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散歩 完結

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眠れぬ夜の独り歩き。

1位の表紙

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  寝れない日が続いている。

  別に大病を患ったとか、不安があるとかでは無い。ただ、ここ三日程、なんとなく眠れない。

  だから今日、旅に出ることにしたのだ。そう、今とても冒険したい気分なのだ。

  旅なんて大袈裟に言ってみたものの、小心者の自分にできる冒険といったら、夜中に寝間着で歩き回れる距離をぐるっと大きく周るぐらい。

  そんな冒険は、驚くほど僕に刺激を与えてくれた。

  昼間、ただ何となく、車で通り過ぎる道を歩くだけの街並みは、夜中には昼間とは全く違う様相を僕に見せてくれる。

  時刻は深夜二時二十八分。スマホと小銭入れだけをポケットに突っ込み、いざ冒険へ!

  ……小心者の僕は、長財布から千円札を抜き取り、そっと折り畳んで、小銭入れにしまった。

  何も起こらないとは思っているが、千円あれば、万が一の時に多少の水・食料は調達出来るだろうという、自分でも驚くほどの小心者っぷりだ。しかも、持っていくのが一万円札じゃないあたり「盗られたらどうしよう」という木っ端ぷりが如実に顕れている。

  家の中で寝ている家族を起こさないように、そっと、そっおっと、玄関を閉める。鍵をかける音と共に、自分の肩がビクリと跳ね上がるのだから、笑い種だ。

  家を出て直ぐコンビニの光が見える。いつもは、仕事に行く前に昼飯を買ったり、休みの日に無意味に立ち寄って、脂肪に貢献したりしているところだ。

  車通りの殆どない道では、とんでもない安心感を与えてくれる存在だと気付いた。

  家から出て、数分も経たないうちに、光という名の安心感を求めるのはどうかと思う。しかし、僕の足は光に導かれる。「まるで誘蛾灯に誘われる蛾だな」と、思いつつも足を止めることはなかった。

  勿論、街の外に出て、一歩で街の中基室内に戻ったのでは意味が無いので、コンビニには寄らない。

  幾ら小心者の勇者でも、ダメージを負う前に宿屋に向かったのでは、情けなさ過ぎる。

  コンビニをいくらか通り過ぎると、驚くほど何も無い。

  コンビニから一番近い細い路地を、一本折れただけなのだが、街灯もあまり無ければ、人の気配も無い。

  いつも車で、一瞬で通過する興味もなかった路地は、暗闇に呑まれた僕には、酷く恐ろしいものに映った。

  その細い道を、わざと足音を立てて進んで行く。丑三つ時に近い事を鑑みれば、恐ろしく迷惑だが、そうでもしないと怖かったのだ。

  僕にもう少し常識が欠如していれば、不安を紛らわせる為に、大声で歌いながら歩いた事だろう。事実、僕は小さい声で、明るい歌詞の歌を口ずさんでいたのだから。

  家から出て十分もしない内に、少し後悔し始めた僕は、時折不審者が居ないか、後ろを振り返る。頭の片隅の冷静な僕が、お前が一番の不審者だと警告してくるが、どうしても、振り返るのを止められなかった。

