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素敵な世界の創り方

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趣味で小説を書いている素人作家、久世由菜(くぜゆな)は悩んでいた。
愛用していた創作支援アプリが突如公開停止、せっかく作りこんだ世界観が吹っ飛んでしまった。
泣きながらブラウザでも使える世界観設定ツールを探していると、「世界創造支援サイト『Mundi』」なる奇妙なサイトを見つけてしまい……?

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1 世界創造神の皆様は、こちらにご登録を

 そのサイトに出くわしたのは、本当に偶然だった。

 久世由菜(くぜゆな)が使っていた編集アプリの公開が終わったのは二日前。

 彼女はちょうど残業が重なって、アプリのチェックはおろか、使用ができなかった。

 本当に唐突に、公開停止になっていた。

 そのアプリに保存してあった、二つばかりの世界設定と歴史年表、十数人のキャラ設定が瞬時に失われた。

 一部自前のパソコンにバックアップしてあったものの、失われたものの方が圧倒的に多い。

 特に、精魂を込めた世界設定が失われたのには悲しみを通り越して呆然としてしまった。

 あれをもう一度作れるかというと……

「あ~~~~~あ~~~~~、無理ぃ~~~~!!」

 ようやくアパートに帰り着き、化粧落としと着替えを済ませた後で、由菜は悲痛な声と共にベッドに倒れ込んだ。

 ジャージの部屋着にターバンでセミロングの髪をまとめ、ダラダラ女子スタイルだ。

「どうしよ~~~~、いきなりアプリ使えなくなるとか、聞いてないよ~~~……」

 近所迷惑にならないように、枕に顔をうずめて呻く。

 くいと顔を横に向けて、電源の落ちたノートパソコンを見やる。

 あの中には一部バックアップがある。

 それに、実際に編集アプリ、というか、物語作成支援アプリの情報を元にして書いてあるファンタジー小説は、あの中だ。

 由菜は、別にプロの作家という訳ではない。

 高校時代から文芸部で、大学でも文芸サークルに属し、社会人になっても相変わらず小説を書いているというだけである。

 公開している先は、今はもっぱら小説投稿サイト。

 そして、週に一、二回ほどの頻度で更新するファンタジー小説は、そこそこ評判がいいのだが。

「世界設定やり直しかあ……」

 吹っ飛んだ世界観は、その連載中のファンタジー小説のものだった。

 小説の中でも一応世界についての描写や解説はしてあるが、まだ序盤ということもあり、そう詳しい内容を記したわけではない。

 詳細は、今では世界のどこにも存在していないアプリの中だ。

「……我が世界は、世界の外から来たりし大いなる理によって消え去るなり、我は孤独となりし創造の神である。ふふ、ふふふふ……」

 いつもの癖、干支が一回りしても卒業できない中二病的セリフを吐き出し、ややその気になって、やたら重々しくパソコンの画面を開き電源を入れる。

 まあ、眼鏡でだらしない格好のネーチャンがパソコンをいじっているという、面白くもおかしくもない場面であるが、本人にとっては忘れられた聖堂に赴くような気持ちである。

 うん、荘重。

「創作支援……編集……っと」

 世界一有名な検索ツールにそれらの文言を突っ込むと、確かに色々出てきた。

 スマホのアプリには懲りたので、パソコンからでも使える創作支援ツールを探したいという魂胆なのだが。

「……ん? あなたの世界実体化します……世界創造支援サイト『Mundi』……?」

 Mundi、ムンディ。

 確かラテン語で「世界」という意味ではなかったか。

 素人物書きなどをしているせいで、変な雑学に詳しい由菜である。

 ……とりあえず、その支援ツール提供サイトにアクセスしてみた。

 古地図をサイトの入口の画像に使っていて、いい雰囲気である。

 由菜の好みだ。

 アカウントを登録したところ「創造神名を入力してください」ときた。

「……。うん、嫌いじゃない、こういうノリ!!」

 ちょっと悩んだが、投稿サイトで使っているペンネームにした。

「星湧(ほしわき)」。

 中二的にはいい感じだし、これだけでは身内に自分だとバレないしでいいことづくめだ。

 いよいよ、操作画面だ。

「へあっ、世界創造?」

 なんと、この世界自体の「形状」を設定できる。

 由菜が「球状」を選ぶと、宇宙空間に浮かんでいる球状の青いものが表示される。

 周囲に、古いヨーロッパの版画で見かけるような古風な太陽や月や星が表示される。

「なになに、空のデザインをしてください……? こんなことまでできるのか!! よし!!」

 一気にガッツポーズを創った由菜は、太陽と月を消し、星だけを残した。

 次いで空の色を常に「暗紫色」とし、更には太陽の代わりに、揺らめくオーロラを空一面にちりばめる。

 空が七色に輝き、その向こうで金色の星が強く輝く。

 オーロラの輝きで、常に新聞が読める程度の薄明に包まれた幽玄な世界、それが由菜のデザインした世界である。

「大地のデザインをしてください……もちろん!! 輝いていないとねえ!!」

「水晶の大地」のテンプレートを選ぶ。

 そこから、水晶が発光するように設定する。

 すこしいじるとそれらしくなった。

 この世界は、天と地の光から、生命が生まれたのだ。

「世界の名称……あ、設定し忘れてたな」

 もう決まっている。

 由菜は、その入力部分に文字を打ち込んでいく。

「光蜜界(こうみつかい)」。

 それが、由菜が自前の世界に名付けた名称だ。

「この名前でいいですか?」の質問に「はい」と答え。

 古拙な版画風の世界に「光蜜界」の文字が表示された瞬間。

 由菜の視界は、強烈な光に押し流された。

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1

天地の創造がとっても綺麗で、今週流星群が来るらしいのですが見にいきたくなりました。もし、神様の世界が、アプリや、創作ツールで誰が一番素晴らしい世界を作る神かをきっそっていたら、とってもスケールの大きなサイトなのだろうと思いました。

2

>あふりかのそら様
コメントありがとうございます!!ヽ(*´∇`)ノ
インターネットが神様の世界に繋がってたら、みたいな感じのお話なので、実はなかなかヤバいことしちゃった主人公さんでしたwww

