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この異世界には女子高生しか存在しない!

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ごく平凡な高校生のマサユキが連れてこられたのは、
男という存在がいなくなった、女子高生しかいない特殊な世界だった。
この異世界を救う勇者として連れてこられたマサユキと仲間たちの異世界ファンタジー。

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第1話 とんでもないスピードで

「くそっ、急がねえと!」

 必死の形相で全力疾走をしながら雅之は学校に向かっている。今日は本当に遅刻をするわけにはいかない。昨日クラスで話し合って、今日遅刻した人間が一週間1人で教室掃除をするというルールを決めてしまったからだ。普段遅刻をしない雅之は、面白がってその掃除のルールに賛成した。しかし、その油断が招いたのか、遅刻ギリギリの時間に全力疾走で学校に向かうことになってしまっている。

「ああ、もう! なんでこんな日に限って!」

 遅刻ギリギリの時間帯だからか、他に制服を着ている学生はほとんどいない。おじいさん、おばあさんたちがのんびりと散歩している中を、雅之だけが全力疾走をして汗だくになっていた。

「よしっ、あそこの角を曲がれば……」

 目の前に見える角を曲がれば、そこからは学校が見えてくる。もう少しだと思ったが雅之は油断することなく全力疾走を続けた。角を曲がるときにも、ほとんどスピードを落とすことなく直角に曲がる。しかし角を曲がった瞬間何かが体にぶつかったのか、ドンと衝撃を受けて雅之は立ち止まった。

「いってー……」

 一番衝撃があった肩を押さえて、何がぶつかったのかを雅之は確認する。目の前には白いセーラー服で、胸元に水色のリボンを着けた水色ツインテールの女子が尻もちをついていた。食パンを口にくわえながら。

「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」

 女子にぶつかったんだということを確認して、雅之は慌てて謝罪をする。しかし、水色髪の少女に痛がっている様子はない。尻もちをつきながら、雅之の顔を無言のままじーっと見つめていた。

「やった、あの本に書いてあったとおり……。異世界にいる勇者と繋がれた……」

「あ、あの……」

 痛がるどころか、水色髪少女はなぜか嬉しがっている。どう対応していいのかわからず、雅之は嬉しがる少女を見てただ困惑していた。少女はくわえていたパンを一気に食べたあと、雅之に話しかけてきた。

「あの、私と一緒に、私たちの世界に来てほしい……」

「はい?」

「あなたは私たちの世界を救う勇者……。だから、お願い……」

 少女が何を言っているのか、雅之にはさっぱり理解が出来ない。もしかしたら、不思議ちゃんにでもぶつかったのかと考えて、雅之は少し面倒くさいと思ってしまう。

「あの、どこも痛くないなら行ってもいいですか? 遅刻しちゃうんで……」

「ううん、私と一緒に行くの……」

「いや、だから……」

 ぶつかってしまったのは申し訳ないと思うが、わけがわからないことばかり言ってくる水色髪少女に、雅之はイラついてきた。無視して行ってしまおうかと考えて雅之は学校がある方向に目をやる。するとその方向から、紺色のセーラー服を着た3人組の女子が見えた。その女子たちは、全力疾走でこちらに向かってきている。怒っているのか遠くからでもわかるくらいに目が吊り上がっていた。

「もう来ちゃった、しつこいな……」

 少女は向かってくる女子たちを見て、しかめっ面をして面倒くさがっている。そして断りもなく、少女は雅之の右手首をつかんだ。突然のことに雅之は顔を少し赤らめてしまう。

「えっ、な、なに?」

「説明する時間なくなった……」

 そう言うと少女は目をつぶって集中する。そして間もなく青白い光が体から溢れて、少女はその光に体全体を被われた。目の前で起きていることに、雅之はただ困惑するしかない。

「見つけたぞ、待てスアラ!」

 3人組の女子たちから怒号が聞こえる。それをまったく気にすることなく、少女は雅之を見つめながら話をした。

「口閉じてて……。今から連れていくから……」

「な、何だよ、意味が……」

「ルミナ……!」

 雅之が何か言いそうになったことを無視して、少女は何か単語を呟いた。少女の体を被っていた光が、その単語を言うと同時に足もとに集まってくる。そして少女は雅之の右手首をつかんだまま、どこかに向かって走りだす。人間とは思えないとんでもないスピードで。

