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杉並つくしはドッペルゲンガーである。

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愛想がなくて背が低い。
そんな少女、杉並 尽子(すぎなみ じんこ)には、たったひとつ『人真似』という特技があり、その特技を見込まれて先輩である歌詞 空(うたこと うろ)から様々なことを頼まれる。
断るに断れない尽子は仕方なく、色々な時間に巻き込まれていく。
コメディ要素強めです。
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 僕こと杉並 尽子は普通の学生である。

 成績は良い(カンニング)。 運動は比較的得意だ(筋力は低い)。

 友達は少なく、いつも教室では暇をしている。 趣味は犯罪、ヤクザの金を奪ったりとか……ちょっとした悪いことをしてみたい年頃なのだ。

 犯罪繋がりの仲間である竹城君を見て小さく溜息を吐く。 同じ高校で同じクラスではあるが、それを除けば接点はなく、普段は必要がなければ話もしない仲だ。

 ガンガンに効かされた冷房に対抗するために、夏だと言うのにパーカーを羽織ってスカートの下にはスパッツを履いている。 それでも寒く、ただでさえいにくい教室から追い出されるようである。

 ジジジと音を鳴らして制服の上に着込んだパーカーのジッパーを一番上にまで引き上げる。 面倒だし、寒いので今日はもう帰ろう。

 二限目が始まる前に荷物を持って廊下に出る。 どうせ昼休み後のプールまでには帰るつもりだったのでべつにいいだろう。

 鞄を持って、先生に見つかると厄介なので女子トイレに入り、そこの窓を開けて脚を掛ける。 飛び降りて3階の窓枠に軽く指を引っ掛けて減速したあと、校舎の壁を蹴って外と高校の間にあるフェンスの上に飛び乗る。

 ヒューと、下手な口笛が聞こえて振り返ると、軽妙な笑みを浮かべた学生服の男の人が見える。

「何ですか。 ウロさん」

 フェンスの下に立っていたその人、僕より二年年上の三年生の先輩である歌詞《ウタコト》 空《ウロ》さんを軽く睨みながら答える。

「いや、大したもんだなと、パルクール? いや、優雅にすら見えてすごいな」

「いつも見てるでしょう。 白々しいですよ。 僕はあなたのそういう演技っぽいところが嫌いです」

 わざとらしく首を横に振った彼はちょいちょいと手招きをする。

「何ですか?」

「いや、フェンスの上でスカートだから、中見えるぞ」

「スパッツ履いてますよ」

「それが逆にいい」

 軽くスカートの端を抑えると、愉快そうにウロさんは口元を上げる。

 それが余計嫌で、フェンスの反対側に降りてから彼を睨む。

「やっぱり、部活の勧誘をしようと思ってな。 杉並、お前のその運動能力を放っておくのは勿体無いな」

「いや、オセロ部ですよね、ウロさん」

「一緒に青春の汗を流そう!」

「オセロでどうやって汗を流せと」

「部室にエアコンがない」

「考えうる限り一番無駄な汗のかき方です」

 つまらないことを言うウロさんを睨んでから帰ろうとすると、ウロさんはフェンスをよじ登って外に出てくる。

「サボりですか?」

「杉並が言うことでもないだろ。 サボるだろうなっと思ってたら案の定だよ」

「……別に毎日サボったりしてるわけでもないですよ」

「プールある日はサボってるだろ?」

「……裸みたいな格好を晒したりしたくないです」

「気にしすぎだろ。 つか男女で分かれてるよな」

「男の人に見られたくないからってことではなく、そもそもあの格好が嫌です」

 最悪単位が取れなくても高校を辞めて大検でも取ればいいだけなので、どうしても嫌なことをするほどでもない。

 いつまでついてくるのかとウロさんを睨むと、彼は横を向いて目を見開く。

「今日、31日だからダブルのアイスがお得だ……。 食べて帰るか」

「僕はそんな余裕ないですから」

 実際のところ、資金洗浄はまだだけど3億ある。 まぁ洗浄したあとも好きに使えるわけではないけど、余裕があるのは確かだ。

「奢るって、半分こしようぜ」

「いりません」

「何味がいい? 買ってくるからちょっと待っててな」

「……自分で買います」

 溜息を吐き出して中に入る。 冷房の効いた室内に気持ちの良さを感じるが、ここでアイスを食べたら絶対に寒くなるなと確信を抱く。

 昼前ということもあり、客は他にいないようで、店員さんが僕達を見て少し嫌そうな顔をする。 まぁ……学生の男女がこんな時間に出入りしていれば当然である。

 ヤケに近いウロさんから逃げるようにしてアイスのケースの前に行く。 色々なアイスの匂いが混じって単純な甘い匂いになっている。 嫌いではないけれど、冷房の乾いた空気も合わさるとそこまで心地よいわけではない。

