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ペンネームは誰だ! 完結

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私の人生を変えた相手は誰?
その文章を書いた相手を探し、文芸部に入った私。
しかし新入りの私には、誰が誰のペンネームか教えてくれなくて……
五人の中に犯人、じゃなかった、憧れの人がいる!
私はその人に思いを伝えられるのか?

1位の表紙

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第1話 文芸部員を紹介します。

 私は高校に入るなり、文芸部の扉を開けた。

 なぜならそこに、私の憧れの人がいるはずだからだ。

 だけど。

 新入りの私には、誰が誰のペンネームなのかを明かしてはくれなかった。

 

 部員は私を含めると七人。

 新一年生は私、灰谷つむぎ(はいたにつむぎ)と友人の春内真尋(はるうちまひろ)の二人で、後は三年生が三人、二年生が二人という構成である。

 部員数が五人以下だと同好会扱いになってしまい、部費に影響が出るらしい。今のところは大丈夫そうである。

 私の憧れの人は、この先輩五人の中にいるはずである。

 一人目は、部長の夏木勝一(なつきしょういち)先輩。

 白のニットのポケットにいつも文庫本を突っ込んでいて、窓際の席で一人本を読んでいる。黒縁メガネが似合う、寡黙な人だ。どうして彼が部長なのかと言えば、彼が三年生で唯一兼部していないから、ということらしい。

 二人目は、部長とは対象的な在馬桃人(ありまももと)先輩。

 水泳部との兼部で、天気の悪い日になると顔を出すという、日和見な方である。ジャンルはライトノベルから純文学や自己啓発本など多種多様で、いつも様々な本を読んでいる。話しかけるとその本について楽しそうに話す、明るい読書家だ。

 三人目は、海川澪(うみかわみお)先輩。

 漫画研究部との兼部で、部誌のイラスト・装丁を担当している。

 制服なのでそこまででもないが、黒いネクタイにボーダーの靴下、ゴシック調の髪留めなど、独特の世界観のある人だ。話しかけると茶目っ気があり、人を見透かしたところがある不思議な人でもある。

 ここまでが三年生。

 私と真尋以外は、誰が誰のペンネームなのか、当然把握している。

 私が入部当初、「ペンネーム白陽一人(しろひいちひと)先輩の文章に憧れて、この部に入りました。よろしくお願いします!」と言ったばかりに、余計に皆口を貝のように閉じている。この一ヶ月、少しは打ち解けてきたのだが、まだ誰も教えてはくれない。

 私が部室に行くと、二年生の二人が先に来ていた。今日の鍵当番だったようだ。

 遠山芽郁(とおやまめい)先輩と、多田啓介(ただけいすけ)先輩である。

 遠山先輩は、数学部との兼部な、文芸部には一見珍しい理系女子である。話し出すと止まらないマシンガンなところがあり、特に推し本のことになるとやたら熱い。数学部とこちらに出る比率でいうと、圧倒的に文芸部にいる辺り、文芸部のことが好きなのだろう。

 すごい速さで本を読む遠山先輩の前で、スマホでゲームをしているのが多田先輩だ。

 多田先輩は、在馬先輩と家が近所で、昔からの付き合いらしく、その流れで何となく入部したという人だ。そのため、本を読んでいるよりゲームをしている時間が長い。本人曰く、下手なラノベを読むより、ゲームシナリオの方が凝っている場合もあるのだそうだ。

 私も少しこの部に慣れてきてはいるが、同学年の真尋がいないと、少し心もとない気分になる。真尋は風邪のため、一日欠席なのだ。

 

 今日は、今期発行する部誌について、表紙のイメージやテーマについてみんなで話し合うことになっている。

 こういうときこそ、誰が憧れの人なのか、わかるチャンスではないかと思う。

 

「遠山先輩が先日オススメされてた本、読みました」

 私がそう口を開くや否や、

「どうだった? やっぱりキャラクターが味があるでしょ。特にあの探偵役の加賀森君、彼はやっぱり良いよね。あのしゃべり、いつまでも見ていられるわー。それになんと言っても、ストーリー展開の運びの良さと、オチの意外性。あの見事な」

