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Combat Children  完結

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アザミ・グリッドレイは黎明を生きる。
昨日や今日、明日だけではない、覚えすらしない過去や未来にも。敵機のパイロットと同様に。

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 静かに機体を走らせる。

 巨大な建造物の中、観測されていた敵機の反応を捜していた。

 すると突如、通信が入っていたことに気づく。また、見るとIFFに登録があり私の機体とのリンクも維持されていた。

 隊長だろう、おそらく。

 それも飽くまで`元`であるのだが。強めにコンソールを叩いた、そこで回線を開く。

《その機体は、アザミか。》

「...まだ、なにかお話が?あまり聞き入れることは、軍法的にもマズいんですが。」

《なぜ、君がここに来る。部隊を裏切った私がいると知りながら、だが復讐するような意思もない。執着の欠片も無いような人間が、どうして、この地を踏んでいる...。》

 懐かしい声。よく、この調子で叱責を受けたものだ。だが、構っている時間もなかった。

「此処にいるのに、理由なんて必要ですか?」

《いいや、ない。だが変わらないな君は、善くも悪くも。》

「そういう貴方は、ずいぶん変わり果てましたね。ここに来たばかりの私みたい。」徐々に銃口を上げる。グリップを二つ上昇、照準角を上げる。勢いよくセーフティスイッチを剥き出しにした。

 沈黙したまま、通信は続く。セーフティを外したことには既に気づいているはず。ノズルが開かれていないことから、戦意はないことが分かる。

 機体の頭部は項垂れていた。きっと、搭乗者も項垂れているに違いない。足下を見たところで、ここは地上。地雷でも埋まっていない限り、注意する必要なんて何処にも無い。ましてや此処はコンクリートの海だ、埋められるはずもない。

《馬鹿か。》

「なにがですか。部下を置き去りにした馬鹿野郎が。」

《なにも、...なにも変わっていない。第十六次中東戦争の後、僕たちを取り巻く環境は大いに変わった。いいや、変わったように見えた。タワーが建ち、貧富を埋め、...そして、少年兵はいなくなった。いなくなるように、世間が求めたからだ。》

 私も、スラムを思い出す。

私がいたのは中東ではなかったが、でも両親は知らない。同じ場所にいたのかも知れない。けど、だったらもう死んでいる。目に付く限り、あの場所から自身を引き剥がそうとする人間は殺し尽くしたはずだったから。転機は、国連主導の傭兵部隊に誘われたこと。みんな行ったから、私もついていった。

 少年兵はいなくなったんじゃない。彼も、それは知っているはず。みんな、少年ではなくなっただけだ。

「...だったら。」

《だが...コンバットチルドレンに必要だったのは時間だった。けれど僕たち、私達の持つ意識は変わらない。時代や世情のほうが幾ら変わっていったとしても、それでも、この闘争本能だけは抑えられなかった。》

「...調整を受けたから?」

《まさか、調整したのは自分自身だよ。そうでもしなければ、こんなところで長々と生きられやしない。

...君だって、そうだろう?アザミ・グリッドレイ。スラムで君が生きてこれたのは、並々ならぬ戦闘能力があったからだ。戦闘能力には二種類ある。まずは解析と、そして運用。...君は、二つとも長けていたな。》

 そう云いつつも、口語回線越しに調整の音が聞こえてくる。

 機体の'頭'が持ち上がった。危険と思い、思わずグリップを握り直している。その手が汗ばんでいるのにも今さら気づいていた。

《...なるほど、理解したよ。君は僕を止めたいんだな...或いは、単純に乗り越えたいのか、まあそれはどちらでも良いだろう。》

「戻って下さい、シア。」そう言い、グリップを持つ手を再び直す。

 躊躇はない。

 通信には応答もない、だから戦闘は続く。

 多分、どちらかが死ぬまで。そして予感は当たっていた。

「グリッドレイ、無駄な会話は止せ。換気供給用酸素の無駄だ。やるならやるで早く仕掛けてみろ。」

 そう言った途端、アイセンサを光らせるのが見えた。暗い場所だ、カバー(過光遮断コーティング)で覆っていてもよく見えていた。セーフティの外された引き金を引き、だが火線とは交わらずに機体は急速に遠のいていく。