 メニューを見るとアイスばかりではなくクレープもあるようなので、それを頼むことに決める。

 これなら半分こ等と気の違えたようなことは言われなくて済むだろうし、寒すぎない。

「何にするんだ?」

「言ったら勝手に買ってくるでしょう」

 どうにかして奢りたがるけれど、奢られたくないので勘弁してほしい。 選んでいる彼をよそにクレープを注文して、出来るまでの間座って待つ。

「アイスじゃないのか」

「冷房効いてるんであまり冷たいのはいらないですよ」

「本当寒がりだな」

 大きいアイスがドンドンと二つもあるカップを手に持っているウロさんを見て溜息を吐き出す。

「幾ら外が暑いからといって……冷えますよ」

「俺の心は愛でバーニングだから無問題」

「言ってることが寒いです」

「仕方ないないな、ここは俺の爆笑必至の小話をひとつ」

 杉並はワガママだな。 と謎の言いがかりを付けられたあと、暖めてやろうと言って口を開く。 どうやら小話をするらしい。

「ある晴れた日の話だ。

 へい、ボブ! 今日もイカした服装だね!  まったく、オシャレさんなんだから。

 おうトム、そりゃ裸のお前に比べたら──」

「待ってください。 なんでトム裸なんですか」

「そりゃそういう話だからだよ」

「前提が凄まじくて話に入れません」

「まぁ、待て、最後まで聞いてから最後まで聞くか決めようぜ」

「僕に時空を超えさせないでください」

 何故トムは裸のなのか、そしてボブは何故気にしてないのだろう。 多少気になることもあり、仕方なく耳を傾ける。

「そりゃ裸のお前に比べたら大体はオシャレさんさ。 おっと、こうしちゃいられねえデートの時間が迫ってんだった。

 ボブがデート? そりゃ似合わねえな。 まぁ親友にガールフレンドが出来たってんだから仕方ない。 素敵なデートスポットを教えてやるぜ。

 おいおい、草を食うことにしか興味のないトムが──」

「……ストップ。 トムって草食ってるんですか」

「そりゃトムは草しか食わないだろ」

 草しか食べない、基本裸……。

「それ、ガゼルですよね。 トムガゼルですよね」

「そうだよ。 野生動物の話だからな」

「前提として話してくれないと意味不明です。 頭の中に全裸で雑草を食べる白人男性の図が出来てたじゃないですか」

「やれやれ、杉並ったらスケベなんだから」

 パクパクとアイスを食べているウロさんに憎しみを募らせて、それを飲み込みながらジト目で睨む。

「……トムがガゼルなのは分かりましたが、ボブはなんですか?」

「サップだよ」

「サップは野生動物じゃないです。 そりゃ服着てますよ」

「いや、人間も巣を作るだけの野生動物なんじゃないか? ただ、その巣の規模が大きいというだけで」

「クレープ出来たみたいなんで取りにいきますね」

 相手にしてられるか。 とりあえずとばかり奇をてらうばかりの行動しかしないウロさんとの会話は非常に疲れるものだ。

 ため息を吐き出してから、それでもこうやってクレープを受け取っているのはどういう理由か考える。

 馬鹿馬鹿しい答えに辿り付きそうで、考えるのをやめて席に戻った。

「……それで、本題はなんですか? 『人任せ』さん」

「そのアダ名は好きじゃないな。 ほら、最低っぽくないか?」

「実際最低です」

「それに本題はこうしてデートすることで、いつもしてる頼み事は物のついでどころか、こうやって会うための言い訳だからな」

 まぁちゃんとした話がなければ僕も付き合ってこんなところに来たりはしないし、出来ない。 僕にとっても、ウロさんからの頼み事は都合のいい『言い訳』だった。

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わくわくもどきどきもある出だしですねー。これからの展開楽しみです!

umi

2017/11/10

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とじる

 ウロさんはアイスを少し溶かしては表面をスプーンでなぞるように救って溶けた部分を食べるというみみっちい食べ方をしていて、いちいち面倒な人だと思いながらクレープを小さく齧る。