  しばらく行くと、目の前に住宅街の側道に並ぶ、街路樹が姿を現した。街路樹自体は怖くも何ともないのだが、虫は別だ。

  怖い。ヤツらは無茶苦茶怖い。気付かぬうちに身体の何処かに引っ付いたり、自分に向かって飛んでくるのではと思うと、街路樹の横をすり抜けるのに勇気がいる。

  時間にして数十秒。大の大人が、街路樹の横をすり抜けるだけなのに、深呼吸して辺りをキョロキョロと見回す。

  もう少しキョロキョロと、チョコボールの様にしていたかったが、もしこの場面を誰かに見られたら、空き巣と間違われて通報されるんじゃないかと思いやめる。

  意を決して、少し足早に街路樹の横を抜けると、足元で急にガサッと音がした。

  飛び上がった自分は、驚異的な速さで、スマホを対象に向かって向ける。

「蛇でも出たのか、いやいやいや、住宅街に蛇は無いだろ」

  等と、くだらぬ独り言を誰に言い訳するでもなく、宙に告げると、光が対象を照らしだした。

  ただの枯葉だった。

  枯葉に心底驚いた自分を恥ずかしがり、そんな自分に苛立って足早に去る。無論、誰も見ていないので、どれだけ驚こうと構わないのだが、とても気恥ずかしかった。

  そんな自分に更に追い打ちがかかる。後ろでエンジン音がしたのだ。

  自分は男なので、女性に比べて攫われる心配は殆ど無いのだから、ビクビクする必要など何処にも無い。堂々と歩いてればいいものを、わざわざ通り過ぎるまで、見守っていた。

  お天道様すら見ていないというのに、これ以上恥を晒したくない僕は、また道を一本折れた。

  何事も無く、真っ直ぐ、真っ直ぐ進んでいると、直ぐに道を変えたことを後悔した。

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真夜中の散歩、妙にそわそわというか、背徳感にも近いスリルがあって面白いですよね。
夜中の街は違って見える、この「冒険」は、主人公さんをどこに連れていくのでしょうね?

大久保珠恵

2018/9/11

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大久保珠恵さんコメントありがとうございます!

日常に潜む非日常感と、背徳感を感じていただけて嬉しいです。
彼の「冒険」は、ひっそりと路地にて続きます。

作者:アメフラシ

2018/9/12

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とじる

  パトカーに出会ってしまったのだ。

  何も悪いことをしていないのに、夜中に歩いているというだけで、捕まるのではないかと、ビビリの自分は思ってしまう。

  冷静な自分は、職質は受けても、捕まるわけはない。

  と、そういっているのだが、どうも信用ならない。

  あからさまに、パトカーを見て、もう一本別の路地を折れる。住宅街なので、幸い路地は豊富だ。

  行動だけを見れば不審者だ。それはもう確実に。

  パトカーが自分に気付いていて、こちらに戻ってくるんではないかと、その場で三分程待ったが、来ることはなかった。

  ホッとすると同時に、パトカーに怒りが込み上げる。自分みたいな、怪しいのがいないかを、見まわる為のパトロールではないのかと。

  自分になんの影響もないと分かると、人間とは随分勝手なものだなと思った。実に恥ずべき酷い話だ。

  パトカーから逃げたのに、何故パトカーを待ったのか、最初は意味が分からなかった。

  パトカーを待った理由を考えながら歩いていると、見覚えのある公園に出た。

  そうか、ここだったのか!

  急速な安堵感に襲われ、座り込みそうになる。座り込みそうになるが、地面が芝であることに気付いて止めた。虫がいたらどうしようと、思った為だ。

  どれだけ虫が嫌いなんだ。虫の方からすれば、図体の何倍もデカい自分の方が怖いに決まっている。一歩間違えたら踏み潰されてしまうのだから。

  自分に失笑していると、パトカーを待っていた理由に辿り着いた。簡単だった。人に会いたかったのだ。警察といれば、安全なんじゃないかと思ってしまったのだ。

  家の近所。しかも、寝間着で行き来できる距離で、警察という安全を手に入れたがったのだ。

  あまりに馬鹿らしくなった自分は、公園を一周して、家に帰ることにした。

  家に帰るとなれば、足取りは軽い。住宅街をぐるぐるぐるぐる回らずに、一直線に帰れば、数分程で家に着く。

  公園の一周も終え、少し浮かれた気分で、一歩を踏み出した時足元で大きな音が鳴った。

  正確には、そんな気がしただけだった。自分を心底驚かせたのは、またもや枯葉だった。

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ささやかな、冒険とも言えないような冒険で出会った、不思議に矛盾した人間の心。
後ろめたいような気もする冒険、それを咎めに来るのではないかというその人たち。
しかし、あれこれ言われたくもない、でも安心はしたい。
淡々とした描写の中に、人間の矛盾した奇妙な心情を描き出した文学だと思います(*´`*)

大久保珠恵

2018/10/4

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大久保珠恵さんコメントありがとうございます!

文学なんて嬉しいです!ありがとうございます( ´▽`)

作者:アメフラシ

2018/10/4

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とじる

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