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あなたに言いたい言葉を探す

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偶然家に落ちてきた異世界勇者。なんだかんだ二人で楽しく暮らしてたのに、勇者は元の世界へ帰ると言い出す。家を出ていった彼を探すため、SNSのハッシュタグで呼びかけ姿を探す。彼に伝えたいことがあるから。

未完成なので本文を更新もしくは追加していくスタイルで書くつもりです。monogatary.comさんの利用は初めてなので、想定通りに更新できないかもしれません。

また、最新更新部分に今後の展開のあらすじをネタバレを含む形で書き添えていきます。ネタバレが苦手な方は読まないようにお気をつけてください。

かなり長文です。書けた導入部分で既に一万文字使ってしまいました。

スマホ投稿のため段落を開けてません。
?や!の後も空白無しですが仕様です。
もしかしたら句読点やカギカッコの後ろ半分などが次の行の頭に来るかもしれません。
見にくいかと思います。申し訳ありませんがご理解よろしくお願いします。

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〈異世界勇者を探して〉

走って!走って!もっと速く走って!

自分の脚を叱りつけ、痛みをこらえて無理やり走る。

休日の街中は、田舎町だけどそれなりに人がいる。

走る邪魔にはならない人数だけれど、怪しい人を見るような視線をいくつも感じる。今日はスカートじゃなくて良かった。スカートだったらもっと奇異の目で見られただろう。最悪の場合撮影されてたかもしれない。

あいつの格好のほうがよっぽど目立つし変なのに!

間抜けにも撮影されたあいつのことを思い出し、悪態をつきたくなる。けど、疲れ切って声を出せる余裕もない。

息切れに限界を感じて膝に手を突き、呼吸のたびに身体が大きく揺れるのを感じる。

ぜぇはぁなんてもんじゃない、普段こんなに激しく呼吸をすることのない喉は、息をするたびに荒い音を立てて痛む。

どこにいるの!異世界勇者!

私が顔を上げると、ずっと向こうの道を渡る彼を見つけた。今の私より目立つであろう鎧姿だ。

見つけた!

私は最後の力を振り絞るように、全力で走り出した。

----------

〈出会い〉

異世界勇者と出会った場所は、一人暮らしの私の家だった。

正確に言うと、私の家に落ちて来たのだ。夜の八時ごろ、突然背後で重い金属が落ちるような音がして、何事かと振り返ってみたら、彼がそこにいたのだ。

残暑もまだ残る日々に着るには暑そうな、土ぼこりに薄汚れた、鉄みたいな色をした鎧。手に持っているのは、多分鎧と同じ金属で出来てる剣。うつ伏せに倒れた彼の頭は現実感のないくらい自然な赤毛で、やはり土っぽく汚れていた。頭がこちらに向いてるからよく見えないけど、きっと足元の土汚れはもっとひどいだろう。

床に臥す彼のすぐ上、つまり、私の部屋の空中、屋根でもなんでもない何もないはずの空間には、人が一人落ちてくるのに十分なくらいの穴が空いていて、あぁ、ここから落ちてきたんだなと理解できた。

でも、理解は出来ても納得出来たわけじゃない。突然私の家に男がやってきて、武器も持っているなんて恐ろしすぎる。いや違う。そういう心配もするべきだけど、いきなり人が部屋の中に落ちてくるなんて異常現象が起きているということに注目すべき?

後から考えれば、そんなことを考えても何も分からないんだから自分の身の安全を心配して正解だったと思ったけれど、結局その時の私は自分の身を守るより、事態の把握を優先してしまった。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

その問いかけに答えが返ってくるより先に、彼が落ちてきた穴が塞がりはじめた。

穴の向こうから誰かの声が聞こえた気がしたけど、何て言ったのかは分からなかった。

「ぐ……うう……」

ひどく苦しそうな呻き声を上げながら、彼は力なく左手の近くに落ちた剣を握り直そうとする。途端に、彼が剣を杖代わりにして床に突き立てようとするのが想像できてしまって、私は慌てて剣を取り上げる。

賃貸だから傷を付けられたら困る!あっ、そもそも落ちてきたときにはもう床が凹んでるかも!どうしてくれるの!