 僕も似たようなものだった。

「それで、頼み事はなんですか?」

「おっ、聞いてくれるのか。 ぶっちゃけ金持ってるから断られるかと思ってたわ」

「……耳聡いですね。 お金が入ったことは……仲間内でしか知らないはずですけど」

「おいおい、俺は仲間じゃないってのかよ、冷たいな」

「そういう意味じゃないですし、どこから漏れたんですか」

「仲間内だからいーじゃないッスか?」

 何も良くない。 最悪捕まるだろう。

 どこから漏れたのか考えるが、この人はいつのまにか何でも知っているので考えるだけ馬鹿らしいようにも思う。

「……仕送りで暮らしてるって『設定』なのでお金あってもあんまり使えないんですよ。 豪遊してたら妙なことを疑われます。

 だから、働かなくていいバイト先を用意していただけたらと」

「あー、世間体な。 オッケー、バイトしてるって扱いに出来るところ探しとく。 今回の報酬はそれでいいか?」

 僕が頷くとウロさんは「得した」と隠す気もない笑みを浮かべる。

 以前に数人の仲間と協力してヤクザからお金をガメとったけれど、自由に使えるわけではない。

 まずは資金洗浄、マネーロンダリングを行うことで、盗んだ金から真っ当に得たお金に変える。

 本来なら自由に使えるお金だけれど、僕の場合は架空の実家から仕送りを受けている設定なので、あまり派手なことは出来ない。

 せいぜい好きなお菓子を買い込んで食べたり、帰省のフリをしてどこかに出かける程度である。

「それで、何を手伝えばいいんですか? 僕の出来ることなんてそう多くありませんよ。 せいぜいが人の猿真似です」

「そう謙遜するなよ。『ドッペルゲンガー』」

「別に会っても死にはしませんよ。 殺せるならウロさんからやってます」

 過ぎたアダ名で呼ばれるのも楽しいものではない。 馬鹿にされているようにも感じるぐらいだ。

 ウロさんは簡単なことだと前提を話してから、ゆっくりと本題に入る。

「──うちの高校の七不思議、って……知ってるか?」

「帰りますね」

 馬鹿にしているのか。 そんなしょうもない怪談話をするために、そう思って立ち上がったところ、口にアイスの乗ったスプーンが突っ込まれて、口の中に甘い味が広がる。

「なっ、なっ……何をするんですかっ!」

 僕の口に入ったスプーンを自分の口に咥えたウロさんを見て怒ると、ヘラヘラと気にした様子もなく彼は言う。

「落ち着けって。 別につくしたんを怖がらせて「一人で眠れないです、ウロさん……一緒に、寝てくれませんか?」って言わせるためだけじゃない」

「その言い方だとそう言わせるのがメインになってますけど。 あとセリフが長いですし、言いませんし」

「涙目になってるつくしたんを見るという目的もある」

「全力で最低ですね」

 離れようとしたら、ウロさんに止められる。

「おっ、ビビってんの?」

「そんな下品な挑発には乗りません」

「おー、へいへいピッチャービビってるよ!」

「下品さを増せばいいってわけでもないです。 というかピッチャーではないです」

「おいおい外野が風邪引いちゃうよ!」

「外野ではなく当事者です」

「いや、これバッターへの煽りだし」

 どうでもいい。

 結局は押し切られて話を聞かされるのも普段通りで、まぁ仕方ないかとクレープをチビチビ食べる。

「小動物感あるな」

「いいから話してください」

「しゃーねえな」

 ウロさんはつまらなさそうに顔を向けながら、本題に入る。

「これは俺のクラスメートからの『頼み事』なんだけどな。 その子の体操服が盗まれたらしいんだ」

 初めから七不思議と関係ないではないかと顔を顰めると、彼は続けて言う。

「体育休んだとかで持って帰らずに学校に置いてたらなくなったんだとか。 それで、その日の夜に七不思議の調査に来ていたオカルト研究会の奴らが『歩く人体模型』を見たとか」

