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かみさまのおと 完結

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人魚姫にインスパイアされました。
小さな音符と、神様のお話。

1位の表紙

目次

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courez

 かみさま、かみさま、あたしをにんげんに、してください。

 ――どうしてだい?

 どうしても、あのおとこのことおしゃべりしたいの。

 ――彼はいつも君たちと会話しているじゃないか。

 そうね、そうよね……。

 かみさま、かみさま。

 ――今日はどうしたんだい?

 あのこが、ないてるの。なぐさめてあげたい。

 ――彼にとって君たちが心の支えだよ。

 ほんとうに、つらそう。だいじょうぶなのかな。

 かみさま、かみさま。

 ――今日はどうしたんだい、そんなに慌てて。

 あのこが、じこにあったって。おかあさんがはなしてた!

 ――何だって?

 かみさま、どうしよう。あたしじゃなにもできない。

 ――僕も何もできない。

 かみさまも、なにもできない……。

 ――そうだ、君に託そう。君は人間になりたがっていた。君を人間にしてあげよう。

 ほんとう!?

 ――君のミッションはたったひとつ。この薬を彼に飲ませること。彼に姿をみられてはいけないよ。見られたら君はただの音符に戻ってしまうからね。

 わかった!! がんばる!!

 ――頼んだよ。

 気がつけば、あたしは人間になっていた。

 神様があたしを人間にして、この薬を持たせてくれた。

 彼のお母さんによると、命の危険はないものの右半身を強く打っていて、ピアノが弾けなくなるかもしれない、と言っていた。それは絶対に嫌だ。あたしを奏でてもらえないなんて、嫌だ。

 不自然にならないようにと神様が選んだ服は『なーすふく』だった。なーすが何のことだか分からないけれど、あたしが病院に行ってもバレないだろうとチョイスしたもの。純白の布の感覚が何だかくすぐったい。今まで音符として生きてきたから、服なんて着たことなかった。

 彼の家は誰も居なかった。彼がいつも奏でるグランドピアノの前にあたしは立っている。閉じられたピアノの黒くつやつやした本体を触ると、とても冷たかった。

 のんびりしてられない、あたしは急いで神様が教えてくれた病院へ向かうことにした。

 足がある、走れる。走るって、地面って、こんな感じなんだと感動しながら、あたしは全速力で走る。彼があたしたちをクーレ――走るように演奏してくれることはあっても、実際に走っているわけではないから、こんなにも「走る」ことがしんどくて辛いだなんて、知らなかった。

 しばらく走ると、大きな建物が見えてきた。神様が空から「ここだ」と教えてくれる。

 全速力でスピードを緩めず、敷地内へ入る。色とりどりの花が咲いている花壇の近くに、あたしと同じような服を着ている人がいる。神様、ナイスチョイスです、と心の中で呟いて、彼がいるという病室へと向かった。

「あ……」

 

 私の唇からこぼれた声は、いつも奏でてくれる「あたしの音」だった。

 ガラス張りの玄関に、あたしの「人間の姿」が映った。思わず立ち止まり、ガラスに手を触れる。黒い髪はひとつに纏められていて、黒い瞳は丸くて宝石のように輝いている。まるで彼と双子のような姿に見とれてしまう。これがあたしの「人間としての姿」。不思議で仕方ない。

 そうだ、こんなこと、してられない。

 あたしは我に返り、神様に頼まれた薬を大事に抱えて、彼の病室を目指した。

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かみさまにもなにもできない、一見すると、無力な神のようにも思えますが、人間の自由意思に干渉しないという姿勢なのですかね(^^♪きっと。哲学のテーマでもある、自由と必然、の問題が意外にも垣間見えます。

湊あむーる

2018/8/15

2

おとぎ話のようですが、悲劇が予想されそうでかなりびくびくしてしまいます。
彼女のミッションは成功するのか、そしてその結末は。
どういう終わりを迎えても、彼は音楽と共にあるのだろうなという気はします(´;ω;`)

大久保珠恵

2018/8/15

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>湊あむーるさま
コメントありがとうございます☆何の気なしに書き始めた物語なので、哲学とか考えていませんでした……!(笑)神様が出てくるお話を書くのが初めてなので、緒川の考える神様像がダダ漏れです\(^o^)/

作者:緒川ヒカリ

2018/8/16

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>大久保珠恵さま
コメントありがとうございます☆悲劇にはしない予定なので大丈夫です、多分……(多分かい・笑)。
そうですね、彼は音楽と共にあると私も思っています。