そんなことを考えながら剣を奪うと、彼の手からあっけなく引っこ抜けたので、少し離れたところに置いておく。彼は武器を奪われても何もできないくらい消耗していたので、床に傷を付けられた怒りもあったけど、流石に不憫になって布団に寝かせてあげたくなった。

でも、布団は自分の分しかないし、土だらけのまま寝かせるわけにもいかない。

ひとまず鎧の背中部分や足元を濡れ雑巾で拭いてやり、少し考えてから濡らしたタオルで髪や身体を拭いてやった。

見た目通りだいぶ汚れていて、シンクでいちいち雑巾を洗うのが面倒くさい。バケツがあればよかったんだけど、女子大生の一人暮らしにバケツが要るとは思わなかった。背面は拭けたから次は正面だ。

「よっこいしょ!」

鎧の脱がせ方が分からなかったから、重たいけどそのまま表にひっくり返す。

背面は特に気にならなかったけど、鎧の正面は細かい傷でいっぱいだ。同じように雑巾で拭いても、なかなか傷にこびりついた泥までは落とせそうにない。

「まぁいっか」

鎧の傷まで綺麗にするのは早々に諦め、先ほどと同じように雑巾とタオルで汚れを拭っていく。

あらかた綺麗になったことを確認して、床も出来るだけ拭いた後、どうせ着る前に一度洗濯するからと、冬物の服を床に敷いて布団がわりにする。そこまで引きずって寝かせてやる。

「よし」

拭ききれなかった床の土を拭きとり、壁に背を預けてひと息つく。

鎧を着た彼、私よりは年上だろうか。二十歳台前半くらいに見える。もしかしたらもう少し上かもしれない。

少なくとも日本人ではない顔立ちだけど、どこ系の顔かというとよく分からない。目を開いてみないと分からないかもしれないけど、中の上というか、ちょいイケメンのサブキャラくらいかな。

そこまで考えて、彼を評価する基準が漫画やアニメのキャラクターになってることに気づいた。ライトノベルやアニメではよく見る展開なだけあって、目の前で起きてもまるで現実味が感じられないからかもしれない。

すごく疲れてるみたいだけど、目が覚めたらこの人はどうするんだろう。襲われたら抵抗できる自信もないけど、剣だけは隠しておくべきかな。

多分、普通なら「女子の一人暮らしなのに危機管理がなってなさすぎる!」って言われると思う。実際に言う友人も具体的に想像できる。玄関から放り出しておくのが正解なのかもしれないけど、流石にそれは気分が悪いし、明日の朝にそこで待ち構えられてたり、私の関係者だと思われたら結局困るのは私だ。

そう思って放置したまま一時間くらい経つと、ようやく彼は目を覚ました。

「……ここ、は?」

「目覚めました?あ、言葉、通じます?」

私が声をかけた瞬間、彼は飛び起きて肩越しに背中へ左手を回す。しかし、そこに剣はない。

私が「あっ」と言う間に、彼は近くに置いてあった剣に気づき、飛びつくようにそれを手に取った。そのまま転がって膝立ちになり、剣を構える。

「…………!」

いきなりすぎて聞き取れなかったけど、彼が何かを唱えると剣が光り、そこからいくつもの緑の光が伸びてくる。その光はツルのように私に巻きつき、身体の自由を奪った。

「なっ、ちょっと!」

私が抗議の声を上げても拘束を緩める様子はない。警戒されてるのがよく分かる厳しい表情でこちらを見ている。私が声を出すことは出来ても抵抗することは出来ないのを確認したのか、彼は少し安心したように剣を鞘に収める。

いや、今背中に剣をまわしたとき天井に当たる寸前だったよ?斜めに振り上げたからセーフだったけど、真っ直ぐ上に突いたらぶっ刺さっちゃうよ!天井高めだったから助かったけど部屋を傷つけるのはやめてよ!?

剣を収めても私を縛っている緑の光はなくならないようで、両手両足をぐるぐる巻きの巻き寿司状態にされたままだ。彼は私の方に近づいてきて、どこからか取り出したのか、小さなナイフを私に突きつける。

「ひっ」

自分でも馬鹿だと思うけど、今になってようやく命の危険を実感する。現実感がないなんてのは即座に飛んでいった。このナイフで私をどうするつもり?刺すの?切られるの?どのくらい痛いんだろう?

