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いろいろいる@オカ研 完結

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県立城子(しろこ)高校オカルト研究部には、色んな部員がいるんです!?
猫又、密教僧、龍の末裔。
その中に偶然紛れ込んでしまった、霊感が強いだけの普通男子、大道誠弥(おおみちせいや)。
彼がもたらした心霊目撃情報で、オカルト研究部は新学期早々、大きく動くことに!?

1位の表紙

目次

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1 オカルト研究部にはいろいろいる

 一体、何でこうなった。

 大道誠弥(おおみちせいや)は、目の前に広がっている、それなりに古びたその部室をしげしげ眺めた。

 主に文化部のための部室が集まる部室棟の更にはしっこ、十人も入れば手狭になる、明らかに「余ったスペース」と言わんばかりの部屋。

 今日日古びた木目の床に、長机が三つほど、コの字の形に配置されている。

 何が入っているのかよくわからない棚類とロッカーが隅に押し込まれている。

 窓から差し込む昼前の春の日差しはまさにうららかだが、誠弥にはそれを味わう余裕もない。

 目の前には、とんとん拍子に話を進める、今日会ったばかりのクラスメイト。

「……でね。この子、『見える』子なのよ。私の角が、見えてるんだって!!」

 サイドバングショートの、大きな目が印象的な少女が、自分の頭部を指しながら、目の前の上級生らしき二人に力説していた。

 そう、角。

 誰にも見えないはずであろう、らせん状の優雅な角が、誠弥には見えていた。

 彼女、今日初めて会ったクラスメイト、尾澤千恵理(おざわちえり)の頭部には角が見えたのだ。

「なるほど、よくわかった。君の角が見えるということは、よほど霊感に優れているということだな」

 妙に気取った、そのくせ、声の響きも良く、やたら板についているので嫌味に感じない口調で、長机の上座に座った上級生の男子生徒――校章の色からすると三年生だ――が、立ち上がって目の前の自分に右手を差し出してきた。

 長身で、美形の部類に入る顔立ち。

 目の光が強かった。

「ようこそオカルト研究部へ!! 歓迎するとも、大道誠弥くん!!」

 ……いやあの、一言も入るなんて言ってないんですけど、それは。

 誠弥がその手を握り返した方がいいのか逡巡していると。

「大道くん。迷うお気持ちはわかりますけど、多分、ここ以外に行かない方がいいですよ。恐らく無理解にさらされて苦しむことになるでしょう。今までそうだったのではないですか?」

 今まで静かだった、三年生の隣にいた二年生の女子が口を開いた。

 長いストレートの髪は手入れが良く、つややかだった。

 カチューシャに、赤いアンダーリムの眼鏡。

 ちょっと冷たく見えるほどに整った目鼻立ち、均整の取れた体つきが、制服のブレザーの上からでもわかる。

 誠弥がぎくりとしていると、彼女は構わず続けた。

「私の見立てでは、あなたは極度の霊感体質ですが、自分の身を護る術はほとんど持っておいででない。守護霊さんも、あんまりあてにならない感じですし。今までさんざん、ごく普通の日常を送っているつもりなのに、怖い思いをされてきたのでは?」

 ……なんだろう、この人、どこかで会ったっけ……?

 誠弥はまじまじと彼女を見詰めた。

「私、多少は修行してるんです。家が真言宗の寺なもので。たまにあなたみたいな体質の人はいらっしゃいますけど、あなたはいささか極端なような」

 何かを探るように見つめられ、誠弥の脳裏に走馬燈のようにあれこれが蘇った。

 初めて「連中」を見たのが何歳ごろだったかなど、もはや覚えてもいない。

 気が付くと、自分にしか見えない「モノ」があちこちに存在していることに気付いた。

 隅に花束の供えられている道路の脇に立つ、血まみれで、妙な形に肉体がひん曲がった男性。

 頭上を仰ぐと、今しも白い病衣姿の女性が降ってくるところで、慌てて目をつぶってしばらくしても、そこには誰かが落ちてきた影なぞない。

 再度見上げると、全く同じ人影が、また全く同じように建物の屋上から落下してくる。

 自分の部屋に「住み着かれて」しまったこともある。

 体が朽ちてあれこれ丸出しになった老人との暮らしはキツかった。

 それが何とかなる?

