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死にぞこないと死神 完結

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死にかけている俺の隣で、死神が、まだ死なないと嘘を吐く。

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胸からは、脈打つたびに、赤黒い血がどくどくと溢れていた。

今まで幾度も修羅場を潜り抜けてきたけれど、今度ばかりは駄目だろう。

なんせ、銃弾が、左胸を突き抜けた。

心臓が無事でも、ここまで血が溢れ出せば、無事ではいられまい。

呼吸が熱くて、喉が焼ける。

「なあ、死神…俺はもう、死ぬのか」

「いいや、まだ死なないよ」

頭のすぐ横には、死神の黒衣の裾が見えていた。砂の上に引きずっているのに、その黒は埃の一つもつかず、ただただ闇の色をしている。

俺は首をゆっくりと巡らせて、喘ぎながらその顔を見た。

表情の伺えない、黒いフードの奥の白い顔。

蒼ざめた唇は、薄く笑っているようだった。

「嘘を吐け、今度ばかりは、さすがに」

「お前は長生きだ」

きらりとフードの奥で、真っ黒な双眸が光る。

闇夜に浮かぶ三日月のような鎌を俺の首に引っ掛けて、死神が嗤う。

「お前はしぶとい。さすがの俺も、うんざりだ」

嗤いながら、鎌を引く。俺の喉に、冷たい刃が、ほんのわずかに食い込む。

胸を貫いた痛みに比べれば、死神の鎌が掠るくらい、なんてことはない。

それにしても、息が苦しい。喉から呼気を吐く前に、胸の穴から、空気が漏れているんじゃないか。

咳き込むと、唇の端から、血の泡が散って頬にかかった。

鉄さび臭くて、厭になる。

「さあて、どうするか。お前が泣いて頼むなら、聞いてやらないこともない」

俺の首にあてがった鎌の柄に凭れて、死神が見下ろす。

小さく嗤っているのが、喉に食い込んだ刃から伝わって、俺は顔をしかめた。

「つべこべ言っていないで、さっさとしろ」

「なんだ、偉そうに」

黒衣の裾が、風穴の開いた胸を蹴って、俺は呻いて身体を丸める。

離れかけた鎌の刃を俺は掌で押し留める。死神が、呆れたように溜息を吐いた。

「助けろと命乞いするのかと思えば、死にたいのか」

「助けてほしいんだ、早く、この命を持っていけ」

「断る。まだ、お前は死なない」

いとも容易く俺の指の隙間から、するりと鎌を引き抜く。掌には、髪の毛一筋ほどの傷すらつかない。

すでに、諾々と、胸の穴から血が湧いているというのに、今さら掌の傷くらい、誰が気に掛けるというのか。

息苦しさに喘いで、俺は空を見上げる。

星々を散りばめた見事な夜空を遮って、死神の顔が覗きこむ。

俺が死にかける度、まるで冗談か何かのように、こいつは薄っぺらい嘘を吐く。

「今度こそ、死ぬんだろ。今はの際くらい、教えたって罰は当たらんだろ」

「死神に罰も何もあるものか」

くつくつと黒衣の奥から笑い声が響く。

「…なあ、本当のことを教えてくれよ。俺が恐れるとでも、思っているのか」

「お前はまだ、死なない」

「嘘を吐くな」

「どうして、嘘だと?」

鎌の柄でフードを少し押し上げて、死神はわずかに首を傾げた。

「知らないとでも思ってるのか、これだけ長いこと共にいて。お前、嘘を吐くとき、目が少し、光るんだ、嬉しそうに」

「…嘘だろ…?」

「嘘じゃないさ。死にかけてるときに、そんな冗談は言いたくない。これが最期の言葉だったらどうするんだ」

「笑えるな」

死神が、長い人差し指で頬を掻いて、そっぽを向いた。

俺は血の滴る旨を押さえて、身体を起こす。ごぼりと、口と胸から、血が落ちる。ああ、苦しい。

「おいおい、死ぬぞ」

「ほら、目が、光った」

俺はにやりと笑う。

「死なないんだろ、今じゃなく、長生きでもなく、永遠に」

死神の鎌を掴んで、俺は刃を首に押し付ける。

俺の目の底を、真っ黒な闇のような瞳が覗き込む。

その闇が、つと、逸らされた。

「お前が、死にたくないと言ったから」

「まだ、死にたくない、と言ったんだ。誰が、永遠に、死にたくないと言ったんだ」

「あの頃は、俺もまだ新米だったから、間違えたんだよ」

少し唇を尖らせて、死神が横目で俺を睨む。

「魂を削って寿命を延ばすつもりが、心臓ごと寿命を渡してしまった。心臓も寿命もとうにないから、死ねるわけがない」

「『まだ死なない』んじゃなくて『もう死ねない』んだろ」

「そうだ」

「じゃあ、この血は流し損か」

「そもそも、血なんてお前に流れてるわけがない」

すっと死神の手が上がって、俺の胸の傷を塞ぐ。痛みも、血の跡も、霧散して消え失せる。

ただ、真っ暗な虚空だけが、胸の真ん中に現れる。風が吹けば飛ぶような魂が、その空洞で、ゆらゆら揺れた。

「それで、俺は、どうなるんだ」

「さあ、好きにすればいい」

死神が、肩を竦める。

「それじゃあ、お前といくかな。どうせ、することもない」

「死神と連れ立ってどうするつもりだ」

「今までと変わらんさ。散々俺に付きまとっていたくせに」

「迷惑だ。人間を連れて歩くなんて」

「もう人じゃないだろ。それに、今、目が光った」

にやりと顔を覗き込むと、死神はフードを引っ張り目を伏せた。

「それに、役に立つぜ、なんせ、修羅場は幾つもくぐって、数えきれないほど死にかけたからな」

「そりゃ頼もしい」

死神は、持っていた鎌を俺に放り投げてよこすと、夜空に向けてからからと声をたてて笑う。

胸の奥の空洞が、黒く柔らかな闇で満たされ、俺の軽い魂は、その黒の中に心地良く収まった。

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死神とのやりとりがたまらなく面白かったです。
多分主人公さんは、死神との取引は、誰にも負けないのだろうと思いました。
でも、そんな中にハラハラドキドキがあり面白かったです。

2

あふりかのそら様、コメントありがとうございます。
趣味全開の話を楽しんでもらえて、すごく嬉しいです!主人公がしたたかなのか、死神が甘いのか、なコンビです。笑
楽しんでくれて、ありがとうございます(≧∇≦)

作者:中村ハル

2018/9/22

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とじる

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