 つまり普通の盗難事件があって、たまたまそれっぽいのを目撃した人がいるということか。

 僕の活躍できる事件ではなさそうで、断ろうかと思ったけれど少し引っかかる。

「……盗まれたのって、女の子……ですか?」

「そりゃそうだろ。 男の体操服盗んで嬉しいのらつくしたんぐらいだ」

「いや、盗みませんけど。 ……それなら、引き受けます」

 ウロさんが被害者の子を変に口説きだしたりしたら可哀想だ。

 変態から変態へ。 変態の綱渡りをする女の子を思って引き受ける。

「よし、じゃあ早速……といっても授業中か。 適当に遊んでから学校に戻るか。 制服デートだな」

「デートじゃないです」

 ◇◆◇◆◇◆◇

「いやー。 つくしたんは歌下手だなぁー。 何、30点って、逆にどうやったら取れるの? よく吠える犬置いてた方が点数取れるだろ」

「勝てる競技がほかにないからってそれを選択したくせに偉そうです。 ……時間潰しで、そもそも勝負なんてしてませんし」

 30点も32点も似たようなものだろう。 それを言えば悔しがっているみたいなので言いはしないけれど。

 2人揃って犬以下の点数を叩き出したあと、疲れた喉を気にしながら学校に戻る。

 部活動に精を出している人達を横目にみながら、件の事件があった教室に入った。

 夕方の教室にひとりの女性が座っているのを見て、思わず息が止まる。

 綺麗なひとだった。 長い髪はサラサラとしていて、綺麗に制服を着ていて、背は高くすらっとしている。

 なんとなく分かる。 この人が体操服を盗まれたひとなのだと。

 ずかずかと入っていったウロさんと座っていた女の先輩は、窓から入り込む夕暮れの光に照らされて……お似合いだと思ってしまう。

 ブカブカなパーカーのジッパーを引き上げて口元まで覆って、ボサボサの短い髪をぐしぐしと乱してもっとボサボサにする。

「……お待たせしてしまいましたか? すみません、ウロさんが僕と遊ぼうとしつこかったので」

 僕が悔し紛れにそう言うと、女の先輩は気にした様子もなく首を横に振る。

「こいつは今回の協力者……というよりメインで捜査してくれる、一年のつくしたんだ」

「手伝ってくれてありがとうね」

「……別に、貴方のためにやるわけではないので」

 パーカーのフードを深くかぶって目を合わせないようにしてから、教室の外に出る。 話はウロさんが聞いてくれるだろうから、周りの状況から確認していけば効率がいい。

 この学校は施錠はきちんとしていて用務員さんも真面目でちゃんと確認するので、鍵を開けなければ夜中に侵入することは出来ないだろう。

 まぁそれでもピッキングは出来るかと思って二つある扉の鍵穴を両方見ていくが、格子状の傷やそれらしい跡は見当たらない。

『本職』の手によるものだとなまくら知識しか持たない僕の目には分からない……そう考えていると、ウロさんの手がパーカーのフード越しに僕の頭を撫でる。

「なんか分かった?」

「……うーん、まだ何とも。 ピッキングの跡もないですし。

 でも、体操服なんて放課後にそんな置いているものではないですし、他の被害がなくてあの美人の先輩だけの被害なのだったら外部犯とは思えないですね」

「犯人はこの中にいる! ってやつか」

「広く可能性を考えると校内にってだけなので範囲広すぎですけど」

 捜査が難しいとため息を吐き出す。 ウロさんの知り合いにもっとこういうのが得意な人もいただろう。 面倒だし、楽しくない。

 もし犯人がいたら既に回収しているだろうけれど窓やらに仕掛けがないことを確認して、次に目撃情報の持ち主であるオカルト研究部に向かうことにした。

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とじる

 オカルト研究会は家庭科室を根城としている。

 何でも火を使う必要があるとかで活動出来る場所は限られているらしく、料理部の横で料理をつまみ食いしながら活動しているとか、なんとか。

「ああ、昨日のことだからばっちり覚えているよ」

「んじゃ、どんな感じだったん?」

 オカルト研究会の人と話しながら、料理部の人からいただいたクッキーを摘む。

「まぁだいたい昼休みに話した通りだけど、俺達4人で七不思議を解明しにいったら、人体模型がカツカツって歩いてたんだよ」

「……何時ぐらいにですか?」

「9時半ごろだね。 携帯のライトで照らしながらだったから時間も見てるし、かなり正確に覚えてるけど、たしか28分から29分の間だったはず。 場所はそこの廊下の真ん中」

「ということは、科学準備室の目の前ですか」

 この特別教室棟は3年生の教室とは別の棟なので、盗むつもりできたならわざわざ渡り廊下を渡ってこちらにきたということはないだろう。

 もう用務員さんも帰っているはずなので、見つかりそうになって逃げてということもないはずだ。

「どうやって学校に忍び込んだんだ? 施錠は結構しっかりしてるだろ」

「疑われてる?」

「いや、全く。 体操服盗むって楽しむためにだろうし、4人でしかも半分女で盗むってことはないだろ」

 楽しむためって……ウロさんの発言に軽蔑を覚えて睨むと、彼はニヤニヤと僕の方を見る。

「つくしたんはいっつも同じパーカーだよな」

「……つくしじゃないです。 僕の名前は尽子(ジンコ)ですから」

「わりと真面目にマニアに高値で売れそうだよな」

「何マニアですか」

「つくしたんマニア、すなわち俺」

 気持ちわるっ。 そうウロさんに吐き捨ててから、オカルト研究所の人と向き合う。

「忍び込むのは結構簡単で、この棟の一回の男子トイレの窓の建て付けが悪くて、ガタガタ揺らせば簡単に取れるんだよ」

「そっから侵入してゆっくり探検しながら登ってったの?」

「いや、すぐにオカ研に置いてる動具とかを取りに登った」

「じゃあ、それが侵入者だったら先に入ってたんですね」

「んー、いや、人じゃないと思うな。 カツカツって廊下のちょっと柔らかい床だと足音カツって鳴らないし」

「じゃあ、人体模型が動いていた、と?」

「間違いないね。 それで最後にピュンって消えたんだ」

 そうですか。 と頷く。 口にはしていないが、他の3人も同じように思っているようだ。

 最後にクッキーを口に入れてから家庭科室を出て、直接人体模型を見に行こうとする。

 今は関係ないけれど、オカルト研究会の人が素直に協力してくれたのはウロさんの人徳のおかげだろう。 僕、役に立つのだろうか。

 パタパタと歩いて科学準備室に入って人体模型を見ると、周りには乱雑に埃が落ちていて、いつもだと積もっていたのだろう埃がなくなっていた。

「とりあえず来てみたけど、意味あるか? これ」

「まぁ実際に動かされてはいたみたいですね。 盗難事件と関係あるとは思えませんけど」

「まぁ他に手がかりもないしなぁ」

 とりあえず実際に動かしてみようと思い持ち上げようとするけれど、実寸大の大きさな上に10kg近いので上手く持ち上げることが出来ない。

 人体模型を支えている棒から外すのに結構上まで持ち上げないといけないらしく、背の高いウロさんに手伝ってもらってやっと取り出すことが出来た。

「……まず分かったのが、この仕組みだと人体模型が自分で動けたとしても、この留め具の棒からは抜け出せないですね」

「いや、自分で動けないだろ」

 もしも、の話である。

 盗難事件とは無関係っぽいけど、人体模型は人によって動かさなければ無理だ。

 ウロさんに持ってもらって廊下に出るが、どうしても人体模型よりもウロさんの方がよく見える。 暗くても見逃すことはないだろう。

 もう少し華奢で背の低い人ならと考えるけど、カツカツという足音よりも人の足音の方がどうしても大きい。

「うーん、まぁ靴を脱いででしたら足音よりも模型が当たる音の方が大きくなりそうですね。 といっても、消えたように見えるぐらいで動こうと思ったら、いくら暗くてもキツイですよね」

「そりゃこんな持ち運びにくいもの持ってたらな」

 虚言だろうか。 一応1階の階の男子トイレの窓をウロさんに確かめてもらうと実際に簡単に取れたらしい。

 犯人は同じところから侵入したのだろうか? 