 今更?

 入ったばかりの高校の部活で?

 そんな馬鹿な。

「ねえ、とりあえずさあ、お互いに自己紹介とかして、誠弥くんに私たちが誰か知ってもらおうよ。多分、今、その辺の高校生が何を言ってるんだよって、思ってるんじゃない?」

 千恵理がちらりと誠弥を振り返った。

 まあ、大体当たりだが……と思った矢先、あれよという間に、誠弥は脇に並べられた長机の一角に押し込まれる。

 隣に、千恵理がちゃっかり収まる。

「ふぅーむ、では、まずこの僕から!!」

 きゃらーん、と効果音が鳴りそうな勢いで立ち上がったのは、先ほどの三年生男子生徒だ。

「僕はこの城子(しろこ)高校オカルト研究部部長、黒猫礼司(くろねこれいじ)だ!! よろしく、にゃっ!!」

 さわやかなイケメンスマイルを投げかけられて、誠弥が面食らった次の瞬間。

「……ほぁあっ!?」

 妙な声が出た。

 いきなり、目の前からイケメンが消え。

 彼の席だった長机の上に、大きめの黒猫が一匹、座っていたからだ。

「なーん」

 いや、なーんじゃなくって……。

「部長、可愛さアピールしてないで自己紹介の続きしてください。話が進まないじゃないですか」

 隣の二年生女子に容赦なく突っ込まれて、黒猫が不機嫌そうにぶみゃあ、と鳴いた。

「わかってるよ。これはサービスってものだ、KAWAIIサービス!! ……ああ、失礼した、大道くん。僕は見ての通り、猫又(ねこまた)というやつでね」

 元部長だった黒猫が、二又に分かれた尻尾をぴろぴろさせた。

 ……そういえば、年月を経て尾が二又に分かれた猫は、猫又になるんだっけ。

 何かで読んだなあ。

 あまりに驚き過ぎて、逆に冷静になってしまう、誠弥であった。

 動転する神経が痺れてしまったようになっている。

「あー、一言申し添えておくとだね。とんでもないじいちゃん猫だと思うかも知れないが、僕は猫又の両親から生まれた若い猫又だよ。見た目と中身一致、ぴっちぴちのセブンティーンだということを忘れないように!!」

 やけに力説する礼司に、はあ、とうなずく、誠弥であった。

 と、思った矢先、長机を伝って、猫が来た。

 誠弥の目の前で香箱座りになる。

 ごろごろ。

「撫でてもいいのだよ、ふふふ……」

「はあ……」

 思わずもふもふしてしまう、誠弥であった。

 もふもふ。

「さて、猫又は放っておいて、次は私ですね」

 眼鏡美少女の二年生女子が立ち上がった。

「私は、熊野御堂紗羅(くまのみどうさら)。さっきも申しました通り、家が真言宗の寺でして、ちょっと修行らしきことをしています。多少の法力なら使えますよ」

 そう口にすると、彼女は、自分の荷物をまさぐって、中から錦の巾着を取り出した。

 その中から出てきたのは。

「……えっ、本物!?」

 それは黄金色に輝く明らかに密教系の仏具らしきものだった。

 昔親戚のお兄さんの家で読んだ漫画で見たことがある。

「金剛杵(こんごうしょ)」というやつではないか。

 金色の、人の掌くらいの長さの膨らんだ柄に、両端それぞれに突起がまっすぐのものが一つずつ、花びらのように湾曲したのが四つずつ、計五つずつ突き出している。

「五鈷杵(ごこしょ)です。密教の法具ですよ。これで法力を増幅して戦います。あなたに今まで付きまとってたくらいの浮遊霊くらいは蒸発しますよ」

 自信たっぷりに、紗羅が断言する。

 誠弥の心臓の鼓動が速くなる。

 本当だろうか。

 この人の側にいれば、今まで悩まされたようなあれこれが、消滅するのだろうか?