無意識のうちに恐怖で口元が震えてしまい、歯がガチガチと音を立て始める。

「答えろ。ここはどこだ。お前は奴の手下か。俺をどうするつもりだ。何故何もしなかった」

青い目で私を睨むと、言葉が終わると同時にその両目が一瞬光る。すると、いきなり質問ぜめにされたにもかかわらず、全ての質問に答えなきゃいけないという強迫観念のようなものにかられて口が勝手に動き始める。

「ここは私の家で、奴って誰のことか分からないんですけど少なくとも手下じゃないと思います!あなたのことはどうするか全然決めてないです!何もしなかったわけじゃなくて鎧と身体を拭いて私の服を敷物にしました!」

恐怖からなのか、目が光った不思議現象の影響なのか、自分でもびっくりするくらい早口でスラスラと答えが出てくる。さっきまで震えてた私の口とは思えないほど自然に答えられた。

もしかして、魔法?私の部屋にいきなり落ちてくるくらいだから、そういうのがあってもおかしくないかも。

「お前の家?一人だけで住んでいるのか?」

今度は目が光ることもなく、口も勝手には動かない。やっぱりさっき目が光ったのが強制的に答えさせる方法だったみたいだ。今回は私の自由意志で答えられるようだ。でも、その分どう答えればいいのか分からず困ってしまう。とりあえず「あ、えっと、はい」と口ごもりながら肯定だけはしておく。

「護衛や用心棒はどうしてる。私室に男を入れるのを止めなかったのか」

心底不思議そうな、そして少し警戒心が戻ってきたような顔で問われる。やっぱりこの人のいた所でも、男性を同じ部屋に置いておくのは考えられないことみたいだ。

「護衛とか、用心棒とかはいません」

「使用人は?」

「そういうのもいません。本当に私一人で暮らしてるんです。料理も自分でします」

彼は私の答えを聞いて、むむむ。と考えこむように眉根を寄せる。しかし、警戒は解かれていないみたいで、厳しい顔をしたまま、今度は私のお腹にナイフを近づける。

「腹を見せてもらうぞ」

えっ、ちょっ、それってどういうこと!?お腹をさばいて内臓を見るってこと?ナイフを使うんだからそういうことだよね?嫌!嫌だ死にたくない!

少しでも後ろに下がろうと思って身体をジタバタさせようとするけど、いつの間にか拘束が強まったのか、全く身体が動かせなくなっていた。

恐怖で強く目を閉じて、半ば諦めていると、ピリピリと何かが裂けるような気の抜けた音が聞こえてきた。

……へ?

「腹に魔紋はないか。普通の人間のようだな」

あ、腹を見るって、普通にお腹を見るだけだったのか。……それなら普通にめくり上げてよ!女子の服を切って内側を見るとか最悪だよ!もう使えないじゃんバカ!

ふむ。と彼も安心したように呟き、ナイフを置いてから私に再度向き合った。

「本当に、俺をどうするつもりだったんだ?」

今度は警戒より、明らかに疑問のほうが大きいと分かる顔だった。再び目が光ったので、思ったことを口が勝手に答える。魔法ってすごい。

「本当に、どうするか決めてなかったんです。とりあえず苦しそうだったから身体を拭いてから寝かせてあげようと思って。……強いて言うなら助けてあげようかなって少し思ったかもしれません」

さっきより相手の表情が怖くなかったからか、案外落ち着いた声で答えが出てきた。

「でも服を切ってお腹を見ようとするのは最悪。バカなの?普通にめくって見ればいいじゃない!」

と思ったら余計なことまで自動的に答えてしまった!まずい!

「俺を、助ける?」

けれど、彼は服の件は全く気にせず、「助ける」という言葉に一番反応した。すごく意外な言葉を聞いたみたいに目を丸くして、私を数秒間見つめた。少しは服のことも気にしてほしいんだけど。……それにしても、沈黙されるとどうすればいいか分からない。ちょっとタイミングを逃してしまったけど、返答しようと言葉を選び始める。

「えっと、はい。アニメやラノベ……あ、こっちの物語のなかではよく聞く話だったので、その、助けるのが自然かなって思ってたみたいで」

乱暴されたくないから、自分の意志で答えられるときには丁寧語を使っていこう。うん。

私の答えを聞くと、彼の表情から疑問の色が薄れていくように見えた。でも今の説明だけで理解出来るのかな?その代わりに、なのか、私を真剣な顔でじっくりと見つめ始めた。

今更真偽の判定じゃないだろうし、多分本当のことを知りたいだけならさっきの魔法で答えさせることができると思う。だとしたら何だろう?また沈黙されると結構気まずいんだけどな。