 でも結局は渡り廊下の扉を開ける必要がある。 その開けられる扉が、あるいは開けられる仕組みを設置していた扉が3階以降の渡り廊下にあって、そのために歩いていたのをオカルト研究会の人に見られて『動く人体模型』に見えた?

 でも、カツカツという足音もあるのでどうにも噛み合わない。 本当に人体模型が動いているということはさっき見たところ違うようだし……。

 とりあえず渡り廊下を3階4階と見てみて何も分からないことを確認して元の教室に戻る。

「何か分かった?」

「分からないですね。 そもそも学校の中に入れてもこの教室に入れないとですし」

「これだからつくしたんは……」

「なら、ウロさんは何か分かったんですか?」

「いや、なんも?」

 何故偉そうに……。

「まぁ人には得手不得手があるわけじゃん?」

「僕からしても苦手分野ですよ」

「いや、つくしたんが「犯人さん名乗り出てくれたらちゅーしてあげます」って言ったら500人は捕まえられるだろ」

「冤罪500人捕まえてどうするんですか。 というかウロさんぐらいしか来ません、そんなの」

 とりあえずウロさんが役に立たないのも、僕の苦手分野であることもおおよそ間違いがないだろう。

 面倒だと溜息を吐きながら、扉の前に立つ。

「この学校にいる男性に限るなら、155cm〜185cmぐらい。 この時勢に懐中電灯を持ち歩いている人は少ないでしょうし目立ちますから、光源はおそらくスマートフォンのライト、暗い中だと適当に光を当てても上手く鍵穴が見えないでしょうから、こうして立て掛けて……ですね」

 ウロさんがヒューと口笛を吹く音を流しながら、より深く、成る。

 犯人の呼吸は、手の大きさ、目線、足の痺れ、口の渇き、緊張、目の渇き……。 真似ろ。

 体格、記憶、女の先輩への想い、苦い味、暗い廊下。 僕は誰だ──。

 意識が失われる。

 ◇◆◇◆◇◆◇

 例えば、小学生がランドセルを背負って歩いている姿を一国の首相が歩いている姿と見間違えることはあるだろうか。

 例えば、中国拳法の象形拳で本当に虎やカマキリが戦っているように見えるか。

 答えは当然のように否であり、どのような優れた俳優であろうと、演者であろうと、あまりにも違いすぎるものに成ることは出来ない。

 だが、もしそれが『あり得る』とすれば、の話だ。

 どういった技術とか、どうやったとかを抜きにして、ただ『あり得る』のだとすれば。

 演じられている本人が目の前にいれば、その人真似は自分と同じ人物がいると、本気で大真面目に思うだろう。

「何故、私がもうひとりいるの?」

 と、馬鹿らしいことを。

 それを見ていた、物知り顔の不快な顔をした男はこう言うのだ。

「何故だって? そりゃ決まってる」

 【杉並つくしはドッペルゲンガーである。】

 それ以上の理由があるのかとばかりに、自信たっぷりと。

 ◇◆◇◆◇◆◇

 息を深く吐き出す。 僕よりも身体の大きい人の物真似をしたせいで必要よりも遥かに多く息をしたせいで、過呼吸に近くて気持ち悪い。

「なにか分かったのか?」

「適当な条件でした『物真似』でしかないですからね。 分からないことが分かっただけですよ」

「というと?」

「犯人は夜、ここには入ってないです。 臆病な『俺』は仕掛けを設置して鍵を開けたり閉めたりをしてバレるリスクは犯したくないから」

 言ってしまえば今までの操作で分かった『犯人の人物像』を可能な限り演じて、その時の考えや行動を体感するだけだ。

 ウロさんは大袈裟に『ドッペルゲンガー』などと言うけれど、ただ普通に真似をしているだけでしかない。

「犯人の気持ちになる、その上位互換みたいな感じな、あれ」

 ウロさんは自慢げに女の先輩に言って、彼女はよく分からないというように首を傾げる。

 まぁそうなるのも仕方ない。 僕も『真似出来る』だけで実際にどうやって真似しているのかは分からないぐらいだ。

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作品タイトルがとても惹かれるものがあります。いいネーミングですね!!

