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僕と彼女が奏でる音 完結

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彼女は、いつも現れた。
毎週土曜日、ストリートライブを行う僕の前に……。

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 いた……!

 また〝あの子〟が、いる!

 譜面に視線を落とし、ギターを抱え直したそのとき、ふと気配を感じて顔を上げたら……。

 いつものあの子が、すこし先でたたずんでいた。

 透きとおった瞳で、こちらをジッと見つめている。

 そこで僕は、彼女にニコッと微笑みかけ、それから目をつむって、すうっと深く息を吸い込み、ゆっくりと吐きだした。

 よし!

 僕は、ゆるやかにギターを爪弾き、昨夜できあがったばかりの新曲を歌いはじめた。

 おだやかな風が吹き渡り、視界の端で彼女のスカートの裾が、ふわりと揺れる。

 数小節ほど歌い終わったところで、おもむろに顔を上げた。

 すると彼女は、相変わらずそこにいて、僕の新曲に耳を傾けていた。

 とても静かな表情だったけれど、僕にはわかった。

 彼女は、どうやらこの曲を気に入ってくれているらしい、と。

 僕は、どこかホッとして、いつの間にか強張っていた全身から力を抜いた。

 と、不思議なことに、僕から生まれる音も柔らかく滑らかになっていく。

 やがて、無事すべてを披露し終わり、数人いる聴衆から、ささやかな拍手が送られた。

 だけど、彼女は、ただそこに立っているだけ。

 でも、僕には、ちゃんと伝わってくる。

 彼女が、とても満足してくれているらしいことに。

 よかった……。

 今回も、どうやら上手くいったみたいだ。

 安堵しながら、譜面をたたむ。

 その瞬間だった、フッと彼女の気配が消えた気がした。

 あわてて顔を上げる。

 あ……。

 やっぱり気のせいなんかじゃなかった。

 一瞬の間に、彼女は忽然と姿を消していた。

 焦りながら、ぐるりと周囲を見回してみる。

 だけど、彼女の姿は、どこにもなかった。

 ふっつりと、その場からかき消えたように彼女はいなくなってしまった……。

 ああ、まただ……。

 足が速い、なんてもんじゃない。

 なぜか彼女は、いつも僕が譜面を閉じた瞬間に、まるで煙のように消え失せるのだ。

 こんなことが、もうニヶ月も続いている。

 初めのころは『ちょっと目を離したすきに帰ったのかな?』くらいにしか思っていなかった。

 けれど、それが何度も続くと次第に『不思議なこともあるよな……』と首を傾げるようになり。

 ここ数回ほどは、それでは、だんだん済まされない気分になってきた。

 僕は、ギターをケースに片付けながら、ある決意を新たにした。

 こんどこそ!

 こんどこそ、彼女が現れたら話しかけてみよう!

 彼女が姿を消してしまわないうちに。

 毎週土曜日、駅前の広場で歌いはじめて、ちょうどニヶ月経った夜、僕はそう心に固く決めたのだった。

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とじる

 僕は、三ヶ月前まで、通っている高校の軽音楽部に所属していた。

 部員は、僕を含めて五人。

 バンドをひとつ作って、文化祭はじめ、いろんな行事ごとに皆で演奏を披露していた。

 ちなみに僕は、ギター担当。

 軽音に入ってから必死で練習し、なんとか人に聞かせられるレベルにまで上達した。

 演奏する曲は、僕たちのつくったオリジナルだったり、そうでなかったり。

 曲づくりは、主に僕と、部長でありボーカル担当である伊吹(いぶき)が、担当していた。

 僕たちは、上手くやっていたと思う。

 実際、三ヶ月前のあの日までは、万事滞りなくバンドは機能していた。

 あの日――。

 文化祭用の新曲をつくっていたときのこと。

 伊吹と、ちょっとした言い争いになった。

 きっかけは、ほんの些細なことだったと思う。

 だけど、僕たちは、どんどん激昂して、

「やってらんねえ!」

 バーン!