不意に彼の目が閉じて、また何やら唱え始めたのが聞こえた。けど、相変わらず何と言っているのかは分からない。

「とりあえず、お前を解放する」

その言葉が始まる前から拘束が消え始めていた。さっき唱えたのは呪文の解除だったみたい。

手足が自由になったことに安心して、縛られた跡がついてないことを確認してから座り直す。全身に巻きついてたから、跡が残ってたら大変だった。服はお腹に縦に切り込みが入っているので、腕を置いておく感じで押さえる。

「すまんな。縛ったことと服を切ったこと。謝る」

案外あっさりと謝罪されたけど、申し訳なく思っているのは分かったから、私も曖昧に答える。別に許してはいないけど、争う姿勢を見せたって、私が敵うはずないから。

それから、私の部屋や私の世界のこと、私がよく読んでいた異世界転生もののお話を訊かれたから答えた。私も彼の世界の話、彼がこちらに来た経緯の話について質問した。彼の世界ではお腹を見れば魔物かどうか分かるらしい。だから私のお腹を見ようとしたのだ。彼の名前も聞いた。ビーノというらしい。

ビーノの話をざっとまとめると、彼は故郷に大事な家族と好きな人を残し、仲間とともに魔物を倒す旅をしていて、最終的には魔物たちの親玉を倒すのを目的にしてるらしい。故郷には幼馴染の恋人もいて、世界が平和になったら結婚する約束をしてるらしい。意外と可愛いところあるじゃん。

そして、とある大国(名前は聞いたけど忘れちゃった)を侵略してきていた強い魔法使いの魔物との戦いの最中、そいつの魔法でこっちに送られてきたとのことだった。

「そっか、ビーノさんは勇者なんだ」

「勇者?」

初めて聞いた言葉らしく、ビーノがどういう意味なのかと問うように眉をひそめる。さっきの異世界転生の話のときに言ったつもりで言ってなかったのかも。

「魔王を倒すために仲間と旅をしていて、武器も魔法も使える勇気ある者。いずれ世界を救う者。みたいなのを勇者って言うんです」

「武器も魔法も……そして、勇気ある者、か」

何故か自嘲するように笑い、それ以上は勇者の話題を口にしようとしなかった。

「邪魔したな。俺は帰る方法を探す」

ビーノは鎧の重さを感じさせないくらい自然に立ち上がり、出口を探すように視線をさまよわせて、ドアと反対側にある窓のほうへと歩き始めた。

「待って!これからどうやって暮らすつもりなの?」

「お前のような女一人でも生きていける世界なのだろう。俺も一人でなんとかなる」

こちらに振り返らずに答える。けど、そんなに簡単なことじゃない。

「住むところは?」

「旅を住処にしていたのだ。野に寝床を借りる」

ビーノが窓を開けようとするけど、鍵がかかっているから開かない。鍵を開けてあげるのは簡単だけど、開けたらビーノが出て行ってしまう。

「こっちの世界では野宿をしてたら捕まっちゃいますよ」

そう声をかけて、後ろからそっと窓を押さえる。

「こちらでは野宿が罪なのか?」

すごく驚いた様子で、ビーノは私を見下ろす。

「いや、えっと、別に野宿が罪ってわけじゃないんですけど、普通に暮らしてる人は家にいるから、野宿してる人は不審に思われるんです。それで事情を聞くために警察に連れていかれたり……あっ!それに!勝手に木を切って薪を集めたり、木の実を勝手に取ったり、焚き火をするのは罪になるはずです!外で寝るだけならなんとかなるかもしれないですけど、食べものがどうしようもないですよ!盗みも強奪ももちろんダメです!それにこれから寒くなりますから、寝るだけでも辛いと思います!」

思いつくままに理由を挙げていく。ビーノはどんどん顔をけわしくしていく。

「ならば、どうしろというんだ」

どうしろと?と聞かれると、たしかにどうすればいいのか分からない。ビーノを外に放ってしまうのはダメだと思うけど、だからといって他の案も思いつかない。

「お前がこのまま住まわせてくれるというわけでもあるまい」

私が迷う間も無く、ビーノが吐き捨てるように案を出す。本人は絶対案を出したつもりはないんだろうけど。でもそうか、私が泊めてやるなら、とりあえずビーノが外で騒ぎを起こしたり、警察沙汰になったりすることもない。

