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シンデレラと怪物 完結

やさしい失恋

更新:2018/9/23

青田 薫

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31
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7
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醜い怪物と、御伽噺のお姫様の物語。
「こうして、シンデレラは王子様と結婚しました。めでたし、めでたし」

1位の表紙

2位

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この呪いを解くには、愛するヒトからの口づけが必要だと魔女が言った。

私の身体は、もう人間の身体とは言い難いものに成り果てている。

毛むくじゃらの肢体、天に突き上げる捻じれた角、鋭い爪と牙。

それら全てが私を苦しめた。

“汝は、言葉を知る怪物なり”

進行した呪いのせいで、身体はすこしも動かなくなった。

この身は荒野に晒されて、冷たい雨に打たれた。

このまま、ただの醜い怪物として死んでしまうのだろうか。薄れていく意識のなかで、そう思った。

そのときだった。彼女と出会ったのは。

君は私の話を聞いてくれた。

人間としての私を、あたたかく受け入れてくれた。

澄んだ瞳を逸らすことなく、醜い私を見続けてくれた。

しあわせだった。

此処にはなにもないけれど、君を待っていると思えば悲しい気持ちにはならなかった。

今日も君はやってきた。

いつも微笑みを絶やさない君が、今日は悲しげな表情をしている。

気になったので尋ねてみると、今夜はお城で舞踏会の日なのだが姉と母の言いつけで行くことはできないのだと言った。

「でも、いいの。仕方のないことだわ」

それでも君は笑っていた。眉をさげて、悲しそうに。傷だらけの白い手を撫でながら。

君の手を取りこんな世界から逃げ出したい。でも、私にはそのための手がない。

獣の手では、君を傷つけてしまう。それに、もうこの身体は石のように固まって動かない。

呪いは、私の命を呑み込もうとしていた。このまま私は、化け物の石像となるのだろう。

しあわせだった。心からそう思う。

だからこそ、この物語はここで終わらせなければならない。

醜い怪物に成り果てた愚かな王子と、優しい女の子の物語を。

笑顔が愛らしい君には、御伽噺の麗しい王子様がよく似合う。

こんな私に優しくしてくれた。

きらびやかな世界に憧れている、夢見がちな君のために。

“お前はそれでいいのか”

脳裏でそう囁く魔女に、私は何も言わずにただ微笑んだ。

言葉は要らない。

 “ならば、私は改心したお前の願いを叶えてやろう”

「そろそろ冷える、家に帰りなさい。……気紛れな魔女が、君を待っているかもしれないしね」

冗談っぽくそう言って、戸惑う君を無理に帰す。

「また明日!」

振り返り、手を振って彼女は笑った。

「――ああ、また明日」

そして、君は歩き出す。

もう振り返ることはない。幸せな未来に向かって君は歩き出したのだから。

怪物のことなどもう気にしなくてもいい。忘れておくれ。

ありがとう、最期にヒトらしい感情を教えてくれて。

君を愛していた。

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