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ダサすぎるラブレター 完結

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生まれて初めてラブレターを書いた。
書かなきゃよかったって思うくらいダサい手紙で、そんな私は死ぬほどダサい。

1位の表紙

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「ねえ、何をしてくれるの?」

彼の口ぐせだった。

彼がヒットを打つたび、待っていた私のところに来て彼はそう言った。

「おそろいのアクセサリーちょうだい。」

「手作りの料理作って?」

「あ。本命チョコ欲しい。」

「頬をつねっていい?」

「モーニングコールしてよ。」

「ちゅうして。」

少しずつ。ほんの少しずつ。

恋人のするようなことを頼むようになっていった。

「彼氏と別れてよ。」

「デートして。」

「君の部屋に行きたい。」

私たち恋人じゃないのに。

って抵抗感があったけど、彼のそのお願いは嫌じゃない自分がいた。

「君からのラブレターが欲しい。」

一度も彼から、私のことが好きだと聞いたことはない。

私も彼が好きだといったことは一度も無い。

でもきっと、これを渡したら私たちは恋人同士になるんだろう。

……それは楽しそうだ。

私は生まれて初めてのラブレターを一晩かけて書いた。

「好きだよ。もし私たちの道がこれから分かたれて、地球の裏側にいってしまってもあなたの幸せをずっと願っていられるくらいには、好きだよ。

でも、もし恋人になることで私たちが一緒にいられなくなってしまうなら、私は今のまんまがいいよ。友達のままでもいい。それくらいには、あなたが好きだよ。」

なんてつたない、弱腰のラブレターなんだろ。

彼にそれを渡した後、下書きの文面を何度も読み直して赤面した。

なんなんだ、地球の裏側って。

友達のままでいいなんてもう思ってないくせに、ふられるのが嫌でそんなことを書いてしまった。

ダサすぎる。なんてダサいラブレター。

それから半年後。

耳の奥に、何度も繰り返し聞いた「何してくれるの?」ってごうまんなセリフや、一緒にいるときにいつも聞いてた彼の笑い声が何度もリピートされている。

彼はもうテレビの向こうでしか見ない人になってしまった。

まさか本当にアメリカに行っちゃうなんてなあ。

向こうではなかなか活躍しているようだ。剛腕打者として大きな体の外国人の中でも存在感を放っている。

もう思い出したくないのに、忘れたいのに、私は今日もテレビを見ている。

ラブレターを渡した後、彼と連絡が取れなくなった。

モーニングコールだけはしていたけど、向こうの反応が前よりも素っ気なくなってしまった。電話をしたら事務的な返事だけ返ってきてすぐに切られる。

一度電話で聞いてみた。私たちの関係はどうするのか?と。

……このままがいい、と言われた。

友達以上、恋人未満のままがいいと。

目の前が真っ白になった。

私はラブレターを書いてはいけなかった。

彼は他にもたくさんの恋人未満の女性がいるというのを知ったのは、ラブレターを渡した後だった。

女性から好きという言葉をもらったら、もうその女性への興味は尽きてしまうらしい。

次から次へと新しい女性を渡り歩き、自分を好きになったらゲームオーバー。

それを知ったのは共通の知人からだけど、ショックだったものの彼らしいと納得もしてしまった。

最低最悪な男なのに、

もしあのラブレターを渡していなかったら、彼がまだ私の隣で笑っていてくれていたのかなと期待してしまう自分がいる。

どうしてそんなにあの男が好きになってしまったんだろう。

慣れない料理を作った。

ほっぺたを思いっきりつねられた。

サインの書き方を教えてくれた。

彼氏からDVを受けていたとき心に寄り添ってくれた。

奮発しておそろいのアクセサリーを買った。

彼の遠征地まで応援に行った。

定番すぎる観光スポットでデートをした。

一度だけ触れるだけのキスをした。

いつも笑っていた。

人生で初めてのラブレターを書いた。

たった、それだけ。

あの下書きをくしゃくしゃになるまで読み返して、何度も思う。

好き、と伝えたらダメだと知ってるのに。

もしこんな内容じゃなくて、恋人になってください、ってストレートに書いていたら少し違う結果になっていたのかな、とか後悔していたりする。変わりはしないのに。