湊あむーる

2018/8/1

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とじる

「そもそも、引っ張られていたんです。たまたま他に忍びこんでいたて、それっぽい目撃情報があったってだけで関連性があると思ったり、夜中に忍びこんでいると思ったり」

「まぁ、そりゃ夜中に限らないのはそうだけど、それで犯人は分からないだろ」

「いえ、他のクラスの人が入れば目立ちますからね。 人が多ければ当然目撃されますし、人が少なければひとりでいる他のクラスの人なんて浮きに浮きます。

 夜中に忍び込んだ。 ではないのならクラス内の人物と断定して大丈夫でしょう。 一応、鍵を持ってる用務員さんや教職員の人も入りますけど」

 少なくとも最後の人が鍵を締めて職員室に持っていくという、この学校のシステムだと、他のクラスの人が入ってきて、体操服という大きいものを盗んでいくのは無理だろう。

「このクラスの人でしょうね」

 まぁ今更だけど。 今までは確信を得れなかったのだけど、普通にある程度近しい人だろうし、体操服を置いていることに気がつくのもクラスの人が多いだろう。

「まぁそうだろうけど、結局犯人はまだまだ見つからないか」

「いえ、クラス内って分かればやりようがありますよ。 ウロさん、クラスの名簿とクラス全体の映ってる写真とか動画とかないですか?」

「あー、クラス写真なら後ろに貼ってたはず」

 後ろのロッカーの上に写真があるのが見えるが、背が低いせいでよく見えない。 なんでもかんでも背が高い人向きの場所ばかりだ。

 140cmない人にも使いやすいバリアフリーを取り入れてほしい。

 ウロさんに椅子を持ってきてもらい、その上に乗って写真を見る。 真ん中で楽しそうにしているウロさんに苛立ちを覚えながら頭にそれを染み込ませて、ついでに写真を撮っておく。

 実際に関わったのはこの2人とさっきのオカルト研究会にいた話していない方の男の先輩ひとりだけか。 他のクラスメイトとも順番を考えて話をしにいこう。

「ふぅ……ウロさん『合ってるか』確かめてくださいね」

 さっきのオカルト研究会の男子の顔を思い出す。 その仕草、身長、体重、呼吸、表情、思考、志向、指向、嗜好、筋肉量、自信のなさ、発汗、体温、脈拍。 思い出せ、思い出せ。

『僕』という意識が少し薄れてしまうけれど、完全に自分を見失うほどでもない。

 女の先輩が僕を見て、目を見開く。

「えっ、あれ? あの子は? というか、いつのまに佐々木くんが……」

「いや、これは佐々木のやつじゃなくてつくしたんだから、佐々木の真似をして、上手いからそう見えてるだけ」

「いや、真似……真似って、いや、ありえないでしょ、身長全然違うのに! 服装まで変わって!」

「だから言ったろ? つくしたんはドッペルゲンガーだって」

 実際には何も変わっていないし、あまり長い時間見れていなかったのでクオリティも低いだろう。 知識としてほとんど彼のことが分からないので長く話せばボロが出るだろう。

「完璧だけど、それ可愛くねえから一旦戻って」

「……元々も可愛くねーだろ」

 ふう、と息を吐き出して真似を止める。 目をパチクリとさせて僕を見ている女の先輩は幽霊でも触るかのように僕の頰に手を触れる。

「えっ、魔法かなにか!?」

「いえ、ただの特技ですよ」

 詳しい理屈など僕にもわからない。 けれど、完全に真似をすれば、身長や服装といった分かりやすい特徴ですら見ている相手は『勘違い』する。

 写真や動画越しに見ると普通に僕が映るので、実際に見た目が変わっているわけではないのは確かだ。

「まぁ、いるところにはこういう『理外』はいるもんなんだよ」

「実際ドッペルゲンガーって言葉が前からあるんですから、他にも似たようなことが出来る人がいるでしょうしね」

 一応は隠しているつもりだった『成る』だったけれど、お金があるので、これ以上危険なことをするつもりはないので別にバラしてもいい。

 犯罪仲間達もほとんど解散状態でこれ以上何かをする予定はないし、何か他の人がしたくても僕はスルーするつもりだ。

 あとは高校を卒業して貯金を切り崩しながら引きこもるだけでいい。

「それで、どうするつもりなんだ?」

「まず、いる人から順にカマをかけて犯人を見つけてから推理でもしましょうか」

 僕は探偵じゃないし、それの真似事が出来るような能力はない。 あるのは人の真似だけで、普通のやり方だとどうやっても犯人には行きつかないだろう。

「じゃあ、さっきのモノマネ? をしていくの?」

「まぁそうなんですけど、実際に見た目が似てるわけじゃないからいくつか手順が必要なんですよね」

 手順? と首を傾げる先輩を見て、まぁ黙っていてもウロさんが説明しそうだと思い、自分で話すことにする。

「条件は大まかに三つですね。 第一に僕が真似出来るぐらい真似する人物のことを知っていること」

 女の先輩は頷く。 まぁ当然のことだろう。

「次に相手も真似される人物のことを知らないとダメですね。 真似として知られないと伝わらないみたいで」

「えっ、じゃあ、他の人から見たらさっきのは普通につくしちゃんに見えてたの?」

「そうですね。 ……あと、僕はつくしではなく尽子(ジンコ)ですから」

 先輩のせいで間違えて名前を覚えられている……。

「おほん、最後に……相手が僕のことを多少は知っていないと難しいです」

「えっ、なんで?」

「さあ、考えたことはないですけど、多分、僕のことを知らないと変な仕草の子供がいるように見えるからじゃないですか?