作者:大久保珠恵

2018/8/22

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とじる

2 光蜜界で、創造神様は途方に暮れる

 一瞬気が遠くなり、次に気付いた時には、由菜はきらびやかな場所にいた。

「……なに、ここ?」

 周囲を見回して呆然とする。

 そこは、うっとりするような淡い光を放つ、様々な色彩の、人間ほどもある水晶のような結晶体が林立する地面だった。

 まるで幻想的な絵画をそのまま三次元に移し替えたかのような。

 周囲は元々は暗いようだが、逆向きのシャンデリアのように輝く結晶体のお陰で、くらくらするような華やかな光に満ちている。

 光を放つ水晶のような結晶体の他に、つややかな金属でできたような、まるで珊瑚か植物のようなものが、地面のあちこちから生えていた。

 結晶が放つ光を受けて、その不可思議な植物状のものは照り映え、まるで実のようにそこここに乗っている、拳ほどの大きさの球状の宝石が、ぼんやり発光している。

 そんな光景が見渡す限り、地平線の彼方まで続いているように見えた。

 光輝に満ち溢れた大地。

 由菜は遥か彼方に見える空に気を取られ、はたと視線を上に向けた。

 そこに見えたのは――壮大なオーロラだ。

 緑や金色、白にゆらめくオーロラが、光に満ちた地上に向けて、柔らかでうっすらとした輝きを投げかけていた。

 空自体は、妖艶ともいえる暗紫色。

 由菜は、何かの記事で読んだことがある。

 最大級のオーロラともなると、真夜中にその光だけで新聞の文字が読めるくらいの光量があると。

 空に優雅に輝くカーテンみたいに垂れ下がったオーロラは、地平線から頭上、更にその向こうまで、風になびくかのように波打ちながらひそやかな光を投げかけている。

 オーロラとオーロラの間には、星が見える。

 なんという星だろうか。

 見覚えのない星座。

 どういうことだ、と、由菜は思わず考え込んだ。

 自分は一瞬前まで、自室のパソコンデスクの前に座っていたはずだ。

 確かに「世界創造支援サイト『Mundi』」なる妙な創作支援ツールサイトを開いていたはずだ。

 そこで……

 由菜ははたと気づいた。

 もしかして、これは。

「ここ、『光蜜界(こうみつかい)』……?」

 口に出してしまうと、その現実が否が応でも実感として迫ってくる。

 確かに。

 オーロラゆらめく暗紫色の空はいつも夜。

 大地には、輝く水晶のような結晶体が林立している。

 これは、明らかに身に覚えがある。

 数瞬前まで、ツールの上で作っていたではないか。

「……え……え……ここ、光蜜界……実体化した……えっ……」

 由菜はうわごとのように繰り返した。

 自分がwebツール上で製作した異世界「光蜜界」が実体化し、創造主であるはずの由菜は、そこに呑み込まれた。

 いや、もしかしてツールの中の世界に、自分が吸い込まれたのか。

 どちらにせよ、あり得ない事態だ。

 0と1だけで作られているはずの、架空の「異世界」と三次元で接触できるなど。

 由菜は、きょろきょろと周囲を見回した。

 生き物の気配はない。

 ただ、光の美しさを見せつけるかのような天地だけが、どこまでも広がっている。

 全く自分好みの、中二的身も蓋もない美の世界だが、それを味わう心の余裕は、今の由菜には、ない。

 由菜は、自分があの「Mundi」を使う以前から設定していた光蜜界の諸々を思い出していた。