 以下省略。

 早口に推し本について語り始める遠山先輩。

 しばらく半ば一方的な語りが続き、一息ついたところで、多田先輩が舌打ちした。

 私は一瞬、自分に向けての舌打ちかと思ったが、どうやらゲームで何かあったようで、そちらでイラついているようだ。

 多田先輩は、なかなか話しかけづらい雰囲気の人で、まあ大体ゲームをしているから仕方ないのだが、あまりしゃべったことがない。どんな風にしゃべるのかがわかれば、書き方にも影響してくるので、文章の推測ができるというものなのだが。

 ちなみに、遠山先輩のペンネームは、恐らくこれだろうという目星がついている。先輩とまんま同じ口調の話があるからだ。

 私が憧れる白陽一人先輩は、日常の何気ない出来事を丁寧に美しく描く人だ。

 最初はもしかしたら女性なのかもしれないと思ったが、それもどうだかわからない。海川先輩は繊細そうな人なので、もしかしたら彼女かもしれないが、聞き出そうとしてもはぐらかされるだけだった。

 こうして、白陽先輩が誰かわからないまま、一ヶ月が過ぎようとしている。

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とじる

第2話 テーマを決めます

 私は、白陽先輩に憧れてこの学校に入ったし、その人に救われたとも言える。

 高校進学と言われた時、私は自分の偏差値のことぐらいしか考えていなかった。

 何がしたいとか、何がやれるとか、そういうことを考えて選ぶつもりはなかった。

 夢もなかった。

 ただ毎日を生きているだけで。

 その延長線上に未来があると思っていた。

 