「あ……っ!?」

 少女に手首をつかまれている雅之は、顔面が変形してしまうほどの風圧を受けていた。人間どころか自動車でもこんなにスピードは出ないだろうという速さで少女は移動している。雅之は地面に足をついていなく、空中を浮かびながら移動していた。あまりのスピードに雅之は恐怖を感じる。少女にストップと言いたいが、あまりの風圧で口を開くと、風で口の中を切ってしまうんじゃないかと思い、雅之は話すどころか口も開けられなかった。目もはっきりと開けられない。普通に目を開けていると、突風のような風で目がすぐに乾いて痛い。

 水色髪少女は握力もすごい。身長170センチは越える雅之の体を軽々と空中に浮かせながら走っているのだから。猛スピードで体が浮いた雅之を連れながら、少女はとある場所にたどり着く。そこは雅之の家の近所にある噴水がある公園だった。その公園の敷地に入っても、少女はスピードを緩めない。公園に入った瞬間、スカートのポケットから何か青い石のような物を取りだし、少女はそれを噴水向かって投げ入れた。

「ゲート、オン……!」

 噴水に青色の石を入れてから少女がそう言うと、透明で底が見えていた噴水の水が真っ黒になる。汚れたとかそういう感じではなく、水から別の物に変わったという感じだった。水が何かに変わった噴水に、少女は前に進むことをやめて思いっきりジャンプをした。そして噴水に向かって落下していく。

「うわあああ!」

 少女がジャンプしたことで前からの風の抵抗がなくなり、自由に口と目を開けるようになれた雅之は、目を見開いて大声で叫びながら少女と共に噴水の中へと落下した。ドボンという音がしない。そして噴水はそんなに深くないはずなのに、雅之と少女は海にでも飛び込んだようにずっと下にゆっくりと落ちていく。水の中に入っている感覚はまったくない。宙に浮いている気持ちがいい感覚のまま、雅之は眠るように意識を失っていく。これからどうなるんだという不安を抱えたまま。

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【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】遅刻ギリギリで学校へ全力疾走していたマサユキ。曲がり角で激突した食パンをくわえた女子高生に、女子高生しかいない異世界に連れてこられ――。まず男子にはたまらない設定が面白い。食パン+ツインテール+女子高生という古き良きベタ文化もたまらない。異世界もそんなベタ満載な世界だったりして? とにかく早く続きが読みたいので執筆をお願いします。

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とじる

第2話 小屋の中で目が覚めた

「すごいよスアラ! 胸が少しも膨らんでない!」

「男の人は成長しないんだって言ってた……。体つきもガッシリしてるね……」

「んっ……うーん……」

 胸の所を触られている感覚がして、マサユキは目を覚ました。目覚めて視界に飛び込んできたのは、木でできた天井。見覚えがない。自分の部屋ではないのはすぐにわかった。

「あっ、気がついたみたい。おっはよう!」

 体を起こそうとした瞬間、聞き慣れない女の声が耳に入った。そして声の主がマサユキの顔を覗き込む。赤髪のショートヘア、グレーのブレザーに中はYシャツで、胸元には赤いリボンを着けている。見た目、マサユキと同い年くらいの女子。ニコッとした笑顔でマサユキのことを見ていた。

「えへへ、おはよう!」

「えっ、だ、誰……?」

 寝起きでテンションが上がらないマサユキに対して、赤髪の女子はハイテンションで挨拶した。声のうるささに、マサユキは少し顔をしかめる。それをまったく気にせず、赤髪の女子は言葉を続けた。

「初めまして、うちの名前はフィリス。よっろしくー! おーっ、声も低いね!」

 名前を聞いていないのに、フィリスという少女は勝手に自己紹介を始めた。目の前の少女の名前より、マサユキは今の状況を知りたかった。ここがどこなのかもわからない。そもそもどうしてここにいるんだと、マサユキの頭は疑問だらけだった。そんなマサユキのことなど無視するように、もう一人いた少女がまた自己紹介を始める。