作者:緒川ヒカリ

2018/8/16

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とじる

affettuoso

 神様のお導きで彼の病室の前までやって来ると、緊張がピークに達した。

 ――どうしよう、姿を見られないようにお薬を飲ませる方法って、あるのだろうか。

 手の平には神様から託された、エメラルドみたいにキラキラしたお薬がひとつ。これで彼の身体が元気になるのだ。あたしは意を決して病室の扉を開けた。

 ベッドの上には、見知った彼が横たわっていた。頭や腕に巻かれた包帯が痛々しい。そっと近づいて、彼の左手を優しく撫でる。彼の手はとても温かかった。ああ、生きてる。本当に良かった。

 気がつくと、あたしの頬に涙が流れていた。涙ってこんなにもあったかいものだったんだ。ゴシゴシと手の甲で拭って、彼の顔を覗き込む。顔色はあまり良くないように見える。

 幼い頃から彼を知るあたしたちは、彼の成長を眺めるのも楽しみのひとつだった。

「大きくなったね」

 眠る彼の耳元で、起こさないようにそっと囁く。

 そして彼の口を指で少し開かせて、エメラルド色の薬を一粒含ませると、彼の頬に赤みがさした。

「ん……」

 あたしはギョッとして、思わずその場にしゃがみ込む。

 起きちゃった、起きちゃった!? 姿を見られたら音符に戻っちゃう!

 しばらくその場でしゃがみ込んでいると、すうすうと寝息が聞こえてきた。

 よ、良かった~。心臓に悪い!

 

 神様のおつかいだけ遂行するのは、ちょっと淋しい。

 彼のためにできることは、何かないだろうか。

 あたしは音符。……そうだ!

 今のあたしは人間だ。唄うことができる。

 彼がいつも奏でてくれた、この音で。この声で!

 唄い終えると、あたしは静かに静かに、病室を後にした。

 かみさま、ありがとう。

 ―――どういたしまして。人間になってどうだった?

 

 あのこが、いきてた。それがあたし、すごくうれしかった。

 ――その気持ちがあれば、君は音符じゃなくても生きていけるな。

 ん? どういうこと?

 ――人間になれて嬉しかった。ではなかった。君はあの子のために必死だった。そして生きていたことが嬉しかったと言う。相手のことを思いやれる気持ちがあれば、君は人間界に行っても大丈夫そうだな。

 かみさま、まぶしいよ!!

「夢を見たんだ」

「どんな夢?」

「随分前に僕が事故にあっただろ? その時僕の楽譜から音符が飛び出してきて、僕のピンチを救ってくれたっていう夢なんだ」

「素敵な夢ね」

「君みたいな黒髪でね、黒くて丸い大きな瞳の持ち主だった。歌を唄ってくれるんだ」

「どんな歌だったの?」

「ミの音だけだったんだけど。とても綺麗な旋律だった」

「へえ」

「ミ、ってどういう意味か知ってる?」

「知らない」

「ミはみんなのミ、って唄ってるけど、本当はミラクルのミなんだよ」

「じゃあ、あなたに『も』ミラクルが起きたのね」

 ――君の音は、譜面ではアフェットゥオーソ、愛情を込めて優しく弾く最初の音なんだ。

 君は本当に愛情深く優しい音だ。生まれ変わっても、幸せになれるよ。これから辛いことも沢山あるだろう。でも君なら乗り越えられる。あの時、彼の無事だけを祈った、君ならば。

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音符の女の子の結末は……
そういうことだったんですね。
「愛情深く優しい音」。
じんわりきました(´;ω;`)

大久保珠恵

2018/8/21

2

>大久保珠恵さま
コメントありがとうございます\(^o^)/
ちょっと優しいお話を書きたかったもので(笑)。
じんわりしてくださって嬉しいです!

作者:緒川ヒカリ

2018/8/21

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本、絵本、両方にできそうでわかりやすいお話でしたヽ(=´▽`=)ノ
【なーすふく】があえてひらがなで理解していない音符を表現してるのも良かったです♫

犬犬

2018/8/31

4

>犬犬さま
はじめまして、コメントありがとうございます\(^o^)/(コメントが遅くなり申し訳ございません・汗)
わかりやすいお話と言って頂けて嬉しいです!「なーすふく」は個人的萌えポイントです(笑)。

作者:緒川ヒカリ

2018/9/3

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とじる

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