 大地に広がる光の結晶体は「光晶(こうしょう)」。

 オーロラと光晶の光が混じり合い、光蜜界では生命が生まれたことになっている。

 光はこの世界ではあらゆるものの母だ。

 そうすると、ここにしばらくいたら、そのうち生命が誕生し進化し……

「ちょっと待った。ソレ、何百万年かかるのよ!? 話せるナニカが生まれてくるまで、気長に何百万年待てってか!?」

 頓狂な由菜の声は、幻想的な無限の空間に、空しく広がって消えていった。

 とにかく、元の世界に戻りたい。

 どうしたらいいのだ、と由菜は途方に暮れた。

 投稿サイトで見かける異世界に転移した系統の小説は、大部分話せる程度の知能がある何者かが存在していた。

 彼ら彼女らと関わり合いながら、帰還の術を探したり、とにかく目の前の課題を解決したりといったストーリーが大部分だ。

 生命誕生まで永遠ともいえる時間を待機せよ、などという無茶ぶりはなかったはずだ。

「いやぁ、とにかく帰らな……あれ?」

 悲鳴じみた声を上げる由菜の脳裏に、何かが閃いた。

 男とも女とも取れる滑らかで落ち着いた声が、こう呼びかけてきたのだ。

『元の世界へ帰還しますか?』

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とじる

3 創造主としての責任とは、こういうことです

「ぶはっ……!! はひっ……!! ふあぁぁあああぁ!!」

 いきなり、自分が元の場所にいると認識した由菜は、あまり上品とは言えない荒い息遣いを繰り返した。

 まるで水から上がったような感じだが、もちろん息苦しかった訳ではない。

 気分の問題である。

「……って、なんじゃこりゃあーーーーーー!?」

 由菜は声を跳ね上げた後、慌てて口を塞いだ。

 もう夜なのだ。

 近所迷惑は避けねばならない。

 目の前には、先ほどの空間転移(?)の直前と同じようにパソコンがあり、そこには「世界創造支援サイト『Mundi』」のプレビュー画面が映し出されている。

 相変わらず、暗紫色の空に夢見るようなオーロラ、そして地上は輝く結晶体「光晶」で満ちている。

 それをじっと見つめるうちに確信する。

 自分は、この「光蜜界」に実際に転移したのだ。

 どういう仕組みだかは知らないが、このwebツールで世界をデザインすると、実際にどこかに、その「デザインされた世界」が実体化するようだ。

「ええええ……何なの、このサイト……」

 流石にぞわりとしたが、それを上回る好奇心が由菜を突き動かした。

 どういう仕組みかはともかく、あの世界「光蜜界」が実体化するなど、なんと嬉しいwebツールだろう。

 まさに、自分は創造の神そのものになったのではないか。

 にわかには信じがたい事態ではあるが、実際に「あれ」を見ては信じざるを得ない。

 夢ではない。

 あの天地の輝きの微妙な移り変わり、それに暖かく柔らかい大気の感触、それに、しんとした鉱物質の物質特有の香りも覚えている。

「……了解。世界創造しろってことね? 私はヤハウェさんかな? クグマッツさんかな?」

 なんと一つの世界を創造した上で所有できるのだ。

 創作者の夢の実体化である。

 小説なら読んだ誰かの心と想像力が必要だが、これは問答無用の「創造」だ。

 誰かいてもいなくても、恐らくあの世界は、光蜜界はすでにどこかに存在している。

 なら、自分は創造主としての責任を取るべきではないのか?

