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台詞診断士・天田吾鹿~決め台詞なら当社にお任せを~

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台詞診断士、そんな職業ができて早数年。
天田吾鹿(あまた・ごろく)が代表を務めるオフィス・AMATAには今日も悩み多き依頼人たちが訪れる。

1位の表紙

目次

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~港区の超高級ビルディングの36階にあるオフィス・AMATAには今日も悩み多き人々が依頼に訪れる~

本日最初の依頼人は某テレビ局の髭モジャの脚本家だった。

見慣れた顔、何度も僕のオフィスを訪れては決め台詞について相談をしてきた。

どうせ今回も同じような相談だろう。

「あの天田さん、どうしても来季からの朝の特撮アニメ、フリーター戦隊・バイトマンの決め台詞が思いつかなくて……」

脚本家はデスクの上にバイトマンの大まかな概要が書かれた文書を何枚も広げていたが、そんなもの僕には必要ない。

「ああ、閃きましたよ」

「なんと早い……!!さすが天田さん!!そ……それで、バイトマンの決め台詞は!?」

「時間ユウヅウ!当日欠勤可!!すべてはこの世の悪を挫く為!!!フリーター戦隊・バイトマン!!!!……なんてどうです?」

僕は黒縁のメガネをクイッと上げ、脚本家に言う。

「おぉおお!!!なんともフリーターの良さを切り取った素晴らしい決め台詞!!それで決まりですね!!」

意気揚々と髭モジャの脚本家は僕に台詞診断料10万を手渡し、オフィスから出ていった。

「ふはっ……これが宣伝効果か……。今のは大して練った台詞じゃなかったんだけどな。次の方、どうぞー!」

ガチャと扉が開き、女子大生くらいのやたら露出度の高い子が入ってきた。

「ポニーテールは揺れる乙女心!あなたの心はナニーテール?こんにちは!ハニープロモーション所属のアイドルグループ・アップリコットンの水無真利菜です!」

「そのキャッチフレーズが意味不明です!すぐに変えましょう!」

オフィスでポーズまで決める彼女に間髪入れず言う。

「え、なんでキャッチフレーズの相談に来たって分かったんですかぁ~!?」

「そういう相談が最近やたら多いからです!」

◆ ◆  ◆

「はぁ~、これで午前の相談は全部終わりかな?」

僕は特注の椅子に深く腰かけ、壁に埋め込まれたテレビの電源を入れる。

『君のその一言が人生を変える!台詞診断ならオフィスAMATAへ』

テレビを付けた瞬間、僕、こと天田吾鹿(あまた・ごろく)が全身白いスーツで出演したコマーシャルが流れる。

台詞診断士、数年前まではまったく職業として認知されていなかったが、僕が大手企業の特別顧問診断士となったり、テレビ出演などで知名度を一気に引き上げた甲斐もあって、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで就きたい職業ランキングに食い込んできた。

だが、そんな二番煎じの奴らには負けない。

その為の先手を打ったコマーシャルだ。

実際、僕が代表を務めるこのオフィス・AMATAにも10名ほどの台詞診断士が在籍しているが、大手案件は僕が一手に引き受けている。

「何度見ても似合いませんね、白いスーツ」

デスクにコーヒーを置いて秘書の美綴琴葉(みつづり・ことは)が言う。

オフィス・AMATAがまだ名も知れていない頃、彼女とは創業したときからの付き合いだった。

「ひどいこと言うね、琴葉くん。いいCMじゃないか」

「いや、胡散臭いですね」

「未だに僕にそんな言葉を使う人間は君くらいだよ……」

ズズッとコーヒーを啜っていると次の来客を知らせるセンサーがオフィスに鳴る。

カチャ、と曇りガラスを開けて入ってきたのは小学校高学年くらいの少年だった。

行き場を失くした子猫のように、自分のTシャツを皺ができそうなくらいギュと握りしめている。

「おい、琴葉くん。なんだね、あれは。親御さんはどこにいる」

「親御さんはご一緒じゃありません。大野ソラくん、彼が依頼主です」

「…………なんだと?」

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/08/10)

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すみません、一点気になって。飛ぶ鳥を起こす勢いというのは、合っていますでしょうか??飛ぶ鳥を落とす、かとボクは思うのですが……違うのかな??