 まず喧嘩っ早い伊吹が、ドアを蹴破って部室を出て行ってしまった。

 それきり僕たちは仲直りできず……。

 事態は、こじれきってしまい。

 僕が、軽音を辞めた。

 仮にも伊吹は部長だから、この場合、身を引くのは自分の方だろう……と思ったから。

 まあ、よくある〝音楽性の違い〟というヤツだ。

 名のあるバンドが、よくその理由で解散するとき、どうにかならないものか、と思ったけれど、同じ場面に遭遇してよくわかった。

 あれは、〝どうにもならない〟。

 いまでも残念な気持ちはあるけれど、仕方ない。一度ああなってしまったものは元にはけっして戻らない。

 そうして軽音を止めた僕は、毎週土曜日に駅前の広場で歌うようになった。

 誰も足を止めてくれなくたっていい。

 ふらりと現れた誰だかわからない一高校生が、弾き語りを始めても、きっと耳を傾けてくれないだろう。

 皆、忙しいのだ。

 それは、よくわかっていた。

 ただ、表現できる場が欲しかった。

 こうして週末になると、僕はギターケースを背負って駅前の広場に通い、予想どおり誰もが足早に通り過ぎる中を、ひとり淡々と自作の曲と気に入っているアーティストの曲を弾き、歌った。

 そんな中、彼女だけが、初めから〝そこ〟にいた。

 僕から三メートルくらい離れた、話しかけるには少し遠く、だけど気に留めないようにするには、ちょっぴり近い……なんとも絶妙な位置に。

 ぽつねんと立ち、演奏が終わっても拍手をしたり僕に話しかけたりすることもない。

 ただ、〝そこにいる〟んだ。

 そして、彼女は、少々不思議な雰囲気をまとっていた。

 ふわりといまにも空気中へ溶けこんでしまいそうな、透きとおっているような……。

 ああ、そうだ。

 こう説明するといいかもしれない。

 生身の人間というよりも、どこか人形を思わせるような気配を漂わせていた。

 人形を思い浮かべたのは、彼女の顔の造作が、ひどく整っているせいもあるかもしれない。

 彼女は、綺麗だった。

 端的に言えば、〝美少女〟だった。

 歳は、たぶん僕と同じくらいだと思う。

 身長は、どれくらいだろう?

 すこし小柄な気がする。

 それから、パツン、と肩口で切りそろえられたサラサラの黒髪と、つぶらな黒い瞳が、とても印象的だった。あんまり表情は変わらないのに、瞳は雄弁に彼女の心の動きを伝えてくる……ような気がした。

 服装は、たいてい白いブラウスに黒いフレアスカート。ブラウスの襟元には、黒の細いリボンを結んでいる。

 ごくシンプルな格好だった。

 あまりにシンプルだから『どこかの制服かなあ?』とも考えてみたけれど、この近辺に、こんな制服を採用している高校は無い。

 そんな具合だから、あるとき僕は『本当は〝生身の人間〟じゃないんじゃないか?』って疑ったりもした。

 前日の金曜日の夜、テレビで見た心霊番組のせいも、ちょっとあったかもしれない。

 翌日。僕は、おそるおそる、それでいて注意深く彼女の様子を観察した。

 彼女は相変わらずだった。

 ただそこに、ポツンと立って、こちらを見ている。

 だけど、ひとつだけ彼女が〝ちゃんとそこに存在している〟という確証を持てる現象に、すぐに気づいた。

 誰もが彼女のことを〝避けて〟通っている!

 よかった! 幽霊なんかじゃない!

 ちゃんと生身の人間だった!

