん』の存在も知らなかった。だから、男の人は、そうやって国の為に働く事が、彼らの存在意義だと。マスコミ動画とかで、勝手にそう思い込まされてた。

 でも、彼らもお母さん達と同じ『人物』なんだって。

 恥ずかしいけど、その時。初めてお母さん、気付いたの。」

「父ちゃんは、男の人だったのに、国の為に戦うのが嫌だったの?

 …………………それで………その後二人は、どうなったの? 」

 

 そう、私が問うと。

「この続きは、コーちゃんに彼女が出来るくらい大人になったら、また教えてあげる。」

 と言って、冷めた唐揚げを温め直しに、キッチンに持って行ってしまった。

※※※※

「う……………ううう………い、嫌だ………

 あんなものに、立ち向かって………勝てる訳が無いんだ…………

 も、もうおしまいだぁああぁ…………女の子と、付き合っても……

 キッスもした事が無いのに…………

 し、死にたくない…………あ、あああ………」

「……………貴方のお父さんと、お母さんは………? 

 その事を言ったら、いいじゃない。

 徴兵は、確か本人の意思と、付加の税金で、免除されるでしょ? 」

「ぼ………僕は…………

 産まれた時から、国の自衛隊基地の『ポスト』に落とされた。

 だから、両親なんて知らない、物心ついた時から、傍に居たのは、

 厳しく訓練を強いてくる教官達だった。

 だから、知らない。

 人の温もりも。愛情も。

 だから、憧れていた。欲しかった。家族が。恋人が。

 やっと…………

 やっと、結婚許可が国から降りる税金を、納めれそうだったのに…………

 もう、お終いだ………」

「………ねぇ…………そんなに泣かないでよ。私で出来る事なら………

 何でも手伝うから…………だから………だから、もう泣かないで。」

「………………く、口先だけの同情なんて、ごめんだぁ…………

 も、もう、僕の事は放っておいて…………‼ 」

「私も、子どもの頃ね。怖い夢を見て泣いてた時、お母さんにこうやってもらったら、落ち着いたわ。こうやって、ぎゅって、してもらって。泣き止むまでこうやって、髪を撫でてもらったっけ…………やだ。何か、私まで悲しくなってきた。」

「どうして……………

 どうして、初対面の君が僕に、こんなにしてくれるんだ…………」

「…………わかんないよ。でも………………なんでだろう? 」

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母ちゃん、行くな

 翌日、朝起きると、母はもう仕事に出ていた。

 不思議だなぁ。と、思ったのは、いつもテーブルに所狭しと並んでいる朝食がその日は出ていなかった事くらいで。

 随分と急いで出た様だ。位にしか思わず、私はすぐに日常に戻った。

 この時。

 母にとんでもない事が起きようとしているだなんて、思ってもいなかったんだ。

「その話は…………断る事が出来ないのですか? 」

 薄暗く、広いそこは『ユグドラシル』に入隊する際の試験で、面接にも使われた部屋……

 重要会議室だ。

 そこには、母を含めたその支部の全ての女性戦闘員が居た。

 そして、その見つめる先に居たのは。

「いえ。断る事は可能です。

 しかしその場合、除隊処分、並びに免除金として、

 ここで働いて得た給与を税金として納めて頂きます」

 そう、無茶苦茶な事を返したのは、女性戦闘員から絶対の信頼を得ていた人。

 ゴトー隊長だった。

 その彼が、今、この場に居る女性戦闘員全員に、

 憎悪の眼差しを向けられている。

「……………その………手術は………成功率がすごく低いのなら

 ……失敗したらどうなるのでしょう? 」

 一番若い女性戦闘員が、問う。

「失敗の場合は、色々なパターンがありますが、動物実験の結果。

 7割弱の確率で。

 