けど、私が泊めるというのは、それはそれで問題がある。女子大生の一人暮らしに、家族でも恋人でもない男が一人加わることになる。いつ襲われるか分からない。

相手は私より強そうな男な上に、剣も魔法も持っている。もし私が何か気に障ることや、あちらの世界ではありえないようなことをしたら、簡単に斬って捨てられてしまうかもしれない。

ついさっき、勇者にナイフで脅されるまでなら、そんな妄想、きっと現実感が伴わなかったと思う。けれど今は、実際に魔法で縛られ、刃物で脅された経験がある。剣で斬られる恐怖は、さっきより明確に思い描ける。

もし、そういう部分が問題なかったとしても、食べ物も二人分用意しなければいけない。異世界人のビーノがすぐに働けるとは思わない。ここに住まわせるなら、私が養わないといけない。

でも、それでも、私がここで外に出してしまったら、ビーノが罪人になったり、餓死したりするかもしれない。顔も知ってて、話もしたことがあるような人が、どこかで死んでしまったらと、想像するだけでも嫌だ。赤の他人のことだからなんて、割り切れない。

それどころか、捕まりそうになったとき、もしかしたら魔法の力で無理やり戦って逃げようとするかもしれない。今の不安定な日本じゃ、変な人に見つかったら宗教の教祖とかに祭り上げられたりするかもしれない。そんなことになったら多分、大きな争いになる。考えすぎ、飛躍しすぎかもしれないけど、ビーノは本当に魔法が使えるし、多分倫理観とかもこっちの人とは違う。何らかの大きな問題が起きることは、きっと間違いない。

そうなるくらいなら……。

「……いいよ。しょうがない」

ビーノが目を見張る。

「帰る方法が分かるまで、私とここで暮らそう」

そうは言ったけど、半分以上は勢いだ。まだ、ちょっと覚悟が足りない。そのせいで私の声は震えていた。けれど、現時点のありったけの決意だ。そんな気持ちを込めて伝えた私を、ビーノは危ういものを見るような目で見つめた。

「お前は、歪んだ正義感の持ち主のように見えるな」

こうして、私とビーノのファーストコンタクトは終わった。

----------

〈異世界勇者と二人暮らしの始まり〉

「なんだ、それは」

朝、私が朝食を作っていると、ビーノがすぐに起きてきて尋ねた。

「おはよう。服の上だったけどちゃんと眠れた?」

ビーノと出会った夜は、話してるうちにかなり遅い時間になっていたらしく、私はさっさと寝ることにした。

文句を言うビーノには、「あなたには故郷で待っててくれる恋人がいるんでしょ?なら他の女性に手を出すようなことはしないよね?信じてるからね!おやすみ!」と、一方的に言って文句を言われる前に布団に潜り込んだ。

本当は不安で不安で仕方なかったけど、わけの分からないことが起きて頭が疲れてたみたいで、思ったより早く眠りにつけた。

ビーノは介抱していたときに用意した服の上に寝てもらっていたのだ。

「ひとまず睡眠はとった。それで、なんだそれは」

振り返ってみると、ビーノはコンロを指差しているみたいだった。多分、薪も何もないのに火が燃えてる原理が知りたいんだろう。

「こっちの世界の焚き火みたいなものです。下からよく燃える空気みたいなものが出てきて、それが燃えてるんです」

その説明に全く納得いっていない様子だったが、それよりフライパンをよく見なければ。

今日の朝食はベーコンを焼いたものだ。一人分ならベーコンエッグにしようと思っていたけど、二人分だから少しずつ節約していかないといけない。

カリカリに良い色で焼けたベーコンを、二人分のお米の上に乗せ、テーブル運ぶ。お茶碗は一つしかないので、ビーノの分のお米は汁物のお椀によそってある。テーブルも一人で食事することしか考えてなかったから小さいけど、お椀二つだけなら問題ない。