「さーて、最後はあたしね!!」

 最後に立ち上がったのは、隣に座っていた千恵理だった。

 のびやかな肢体が目にまぶしい。

「今更だけど。あたしは尾澤千恵理(おざわちえり)。尾澤家の伝説、知ってる人いるかな? 尾澤家の先祖の女性が、龍神様と結婚して、子孫を設けたんだって。その血を引いているのが、このあたし」

 ああ、そうか、と、誠弥は納得した。

 だから、頭に普通の人間には見えない角が生えているのか。

「あたしは、龍神様の……大おじいちゃんの腕っぷしの方を強く引いたらしくて。魔物相手に白兵戦ってのが、戦い方なのよねー!! こういうのを使うの!!」

 ふいっと、千恵理が空中で何かを掴みだすように腕を振った。

 次の瞬間、その手の中に、華やかな螺鈿の施された鞘に包まれた、刀が出現していた。

「いぇえっ!? なんだよそれ、どっから出した……」

 んだ、と言いきることはできなかった。

 誠弥の目の前で、千恵理が鞘を払った。

 白刃が目に焼き付く。

「えっ、ちょっと待ってそれ!! それ!!! 本物の刀じゃないの!? 刃、潰してないよね!?」

 目を白黒させている誠弥に、千恵理は刀を見せびらかすように軽く動かして見せた。

 わずかな動きでも、そして素人の誠弥にも、彼女がそれを振るうことに慣れているというのが納得できる。

「あったりまえでしょ? 魔物の中には、実体を持ってるやつも沢山いるのよ。そんなお行儀よく戦えないわよ」

 誠弥が言葉を失っているうちに、千恵理は彼に視線を注いだ。

「最初見た時から気になってたんだけど、あなたげっそりしてるわね。取り憑かれてるって訳ではなさそうだけど、霊関係で困ったことあるんじゃない?」

 核心を突かれて、誠弥はぎくりとした。

「大道くん。一応、体験入部という形でいい。仮にオカルト研究部に入って、君の悩みを解決してみないかね」

 黒猫形態のまんまの部長礼司が、ごろごろ喉を鳴らした。

 ごくりと、つばを飲み込み。

 誠弥は立ち上がった。

「一年三組、大道誠弥(おおみちせいや)です。特にこれといった特技はありませんが、霊……っていうのか、変なものが見えます。けっこう怖い目にもよく遭います。霊感があるっていうのでしょうけど、特に何か得したことはありません」

 淡々と。

 誠弥は、言葉を紡いでいった。

「ただ、最近特に困っているのが……」

 続いた言葉に、礼司も、紗羅も、千恵理も、切り裂くような鋭い気配を見せたのだった。

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とじる

2 我はレギオン

「それ」は、明らかに今まで見てきた「モノ」とは違っていた。

 普通の、路上や人の集まっているところに「いる」ようなやつは、ぼんやりとでも人の形をしている――少なくとも、元が人だったとわかる形状はしている――ものだが、それは、全く人間離れしていた。