 僕を知っているからこそ、僕の印象と切り離して演じられるんだと思うんです」

 何にせよ理屈は分からない。 そういう条件があるというだけだ。

 その理由を解明出来るほど僕は賢くない。

 入学時にもらった部活動を紹介するパンフレット的な物を取り出して、近くにある場所から順に訪ねていくことにした。

 ◇◆◇◆◇◆◇

「……疲れました。 頭痛いです」

 まだ学校にいる人だけしか聞き取りが出来なかったけれど、まぁ犯人は分かった。

「……犯人、分かったの? ……私はクラスの中にはいないと思うんだけど」

 連続した真似による疲れで動かない体をウロさんにおぶられながら、先程見つけた犯人の名前を伝えようとする。

「ああ、それは──ひゃん! や、やめてください!」

 ウロさんの指が僕のふとももの内側を撫でるように動き、こしょばゆさに身をよじるがやめてくれない。

「結局分からないってさ、そもそもの読みが外れててクラスの外だったのかもな。 というか、もう下校時刻になるし帰るか。

 力になれなくて悪い」

「ううん、ありがとう。 頼んでおいてなんだけど、見つからなくてよかったよ」

「うぃ、まぁでも働いたんだし明日ジュース奢ってくれ」

「つくしちゃんも一緒にね」

 彼女は手を振って去っていき、僕はこしょばされすぎて息絶え絶えになっているところを降ろされる。

「じゃあ、こっからどうするか決めるか」

 僕は自分でも分かるぐらい赤くなった顔でウロさんを睨んだ。

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作者です。
感想を書いてくださったumi様、ありがとうございます。
出来る限り毎日書いていく予定なので、これからもよろしくお願いします。

作者:ウサギ様

2017/11/13

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返信ありがとうございます!更新楽しみにしてます。歌が下手なのはふいてしまいました。笑

umi

2017/11/14

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とじる

 顔が赤くなっているのは何故かと自問して、妙に感触の残るうちももを軽く擦り合わせるけれど、変な感触は消えるどころか嫌に意識してしまって、より強く感じてしまう。

「……触らないでください」

「悦んでたじゃん」

「悦んでない! 次にやったらウロさんのフリをして女子更衣室に突入しますからね」

「その時は写真も撮ってきて」

「諦めて積極的に受け入れないでください!」

 話していても変な感じはなくならず、息は変に荒くなるし、触られたところも顔も熱い。

 『ドッペルゲンガー』の連続使用のせいで立っているのも辛いのに……。 モジモジと脚を擦り合わせてウロさんを見ると変にニヤニヤしていてとても嫌な気分だ。

「闘病日記系の本を読んでな、俺もこうやって運命を受け入れて最後まで楽しく生きようと思ったんだ」

「闘病してる人が伝えたいのは覚悟を決めて僕の変なところを触れって意味じゃないです、絶対間違ってます」

「変なところじゃねえ! つくしたんの柔らかい体のどこが変だって言うんだ!」

「うちももですよ!!」

「柔かくてすべすべで最高に気持ちいいだろ!!」

「最高に気持ち悪いです!!」

 ふぅふぅと息を吐きあって睨み合う。 ラチが明かない。 というか、何故こう言われても触らないと言えないのか。

「まぁ、触っていいかどうかはまた追い追い話し合うとして」

「僕の身体なんだから僕がダメって言ったらだめですよ」

 ウロさんは僕の言葉を無視するように僕の頭を撫でて、抗議の意思を示すために僕が睨むと彼は嬉しそうに表情を変える。

「っと、それで、犯人は誰なんだ?」

「……佐々木先輩でしたよ。 オカルト研究会の。 それより、なんで止めたんですか」

「いや、結構キツイだろ、クラスの奴が犯人でそっからずっと過ごす必要があるのは」

「……でも、何か報酬とかそういうのあったんじゃないんですか?」

「いや、慈善事業。 あいつ楽器とか色々出来るから、他の奴に恩を売るのに使えるから恩を売っておこうと」

「それのどこが慈善事業ですか。 これだから『人任せ』さんは……」

 初めから、こうするつもりだったのだろうか。

 他のクラスの女子が間違えて持って帰ったみたいな、当たり障りのない犯人をでっち上げて体操服を返して恩を売り。

 物のついでのように犯人である佐々木先輩も見逃してやるという恩を売るつもりだ。

 むしろこの人が一番の悪なのではないかと思っていると、ウロさんは嬉しそうに頷く。

「いやー、それにしても佐々木の奴か。 運がいいな、あいつ結構SNSとかがっつりやっててフォロワーとか多いから使える場面多そうだ」

「……ゲスですね」

「いや、他の奴に冤罪ふっかけてダブルで恩を売るのもありか」

「それしたら今までの悪事全部言いますから」

 少し本気で言うと、ウロさんは仕方ないと言った様子で溜息を吐き出す。

 彼が何かを言おうとしたところで最終下校時刻を示すチャイムが鳴り、ウロさんは僕の手を持って引っ張る。

「時間もないし、最後の仕上げ、犯人を捕まえにいくか」

「推理パートをください」

「任せとけ、全力のアドリブででっち上げる」

 いや、でっち上げたとしてもトリック知ってる犯人目の前なんですけど。

 ◇◆◇◆◇◆◇

 ひとり喫茶店に呼び出された佐々木くんは分かりやすく緊張した様子で、それを誤魔化すような粗暴な仕草をするけれど犯人と分かりきっていれば、その姿は哀れなものに感じる。