 僕は胸を撫で下ろし、それにしては希薄な彼女の存在感に、やっぱり首を傾げたのだった。

 彼女は、いまにも、すうっと空中に消えてしまいそうな、ふわふわとした雰囲気をまとって、毎土曜日僕の前に姿を見せた。

 おまけに、僕が歌い終わり、譜面を閉じると同時、煙のようにどこかへ行ってしまう。

 そんなふうに、謎多き彼女だったけれど、僕がギターを弾き歌いはじめると、必ずどこかから現れて、耳を傾けてくれた。

 毎回けっして欠かさずに。

 このごろようやく僕の演奏に足を止めてくれるひとが現れはじめ、常連ともいえるありがたい存在もできはじめた中にあっても、彼女は〝トクベツ〟だった。

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たわいのないコメントでごめんなさいヽ(^o^)丿あまり難しい事書こうとすると、何書いていいのか分からなくなるのだ笑……トクベツってカタカナなのが、いいなあと思って!!あえてカタカナにするって、こだわりがね、いいなあとヽ(^o^)丿迷う時僕はあります。漢字かカタカナか。特定の表現でね。このトクベツみたいに、効果的に表現できると、いいなあ

湊あむーる

2018/8/27

2

湊さん、読んでくださって、うれしいコメントをありがとうございます(≧∇≦)
実は、漢字にするかカタカナにするか、どうしようかなあ? と考えたところだったので、そう言っていただけて、とっても嬉しいです!! 
オススメとお気に入りもありがとうございます<(_ _)>
いつもありがとうございます、すごく励みになってます(*´∇`*)

作者:りんこ

2018/8/27

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とじる

 次の土曜日になった。

 彼女は……っと。

 譜面やギター、諸々の準備を終えた僕は、はやる気持ちを抑え、周囲をグルリと見回す。

 このごろ、集まってくれるようになった常連に「こんにちは!」とあいさつをしながら。

 すると……。

 いた!

 彼女は、夕日の射す街路樹の陰から、こちらを見ていた。

 柔らかな朱色の光を全身にまとって。

 よかった……。

 僕は、笑い返してくれないとわかっていても、微笑まずにはいられなかった。

 ギターを抱え、譜面に視線を落とした僕に、ギャラリーから拍手が送られる。

 そうして僕は、先週より幾分、演奏と歌い方を変えた新曲を歌った。

 アレンジに気づいてくれた耳ざとい聴衆から、「おっ!」という驚きの声が上がる。

 僕はニヤリとして、それに応え、ギターをかき鳴らし、声を張り上げた。

 歌声が、演奏が、あますことなく彼女に届くように。

 僕のありったけの想いを載せて歌いあげる。

 いつも、ありがとう!!

 本当に、ありがとう……。

 君がいてくれて、どんなに励みになっていることか。

 誰も聴いてくれなくたっていい、そう思っていたのに。

 いつしか僕は、ここへ来たら真っ先に君の姿を探すようになって――。

 いてくれたら、ホッとして。

 心の底が、ポッと温かくなるんだ。

 まるで、暗闇にろうそくの炎を灯したかのように。

 いや、そうじゃないな。

 ろうそくなんかじゃ足りない。

 冬の日の暖炉だ。

 暖炉の中、明々と燃える薪とそこから生まれる温かな熱を思い浮かべて、僕はひとり心の中でうなずく。

 あんなことがあって、軽音を辞めて……やっぱりどこか気持ちがすさんでいたんだろうな。

 どんよりと灰色の世界に沈む僕を、明るく照らしてくれたのは、他でもない、彼女だ。

 そのときだった。

 ふと、僕はひらめいた。

 そうだ!

 彼女のために、曲をつくろう!

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とじる

 そうして一時間ほどのストリートライブを無事終えた僕は、片付けを始める前、真っ先に彼女の元へ向かった。

 でないと、また彼女が姿を消してしまうかもしれないから。

 よっぽど必死の形相をしていたのかもしれない、ずんずんと迫っていく僕に、彼女は、ちょっとビックリしているようだった。

 相変わらず表情は、さほど動かない。けれど、僕にはそれがわかる。

「や、やあ」

 いざ、こうして目の前にしてみると、なかなか言葉が出てこない。

 な、何を言いたかったんだっけ?

 頭が真っ白になる。

「……何?」

 彼女が、不審そうな表情で口を開いた。

「ッ!」

 おもわず息をのむ。

 これが初めて彼女の声を耳にした瞬間だった。

 心臓が早鐘を打ち始める。

「あ、あのさ……。いつも来てくれてるだろ?」

「…………」

 彼女は、大きな黒い瞳で、こちらを見つめてくるだけで何も言わない。

 焦る。

 僕、何を言いたかったんだっけ?

