3

出会いは別れのあとに 完結

ポイント
165
オススメ度
23
感情ボタン
  • 14
  • 0
  • 5
  • 3
  • 0

合計:22

とある男の手記。愛する彼女についての記録。

1位の表紙

2位

目次

すべてのコメントを非表示

それは、鉛を張り付けたような曇り空の日だった。

路地裏で僕と彼女は出会った。正確にいえば、「出会い」と称することができるようなものではないのかもしれないが、たしかに僕と彼女は出会ったのだ。

あの日の僕は、機嫌が良くなかった。いつもより、少し。

たいしたことじゃない。「処刑人風情が、貴族同様の生活を送るなんて」と嫌味ったらしくなじられただけだ。

僕の心は、ずっとあの日の空模様と同じだった。

彼女に出会うまでは。

彼女の話をしよう。これから登場する女性、マリー。

僕は彼女の本当の名前は知らない。名前どころか、性格も好きな色も、苦手なものも知らない。

彼女は亜麻色の豊かな髪をもち、陶器のごとく美しい肌をしている。決して開かれることのない広い瞼も、まあるい額も愛らしい。

きっと彼女の声はカナリアのように美しく、瞳はダイヤモンドも敵わない輝きを持っているに違いない。

僕はマリーに夢中だ。

嗚呼、マリー。君が僕に微笑みかけることは永久にない。清らかな唇が、僕の名前を呼ぶこともない。それでも構わない。

君を愛している。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/09/07)

修正履歴を見る

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 1
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

彼女を手に入れた日、僕は今までにないほどに悩んだ。それはもちろん、彼女の名前についてだ。

美しい響きをもった高貴な名前、マリー。この名前を思いついたとき、僕は震えた。

我ながらいい名前だと思う。すこしは自分を好きになれそうだ。

僕は君の名前をとても気に入っている。君も気に入ってくれていたら、僕はとても嬉しい。

前述したとおり、僕は彼女のことを何も知らない。

マリーの部屋をどう装飾するか、服やアクセサリーはなにを贈れば良いか、本当に悩んだ。

けれど僕なりに、彼女によく似合うと感じたものを選んだ。

僕が贈った綺麗な服や装飾品に身を包んだ彼女。僕が飾った部屋にいる彼女。

マリー、嗚呼マリー。

僕は恐ろしい。

僕と君が離れ離れになる日でもなければ、勿論僕が死ぬ日でもなく。

君がある日とつぜん目覚めて、惨めな僕を罵って、去っていく。

その日が訪れることが、なにより恐ろしい。起こるわけがない出来事に怯える僕を、君は奇妙に思うかもしれないが、毎晩夢に出るほど恐ろしいんだ。

彼女と僕は住む世界が違う。頭では分かっている。それでも君を愛さずにはいられない。

マリー、僕の傍にいて欲しい。永久でなくても構わないから。

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 1
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

彼女の身体からは、菫の香りがする。

甘くて品のある香りは、可憐な彼女によく似合う。

その香りは出会った日から変わらず、僕を惹きつける。

僕は必要以上に彼女の身体を触ることはないけれど。

君に恋をしてしまった僕は、君の麗しい肢体に触れたいと思うことはある。

それでも、血に汚れた僕の手が君に触れるのは許されることではない。

なによりも僕は君を見つめるだけで頬が熱くなり、緊張してしまう。うぶな10代の少年のように。

僕の少年時代に恋愛なんていう経験はなかったけれど、過去を塗り替えるかのように、いやそれ以上に彼女に愛を捧げている。

嗚呼マリー、今日も人が死んだよ。

賑やかなグレーヴ広場で、断頭台はあまりにもあっけなく人の命を奪い去る。

道を違えた者達を、僕はただただ殺していく。

これは僕の仕事で、仕方のないことだ。誰かがやらねばならないことなのだ。

君に手を伸ばすことができないとしても、心のなかで描くことだけなら許されるだろうか。

君と、どこかで幸せに過ごす日々を。

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 1怖い
  • 0惚れた

1

狂気じみた愛の狂おしさが余すところなく描写されていて、独特の緊張感があります。
彼の職業を考えれば、その狂気がなおさら悲しいものに感じられます……(´;ω;`)

大久保珠恵

2018/9/7

2

>大久保珠恵様
閲覧とご感想ありがとうございます。
私の低い文章力なりに、物語の雰囲気が伝わっていたようで、とても嬉しいです!

作者:青田 薫

2018/9/7

コメントを書く

とじる

あの日、彼女は冷たい地面に横たわっていた。人気のない路地裏で。

誰よりも美しい彼女が、なぜあんな薄汚れた場所にいたのかは分からない。

けれども、僕は一目で彼女に恋をした。言葉で言い尽くせないくらいの熱い想いがこの空虚な身体に流れ込んできた。

そのときにはもう既に、彼女は別の世界にいたのだけれど。

嗚呼マリー、僕の運命。

君はなにを望むのだろう。

富かもしれないし、名声かもしれない。或いは不朽の美貌? それとも、理想の恋人?

君を知りたい、美しいマリー。

でもね、マリー。君がなにも言わないからこそ、僕は心ゆくまで君を愛せるのかもしれない。

君に拒絶されたら、僕は生きていけないから。

僕が死んでも、君のいる世界にはきっと行けないのだろうね。

彼女が幸せなら、僕が傍に行けなくたって構わない。彼女の幸せが僕の幸せだ。

最近、僕は考えることがある。

もし此処とは違う現実があるとしたら――もし君が生きていたとしたら、この手で君を戮する未来がないとも限らないだろう。

死を以て裁かれるような罪人であったとしても、僕は君を愛している。

愚かな僕をどうか笑って欲しい。

  • 1拍手
  • 0笑い
  • 2
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

こんな空模様の日には、彼の最期を思い出す。

シャルル、俺の友よ。君はいま、幸せか。

真面目な男だった。どんな身分の人間にも優しくて、まだ若いのにとても優秀で俺の自慢の友だった。

そんな男が、仕事の依頼の手紙に返事をしないというのだ。

なにかあったのだろう、そう思い俺は彼の屋敷を訪れた。

使用人の姿はなかった。妙な胸騒ぎがした。

俺は、広い屋敷中を探し回って、ついに一番奥の部屋に辿り着いた。

ドアを開けると、そこは女の部屋のようだった。

最高級の調度品で飾られた、美しい部屋。

……誰の部屋だ。

あれは一体なんだ。穏やかに微笑み、眠るシャルル。彼の傍らに横たわる、流行りのドレスにくるまれた黒い塊は。

鼻につく腐臭、集る蠅と蛆、ではあれは――

俺は駆け寄る。混乱する思考を置き去りに、足が動き出していた。

彼のこんなに柔らかな表情を、俺は見たことがない。

ひとまずシャルルを起こして、話を聞かなければと思った。

しかし、手を伸ばした瞬間に彼はもう既に息をしていないことに気づく。

眠るように穏やかに、ムッシュ・ド・パリはそこで死んでいた。

あの部屋でなにがあったのか、それは彼等しか知らない。

  • 1拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 2怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

オススメポイント 23

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。