 ウロさんが勝手に頼んだ僕の分らしいチョコバナナパフェのバナナをグラスの側面とスプーンの横のところで適度な大きさに切って、少し苦味と風味の強いビターのチョコソースのかかったホイップクリームをすくい、スプーンの上を小さなパフェみたいにしてから口に運ぶ。

 分かりやすいホイップクリームの甘さ、ひとくち咀嚼するとビターのチョコソースと混ざって若干のチョコの苦味と風味が口に広がり、もう一回、二回と咀嚼するたびにバナナの自然な甘さと甘い風味が遅れてホイップに解けるように口の中で主張を始める。

「美味しいです……えへへ」

 堪らずもっともっととパフェを口に運び、甘さに慣れたら砂糖もミルクも入れていないコーヒーを飲んで、その苦味と酸味で口を潤わせる。

「まぁ、何故呼び出されたのかは分かっていると思う。 一応言っておくと、これはカマかけや揚げ足を取るためにではなく、お前が犯人だと分かりきったうえで、晒し上げるような真似をしないためにのことだ」

 そう言ってコーヒーを啜るウロさんは落ち着いた堂々とした雰囲気のおかげで格好ついていたけれど、実際のところは僕が見つけた犯人をでっち上げ推理で追い詰めるという、あまりにも人頼りかつめちゃくちゃな行動をする予定である。

 少し手を震わせた佐々木先輩はコーヒーに砂糖を入れて混ぜるが、カチカチとカップにスプーンを何度もぶつけていてひどく緊張した様子だった。

「な、何のことだ? ああ、飼ってる金魚に餌をやり忘れた話かな」

 海外映画の吹き替え翻訳みたいなことを言った佐々木先輩の言葉をウロさんは聞く気もないといった様子で否定する。

「体操服の盗難事件のことだ」

 流石に誤魔化さないと分かったのか、佐々木先輩はコーヒーを口に含んでウロさんの言葉を待つ。

「まぁ、よく出来たトリックだったと褒めたいけれど、やってることは褒められたものじゃないな。

 人体模型が動くという七不思議を利用した目撃証言、それにオカルト研究会という胡散臭いのを利用することで「彼らが見たものは、本当は人だったのだろう」と思わせて、実際の犯行時刻を誤認させる。

 単純な話だけれど、案外引っかかってしまうかもな」

 まぁ実際貴方は騙されてましたね。

「えっ」

 まずそこから外れたのか……。

 佐々木先輩は狼狽えた様子で僕の方を見るけれど、無視である。 無視。 こんなめちゃくちゃに付き合ってられるか。

「動く人体模型の正体はこれだ」

 とりあえず証拠を出せばそれっぽいとでも思ったのか、ウロさんは僕の鞄を開けようとしたので、僕は中を見られたくないのでそれを阻止。 彼は諦めて自分のズボンのポケットを漁り、錆びたネジを取り出す。

「ね、ネジ?」

 佐々木先輩は狼狽える。

「ね、ネジ?」

 僕もパフェを食べる手が止まって狼狽える。

「ね、ネジ?」

 ウロさんは何故狼狽える。 自分で取り出しといて勝手に狼狽えるアホ(ウロさん)を見ながらコーヒーを飲む。 ウロさんと佐々木先輩も続いてコーヒーを飲む。

「……お前は……その、なんだ」

 グダグダか。

「このネジを血管に突き刺すことで血中のマグネシウムと釘の鉄で電気を発生させ、その電気ショックによって3人を自在に操った。 ……違うか?」

 犯人じゃないけど絶対に違うと確信出来る。 というかネジ錆びてるから絶対に電気は起きないだろう。

「……は?」

「料理とはひとつの科学、その料理部の横で活動していたオカルト研究会の君であるからこそ出来たトリックというわけだ」

 いや、それ一切科学を学んでないです。 むしろ何も考えずにオカルトパワーで押し切ったほうがまだマシだったのではないだようか。

 佐々木先輩の心中はおそらく犯人だと当てられたことによる恐怖と、トンチンカンを100回殴ったら何かよく分からないものになったというようなウロさんの推理による混乱で異様なことになっているだろう。

 佐々木先輩に若干の同情心を抱きながら、パフェを口に含む。

「体は高校生、頭脳はいっぱい! その名は──」

「いや、他の人の頭脳を自分のものとして扱わないでください」

「名探偵、俺!」

「名探偵というより謎(めい)探偵って感じですよね」

 パフェ美味しい。

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ネジ!笑

umi

2017/11/14

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感想ありがとうございます。
ネジは便利ですよね。 色々な物を組み立てるのにも使えますし、人を洗脳するのもネジをぶっ刺しただけで出来ます。 最高です、ネジ。

作者:ウサギ様

2017/11/14

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とじる

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