 『死亡』

 という結果が出ています。

 また1割が、植物状態。残り2割が何らかの障害が確認出来ています………」

 その場がまるで凍り付いたかのように静寂に包まれる。

「ふざけないでぇええ‼ 」

「人殺し‼ この人殺し‼ 」

 次の瞬間、まるで油でも注がれた様に、一斉に彼女達が泣き叫び、部屋は集団ヒステリーに陥ったそうだ。

 母も、自分の状況が解らず気がおかしくなる一歩手前だったと、言っていた。

『お母さん、頭、パープーでよかったわぁ。』と呑気に後付けして。

「申し訳ない‼ 」

 その空気を切り裂いたのは、まるで竹を割った様な、ゴトー隊長の言葉だった。

「今のこの星の内情という、勝手な都合で。

 人数が多い、貴女達『女性』を実験体として、使わなければならなかった事。

 全て、私が謝る事で許してもらえるなら、いくらでも、謝り続けよう。

 守らなければいけない家族の居る方には、必ず、私が守ると約束しよう。

 だが、信じてほしい。

 この実験によって、成果が出ればそれは。

 この星を救う。その一手に、してみせる。私が……いや、我々が。

 だから…………

 どうか……………

 その、かけがえのない、生命を。

 賭けてほしい‼ 」

 次の瞬間、ゴトー隊長は、頭を床に叩き付けて彼女達に謝罪と、懇願をした。

「そんな…………いやぁ…………死にたく…………な………い………」

 その言葉に、ゴトー隊長の横に付いていた一人が一歩前に立った。

「そうだね。きっと誰も死にたくないんだ。

 それは僕の様なろくでもない人物でもそうだ」

 その人物は、黄ばんだ襟の白衣を着込んだ、セセラギ博士だ。

「でも、宇宙外生命体との戦いで………何人も戦闘員が亡くなりました。

 いや、戦闘員だけではない。

 アマテラスの作製時の事故で亡くなった研究員も知っている。

 そして…………

 何より戦闘に巻き込まれて犠牲となった一般の人達…………」

 部屋の中に、ようやっと沈静が訪れる。幾つもの小さなすすり泣く声を残して。

「家族に…………話す時間を頂けますか? 」

 そう、搾り出す様に言ったのが母だった。

「話す事で、より未練が残るかもしれませんよ? 」

「そこには未練よりも、大切な物がありますから」

 母はそう言うとセセラギ博士に強い視線を浴びせたそうだ。

「今日の任務はこれで終了と致します。

 手術は、明日の正午に始めますので1時間前にはこの部屋にお集まり下さい」

 その空気を終わらせる為、支部長がその都度を伝えて、彼女達を解放した。

 しかし、その言葉の後も部屋からは誰も出ようとしない。

 唯々、明日死が待つ手術台へと誘われるその現実を夢幻の類だと信じたいのだ。

 その日、家に帰った私は、そんな母の事情も露知らず。

 珍しく2日続けて母が、私の帰宅を待っていた事に驚いたものだ。

「お母さん、暫くお家に帰れないかもしれない」

 夕食時に唐突に。それもあまり見せない真剣な表情で。母がそう言ったから、非常にこの時の事は鮮明に憶えている。

「…………なんで? 」とりあえず。という感じで尋ねた感じだった。

「ちょっと、重大な任務に当たる事になってね」

 えへん。と小さな胸を張るが、何となく、母の元気が無い事に、気付いていた。

「危険な任務なの? 」

 母が、ぎくり。よ動きを止めた後、不自然な程笑い始める。

「まっさっかー

 この国が女性にそんな危険な任務なんて、言いつけないわよー」

「ふ~ん」

 その言葉が嘘だという事は、すぐに理解わかった。でも、まさかこの時の私は、母にあれ程の残酷で、重大な任務を押し付けられているとは、思ってもいなかったのだ。

 いやに、大きな疑惑を持ったのは、その夜の事だった。

 

 眠っていると、やけに首筋に違和感を覚え、私は睡眠から朧気に目を開いた。

「わっ‼ 」

 思わず、声を挙げて低反発マットレスから転げ落ちた。

「んん? どうしたのぉ? コーちゃん…………」

 そう言って、違和感の原因である人物がもぞもぞと起き上がった。

「どうしたのぉ? じゃないよ‼ 

 な、なんで、母ちゃんが俺のマットに入ってんの‼ 」

 そう言うと、眠たそうに眼を擦りながら、母は、私に近付き。

 「うぷっ」

 まるでぬいぐるみでも抱く様に、子どもの私を胸いっぱいに抱き締め、そのまま、またマットレスに倒れ込んだ。

「いいじゃぁ~ん。去年までは同じマットで寝てたでしょぉ? 」

 私は、戸惑ったし。妙に恥ずかしさを覚えた記憶がある。

「きゅ、急に、何言ってんだよ…………? 母ちゃん………酔ってるん? 」

 すん。っと香った甘臭いその香り。それは、珍しい事だった。

 確か、以前に母がお酒を飲んだ日は……………

「よしよし。コーちゃん。おねんね、おねんねよー」

 そう言って、いつもポカポカ叩いてきた

 小さなボロボロの手が、私の頭を撫でた。

「……………な、なんなんだよぉ…………」

 戸惑ってはいたが。

 久しぶりの、その温もりは、妙に心地良く。

 いつの間にか私は眠りに落ちた。

 翌朝。

 私は、顔を真っ青にして、台所に朝食と一緒に置かれていた、その母の手紙を読んでいた。

 あの時の気持ちの悪さは、はっきりと憶えている。

 脚が震え、目の前がやけに眩しくて。

 立っているのか、横になっているのか。それすらも解らない程に。

 そこに書いてあったのは、とても詳しく。

 母が、死ぬ可能性の高い手術の実験体となる事。

 今後、母が死んだ場合の生活費や、その手当の貰い方。

 一人で生きていくのは、困難だし、大金を持っていると悪い人がたくさん寄ってくるから、しっかりと人を見る様の注意。

 その中で、頼れる人の名前と住所。ただし、それは母の祖母一人だけだった。

 最後に、当時の私に向けて。母からの言葉が。

 気付けば、私は、駆け出していた。

 