 そうしてこの場で起きたことを理解しようと、即座に頭は状況をまとめ始めていた。

 多分、バーニアは開いていなかった。

 脚部のみ、或いは慣性だけで動かしたのであろうか。滑るように、或いは弾道を読んでいたかのようにシャープに動き、周りには多層構造の残骸が流れ着いている。

 機体が大きいだけ不利な状態だと判断。たとえ中身が詰まっていなくとも、引っ掛かるだけで面倒になる。突っ込んでいって向こうから壊れてくれるほど脆弱な構造物でもないだろう。

「...邪魔だな。」

 此処での戦闘のコツに気づくと、自機から不利なモノは排除していった。まずはバーニア、追加したものから。次に武装は、使う余地もないような長距離射程専用の武装から。接近戦になれば邪魔になるだけ。近接武装から、良くても中距離武装の正面砲が適当な距離になるだろう。

 そうこうしているうちに距離は詰まっていた。正面、射角内のTGT識別に問題はない。だが味方間同士の衝突警報が鳴っていた。そして次に鳴ったのは高エネルギー反応の警告、それも背後から。その直前には認識センサが背面に注意を促していた。

 後ろにいる。間違いない。

 またこのパターンは、近接攻撃に違いなかった。

 直後、急いで回頭した機体全体には一機分の重量が押しかかっていた。関係ないはずのグリップからでさえ細かな振動が伝わってくる。コックピット全体に装甲板の圧力が加わったことで、いま、機体全体を支えているのが脚部一つとなっているのだろう。まるで、その反動のように振動や金属が嫌な音を立てながら、さらにコックピットという只でさえ狭い空間内に大きく反響していた。

 またその最中、再度に渡り通信が繋がっている。今度は接触回線だった。

「僕たちには、...そうだな、生き続けるモチベーションが必要なんだ。だから僕たちには戦場が必要なんだ。それに僕たちには、生まれた理由なんかよりも、死ぬのに嬉しい環境を整えるのが重要なんだ。」

 タワーを崩せば、それは成すだろう。宇宙空間からの生存供給が途絶えて、正真正銘、今度は弱肉強食の成す世界が幕を開けることになる。誰もが、再び銃を握る時代がやって来るだろう。

 コックピットが回っている。苛立ちも隠せないまま、そうして私は叫んでいた。

「...違う、...考えろシア・ノイド!」

《なあ、嗤わせないでくれ。これでも大いに考えた結果だ。これで地上からコンバットチルドレンという類の者はいなくなる。排斥され、製造できるプラントもそのうちなくなる。世界の均衡を失わせた兵器ともなれば、みんな、失われることを望むだろうさ。だがその役割も彼らが担ってくれるだろう。》

 マニピュレータを、グリップではなく直接操作で動かした。コックピット上部にあるハッチを叩き、動作記憶に用いる追随コンソールを引っ張り出す。未だ機体の並行回転が続く最中、そのまま手探りで体勢を維持。機体後部を使って滑りながら、なにかが圧迫され撓る音が聞こえ続けていた。

「望むものか。あれば、みんな力を望む。スラムに生きていた私がそうだったように、あるがまま死ぬことなんて有り得ない!」

《そうか...人類全体のことを個人感覚で考えているのか、君は。それこそ、愚かしいことだと君にだって分かるだろう。》鼻で笑いながら、嘲りながら続けていた。《ある大戦以降、核や放射性兵器がなくなったのと同じように、僕たちも同様に消えていく。戦争はその発端こそなくなりやしなかったが、それで偽りであっても、平和を造ることは現実に成っていた。》

「...。」

 マニピュレータに余裕が生まれ始める。擦り続けていた地面との間に膝の装甲を挟み、腕を背後の機体に伸ばした。

《...そのためにも、やはり必要なのは時間なんだよ。誰かが悪魔にならなければ、また取り返しのつかないところまで進むことになる!》そこで再び、機体を回頭。

 伸ばしていた腕部はシアの機体、その胸部に付属する装甲を掴んでいる。

 操作系をグリップに回帰。スラスタの方向を前へと進めながら、腕部駆動を加えていく。

 叫びながら次の行動へのタイミングを計った。「もう...そのラインを過ぎているとは思えないのか...っ!」

 そして目の前には遠くにそびえるタワーの副柱が見えている。数百以上もの本数が在るうちの一本。ぶつけてしまうには、今は丁度良い代物だった。

《いいや、まだだ。まだ、進める。》

 だが一方でシアは、あたかも冷静な様子で話し続けていた。《この程度では悪魔にさえ成れやしない。人を殺してしまうだけでは、人の心を動かせやしないんだ。そのためなら今の生活、幸福に対しての水準を無くさないと、...そうして理性を危うくでもされないと、まともに取り合う人間なんかいない。》