 あ、ああ、そうだ。

 お礼を言いたかったんだ。それから……。

「ありがとう、すごく励みになってるんだ」

 やった、どうにか言えたぞ!

 すると、すこし間を置いて、

「…………そう」

 淡々とした声と言葉が返ってきた。

 だけど、僕には、それだけで充分だった。

 どころか、嬉しさで気持ちが舞い上がっていたかもしれない。

 それで、つい……言ってしまったんだ。

 いや、言おうとは思っていたんだけど、話しかけたときの彼女の反応次第では伝えないままにして、心の奥深くに留めておこうと考えていた事柄を、ぽろりと口にしてしまった。

「それでさ、お礼というか、その……君のために曲をつくらせてもらえないかな?」

 ああ!

 言ってしまった!

 初めて話しかけたのに、こんなことを言って、彼女に引かれやしないだろうか?

 僕は、急に怖くなった。

 これっきり彼女の姿を見られなくなるんじゃないかと。

「あ、いや、べつにいいんだ、断ってくれても。だから、その……」

 僕は大慌てで、しどろもどろに弁解を試みた。

 そうすると、彼女は、よりいっそう鋭い眼光を僕に注ぎ、

「それはダメ」

 キッパリと言いきった。

「そ、そっか……」

 ガックリと肩を落としかけ、ふと疑問が湧いてくる。

 この場合の〝ダメ〟は、どっちだ?

 彼女のために曲をつくるのがダメ?

 それとも……。

 彼女のために曲をつくらないのがダメ?

「えっと、ゴメン……。もう一回聞いてもいい? 君のために曲をつくるのがダメ? それとも……」

「私のために曲をつくるのがダメ」

 彼女は、僕がすべてを言い終わらないうち、情け容赦ない物言いで断言した。

「そ、そっか……うん、わかった……。じゃ、じゃあね」

 こうみえて、けっこう繊細な心に、おもいっきり傷が入ってしまった僕は、悄然として踵を返した。

 本当は、もっと彼女と話したかったけれど、その気力が、いまの彼女の言葉で根こそぎ持っていかれてしまった……。

 彼女に背を向け、一歩足を踏み出しかけたそのとき、

「待って。最後まで聞いて」

 そんな言葉が背後から投げかけられた。

 戸惑いつつ、振り返る。 

 と、昼と夜のあわい、薄紫と藍に染まった空間の中で、彼女はフワリと肩までの黒髪をなびかせながら、ゆっくりとこう言った。

「私のために曲をつくってはダメ」

「……それは、さっきもう聞いたよ」

 僕は傷心を抱え、つぶやく。

 しかし、彼女は僕の声が届いているのかいないのか、表情をいっさい変えず、こちらを見つめている。

「じゃあ、もう行くよ……」

 再び背を向けかけた僕に、彼女はこう続けた。

「でも、〝あなたのために〟曲をつくって」

「……え? 〝僕のため〟?」

「そう。あなたのつくりたい曲を、あなたの中にある音と言葉でつくって。そしたら、私はこれからも、あなたの傍にいる」

「僕のつくりたい曲を……そしたら、また聞きにきてくれるって?」

 僕は、目をパチクリさせながら、彼女に問いかけた。

 コクリ、彼女は薄暗がりの中でもハッキリとわかる仕草でうなずいた。

「そう。そしたら、ずっとあなたの傍にいられる。そうでなければ、私はあなたの傍にいられない」

「……?」

 どういうことだろう?

 いまいち、彼女の言葉の意味が呑みこめない。

 僕はキョトンとして、彼女を見返した。

 僕が自分のために曲をつくったら、彼女はこれからも聴きに来てくれる。

 反対に、自分のために曲をつくらなかったら、もう聴きに来ない。

 そういうことを意味する、彼女独特の言い回しなんだろうか?