 固形物なのではないかと疑われるような、濃厚な存在感の黒灰色のもやの中に、無数の人間の顔や手が浮かび上がっている。

 それが嵐の雲のように渦巻きながら、路上をさまよっている。

 何かを探し求めるように。

 最初に見た時は、春休み中の公民館だった。

 何かの展示会をしていたのだと思う。

 だが、それが入って行った翌日。

 公民館は、原因不明の火事で、死者数名を出す惨事となった。

 次に見たのは、住宅街。

「それ」は少し大きくなっていた。

 入って行った家で、一家心中事件が起きた。

 父親が家族を殺し、自分も自殺したのだ。

 そしてつい最近も、見かけた。

 夜の路上で。

 公園のベンチで眠り込んでいた酔っ払いの上に覆いかぶさってしばらくすると、いびきが聞こえなくなった。

 恐ろしくて、誠弥は走って逃げた。

「……偶然かも知れないけど、俺の行く先々に現れるんです」

 全部吐き出した誠弥は、いっそすっきりした顔をしていた。

「このままだと、次は自分が襲われるんじゃないかって怖くて……。そもそも、あれって一体……」

 あんなもの、見たことない、とこぼすと、オカルト研究部部員たちの間に鋭い視線が走った。

「……実を言うと、それはそう珍しいものでもないよ。世界中にいるんだよ。人の集まっているところで、ある一定以上の確率で出現するのはどうしようもない」

 さすがに難しい顔を魅せながら、黒猫の礼司部長が断言した。

「あー、親父からも、大じいちゃんからも聞いたなあ。なんてったっけ、ああいうの」

 千恵理が指で額をこつこつ叩いた。

「有名なところだと、新約聖書に登場しますね。イエスに追い払われる役で」

 冷静な調子で、紗羅が説明を始めた。

「レギオン、って聞いたことがありますか? 『軍団』という意味ですよ。無数の悪霊が塊になった状態です。イエスはそれを豚の群れに乗り移らせて、湖に突っ込ませて全滅させていますけどね。さて、この場合……」

「……そんな沢山の動物の群れなんて、用意できないんじゃあ……」

 ここは地方都市だ。

 もっと田舎の方に行けば牧場の類や養豚場の類があるかもしれないが、街中では無理である。

 誠弥は絶望感に襲われた。

「いや、必ずしも同じ事をする必要はありませんよ。無数でも、悪霊は悪霊です。理論的には、普通の悪霊に通じる攻撃法――法力や、神聖な武器による打撃が通じるはずなんです」

 静かに落ち着かせるように、紗羅は誠弥に説明を続ける。

「でもさ、誠弥君の話だと、かなりデカくなってない? 大丈夫かな、いつもの方法で?」

 まあ、斬れるなら斬るけど、一部でも逃がしたら、元の木阿弥なんじゃ?

 と千恵理が疑問を差しはさむと、礼司が誠弥の目の前でにゃあと鳴いた。

「そう。それなりの方法があるはずだが」

「……核がね。いるはずなんですよ」

 唐突に、紗羅が切り出した。

「レギオンの中心になっている核が存在するはずです。その核になっている悪霊をむき出しにすれば、かなり楽に倒せるはずなんですが」

「核……ですか」

 それは、どんな悪霊なのだろう。

 無数の悪霊を取り込んで一体化するほどの、強烈な怨念の持ち主なのだろうか?

「予想されておいでかと思いますが、『軍団』と言われるような強力な霊的群体の中心になるような存在ですから、並みの怨念じゃないですよ。心してかからないと、我らでも危ないかも」

 釘を刺すように、紗羅が忠告する。

「でもさ、放っておけないよね? 生きてる人間を一瞬で絶命させるような強力な霊体に育ってるんだからさ」

 千恵理が腕組みする。

「核になっているのが、どんな人だったのか、分かればだいぶ楽なんだがね……」

 礼司が誠弥の前で、にゃあ、と鳴いた。

「恐らく、比較的最近に、この近辺で、恨みをたぎらせるようなことで亡くなった人間ですか。報道されているなら、絞れそうな気もしますが……」

 紗羅が考え込む。

「あの……ちょっと気になったんですけど」

 誠弥は、おずおずと発言した。

「ん? 誠弥君、どうしたの? 心当たりでもある?」

 千恵理が振り向く。

「心当たりって言えるかどうか……その、俺が見たそのレギオンの出現場所なんですが」

 全員の視線が、誠弥に集中する。

 彼は深呼吸して考えをまとめた。

「最初は公民館。次がB町の住宅。最後が、商店街向こうの公園」

 あ、と誰かが漏らした。

「……だんだん、この学校に近付いてくるのが気になるんですよね……」

 全員が、顔を見合わせた。

「この学校の関係者……? 酷い亡くなり方をした人……? いた、そんな人?」

 千恵理の疑問に、答える声はなかった。

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とじる

3 顧問の先生も只者ではない?

