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ぶんぶんぶん

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8月12日開催、チャンモノ初のイベント「チャンモノ Summer Stream!!」のために声優の徳井青空さんが書き下ろしてくれた短編小説です。

1位の表紙

つまらなかった。

ううん、正確に言うと、つまらなかったような、気がする。

正直全然内容が頭に入ってこなかった。

それくらい120分かけた全米ナンバーワン映画よりも隣に座るタケル先輩の幸せな気配と、本日の早めの反省で頭がいっぱいだった。気さくでお調子者の金髪の男が恐竜に食べられるとか食べられないとか、タイムマシンが致命的な故障をして未来の地球に危機が迫るとか、私にとってはどうでもいい。

反省その1。今日のメイクがダメ。日焼け止めとファンデーションの相性が良くなかったせいでアイシャドウがよれて、瞬きをするたびにまぶたがヌルッとする微妙な不快感がやってくる。チークも家の中でつけた時はいい感じだと思ったのに、さっき映画館のトイレの鏡で見たらシンクロナイズドスイミングかよってつっこみたくなるような悪目立ちっぷり。まず1アウト。

反省その2。髪型もダメ。もっと、ふわっ、くるるっ、ゆららっ、ってなりたかったのに。肩につかないくらいの短さのこの髪型。いつもは動きやすくてすぐに乾いてお気に入りだったのに、今日みたいなここぞという日にここまで足を引っ張るヤツだったなんて。腕がつりそうになりながら15分かけていびつな編み込みを作り、結局後ろで1つにくくるという逃げであり妥協の極みのヘアスタイル。2アウト。

反省その3。服装がダメダメ。ネット通販で買ったスカートは色が思っていたより暗く、

細すぎるプリーツはいかにも大量生産の格安で中高生向け。せっかくの休日なのにネイビーのスカートなんて学校の制服と一緒だよ。3アウト。

空振りばっかり。タケル先輩ごめんなさい。メイクも髪型も服装も、どれも素敵に決まらなくて、全然先輩に釣り合っていないんです。隣に可愛く並べる女の子になりたかったのに。はぁ、ゲームセット。

反省が尽きないおかげで映画はあっという間に終わった。

今後も絶対会うことのないであろう外国人たちの名前が、つらつらとハッピーエンド風な楽曲にのせて流れていく。半分も食べていない塩味のポップコーンがひんやりと湿気ってしょんぼりしていて、なんだか私に共感してくれるこの世で唯一の応援団のように感じた。

映画館を出ると先輩はにこにこして言った。

「今日はありがとう。話題になってたから見てみたくて。なっちゃん前に、子どものころお母さんから、お前はティラノサウルスみたいに泣く子だって言われたって話してたでしょ?それで、もしかして恐竜好きかなって思って誘ったんだ。」

どんな発想だよ・・・と反省しきって冷静になっていた私は思ってしまった。いつもなら先輩のその天然な発言が大好きで、即思い出し笑い用のストック行きだったのに。

「それと、今日のなっちゃんの服とか髪型とか、めっちゃストライクで焦った!いつも制服しか見てなかったからさ。映画面白かったねぇ。また遊ぼう?」

「え…。あ、はい!私も楽しかったですぅ!」

先輩の優しい笑顔と言葉で顔がにやける。ドキッと胸が音を鳴らすその下のお腹のあたりでは、反省を火種になにかが燃え始めていた。

また学校で、と手を振る先輩に、私は高く遠くを指差しホームラン予告で返す。

先輩、今日がストライクなら、次は絶対ホームラン狙っちゃいます!見ててくださいね?

おしまい

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