 読んだ時、ハッとした。

 心を奪われたなんて、そんな陳腐な表現だと間に合わないぐらい心を揺さぶられた。

 世界は美しくて。

 今は待ってくれなくて。

 起きて、自分の意志で目を見開いていなければ、美しい全ての出来事は過ぎていってしまうのだと、気付かされた。

 学校見学を兼ねて来た文化祭で、たまたま手にとった文芸誌。

 それで、こんな風に思うことなど想像していただろうか。

 私はこの人に会いたいと思った。

 それだけでこの学校を受けた。

 勉強で挫折しそうな時、何度も読み返した。

 この人に会うのだと、心に誓った。

 そんな風に言ったら重いと思われるかもしれないけれど。

 だけどそれぐらい、私は変わったんだ。

 三年生の先輩三人が到着し、話し合いが始まった。

「今回のテーマは、新一年生である灰谷さんに決めてもらいたいと思ってるんだけど」

 海川先輩が、私の目を見て淡々と言う。

「え、テーマですか」

「いきなり決めろと言っても、難しいんじゃない?」

 在馬先輩がさらりとフォローを入れる。

「いいんじゃないか? 新しい感性を取り入れたいし」

 夏木先輩まで、そんな事を言う。

「今までの部誌のテーマは知ってる?」

 在馬先輩に尋ねられ、私は小さく頷く。

「前回のテーマは『扉』でしたよね」

「そう。これは、みんなで話し合って決めたんだけど、それだと時間もかかるし、漠然としているんだよね」

 在馬先輩は立ち上がると、ホワイトボードの前でペンを取った。

「思いつくテーマをいくつか上げてみてよ。それをどんどん書いていくからさ」

 思いつくテーマ。

 何があるだろう。

 そうだ。

 このテーマで白陽先輩は書いてくれるのだ。

 だったら、書いてもらいたいテーマを挙げよう。

「羽ばたき、とか」

「羽ばたき、ね。うん、いいね。他には?」

「未来とか」

「未来、ちょっと似てるね」

 在馬先輩は思わず苦笑する。

「もしかして、白陽のこと意識してる?」

 鋭い海川先輩がそう言って、私は思わず動揺する。

「え、そんな」

「白陽に似合いそうなテーマ、ね」

 夏木先輩が、ふてくされたように言う。

「愛されてる~」

 遠山先輩が茶化す。

「じゃあもう『羽ばたき』でいいんじゃないっすか」

 ゲーム画面からようやく視線を上げた多田先輩が、面倒くさそうに言う。

「『羽ばたき』いいと思う」

 海川先輩が、噛みしめるように言い、

「じゃあ『羽ばたき』で」

 夏木部長が確定する。

 このテーマを元に、みんなが書いてきてくれるのだ。

 一体どんな話ができるだろう。

「灰谷さんの作品、期待しているよ」

 在馬先輩に言われ、ドキッとする。

 そうだ、私も書くんだった。

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とじる

第3話 締切が近いです

 原稿の書き方は人それぞれで、最初にノートに書く人もいれば、最初からパソコンで書き始める人、スマホで文字を打つ人など様々だ。

 私はパソコンでそのまま書き始めるタイプ。というよりも、書いたことがないから、ひとまずそうしてみる、というべきか。

 短い話を書き上げることができればそれでいい。私の目的は、自分が書くことではないからだ。

 締切が近づき、夏木部長は原稿のチェックに入っている。

 誰の原稿かはわからない。

「読んでもいいですか?」

 近づいて、尋ねてみる。もしかしたら、白陽先輩のかもしれない。

「まだ確認中だから。それより、早く原稿終わらせて」

 ぶっきらぼうに断られ、私はしぶしぶ席に戻る。

 原稿を終わらせたら、みんなで冊子づくりを行う。その時になれば、嫌でも見れるだろう。

 同じく一年の真尋は、とっくに原稿を終わらせており、今日は塾のテストがあるからと、欠席している。羽ばたきをテーマに、分厚い原稿を誰よりも早く仕上げた彼女は、文芸部のホープだと、先輩方は言う。

「みんな進んでるー?」

 遠山先輩が、私の背後からやって来て、パソコンを覗き込む。

「なんだ、全然じゃない。締切近いのに、この調子で大丈夫?」

 遠山先輩に言われ、私は小さく頷く。

「一番良いのはね、愛を語ることよ。愛。あ、恋愛物を書けって意味じゃないからね。何かを好きってことは、それだけで爆発的な力になると思うわけ。とにかく何でも良いから、好きなことを好きなだけ書いてみたらいいのよ。文章にするのは、それから」

 好きなこと、か。

「何だか、書けそうな気がしてきました」

「その調子その調子」

「ちなみに、何について書くんだ?」

 夏木部長に聞かれ、少し考えてから、

「白陽先輩への愛を書こうと思います」

「……何だそれ」

「私、白陽先輩の文章を読むまで、未来とか、今後の自分の生き方とか、考えようとも思わなかったんです。だけど、読んでから、自分のこと、一生懸命考えなきゃいけないなって思ったんです。それを、文字にしたいと思って」

「そ、そう……」

 誰が白陽先輩なのか、未だにわからない。だけど、誰がそうだったとしても構わない。

 私はこの気持ちを、手紙のようにして伝えたいと思ったのだ。

「表紙のデザインできたよー」

 海川先輩が、ドアを開けるなり言う。

 鳥の羽をイメージした、明るい感じの造りで、架空なものなのに写実的だ。センスが良い。正直どんな表紙になるかで、部誌を手に取るか決まると言えるので、海川先輩のデザインは発行部数に大きく影響してくれることだろう。

 部誌は、部費と学校からの部支援費によって補われている。刷るのは概ね百部ぐらいらしい。一学年約三百人、合計千人弱の学校なため、全部はけて約一割に到達する。もう少し読んでもらいたい気もするが、余っても仕方ない。

「後は原稿が集まるのを待つばかりだね」

 海川先輩はそう言って笑う。海川先輩は、もう書き終わっているということだろう。

 その時。

 風が吹いて、夏木部長の机に置かれた原稿がひらりと舞った。

 私は慌ててその数枚を掴む。

 タイトル部分に、白陽一人の名前があった。

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とじる

第4話 1つ目のヒント

 白陽先輩の原稿!