 こつこつと、部室の扉を叩く音がした。

「はい? どうぞ」

 紗羅が応じると、音を立てて古くなった引き戸が開く。

 姿を見せたのは、すらっとした細身の、まだ若い男性教諭だった。

 くっきりした目鼻は、古い時代の俳優みたいだ。

「……やあ、今年の新入部員は……入ったようだね」

 誠弥と千恵理を見ると、その教師は満足気に微笑んだ。

「尾澤さんは、事前に聞いていた通りだけど、そちらの男子は? 飛び込みかな?」

 そう言われて視線を注がれ、誠弥はどう答えたものかと、救いを求める目を紗羅に向けた。

「こちら、オカルト研究部の顧問の平坂(ひらさか)先生です。平坂先生、予定通り尾澤千恵理さんと、同じ一年三組の、大道誠弥くんです。どうも、彼、霊感が強いらしくて。尾澤さんの角が見えるんですよ」

 誠弥は、感心した顔を見せる平坂教諭に、一応ぺこりと頭を下げる。

 さっきから気になっていたのだが、どうも千恵理がこのオカルト研究部に入るのは、入学前から決まっていたようだ。

 どういう話し合いがあったのか知らないが、誠弥はそこに割り込んだイレギュラーなのだろう。

「ああ、大道くん。特にこの平坂先生には霊感を隠さなくていいよ。先生自身、『わかってる』人にゃから」

 長机の上で、腹を撫でろと言わんばかりに転がる黒猫部長を、誠弥は思わずナデナデしてしまう。

 ああ、もふもふ。

「黒猫くん。思いがけない飛び込みに嬉しくなるのはわかるけど、学校で安易に正体を見せてはいけないっていってあるだろう? 気難しい人もいるんだからさ」

 コの字の棒の反対側、誠弥と千恵理の向かい側にさらりと座って、平坂はそう警告する。

「にゃー。あの先生とかですにゃあ。確かに見つかったら三味線にされそうですからにゃあ」

 いきなり黒猫が、人間に戻って机の上に座っていた。

 ぎょっとする誠弥に爽やかなスマイルを投げかけて、無駄にかっこつけた足取りで、彼は部長席に戻って行った。

 なんなんだ一体。

「今のところ、新入部員はこの二人かな?」

 平坂は誠弥と千恵理を眺める。

 礼司と紗羅を振り返り、

「部長は三年の黒猫くんでいいだろうし、副部長は二年の熊野御堂さんで決定だな。一年生二人は平部員、必要に合わせて部長副部長のサポートを行う、でいいだろうね」

「僕は異議なしだけど、誰か異議のある人はいるかな?」

 キャランと、礼司がイケメンスマイルを振りまいて、誰もがそれに呑まれたように納得の気配を漂わせた。

「さて、一応僕の自己紹介もしておこうか。――顧問の平坂倫太郎です。実家が、M県にある割と有名な神社でね。まあ、昔から色んなことがあったのさ。それでこういう世界に首を突っ込んでね。高校の教師なんて職業に就いても、こういう方面から離れられない訳だよ、必然的にね」

 穏やかで静かだが、不思議と耳に残る声音で、平坂は控えめな自己紹介をした。

「色んなことがあった」の下りに、誠弥は何となく自分と同類に匂いを嗅ぎ取る。

 誠弥と千恵理が改めて平坂に自己紹介を終えるや否や、千恵理が勢い込んで平坂に話を切り出した。

「ね、平坂先生!! 誠弥くんが、すっごいネタを持ち込んできたのよ!! えらいのがこの街にいて、段々学校に近付いてくるみたい!!」

 平坂はそれを聞いて、眉をひそめた。

「それは、どういうことかな? 学校に近付いてくるとは、穏やかじゃないな」

 促され、誠弥は再度、同じ話……あの、レギオンの話をした。

 平坂は時々質問を挟みながら、真剣に聞いている。

「この学校の関係者……無念の死を遂げたような人間……ううん、心当たりがないが……。去年、僕が着任した当時の校長先生が亡くなられたが、もう何年も前に退職されてるから、この学校の関係者っていうのには無理があるしなあ……」

 指を口元に持って行って、平坂は考え込んだ。

「でも、放ってはおけない事例ですよ。実際、人死にが出てる訳ですし。そのレギオンが、学校にたどり着いたりしたら、どんな惨事になるか。早急に、我らが対処すべき事例と思われますが」