「……ええと……生命を創造して下さい? OK、植物動物ね」

 何度か深呼吸して自分を落ち着かせ、由菜はその「Mundi」の指示を受け取った。

 由菜は植物の創造に着手した。

 すでに、設定は頭の中にある。

 真珠色の光を放つ花。

 蛍のようにゆっくりと明滅する灌木。

 光の筋が螺旋を描く蔦。

 そして、闇と星を封じ込めたような巨木。

 幾つかデザインした後、「自動生成しますか?」という項目が出た。

 なるほど、世界一つだったら、恐らく数万種類くらいにはなるであろう植物を、一つ一つデザインするのは不可能だ。

 なら、自動生成に頼るべし。

「光蜜界」のプレビュー画面に、何十種類かの植物が表示された。

 こうして見ると、より「世界」っぽい。

「……よし。次は動物ね」

 これも、設定は既にある。

 燐光を放つ夜光蝶(やこうちょう)。

 光晶の光からエネルギーを得る鉱石甲虫(りんせきこうちゅう)。

 空には、幻のように浮かび上がる幽玄鳥(ゆうげんちょう)が。

 そして、輝く炎を纏う妖夜獣(ようやじゅう)。

 海底の光晶と、水に射す天の光に群がる星魚(せいぎょ)。

 光のヒレを持つ軟体動物、輝虫(きちゅう)。

 これも、ここまで打ち込みデザインしたら、「自動生成しますか?」との問いかけが出た。

 植物同様、これもwebツールに任せると、あっという間にプレビュー画面に、動き回る様々な生き物たちが、アニメーションで点滅するように表示され始めた。

「ふううう。こんな時間かあ」

 流石に目と肩が疲れていることを自覚した由菜が壁の時計を見ると、日付が変わっていた。

 明日は休みとはいえ、過度に集中を続けたお陰で、ぐったりした疲労がのしかかる。

「よっしゃ。ここでセーブ。明日は昼間から、知的生命体の創造にとりかかろう!!」

 もはや、すっかり「Mundi」に対する恐怖や疑いをなくした由菜は、とりあえず「Mundi」を閉じ、パソコンの電源を落としたのだった。

 明日世界に生み出すはずの、知的種族たちを、克明に思い描きながら。

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とじる

4 下位の神々を創ってサポートさせるのは、創造神のセオリーです

「さあ、これより創造主たる私を崇拝する、知恵ある種族を創り出すぞ……ふふふ」

 休日の午前中。

 生活に支障はない程度の片付き具合の、アパートの一室。

 相変わらず寝間着兼用のだらっとした部屋着に、ターバンで髪を適当にまとめ、眼鏡オンしているのは久世由菜である。

 ちなみに、爽やかに澄んだ午前中の日差しの中、パソコン机の上にはキンキンに冷えた缶ビール。

 そして、おつまみのスモークチーズ。

 こんなだらけた造物主に作り出される知的生命体も、いい面の皮である。

「ん~~~~~ふふふ、まずは、こいつらからやあ!!」

 由菜は、「知的生命体」の項目に、名称を打ち込んだ。

 まずは、「神々」。

「こいつらは『光蜜界』の管理人みたいなもんだからなあ。慎重に作らないと、後で私が大変だ……っと」

 身も蓋もない理由を呟き、「創造主様」は、種族名称スペースに「神々」と打ち込んだ。

『究極の創造主“星湧”が、この世界を健やかに保つべく生み出した超越的存在。“星湧”の創造の御業を手助けしたとされる』

「ふふふ、さて、まず第一は……」

 由菜は更に打ち込みを続ける。

『光の女神ナワイウァ。全ての生命の母とされ、この世界の最も重要な神であり、主神。光蜜界全てに存在と活力を与える』

『光晶の神クカイラーサ。大地の中心、生成と維持、堅固、そして美と文明をも司る男神である。ナワイウァが自らの光を大地に下ろして作り出した存在であり、大地のあらゆる生命は彼に帰属する』

『虚空の女神オーウスヌ。光蜜界をも包み込んで広がる、永遠の時間と空間を司る女神。運命の神でもある。顔をきらめくベールで覆い、その素顔を見た者はいない。知的種族の大いなる誓願は、この神に対して行われる』

『大気の神ササーファント。風と浄化、呼吸、調整を司る神である。光蜜界の知的種族は、この神に病の治癒を祈願する。また、体を動かす職業の者は、この神の加護を得るために、朝の最初の一呼吸を重要視する』