「私は初めましてじゃないけど、名前言えてなかったよね……。私はスアラ……」

「スアラ……?」

 青髪で白いセーラー服を着た少女が名前を言った。名前とその少女の姿を見た瞬間、マサユキのボーっとしていた意識が一気に覚めた。青髪の少女には見覚えがある。猛スピードで引っ張られて、噴水に飛び込まされたことをマサユキは覚えていた。色々と問いつめたいことがあって、体を起こそうとする。しかし……。

「ちょっと……あれ……?」

 上半身を起こしたが、視界がグルグルと回り気持ち悪くなってしまって、マサユキはまた床に体を寝かせた。赤髪の少女、フィリスが心配そうにマサユキの顔を見る。

「あー、まだ起き上がっちゃダメだよ。転移酔いしてるんだからおとなしくしてなくちゃ」

「え……なにそれ……?」

 聞き慣れない病名を聞かされて、マサユキは困惑した。吐き気がして気持ち悪いことだけは事実だ。

「あっ、そっか転移酔いって言われてもわかんないよね。んーっと……とりあえず酔ってるってことだよ」

「大丈夫、薬草があればすぐに治るから……。今ここには無いけど、私たちの仲間が森の中に探しに行ってるから安心して……」

「エルミナとツバキっていう名前なんだけど、二人ともメチャクチャ強いからすぐに帰ってくるよ。モンスターに遭っても、魔法で瞬殺だから!」

「ちょっと待って……処理が追いつかないから……。モンスターに魔法? なに言ってんの……?」

 次々とわからないことを言われて、マサユキの頭は混乱していた。酔っている状態の頭で理解するには、とても難しい。

「色々聞きたいことはあるけど、とりあえず休ませて……」

 状況を知りたいという思いはあるが、今はこの、酔って気持ち悪い状態を何とかしたい。マサユキは仰向けになって目を閉じたまま、フィリスとスアラに休ませてくれと頼んだ。

「あっ、ごめん。ゆっくり休んでよ。ねぇ、体触るくらいならいいよね? うちら男の人見るの初めてだからさ。色々と観察したいんだ!」

「な、なに言ってんの? 男見るの初めてって……」

「大丈夫、痛くしないから……」

「よーっし、観察再開!」

 マサユキが許可を出す前に、フィリスとスアラは体を触り始めた。頭のてっぺんから足の先まで、体全体を触ってくる。

「おおっ、やっぱ肩幅があるね。本で読んだのと同じだ!」

「お腹はそんなに変わらない……。少しだけ固いのかな……?」

「あの、いや、ちょっと……」

 酔っているマサユキに抵抗する力は残っていない。されるがままに、フィリスとスアラに体を触られていた。

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とじる

第3話 ここにはSしかいない

「おう、帰ったぞ」

「薬草も見つけてきました……って、何してるんですか?」

 扉が開いて、2人の女子が小屋の中に入ってきた。一方の女子の手には何かの液体が入った、500ミリリットルくらいの大きさがある、透明な瓶が握られていた。フィリスとスアラより2人とも身長が高く大人っぽく見える。

「あっ、おかえり! 何って、男の人の体を触って観察してるんだよ」

「興味あるから……。本で読んだのと同じかってことに……」

「うう……」

 酔いの状態が治らないマサユキは、フィリスとスアラにされたい放題。顔や体をベタベタと触られていた。しかし、楽しそうにマサユキのことを触るフィリスとスアラを、男勝りな言葉遣いをする女子が制止した。

「やめてやれ。転移酔いしててきつそうな顔してるだろ」

「えー、ちょっとくらいいいと思うけど」

「ダメだ。せめて転移酔いが治ってからにしてやれ。あたしだって本でしか見たことない男ってもんに興味あるし、触りたいって気持ちもわかるから。けど、とりあえず転移酔いを治してからだ」