 紗羅が更に推すと、平坂はますます考え込んだ。

「一応、校内で聞き込みをしてみてくれないか。あと、狙われているのがこの学校とは限らないから、誰か図書室で新聞をチェックだな。それらしい事件を調べてくれ。それと……」

「あの、どうしても校内の聞き込みはしなくては駄目ですか……?」

 誠弥がいきなり口を挟み、平山始め、全員の目が彼に注がれた。

「何よ、誠弥くん。急にどうしたの?」

 千恵理が頭上の角を、春の光に銀色に輝かせながら訊き返した。

「他はともかく、あの……その、僕、怖くて……その、職員室が」

 誠弥がそう言いだした時、誰もがその言葉の意味を図りかねた。

「誠弥くん……?」

「なんていうか……他の場所はそうでもないんですけど、職員室のある、特別教室棟の一階だけ、『寒い』んです……」

 彼の告白に、平坂が目を光らせた。

「どういうことかな? どんな風に寒い?」

「なんていうか、手入れされずに荒れ果てた墓地みたいな寒さなんです。尊重されるべきものが尊重されていない……冒涜的っていうか、ひどすぎて怖い、みたいな……」

 上手い言葉が見つからずに呻吟している様子の誠弥を、平坂も部員たちも見詰めた。

「……黒猫くんは聞き込み、熊野御堂さんは図書室へ。僕は大道くんに話を聞く。尾澤さんは大道くんに付き添ってくれ」

 平坂がてきぱき指示を飛ばし、部員たちはそれぞれ従った。

 礼司と紗羅が立ち去った後の教室で、誠弥は改めて、千恵理と共に平坂に向き合うことになった。

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とじる

4 運動部部室棟での聞き込み

「へえ、その、市原さんて子が、春休み前から行方不明なんだね?」

「うん、一年の三学期の終わりから学校に来なくなっちゃったんだよね。家出したって聞いたけど、家族仲が悪いとか聞いたこともなかったし、なんで急に!? ってのが正直なとこ」

