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16時50分

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8月12日開催、チャンモノ初のイベント「チャンモノ Summer Stream!!」のために声優の夏川椎菜さんが書き下ろしてくれた短編小説です。

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「今日、楽しかった?」

長い沈黙を破ったのは、彼女の方だった。

「うん」

冷静を装いたい僕は、川の向こう側にあるビルの窓の数を数えていた。

たまに横目で彼女の様子を伺う。といっても顔なんか見られなくて、手元を見るので精一杯。

彼女は指でベンチの木目をいじっていた。

「ふふ、それだけ?また話すことなくなっちゃった。」

「ご、ごめん」

謝りながら、彼女の方はどうなのかが気になった。

僕は声が上ずらないよう注意しながら、少し間をおいて聴いた。

「…楽しかった?」

「もちろん!映画も面白かったし、色々話せたし!」

思った以上に明るい声でそう言うので、少し安心した。

彼女の話に相槌を打っていただけだけど、彼女の中では会話したことになってるらしい。

「私たち、学校じゃ全然喋んないのに、こうやって遊んでるの不思議だね。」

「そうだね。」

実際、彼女が僕を映画に誘ってきたのは〝罰ゲーム〟だと思っていた。

「てかさ、いつも思ってたけど、ホントに静かだよね」

「え、あっ…ごめん」

「あと、それ。ごめんって言い過ぎ」

「…ごめん、あっ、……ごめん」

「ふふ、変な口癖。」

それから彼女は他の話を始めた。主に部活の人間関係の話で、僕は相槌を打つことしかできない。

体の右側で彼女の話を気にしながら、左側では別のことを考えていた。

今日の〝これ〟は〝デート〟なんだろうか。

いや、僕と彼女は付き合ってるわけじゃない。だから今日は ただ同級生と遊んだだけで、それ以上特別な事はない。

周りから見れば 僕らはカップルで、〝デート〟をしているように見えたかもしれないが、いくら僕や第三者が〝デートだ〟と思っていたとしても、彼女にとって〝デート〟じゃないなら、絶対〝デート〟にはならない。

だからそう、これは〝デート〟じゃないんだ。

自問自答するうちに、気づけば僕の頭は〝デート〟でいっぱいになっていた。

〝デート〟って、一体なんなんだろう。

遠くの方で、懐かしいようなメロディの鐘が鳴った。

17時(ごじ)だ。

「あー、そろそろ帰んなきゃ。」

彼女は言いながら立ち上がった。

「あ、うん、そうだよね、ごめん」

「またそれ。」

僕の口癖に彼女はちょっと呆れ気味だ。

それでまた「ごめん」と言いたくなったけど、流石に我慢する。

「そうだ」

ポシェットの位置を直しながら、彼女は思い出したように小さく呟く。

思わず僕は、彼女を見上げた。

ずっと一緒にいたのに、顔を見るのは久しぶりだ。

彼女がイヤリングをしていたことに、今更気づいた。

「また、デートしてくれる?」

夕日で真っ赤に染まった彼女は、ちょっと困ったような顔で聞いてきた。

数秒、時が止まったような気がして、ハッと我にかえると 口が勝手に動き出す。

「もちろん」

とても間抜けな声だったけど、彼女は優しく笑ってくれた。

「〝ごめん〟じゃなくてよかった。」

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