「はい。男の人には物足りないかもしれないですけど、いきなり二人分の食料を用意できるわけでもないのでこれくらいで我慢してください」

そう言いながらお箸を二人分置こうとして気づいた。お箸、使えないかも。

私はシンクに戻ってお箸の代わりにフォークを持ってきて、ビーノの前に置く。

「いただきます」

私にも予定があるので、手早く食事を済ませたい。両手を合わせてからお箸を手に取り、すぐにご飯を食べ始める。

ビーノも慣れない様子で食べる。食事中には話をしないようで、二人とも黙って食べていた。私は、楽しくお喋りしながら食事をしたいんだけど、ビーノにそれは期待できない。

「ごちそうさまでした」

「ありがとう」

ビーノは見慣れないお米を恐る恐る食べ始めたのに、私と同時に食べ終わった。どうやらごちそうさまと言う代わりのお礼の言葉らさい。

「それじゃ、お皿片付けますね」

「それくらいなら俺がやろう」

ビーノはそう言うとまた何やら呪文らしきものを呟いた。どこからともなく水が集まってきて、お椀も何かに吸い込まれるようにフワリと浮き上がり、集まってきた水の渦の中でぐるぐると流されはじめた。

水の流れが止まると、水はどこかへ消え、お茶碗とお椀は綺麗になってテーブルの上に戻ってきた。

「うわー!すごい!便利ですね!」

「このくらいの家庭用魔法なら、俺も問題なく使える」

ビーノは当然のことのように答える。言葉は偉そうだけど、事実を伝えてるだけのようなニュアンスだ。それにしても家庭用魔法か、覚えられたら便利そうだ。洗濯物を一気に洗ったり乾かしたりもできるのかな。

「お皿洗う手間が省けて助かりました。あ、余った時間で注意事項言っておきますね」

ビーノには勝手に外に出ないこと、コンロには触らないこと、水の出し方と使っていい器、水は無限に使えるわけではなく、お金がかかっていることなどを教えておいた。今日私が帰ってくるまでじっとして待っててくれると助かる。

お昼ご飯はビーノの手元に保存食があるらしく、今日はそれを食べてもらうことにした。ビーノは水さえあればいいと言っていたけど、明日からはお昼ご飯も用意するつもりだ。

そうして、案外大丈夫かもなどと思いながら一日をすごして、普段使わないコンビニまで歩いてシャツとパンツを買って帰ると、部屋の様子がおかしい。

「壁紙が……ない!」

それどころか、ところどころ壁がえぐられた跡がある。ビーノに訊ねてみると、ビーノの住む世界の家には壁紙がなく、木の壁の家ばかりなので、木の壁からカビが生えてるのだと思ったらしい。カビと間違えられ剥ぎ取られた壁紙は、無残にも部屋の隅に丸めて置いてあった。

「あーもう勝手なことしないでって言ったでしょうが!今日はじっとしててって言ったのに!あーもうこれ直すのにいくらかかるのよ!!」

幸い明日は休みだから、一日使ってビーノにこちらの生活の仕方を教えるつもりだったのだ。でも、今日のうちからやらかしてしまった。

「す、すまん。元に戻すから、落ち着いてくれ」

ビーノが気圧された様子で呪文を唱えた。初めて見せる表情に、これからは少しは対等に話が出来るかもしれないと怒りながらも思った。

ビーノの魔法で壁紙は直されたので、同じように昨日ビーノが落ちてきたところのくぼみも直してもらう。

ようやく落ち着いた私を見て、ビーノもホッとしたようだ。

それから晩ご飯を手早く用意するとき、コンロの使い方を教えた。こういうとき、誰でも使えるよう簡単に設計されている家庭の器具はすごいなと思う。IHの調理台を見せたらどんな反応するんだろ。

「明日はこっちでの暮らし方をもっと細かく色々教えていきますからね!あ、そういうとき便利な魔法があるなら教えてくださいね」

そんな約束をしてから、翌日。

「風邪、ひいた……」

朝起きてから頭がガンガン痛むし火照ってる感じがするし、暑いからと布団を剥がすと、ゾクゾクと背筋が凍えるような感じになる。これはダメだ。一日で治るような甘いものじゃないみたい。

布団をかぶり直すと、またすぐに眠りについてしまった。

(本文ここまで 9/7 4:18)

以降はネタバレありの今後のあらすじになってます。読みたくない方はお気をつけてください。

[あらすじ]

女子大生の主人公の部屋に、異世界から飛ばされてきた勇者が、異空間の穴から落ちてくる。

常識の違いからすれ違うこともあったけど、二人の距離感は少しずつ縮まっていく。

↑現在この部分を描写中です。

けれどある日、主人公が勇者を家の外へ連れて歩くと、勇者はここが元いた世界ではないことを強く意識するようになってしまう。そうして、異世界勇者は元の世界への思いを強くしていく。