 喜び勇んで原稿を読もうとした矢先、焦った夏木部長にひょいっと取られた。

「あっ!」

「まだ確認中だから」

 すべての原稿は、一度夏木部長がチェックすることになっているらしい。

 今の時点で、原稿を提出しているのは、わかっているだけで四人。

 一人は真尋。後は遠山先輩、海川先輩、それに在馬先輩だ。

 今日は来ていない在馬先輩だが、原稿はすでに終わらせているらしい。あ、後は夏木部長。夏木部長に提出することになっているわけだから、わざわざ提出する必要もない。

 とすると、五人か。

 多田先輩は、まだ提出していないと聞いている。

 とすると、可能性があるのは真尋と遠山先輩を除いた、三年生三人。

「私も読みたいです!」

「冊子になってからな」

「夏木部長のケチ」

「ケチで結構。確認が先」

 原稿を揃える夏木部長。

「夏木部長のハゲ」

「何か未来予知みたいでヤダな……」

「何でダメなんですか。そもそも、誰が誰のペンネームか、教えてくれてもいいじゃないですか」

「教えてあげてもいいんじゃない?」

 見かねた海川先輩が、飄々と言う。

「そうしないと、忌憚のない意見を交わし合うこともできないし」

「それは今期じゃなくてもいいだろう」

「そうかなあ?」

「在馬もいないし、勝手には決められない」

「ということで、部長がダメっていうから、まだ教えてあげられないみたい。ごめんね」

 海川先輩が、可愛らしく首を傾げる。

 その笑顔に、どこか確信犯めいたものを見たのは、気のせいだろうか。

 この展開になるのをわかっていたかのような。

 そこへ、ゲーム片手に多田先輩がやって来た。

 相変わらず気だるそうである。

 肩から下げた鞄の中から、ごそごそと原稿を取り出すと、それを夏木部長のところにそっと置いた。

 私はそれを見逃すまいと、全速力でそばによる。

「見る?」

 多田先輩は、原稿を持ち上げて、私の方に見せてきた。

「えっ」

 そこには、意外な名前があった。

 白陽一人。

 白陽先輩が、二人?

「どういうことですか……?」

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とじる

第5話 白陽一人先輩

 多田先輩は言う。

「白陽一人のペンネームは、俺らがみんなで書いているもの。使い回しのキャラクター。だから、誰もが白陽一人の可能性があるし、俺が書く場合もある。これは前回のを使いまわしてしまっただけだから、後で訂正するけど、前回の白陽一人は俺。今回や、灰谷が言うところの文化祭の書き手も違う。文体で気づかなかったか?」

 実のところ、部誌のバックナンバーで読んだのは、前回の分と、その前の文化祭のもののみで、それより前は読めていない。

「ちょっと違うなあと思ったのですが、二回しか読んでいないので、作風が大分違う人なのかと」

「灰谷のお気に入りは、あくまで文化祭の書き手の方なんだろ?」

 少し残念そうに多田先輩は言う。

「あ、いえ、前回の白陽先輩の文章も、丁寧で好きです。描写が細かくて、繊細で」

 こんなに繊細な文章を書く人だから、きっとすごく優しい人なのだろうとも、思ったのだ。

「でも、違う」

 突き放すように灰谷先輩は言った。

「一応白陽一人を書くときには簡単なルールがあって、まあ前回の文章を真似ること、ぐらいの話なんだが。本物には及ばないよなあ」

 多田先輩は、頭をかく。

「あーあ、バラしちゃった」

 遠山先輩が退屈そうに言う。

「でも、灰谷が探している白陽一人は、まだわからないままだろ?」

「概ねわかっちゃうものだって。女の勘をなめてはいけないよ?」

 海川先輩まで、そんな事を言う。

「つまり、皆さんどの人も、白陽一人を担当したことがあると」

「そういうことになるね」

「文化祭の時の担当者は、誰だったんですか?」

「まあ、時間もあることだし、じっくり考えてみることだね」

 海川先輩が楽しそうに笑う。これで海川先輩だったら、タチ悪いと言えるような。

「ほら、原稿も書く書く。終わらないと、部員クビだよ?」

 海川先輩に急かされて、原稿を書き始めた私。

 隣に座る多田先輩は、ヘッドホンをしてゲームに集中している。

 多田先輩の文章を思い出す。

 私はあの文章も、優しくて好きだった。

 だけどもっと。

 もっと素敵な文章を書く人がこの中にいる。

 さて、今はひとまず原稿を進めることにしよう。

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とじる

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