「フィリス、スアラ、どいてください。今からこの方の転移酔いを治しますから」

 マサユキからフィリスとスアラの2人をどかせると、代わりに今度は大人っぽい女子2人がマサユキの近くに座った。

 男勝りな言葉遣いをする方の女子は、金髪ポニーテールに、紺色のセーターと水色のYシャツを着て、胸元には黄色いリボンを着けている。もう一人の丁寧語を使っている女子は、黒髪のストレートロングヘアーに、黒のセーラー服姿。銀縁のメガネをかけていた。フィリスとスアラの2人と違い、こっちの2人はなかなかに胸が大きい。

「自己紹介はあとだな。あんた、とりあえずこれを飲んでくれ。転移酔いに効く薬草を煎じたやつだから。これ飲めば一発で酔いが治るぞ」

「体起こしますね。さあ、飲んでください」

「えっ、ちょ……!」

 メガネをかけた方の女子に体を起こされた。頭を腕で支えられ、マサユキの顔に胸が当たる距離までグッと体を引き寄せられた。その状態で、瓶に入った液体を口の中に流し込まれた。酔った状態とはいえ、顔に胸が当たっている状態にマサユキは緊張してしまっている。しかしその緊張も、流し込まれた液体のせいで、一瞬にして吹き飛んだ。顔が歪んでしまうほどの苦みにマサユキは悶絶する。

「うへぁっ! にがっ!!」

「ちょっとは我慢しろ。それ全部飲まなくちゃ治らないんだからな」

「まだまだあるんですからね。さあ、口を開けてください」

「まっ、待って、苦すぎ……ぶへぇっ!」

「ほらっ、もっと大きく開けろって!」

 マサユキが口を閉じて飲むのを拒否しようとしても、金髪ポニーテール女子が強引に口を開けて飲ませようとする。フィリスとスアラの2人は、マサユキが暴れないように太ももを押さえていた。

「あはははっ! エルミナに口開けられてるーっ!」

「ふふっ、面白い顔……。もっとよく見せて……」

「ほら、ツバキ。あたしが口を開けてる間に飲ませてやれ」

「言われなくてもそのつもりですよ。嫌と言っても飲ませます」

「ごぼぁっ!」

 ここがどこなのかなど、自分の状況を何も理解できていないマサユキだが、一つだけ確かにわかったことがある。それは、ここにいる4人の女子全員がSな性格ということだ。むせて涙を流しながら、とんでもなく苦い液体をマサユキは飲まされ続けた。効果はすぐにでて、酔いの状態は治った。しかし、苦いものを無理矢理飲まされるなんてことをされたせいで、別の疲れでマサユキはまたぐったりと横になった。

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とじる

第4話 異世界ジェイケイラ

 体を押さえられて、強制的に酔いが治るという苦い液体を飲まされたマサユキ。おかげでぐったりと疲れてしまったが、確かに酔いからは解放された。今はお詫びというわけではないが、体力が回復するようにと、女子たちが薬草を採るついでに一緒に持ち帰ってきた果物を食べている。リンゴやバナナなど色々あって、果物だけでお腹いっぱいになりそうだった。4人の女子たちも、マサユキと同じく果物を食べている。