ラブレターもダサい。

私もダサい。

彼と最後に話したのは、

「頼むからちゃんとふってください。あいまいな関係でいたくないから。私をふって。」

「ふるもなにも、俺たち付き合ってないし。」

……ダサいなあ、私。

今のまんまがいいと手紙にも書いたのに泣くなんて。

それでもまだ彼が好きなのもダサい。

ダサくても、

本気で、

今世界の向こうに行ってしまっても、連絡を取らなくなって道が分かたれても私は彼を応援し続けている。

彼にそれを今伝える術がないから、こうやって小説を書いている。

どこかで彼がこれを見て、私にまた連絡をくれるんじゃないかって女々しい気持ちになっている私がいる。

彼にとって私はもうどうでもいい存在でしかないのに。

ダサいなあ。

ひどいダサい。

それでも、

書いてしまおう。

元気ですか。

応援してるよ。

試合全部見てる。

この前の怪我、ちゃんと治りましたか。

一緒に飲んだコーヒーおいしかったね。

アクセサリー似合ってるよ。

たくさん笑えてますか?

恋人はできましたか。

楽しい時間をありがとう。

最高の友達だったよ。

……好きだったよ。

今も好きだよ。

すごく好きだよ。

カキーン!

テレビの中の彼が打った。

白球が綺麗な線を描いてスタンドに吸い込まれていく。

あ、嬉しそう。笑ってる。

いつか。

この恋を忘れることはできるんだろうか。

このくしゃくしゃになったダサすぎるラブレターを捨てることができるんだろうか。

いつか。

また私がダサいラブレターを書いて誰かに渡す日はくるんだろうか。

その時は、ちゃんと返事をもらえるんだろうか。

その人とは恋人に……なれるんだろうか。

その未来がまだ想像できない今はまだ、無理なんだろうなあ。

『好きだよ。もし私たちの道がこれから分かたれて、地球の裏側にいってしまってもあなたの幸せをずっと願っていられるくらいには、好きだよ。

でも、もし恋人になることで私たちが一緒にいられなくなってしまうなら、私は今のまんまがいいよ。友達のままでもいい。それくらいには、あなたが好きだよ。』

まるで呪いの言葉みたいだ。

私の心に、彼への気持ちを染みつかせて忘れさせてくれない。

ダサすぎるラブレターに心の中で大きな×をつけて、テレビの電源を消した。

end.

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初めてコメントします。面白かったです。ラブレターって本当に、照れ臭いものだけど、メールやSNSの時代に文章は相手は真剣に捉えてしまうのかなって思って。本当は成就して欲しかったけど、何か、彼氏を文章で育ててる気がして心が温まりました。
またこれからも、仲良くしていただけると嬉しいです。ありがとうございます😊

2

あふりかのそらさん
コメントありがとうございます!嬉しいです。
ダサいって何かなあって考えた時に、ラブレターってツールが思い浮かびまして。彼女の次の恋が幸せであるようにって願いたいです。

作者:紗美

2018/8/18

3

【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】友達以上、恋人未満は心地いいけれど、いつかは終わるもの。その関係から、一歩踏み込み、彼に「ラブレター」を書いた私。その先に待っていたのは? ラブレターを出した後の猛烈な恥ずかしさ、淡い期待が後悔にかわる切なさ、そして二人の関係が始まりもせずに終わった現在。粗削りながら、瑞々しい筆致でまるで自分のことのように気持ちが動かされました。

4

モノコン2018予選選考スタッフC様
ご連絡ありがとうございます。そしてコメントも丁寧にありがとうございます。とても嬉しいです。小説賞に応募したことがないので、緊張しながら投稿しました。心の中に書き溜めておいた文章なので、共感していただけたというだけで本当に幸せですし、通過までしたなんてご褒美までいただけたようです。書いてよかった、と心から思います。ありがとうございました。

作者:紗美

2018/8/30

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とじる

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