主人公はそれを仕方ないとは思っていても、どうしても、自分がお世話してあげたり、一緒に笑いあった時間が、元の世界への思いには敵わないのだと意識すると、もやもやとした気持ちになってしまう。

そんな心持ちだったので、一緒に遊んでいた友人に、ぽろっと二人暮らしをしていることを漏らしてしまう。

詳しく聞きたがる友人に根負けして、異世界の勇者であるとか、そういった非常識な部分を伏せて現状を説明する。

すると、友人は「恋だね」などと言う。けれど、主人公はそんなつもりじゃない。だって異世界勇者には、故郷に残してきた幼馴染の好きな人がいると言っていたのだから。

帰宅した後、友人との会話を思い出したり、もやもやとした気持ちが抑えられず、彼との会話が上手くいかない。そんなとき、異世界からの魔物が窓を突き破り襲いかかってくる。

なんとか魔物を倒した後、彼は部屋の外に元の世界へと繋がる場所があると考え、家を空けることが多くなる。

そうして、主人公が家に帰っても、勇者がいないことが多くなった。異世界へ繋がる場所を探すのに忙しく、勇者は一緒に家事をするわけでもない。これじゃ本当に、ただ衣食住を提供するだけの便利な存在になってしまう。

そんな悲しみを抱えた主人公に、異世界の魔物が接触を図る。この魔物が勇者をこちらの世界に送り込んだ犯人であり、先日の魔物の襲来もこいつのせいであった。

魔物は主人公を捕らえ、人質とする。主人公は、もし助けてもらえるとしても、どうせ便利な人間がいなくなるのが惜しいからだろうと思ってしまう。

しかし、予想に反して助けにやってきた勇者は必死になって戦い、人質となっている主人公が出来るだけ傷つけられないようにしながら、なんとか魔物を打ち倒す。無事に救うことが出来たと分かり、勇者はこれまで主人公が見たことがないような安堵の表情を見せる。

事件の後、勇者は主人公に何も言わず、家を出て行ってしまう。異世界に帰ろうとする彼が、何も言わずに出て行ったのにも理由がある。主人公は、そう自分を納得させようとした。

けれど、今までのことを思い出し、何も言わずにさよならするのは嫌だと思い、主人公は立ち上がる。

#異世界勇者と繋がりたい

そんなハッシュタグを使って、冗談めかした文章で、けれど本気で勇者の姿を探すつもりでSNSに書き込んだ。

この世界からいなくなる彼と、きちんと話をするために。

SNSからの情報を得て、勇者を見つける。

主人公が見送りに来たと言うと、勇者も追い返そうとはしなかった。

勇者が異世界への道を開く予定の場所まで、話しながら歩く。

主人公は今まで楽しかったとお礼を言い、勇者は自分にとって主人公がどのような存在になったのかを伝える。

何も言わずに出てこようと思ったのは、色々と理由があったが、結局のところ主人公を大切に思っているからだと気づき、主人公は笑ってしまう。

そんな話をして、別れの場所へと辿り着いた。それからは、ほとんど言葉をかわさなかった。

勇者が異世界へ旅立ってしまう直前、主人公と勇者は約束を交わす。

「必ず、あっちの魔王を倒して、世界を平和にしてくださいね。約束、ですよ」

「ああ」

そうして、二人は別れた。

主人公はまた会う日を待ち望み、勇者を探すのに協力してくれたSNSに、#異世界勇者と繋がりたいというハッシュタグを使いながら、勇者との日常を書き綴る。

そしてその投稿の結びの言葉もまた、#異世界勇者と繋がりたい であった。

いつかきっと、また勇者との日常を書き綴るときに、このハッシュタグを使う日があると信じて。

9/7 4:20 時点 未完

(ネタバレを含む今後のあらすじを見たくない方のために大きく空白をとっております)

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【モノコン2018物語部門 予選通過のお知らせ】ひとり暮らしの女子大生の家に落ちてきたのは異世界勇者だった——。女子大生と異世界勇者の掛け合いがとにかく面白かったです。現実世界に異世界勇者がやってくるという設定自体は目新しさはないものの、それでも読ませるあたりに著者の技量を感じます。コンテスト自体は終わってしまいましたが、ぜひ最後まで完結してほしいです。

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