『水の神マーナーター。巨神であり、知恵と記憶、精神を司る大いなる神。その手にしている杯から、この世のあらゆる知識と力を与える聖水が湧きだすとされている。知的種族にとっては非常に重要な神であり、新たな知識を得たい時、この神の名が呼ばれる』

『火の女神ミキアジェラ。輝く女神であり、何よりも正義を愛する。知的種族の裁判所には、この女神の神威を行き渡らせるため、常に聖火が燃えている。善良な人々の生活の守護者の側面もあり、日常で最も祈りが捧げられる』

『夢の神ツツカヌイ。性別なき、変幻自在の神であり、あらゆる不確定要素を司る。夢を通じて知的生命体に神々の意思を伝えることもあるが、思いがけぬ悪戯で、事態をひっくり返すことを楽しむことを“星湧”から赦されている』

 ここまで、由菜が打ち込んだ時だった。

「ねー、これってさ、オイラたちがニンゲンつくっちゃっていいってこと?」

 不意にモニターの中から顔を出した「そいつ」に話しかけられ、由菜は悲鳴を上げてのけぞった。

 虹色の柔らかな髪に、男女どちらともつかない中性的な美貌の「誰か」は、まるでくぐり戸でもくぐるかのように、ノートパソコンのモニタの端に手をかけ、ぬるりとこちらの世界に侵入してきた。

 サイズ的には、かなり大柄なそいつが、ノートパソコンのモニタから出て来られる訳がないのに。

「いっ……ひえ……ひぁあああぁ!?」

 キャスター付きの椅子を跳ね飛ばし、悲鳴を上げる由菜を、見たこともないほど美しい「そいつ」は、面白そうに指さしてけらけらと笑う。

「驚き過ぎだろ、あんた。それでも創造主様かよ!?」

 輝く布と飾り紐、そして宝石類らしきもので絶妙な美しさに飾り立てた「そいつ」は、由菜が目を白黒させるのもお構いなしに言い放った。

「んでさー、知的生命体のことなんだけどさー。アンタのプランをまず、このツツカヌイ様に聞かせてみろー」

 ……へ。

 自分の耳が信じられない由菜は、思わずまじまじと目を見開いて、確かに「ツツカヌイ」と名乗ったそいつを見据えた。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/19)

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とじる

5 人類の創造はお任せで

「ふむふむ。全ての知的生命体は他の生命と同様、ナワイウァの光から生まれた。ナワイウァの他の六柱の神が、それぞれの要素を持ち寄って、ナワイウァの光に混ぜ、知的種族を創り出した……と。ふんふん」

 由菜が一通り、知的生命体の基本設定を説明し終えると、椅子代わりにベッドに座り込んだツツカヌイは、ふむふむとうなずいた。

 そこそこ乱雑かつ、平凡な、昼の暖かみを増した日差しの射しこむ部屋に、どう見てもそこだけ異世界から移植したような、耽美な生き物が存在するのは、どうも違和感がある。

 由菜としては、自分才能あるじゃーーーんと図に乗る前に、違和感凄すぎというのがどうにも引っかかって没入できない。

「……どーでもいいけど、部屋キッタネエな、アンタ」

 唐突に話題を変えて、ツツカヌイが、由菜としては指摘してほしくない事実を無遠慮に指摘してきた。

「やかましいわあっ!! 社畜に、モデルルームみたいな暮らしができるか!! 大体、いきなり上がり込んでおいて図々しいこと抜かすでない!!」

 返す刀で苦言を弾き返し、由菜はパソコンデスクの椅子から振り返る。

「んで、あんたに設定話したからって、あんたらの方で勝手に知的生命体作ってくれるの? マジ?」

 疑わしそうに由菜が窺うと、ツツカヌイは自信たっぷりにうなずいた。

「まあね。その前に、あんたに、究極創造神“星湧”さんに、確認しておきたいことがあんのよ」

「ん? なに?」

「要するにさ、あんた、知的生命体の……この世界の『人間』の、細かいところはけっこういい加減だったろ?」

 そう露骨に言われると引っかかるが、まあ、確かにその通りではあるので、由菜はとりあえずうなずいた。

「細かいところは、オイラたち光蜜界の神々に任せてほしいんだよ。なに、悪いようにはしない。むしろ、アンタでは詰め切れなかった細かいところまで、丁寧に詰めて創造するからさ。その許可をもらいに来た訳さ、オイラは」