「あっ、スアラ! もうそれ3個目でしょ!」

「早い者勝ち……」

 フィリスとスアラが果物を取り合いする中、男勝りな言葉遣いをするエルミナがマサユキに声をかけた。

「お前、名前は?」

 立て膝をついてリンゴを丸かじりしているエルミナ。スカートの中からパンツが見えないように顔を逸らしながら、マサユキは自分の名前を言い始めた。

「俺はマサユキ……」

 強制的に苦い薬草を飲まされた恨みがまだあるのか、不機嫌そうにマサユキは名前を言った。名前を聞いて、エルミナは笑顔で上機嫌になる。

「ははっ、自分のことを俺っていうやつと初めて会ったぞ! あたいはエルミナ。よろしくな」

「私はツバキと申します。資料でしか見たことがない男性の方にお目にかかれて光栄です」

 正座をして礼儀正しく自分の名前をいったツバキ。メガネをかけ、とても真面目そうで冗談を言うような人間だとは思えない。だからこそ、マサユキはあることにイラついた。

「なんだよさっきから。男見るのが初めてだみたいな言い方して。この2人もそんなこと言ってたぞ」

 フィリスとスアラを指差して、少し怒りながら話すマサユキ。

「世界の半分が男なんだぞ。どんな生活してたら今までの人生、男と接しないでこられたんだよ。俺のことをからかってるならやめてくれ!」

 立ち上がり、マサユキは語気を強めて言い放った。果物を取り合っていたフィリスとスアラも黙り、小屋の中が静まりかえる。少しの沈黙が流れたあと、エルミナが口を開く。

「落ち着いてくれ。わけわかんないこと言われて、怒る気持ちはわかる。スアラに連れてこられて、お前はここがどこかもわかってないと思うしな……」

 マサユキのことを落ち着かせようと、冷静な口調で話すエルミナ。その表情はどこか申し訳なさそうだった。少し黙ったあと、エルミナも立ち上がりマサユキに向き合った。

「単刀直入に言わせてもらうぞ。ここはお前が住んでた世界とは違う。ジェイケイラって名前の、お前にとっては異世界なんだ」

「は……? なに言ってんだ急に?」

 住んでいた世界とは違う。ここは異世界だ。またそんなわけのわからないことを言われて、まだからかってくるのかと思い、マサユキはますますイラついた。

「お前の世界とは違って、この世界にはモンスターがいるし、それに対抗する魔法も存在する。武器を使って魔物と戦う奴らだっているんだ。まあ、いきなりは信じられないかもしれんが……」

「あ、当たり前だろ。アニメとかマンガじゃねえんだから、そんな話……」

「嘘なんかじゃないってば!」

「私たち、ちゃんと魔法使える……」

「ここが異世界だということを証明しますから、私たちの話を聞いてください」

 エルミナだけでなく、フィリスもスアラもツバキも、話を聞いてくれとマサユキのことを諭してきた。全員が真剣な顔。だまそうとか、からかって笑ってやろうとかいう雰囲気は一切なかった。しかしそれでも、魔法やモンスターなんていうことを、マサユキは信じることができない。

「俺は学校に行く途中だったんだ。行かせてもらうぞ」

 そう言ってマサユキは4人を振り切って小屋の扉を開け出ていこうとした。小屋を出て見えた景色は、一面の緑。木やその他の植物が生い茂っている森。こんな所見覚えがなかった。どっちに進めばいいのかもわからない。マサユキはただ立ち尽くしてしまった。

「ガウゥ……」

 その時、森の奥から獣のような低い呻き声が聞こえてきた。呻き声が聞こえた方を見ると、オオカミのような獣がマサユキのことを見ていた。遠目で見てわかるくらいにかなり大きい。確実にマサユキの倍くらいは大きいだろう。そのオオカミのようなやつが目があった瞬間、マサユキめがけて飛び掛かってきた。

「ガアッ!!」

「うわぁっ!」

 為す術がなく、マサユキはただ尻もちをついて倒れてしまう。目前までオオカミが迫って来た。目をつぶり、噛まれてしまうことを覚悟したマサユキ。しかし、そうはならなかった。

「危ねえっ!」

 小屋の中から飛びだしてきたエルミナが、手にしていた槍でオオカミの額を突き、頭を地面に伏せさせた。オオカミは身動き一つせず、よだれを垂らして呻き声だけを上げている。

「はあっ!」

 気合いとともに言葉を発したエルミナ。同時に槍が金色に光りだし、その光がオオカミの体へと移動した。そして、雷の音のようなバリバリという音が聞こえて、オオカミが痙攣をしだした。

「ガウァ……!」

 弱々しく呻き声を上げるオオカミ。間もなくそれもなくなり、オオカミは息絶えた。マサユキは目の前で起こった出来事を見て、目を白黒させている。

「ふぅ、いっちょ上がり。ははっ、どうだ? 少しはここが異世界だって思ったか?」

 オオカミから槍を引き抜き、得意気な顔をしながらエルミナはマサユキに聞いている。オオカミにも驚いたがそれ以上に、自分の体よりも大きいオオカミを一瞬で退治したエルミナの方に、マサユキは驚いていた。

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