 ――いけん。いけん。母ちゃん。いけん。

 そんな、危ない手術、受けたらいけんよ。

 走りながら、体内ナノマシンの連絡端末で、母に何度も通話連絡を入れるが、繋がらない。電源を落しているのか。

 幼子の体力では、すぐに息が上がる。私は、体内ナノマシンの酸素増幅機能を作動させて、裸足のまま、ナビに従い『ユグドラシル』支部基地を目指した。

「はぁはぁはぁ」切れ切れに、肩で息をしながら、警備員が構えている、その門に辿り着いた時、既に時間は、正午を迎えようとしていた。

「…………何だ? 子どもがこんな所に、何の用だ? 」

 門の警備は、最も重要度が高い為か、私がそれまで見た事も無い『若い男性』が居た、そして不審そうに私に近付いてくる。

「お、俺は………小鳥無……光次郎といいます。

 ここで、働いて………いる……小鳥無……悠(はるか)の子どもです

 ………母ちゃんに……会わせて下さい……」

 その私の言葉に、警備兵の男性は、思わず後ろに控えていたもう一人の警備兵に視線を移した。

「すまないが、坊主………会わせてやる事は出来ん。

 母ちゃんが仕事を終えて戻ってくるのを、おうちで待ってるんだ。」そう言うと、その警備員が何かを操作する。

 直後に機械がけたたましく、こちらに向かってき、私の身体を取り押さえた。

「なっ? 何ですか⁉ これは。止めて‼ 止めて下さい‼

  俺は、母ちゃんを止めに来ただけなんだ‼ いっ……痛い‼ は、離せぇ‼ 」

 当時の小さな身体を目一杯に動かし、その無機質に掴みかかってくる腕を払った。

 それが、不味かったのだろう。

 「ギュイーギュイー」っと機械が警告音を発すると、基地内からぞろぞろと、同じ機械が次から次へと現れた。

 母の事で、頭がいっぱいになっていた当時の私だが、その光景には、流石に肝が冷えた。

「一体、何事だ‼ 」

 その事態を察して、入り口から現れた男性に、先程の警備兵達が素早く敬礼を行い、事情を話した。

「バカ者‼ 子ども相手に、警備ロボットを使う奴があるか⁉

  すぐに警戒を解除しろ! 」

 その男性を、当時の私は知っていた。

 この時はまだ会った事は無かったのだけど。

 彼は、私の………『男』としての私の憧れだったから。

「すまないね。随分と荒っぽい事をしてしまった。怪我はないかい…………? 」

 そう言って、小さな私に大きな手を差し出すと、その顔を見て何かを思った様に彼は驚いていた。

「君は…………まさか、コウジロー君かい? 」

 その憧れの人から自分の名前が出て、私は驚いた。

 そして…………希望の欠片を見た。

「ゴトーさぁん…………お願いします………

 母ちゃんを………助けてあげて下さい……」

 しかし、その言葉を受けた彼の表情は、私の予想したそれとは、掛け離れたものであった。

「コウジロー君………学校にまずは連絡を入れなさい。

 君が登校しない事で、先生達が心配しているだろう」

「は…………はぐらかさないで下しゃい…………」

 私の言葉に、ゴトーさんは真剣な表情のまま、子どもの私の目線に、屈んだ。

「はぐらかさない。ここまでお母さんの為に、勇気を出して止めに来た君を………俺は………一人の『男』として認めたよ。だから、君に話そう。君のお母さんが………何の為にここで、働いているのか………何故、あんな危険な手術を………君を残して受けるのか。

 その全てを。君に伝える。

 だから、まずは学校に連絡して、先生達を安心させなさい」

 その真直ぐに私を捉えた視線に頷くと、体内ナノマシンの連絡端末にアクセスした。

 学校や、担任の女教師から、数件の受信履歴が入っていた。

 私はその一件に、リダイヤルを入れると、心配そうな声で出た先生に、事情を説明して今日の授業を休む事を伝える。

「よし、じゃあおいで。基地の中でゆっくり話そう」その会話が終ったのを見計らってゴトーさんが私を基地の中へ招いてくれたのだ。

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