湊あむーる

2018/8/10

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湊さん、読んで下さりありがとうございます!
おっしゃる通り、落とすであってます(>人<;)
訂正してお詫び申し上げますm(_ _)m

作者:佐伯春人

2018/8/10

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とじる

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「……あ、そうか。なるほど、親がお金持ちのボンボンなのかな?」

僕は小声でポンと腕を叩き、納得したように少年をデスクのそばの椅子に座らせた。

「で、大野様、今日はどういうご相談で?」

「あの、えっと……台詞を考えてほしくて……」

緊張しているのか、少年はずっと俯いたままだった。

「なるほど!台詞ですね。ちなみにそれはどんな台詞でしょう?」

「た……大切な人に贈る感謝の台詞……です」

「ほ~、なんともロマンチックですね。じゃあ早速、考えていきましょうか。5文字、一万円ですが、ご予算の方は?」

「え……一万円……?そんな持ってない、です……」

「琴葉くん、帰ってもらってー」

「あ……あのっ!これでお願いします!」

戦隊モノのロゴが入った袋からジャラジャラ~!と音を立てて、デスクの上に小銭が散乱する。

しかし、かき集めても一万には到底、足りなかった。

「あのね、ボク?お兄さんは、台詞を作ってお金を貰っているの。だから君が未成年だからといって特別扱いはできないの、分かる?分かったら、さっさとお金を拾って帰りなさい」

グスグス泣きながら、少年が小銭を拾い、足早にオフィスから出ていく。

「社長、ひっどーい。サイテー、人でなしー」

少年が出ていくなや否や、一連のやり取りを見ていた琴葉くんが冷めたような目で僕に言う。

「分かってないな、琴葉くん。例外を認めて、もしそれが世に知れ渡ったら値引き交渉をしてくる客が出てくるかもしれない。値引き交渉なんて絶対にしない。会社のブランドに傷がつくからね」

小銭で傷ついたデスクを布巾で拭きながら言う。

「あの子、父子家庭だそうです」

「はい?」

聞いてもいないのに琴葉くんは勝手に喋りだす。

「ソラ君が小学校低学年のとき、お母さんが病気で亡くなって、それから今までお父さんが男手一つで育ててくれたそうです。ただ職業柄、お父さんの転勤が多くて、ソラくんも同じように転校することになったとか」

「そ……それがどうしたと言うんだね」

「感謝を伝えたい子が小学校にいるそうです。もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないから」

「はっ、大袈裟な……転校って言っても同じ日本だろ?」

「お父さんは外資系の企業で務めているそうで転勤先はニューヨークだそうです」

「…………」

「あのお金も、お小遣い使わずにコツコツ溜めたみたいですよー。あ、ちなみに今の全部独り言なんで気にしないでくださーい」

「……君は変わらないな。創業当時から」

「何がです?私は企業理念に沿って、言っているだけですよ」

オフィスの壁に掛けてある金の額縁に入った企業理念に目をやる。

その四条。

台詞は己の為にあらず、人のためにある。心を尽くして言葉を考えるべし。

「……琴葉くん、先ほどの少年、呼び戻してくれたまえ」

「はーい」

「はぁ……初心忘るべからず、か」

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こ、このような職業が成立しているとは……??
コピーライターとも違うのか、ほうほう(◎_◎;)
琴葉さんみたいな、いくら有名になっても社会的地位が上がっても、企業当時から変わらない調子で諫言してくれる社員さんというのは、凄く有難い存在だと思えます。
しかし、天田さん、シリアスな台詞は考えられるんでしょうかねえ?
はて???(;´・ω・)

大久保珠恵

2018/8/11

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大久保さん、読んで下さり、ありがとうございます。
表紙も素敵です(≧∇≦)
そうですね。セリフに関しては一応天田さん、プロなので大丈夫かなぁ、、と笑

作者:佐伯春人

2018/8/11

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