 一瞬、由菜は逡巡する。

 確かに人間種族の細かい部分で、設定がいい加減なことはあった。

 その「隙間」の部分を、彼ら、たった今作り出した光蜜界の神々にゆだねて良いものだろうか。

「大丈夫、創造って点では、そりゃオイラたちってカミサマなんだから。今の今まで、こっちの世界で凡人だったアンタに比べりゃプロって訳さ。おかしな奴等でもない。それ、見てみな」

 ツツカヌイに促されて、「Mundi」に視点を転じた由菜は驚いた。

 いつの間にか「創造サポートメンバーとのチャット」が開いている。

 そこに、幾つものアイコンと、発言が表示されていた。

――――――――――

ナワイウァ

 星湧様、初めまして。

 ナワイウァです。

 この度は、私たちに存在をお許しいただきまして、誠に感謝しております。

 ところで、知的種族の創造の件ですが、ツツカヌイに持たせた条件でよろしいでしょうか?

 光蜜界の健全な運営のためにも、是非早急にご許可いただきたく、お願いを申し上げます。

クカイラーサ

 星湧様、どうも。

 こんなに早く実体化できるなんて思いませんでした。

 クカイラーサですよ。

 ねえ、やっぱり、人間がいないと寂しいですよ。

 僕の光晶の光を、誰も褒めてくれないんですからね。

オーウスヌ

 星湧様、虚空の彼方よりお喜びを申し上げます。

 この光蜜界と、あなた様と我らが存在できることに。

 そして、今後、よりあなた様や我らにとって望ましい種族が増えていくことに。

 虚空は生命の息吹で満ちるでしょう。

ササーファント

 やあ、星湧様!!

 ササーファントだ、よろしく!!

 こうして実体化してみると、ほんとに素敵な世界だな!!

 ところで、俺の息を美しい歌声や、見事なダンスにしてくれる人間の創造はまだかな!?

 今のままでも世界は悪くないけど、一息足りないんだ、わかるだろ!?

マーナーター

 世界の水を祝福として、大いなる創造主、星湧様に捧げるものである。

 我は創造主が下僕、水のマーナーター。

 水を愛し、我が腕の中で思考する人間に、主様と我への賛歌を歌わせたい。

 実はすでに準備は終えておる。

 解き放つお許しの時を、一日千秋の思いで待つ。

ミキアジェラ

 我が燃え盛る炎に誓って、ここに真正の忠義を捧げると誓う。

 私は創造主の裁きの手、炎なるミキアジェラ。

 まずは光蜜界のおおよその完成をお祝いし、創造主の力を褒め称えます。

 しかるに、私の「正義」を認識する者がいないのは、まだ創造主の御業が完全でないことの証。

 なにとぞ、私に御業のお手伝いをさせていただきたく。

 下僕ミキアジェラ、心よりお願いを。

――――――――――

「うーん、やっぱり、神様って感じィ」

 由菜は思わず感服した。

 自分が作り出したはずであるが、あいさつをよこした「光蜜界の神々」は、予想を超えて神様っぽい。

 かつ、割とまともそうだ。

 任せて大丈夫、どころか、けっこう設定に穴を空ける由菜自身よりきっちりやりそうではある。

 ここは、一つ、彼らに任せた方が。

「……なあ。ここは任せた方が、自分の手間が省けるとか、思ったろ?」

 いきなり顔を覗き込まれて、由菜はわたわたとした。

「えっ……そんなことは……まあ、あるけれど。いや、みんなしっかりしてそうだなって」

「よっし、言質取った!! もう取り消せないよ!! ありがと、早速人間創造に取り掛かるわ!!」

 言うなり、あれよという間に、ツツカヌイは来た時同様に、パソコンのモニタに吸い込まれて消えた。

 呆気に取られてモニタを凝視する由菜の目の前で、「種族自動生成モード」と表示されたメータが伸びていく。

 やがて。

 光晶そのものを人型に削り出したような輝く「光晶族(こうしょうぞく)」。

 胸の中心に時計のような不思議な器具をはめ込んだ機械種族「機空族(きくうぞく)」。

 鮮やかな翼のしなやかな鳥人「風翼族(ふうよくぞく)」。

 下半身が、龍のような旧い鯨のような大柄な種族「水鱗族(すいりんぞく)」。

 全身に輝く炎を纏う、荘厳な「炎霊族(えんれいぞく)」。

 そして夢の宝珠を幾つも身にまとう、夢見る種族「睡夢族(すいむぞく)」。

 この知的六種族が、わずかの間に創造されていた。

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