 急速に柱へと近づいていく機体。そして今もなお、速度を上げつつ互いに安定した位置を取り合っている。

 そうしてあと数百メートルをきったところ。グリップの状態をセーフティモードへと入れ、自由になった五指全てを用いてシア機を固定していた。

「そうかよっ...!!」

《そうだ、これが平和の代償だ。君も含め、僕たちは何も間違っていない。》

 そう言った直後、スラスタを一気に噴かしていた。コックピット内部にかかる制動は凄まじい。口の皮を一部、噛みちぎってしまうほど。

 機体が安定し、スロットルを引く。

 視界の前を見つめていた。反転し攻撃を入れようと、背部格納ポッドからブレードを抜く挙動に入っていた。腕部に固定してあると思っていた装備は、そういえば機体を乗り換えていた後だと気づきグリップを動かした。

だが、もう一度衝撃を受ける。

 シアの機体が、目の前に立っている。どうやって投げ飛ばされるのを防いだのだろう、機体は双方とも速度は二百キロ付近まで出ていたはずなのに。

 機体重量を下げていたとはいえ、生産段階で三十トンを超えるコーカサス級の機体のはず。まさか、機動性維持には特出していないのだろうか。略戦専用機体のくせに。また、そうなると制動をかけた理由にきっと手のうちまで読まれていたに違いなかった。そうして反動から機体が復帰した瞬間を狙い、シア機'ヴィクトリア'の灰色の機影が近づいてくる。即座に動かしていた腕を使い、直感的に防ぐが、だが直後にコックピット全壁と内部モニタに大きな亀裂が走っていた。そうして飛び散った硝子片は額や口、右目と耳を傷つけ、ついでに直接的な衝撃によって後頭部を割った。ところが吹っ飛んだときには痛みを感じる間などなかった。

 ただ気づいたときには暗闇の中、走り抜ける痛みと一緒にアイセンサから漏れる光が地面を通じ、眼球に映っている。

 敵機体を探す。追いかけなくてはと。

 しかし、そうして視界に散らばる光のうち、そこから本物を見つけられない。本物のバーニアからの漏出光は見つけられない。また幸運なことに後頭部の傷は浅かった。目も痛むが、今は何が見えているとか見えていないとかははっきりとは分からない。

 だが、それでも血は出ていた。今度は通信機が一人で喋っている。

《仕方がない、燃料が事尽きたか。今日のところはこれで退こう。だが忘れるなよ、グリッドレイ。コンバットチルドレンが何たるか、何のために存在しているか。そうなる過程に何が影響しているのか。今度会うときはそれを話そう。》

 比較的、静かな音がいくつか聞こえてくる。回頭し離脱準備をしているのか、同時にスラスタ用の循環機の音も聞こえ始めていた。そして思い出したように、少し間を置き、また通信機が喋り始めていた。

《事良くば、次は機体の外でな。ここは確かに居心地は良いが、話すのには向いてない、......じゃあな。》

 機体は四肢、頭部に加えコックピットまで半壊。グリップを幾ら動かそうとも、反応は消えたままだった。

ああ。どう考えても私は敗れたのだ。タワーを護れず、シアも止められず。

 塞がりきらず、機能をも失ったコックピットや天蓋の隙間から相手機体のバーニアの噴出ガスを感じていた。音は段々と遠く、さらに小さくなっていき同時に機体も遠ざかっていく。

 それにあと、色々と喪った気分だった。

 思えば、どれだけの時間が経ったことだろうか。アル・ダフラに配備されてから二年が経ち、しかし時間は息をするかのようにいつの間にか過ぎていった。

 内部モニタや電気が消え、暗く静かになったコックピットから身を乗り出していると目に刺さっていたガラス片が瞼にも刺さり、視界が真っ赤に染まり始めている。目を開けていられなくなったのは、そのすぐ後のことだった。そこで通信を入れようとヘッドセットや内部の機械を手探りでいじくり回す。

 しかし、二度と彼を同じ機体で追いかけることは出来なかった。

 そして自機の操作、クレイドルのコックピットが生きていないと理解するのにも時間はそうかからない。エマージェンシィを示唆する警告音が鳴り止むのと同時、機体の息が止まることを確認していた。

 二時間後、破損した機体を回収するため基地から直接カーゴが届く。一方、アザミは機体よりも先に基地へと回収されていたが、だが誰の目にも彼女が善戦したという印象はなかった。

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とじる

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