「本当は、二年生で私と同じクラスになるはずだったんだって。愛実(まなみ)の席だけ、うちのクラスでぽつーーーーって空いてる」

 礼司は、輝く笑顔と愛想を振りまきながら、運動部の部室の立ち並ぶ部室棟の廊下で話し込んでいた。

 礼司の正体は猫又だ。

 猫又とは、幻惑し、操る者。

 特に愛想を振りまかなくても、礼司の視線に捕らえられた者は彼の思い通りに振舞うものだ。

 だが、表向きは愛想のいいイケメン男子相手に、女子生徒が口が軽くなった、という状況を装う方が「自然」である。

 かくして、礼司はたまたま部室棟の廊下で捕まえた陸上部の二年生女子数人相手に、もっぱら――妖力を使って――聞き込み中という訳である。

「その子が家か、学校が嫌になったとして……何か、原因あるのかなあ? 誰かとトラブルがあったとか、嫌われてたとか?」

 もしかして部活内でのいじめでもあったかも知れないが、あえてオブラートに包んで、礼司はそんな風に尋ねる。

「いやぁ。性格はいい子だし、見た目も可愛いし、嫌われてるとか、いじめられてたとか、そういうことは……」

 右の子が首をひねれば、左の子がすぐさま割り込んだ。

「あ、でも、トラブルってほどじゃないけど、部活のことでは悩んでたと思うよ」

「ん? 部活で市原さん、どんな悩みがあったのかな? 何か聞いたことがある?」

 柔らかい口調で促すと、その女子生徒はやや頬を染めながらも、きっぱり答えた。

「記録が伸び悩んで……。陸上部の顧問の佐藤先生に、すっごく怒られてるの見たことがある……」

 声をひそめ、その女子生徒はささやいた。

「あ、私がこんなこと言ったなんて、佐藤先生に絶対に言わないで下さいね!! このことでは佐藤先生も、ナイーブになってるっていうか……」

 さもありなん。

 礼司は腕組みした。

 きゅっと端正な眉を寄せた表情に、周囲の少女たちは――妖力で魅惑されているのもあるが――うっとりしている。

 下手をすると、部活のことで悩んだ挙句、どこか人目につかないところで自殺でもしている可能性がある。

 それが自分がきつく叱ったせいだと言われれば、その佐藤という教師は社会的に抹殺されかねない。

 部活の生徒には緘口令を敷いたであろうことは、想像に難くない。

 礼司も体育教師の佐藤という人物のことは知っているが、悪い意味での体育会系にかなり寄っている。

 これは早速当たりが来たかも知れないが、もしこの想像が当たっているとして、今、彼女は……市原愛実(いちはらまなみ)という少女は、どこで「どうなって」いるのだろう。

 自殺だとして、遺体が見つかったという話は聞かない。

 なら、どこで自殺したのか。

 自殺者は、遺体をねんごろに弔い、無念の思いを受け止めてやれば、多少はなんとかなることが多いものだ。

 遺体の場所を探り当て、それなりの儀礼でもって葬送し、悪霊化している彼女の霊魂を鎮撫するなり強制的に成仏させるなりする。

 場合によっては、その原因になった人物の謝罪や、それなりの社会的制裁などが加えられているところを見せて納得させることが必要かも知れない。

 しかし、そうなると……

「ねえ。市原さんがよく行ってた場所なんか知らない? 自然が多いところとか、思い出の場所とかって聞いたことないかな?」

 礼司がそう突っ込むと、女子生徒たちは考え込んだ。

「市立のNグラウンドなら……すぐ近くに、キャンプ場があって、夏休みに数日陸上部で借り切って強化合宿したけど……」

 郊外の普段は人気(ひとけ)のないグラウンドの名前を出されて、礼司の目が底光りした。

 その時。

「おい、お前ら、なにしてる!!」

 耳朶を打つだみ声が、部室棟の廊下に響き渡った。

「あっ……佐藤先生」

 陸上部の女子生徒たちの顔が青ざめる。

 よりにもよって、噂にされていた本人が廊下にいつの間にやら姿を現していた。

「ゴリラ」という言葉で想像されるような特徴を、残らず備えた、中年男性教諭だった。

 筋肉質で大柄、色黒で、鼻の潰れた大きな顔、薄汚れたジャージ。

「そこの三年生!! お前何部だ!!」

 怒鳴られても、礼司は平然とした態度を崩さなかった。

「あ、どうも、オカルト研究部の部長です。新学期最初の活動ということで、学校の七不思議を調べていたんです。でも、運動部の部室棟って、あんまりそういうのはないみたいですね」

 礼司は咄嗟に嘘をついた。

 自分を守るためであるが、自分に情報提供してくれた、陸上部の女子生徒たちを守るためでもある。

 ちょっとおぞましいが、佐藤にも魅惑の視線を飛ばして敵愾心を折っておく。

「ふん……つまらんことを。他を当たれ」

 魅了が効いたらしく、思いのほか穏やかに、佐藤は礼司を追い払いにかかった。

 しっしっ、と手で払う。

「はい、失礼しました。みんなも、ごめんね、つまらないこと訊いて」

 目顔で合図し、口裏合わせの了解を取り付けて、礼司は優雅に一礼すると、颯爽と立ち去ったのだった。

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とじる

5 求聞持聡明法

「春休み前と、春休み中の新聞? 書庫にあるけど、どうするの?」

 図書館の司書にそう言われて、紗羅はぺこりと一礼した。

「ありがとうございます。オカルト研究部の活動なんです。新学期早々、学校の内部で流布する怪談と、実際に社会の中であった事件との相関関係を調べる、という課題が出まして」