 不思議なところの多い彼女だ、言葉の使い方のセンスも人とは、ちょっと違うのかもしれない……。

 僕は、そう解釈して、

「わかった。じゃあ、自分のために曲をつくるよ。僕の中にある音と言葉で」

 と、彼女に伝えた。

 瞬間、彼女を取り巻く雰囲気が、和らいだ気がした。

 もうかなり暗くなってきて、彼女の表情は、よくわからないけれど……。

 どうやら僕の言葉は、彼女のお気に召すものだったらしい。

「そしたら、また来てくれる?」

「…………」

 言葉は返ってこなかった。

 代わりに、シルエットになった彼女の頭が、かすかに縦に動いた。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/08/27)

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とじる

 それから――。

 僕は、自分の内から湧きあがってくる音と言葉で、さまざまな曲をつくっては、毎土曜日にストリートライブを行った。

 そして、〝僕が僕のために自分の音と言葉で曲をつくる限り、ずっと聴きに来てくれる〟と約束してくれた彼女も、その約束を一度たりとも違えなかった。

 本当に、ずうっと聴きに来てくれたんだ。

 しかし、僕が大学に入学して、講義にバイトにサークル活動……と、新しい生活に忙しくなって、だんだんとギターと音楽から遠ざかるようになり、ストリートライブも次第に間隔が間遠になり、いつしか開かなくなってしまった。

 必然的に、彼女とも、それきり会うことはなく……。

 ふとしたときに、思いだすことはあったけれど。

 こうして、音楽から遠ざかったまま、僕は大学を卒業し、社会人になった。

 いまや、あんなに夢中になっていたギターも、部屋の隅で、すっかりホコリをかぶってしまっている。

 そんなある日のこと、高校の軽音部で一緒だったヤツに、街中でバッタリと会ったんだ。

 懐かしそうに声をかけてきたソイツも、いまは音楽をやっていないと告白し、『あのころは楽しかったな……』と、遠い目をして言った。

 僕も笑いながら返した。

『そうだな、楽しかったなあ』

 そのときだった。

 ムクムクとある思いが心の中に湧きあがってきたんだ。

〝もういちど音楽をやってみよう!〟と。

 唐突すぎると言われるかもしれない。

 それに、本当にどうしてなのかわからないけれど、ただそう強く思ったんだ。

 音楽の神様が舞い降りてきて、僕に告げたのかもしれない。

 もういちど音楽をやれ、と。

 それからの僕の行動は早かった。

 ギターを手入れし、ギターと歌の練習を再開し、過去の自作曲を完璧に演奏できるよう猛特訓した。

 新しい曲も、いっぱいつくった。

 自分のうちから、ほとしばり出てくるがままに。

 そうして――。

〝彼女〟は、再び僕の前に現れた。

 あのころ――僕が高校生のときに会った、そのときの姿のままで。

 僕が確実に歳を重ね、年相応の外見になっているのに反して、彼女はビックリするくらい何も変わっていなかった。

 白いブラウスの襟元に黒く細いリボン、黒いフレアスカートに小柄な体を包んでいる。

 肩先で切りそろえたサラサラの黒髪、表情豊かなつぶらな黒い瞳、そんな瞳に対して酷く無口で……。

 僕は、そんな彼女の姿を思い浮かべながら、クスッとし、譜面を開いた。

 瞬間、ライブハウスの片隅に、ふわりと……。

 いつもどおり彼女の姿が現れた。

 丸く大きな透き通った瞳で、ジッとこちらを見つめてくる。

 僕は、彼女に微笑みかけ、ギターを抱え直した。

 聴衆から、拍手が上がる。

「こんばんは。じゃ、さっそく……」

 僕はあいさつもそこそこに、一昨日完成したばかりの曲を奏ではじめた。

〝彼女〟と一緒に。

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とても見やすく入り込めましたヽ(=´▽`=)ノ
展開は読めてはいたんですがそれがまた良かったです(∩´∀`)∩
最後までじっくり読めました(●^o^●)

犬犬

2018/8/30

2

犬犬さん、読んでくださって、コメントとオススメをありがとうございます!!
とってもうれしいです(≧∇≦)
最後まで楽しんでいただけましたようで、良かったです~(*´∇`*)♡

作者:りんこ

2018/8/31

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とじる

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