 ぽっちゃりした、いかにもマダム風の司書教諭は、おかしなことをする部活だな、という顔を隠そうともしなかったが、書庫の鍵は貸してくれた。

「さあて……左奥の……あの棚ね」

 紗羅は眼鏡をくいと持ち上げると、書庫の電灯を灯し、左奥の新聞の棚に向かった。

 書庫はしっとりした、古いインク特有の匂いが充満している、窓もない、そこそこ広い空間だった。

 壁際一面と、部屋中の等間隔に迷路のように本棚が配置され、主に古びた学術的な蔵書が並んでいる。

 紗羅としては主に宗教史や文化人類学関連の本を読み漁りたいところであるが、努めてそれらの棚から目を引きはがし、古新聞に意識を集中する。

 新聞棚は、書庫に入って左奥突き当りだった。

 ごく古いものはまとまって段ボールに詰め込まれ、一定期間が来れば廃棄されるはずだが、まだ新しい古新聞は、棚に日付順に重ねられている。

 紗羅は棚に置かれた、地元地方紙の古新聞を手にし、床に下ろした。

 次いで、昨年度三月分の表記のある段ボールを手に取り、年度末の時期、つまり春休み直前の時期の地方紙を取り出す。

 紗羅はカバンから錦の袋を取り出した。

 中から輝く五鈷杵が姿を現す。

 まとめて置いた古新聞を前に結跏趺坐(けっかふざ)し、両手を合わせ人差し指親指でそれぞれ円を作り、両手の他の指を伸ばしたまま交互に交差させる、虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)の印を結んだ。親指で支えるように、金剛杵を印に組み込む。

「求聞持聡明法(ぐもんじそうめいほう)。オン・バサラ・アラタン・ノーオン・タラク・ソワカ!!」

 低いがはっきり聞える声で真言を唱えると、黄金の波動が書庫中に広がったように見えた。

 見る者が見れば、紗羅の全身は、明星のような黄金の輝きに包まれ、さながら地上に顕現した菩薩のようだった。

 紗羅の脳裏には無数の情報があふれてきた。

 さながら、伝説に伝え聞く、宇宙の書庫のごとく。

 ばらばらにされた映画のフィルムのように、無数の「刹那」が、果てしない宇宙空間に乱舞しているかのような光景。

 その無数の「刹那」の中に、紗羅は「その光景」を見つけた。

 暗い住宅街。

 紺色の平凡なセダン。

 それに乗っている、その顔を、紗羅は確かに見た。

『あれは……』

 紗羅は、五鈷杵を制服の内ポケットにしまい込み、凄い速さで古新聞をめくった。

 昨年度末のその地方紙。

 三月初頭で手が止まった。

『県立城子高校一年生の市原愛実(いちはらまなみ)さん(16)が行方不明。二月二十七日夕方、部活の顧問教諭に自宅前まで車で送り届けられたのを最後に、行方が分からなくなっている。警察は顧問教諭に詳しく話を聞く一方、周辺の聞き込みなどを続けている』

『城子高校に通う女子生徒、依然行方不明。最後に接触した、陸上部顧問の佐藤幸男教諭(47)の車が愛実さん宅近くで近隣住人に目撃されていることから、佐藤教諭が自宅近くまで送り届けたまでの足取りは確実。その後、自宅までの30mあまりで、愛実さんは行方不明に』

『陸上部顧問教諭によると、市原愛実さんは陸上の記録が伸び悩んでいたことを気に病んでおり、たびたび顧問教諭に相談していたとのこと。同じ部活の生徒らなどからも、事情を聴く方針』

 紗羅の眼鏡が、書庫の薄暗い照明を浴びて輝いた。

「求聞持聡明法」は、無限の知識の扉を開く真言。

 それは宇宙の記録庫に保存された「現実に存在したこと」であり、間違いやごまかしは通じない。

 そして、それと目の前の新聞に記載された「人間社会の目から見た出来事」の対比。

「これは……」

 紗羅は低く呻いた。

 どうも、事態は思ったより混み入っているようだ。

 ポケットからスマホを取り出して、フラッシュを焚いて該当の記事を写し取る。

 十枚近くの写真を写し取り、紗羅はようやく一息ついた。

「困ったわね、これは。どういう攻め方がいいのかしら」

 そう口では言いながらも、すでに獲物を捕らえた猛禽のような鋭い眼光で、紗羅は次の段階への踏み出し方を、脳裏に思い描いていた。

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