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そして家族に 完結

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恋人にはなれなくて友人だったけど、想いは『恋』だった。

1位の表紙

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「マーくん!ヨッシー!起きなさ―い!」

 部屋の扉を勢いよく開けて、大沢明音(おおさわあかね)が声を張り上げる。が、ベッドの上の山が動き出す気配は無い。

 これは明音も解っていることなので、スタスタとベッド脇まで歩いていく。

 そして今度は勢いよく布団を捲り上げる。

「お・き・ろー!」

 そこまでやって、ようやくもぞもぞと動き出す。

「あんた達ね……お風呂の後で面倒なのは解らないでもないけどさ、パンツくらい履いて寝なさいよ」

 ベッドに転がってる二人の姿を見て、明音が溜息をつく。

 二人は素っ裸だった。

 お風呂上がりにそのまま寝てしまったのは、髪がまだ少し湿っているのと石鹸の香りがするからだった。まぁ、これはいつもの事ではあるので今更なのかもしれない。

「明音、お前も女なら『キャー』とか言ってみたらどうなんだ?」

 ヨッシーこと美雅(よしまさ)が体を起こして、欠伸をしながら言う。

「弟の裸見たって恥ずかしくも何ともないわよ」

 それに対して、明音がしれっと答える。

「弟って……血は繋がってないぞ?」

「義弟も弟に違いないでしょーが」

「はぁ……ま、今更か」

 諦めたように息を吐いて、ベッドを出てクローゼットに向かった。

 明音の方は、このやりとりを隣で展開されても起きる様子の無い、マーくんこと雅美(まさよし)を覗き込む。

「マーくん、いい加減に起きなさい」

 それまでよりも優しい声で、雅美を起こす。

「明音ちゃん……今日は休講なんだから……もう少し……」

 中々起きようとしない雅美を微笑ましげに眺めて、明音は二人と出会った高校時代に思いを馳せる。

   ◇ ◇ ◇

 高校一年前期のクラス委員は、誰が何に向いているかなどわかるはずもないので入試の成績順に割り振られる。

 委員長は明音で、副委員長が雅美と美雅の二人だった。

「三沢明音(みさわあかね)です。よろしくお願いします」

 この頃はまだ三沢という姓だった。お世辞にも綺麗とはいえないが、ブスと言われてしまう程でもない。特に目立つところのない普通レベルの容姿。それにプラスしてぽっちゃり体系だったので、明音は見目には全く自信がなかった。その代わりに頑張ったのが勉学で、入試の成績はトップだった。

「大沢雅美(おおさわまさよし)です。よろしくね、三沢さん」

 最初に答えてくれたのは、雅美。

 雅美は細身の美少年だった。少女と間違えられそうという訳ではないが、男っぽくもなく中性的。

「川田美雅(かわだよしまさ)だ。よろしく」

 美雅は細身ではあるけれど筋肉はしっかりとついている。こちらは高一とは思えない程大人びた、女子が大騒ぎしそうなイケメンだった。……実際、自己紹介の時に黄色い声が上がった程だ。

 意図したわけではないが、イケメン二人と対面している明音には女子からの鋭い視線が突き刺さっている。

「僕と美雅は幼馴染でね、ずっと一緒なせいか無限しりとりコンビなんて呼ばれてる」

 雅美が笑いながら言った。

 その顔が可愛くて、明音は見惚れてしまう。

「無限しりとり?」

 言われて少し考えて、すぐに名前のことだと解った。

 雅美→美雅→雅美→美雅と、頭の中で聞いたばかりの二人の名前がグルグル回る。

「ホントだ」

 言って笑う。

「へぇ~笑うと少し可愛いじゃないか」

 そう言ったのは美雅。

 言われた明音はビックリした顔をしている。

「……なんだよ」

「可愛いなんて言われたの、生まれて初めて……親にも言われた事ないんだよ。社交辞令でも嬉しいね。でも、慣れないからちょっと恥ずかしいかも」

「……お前変わってるな。普通、少しなんて言われたら怒るんだが」

「う~ん……容姿に自信のある人なら怒るのかな?私は容姿は人並以下だし、体型もこれだから、少しでも微量でも可愛いなんて言われたら嬉しいよ。からかってるだけでもね」

「美雅はからかってはいないと思うよ。三沢さんて心が広いんだ」

 そう言ったのは雅美。微笑み付きの顔は、自分なんかよりもずっと可愛いと明音は思う。

「三沢さんとなら上手くやれそう。改めてよろしく」

「そうだな。変な誤解や嫉妬する奴とは違うみたいだし、面倒な委員も楽しそうだ」

 二人から言われて、明音は照れてしまう。

「こちらこそ、改めてよろしく」

 和気あいあいと話している三人に自然と視線が集まる。もっとも、その大半が明音への嫉妬混じりの物だったが、明音は気にせずスルーしたのだった。

 この時の言葉通り、三人の息もぴったりでとても上手くやっていた。男二人に女一人だが、甘い雰囲気になることもなく、三人纏めて幼馴染と言われても違和感がないほどだった。

 表面上は甘い雰囲気は全くなかったが、明音は密かに恋心を抱いていた。

 クラスで一番もてているのは美雅。これは初日から解っていたことだった。雅美の方は、実はそれほどもててはいない。横に並ぶと女子の方が引き立て役になってしまいそうなのと、少し頼りなく見えてしまう事が恋愛相手としては一歩後退してしまう原因。だが、人気という点では二人は飛び抜けている。

 そんな二人と一緒にいることの多い明音が恋しているのは美雅ではなく、実は雅美の方だった。

 明音は自分の容姿が良くないのは解っているので、自分が引き立て役になっても全く気にしない。だからこそ、その人の内面がよく見える。二人共によく気がつく人間なのだが、手助けが表に見えるのは美雅で、見えない所で手助けするのが雅美だった。明音のサポートもさり気なくやってくれている事に気がついた時には恋に落ちていた。

 だが、それを明音は表には出さなかった。自分が雅美に釣り合わない自覚があるからだった。

(告白なんてしなくていい。恋が出来ただけで満足)

 自分は人を好きになることなんてないと思っていたが、好きな人が出来た。それで十分だった。……そう思っていたのだが、思いがけず二人きりになって心が緩んでしまった。

「私、大沢くんが好きなの……」

 気がつけば、告白していた。

「ありがとう、僕も三沢さん好きだよ。でも、恋人には……」

 申し訳なさそうに、それでもちゃんと明音の目を見て雅美が答える。

「ううん、いいの。本当は告白するつもりはなかったんだけど、二人になっちゃったからつい。嫌な顔をされなかっただけで十分」

 それは、強がりではなく本心だった。

「本当に心が広いんだね。三沢さんには残酷かもしれないけど……友達になることは出来ないかな?」

 単なる同情ではなく、本心だと解る顔でそう言った。

 それを聞いて、明音は驚いた顔をする。

「いいの?恋心を持ってる女を友達にって……辛くない?苦しくない?大丈夫?」

 後半、立て続けに出てきた言葉に呆気にとられた後、雅美がプッと吹き出す。

「それってさ、本来、僕が言う台詞じゃない?」

「え?……あ、そっか、そうよね。普通、辛いのは恋してる方よね。でも私、全然辛くないよ?むしろ嬉しいんだけど……変かな?」

「まぁ、そのちょっとズレたところが三沢さんの良い所なのかな」

「何か微妙」

「……」

「……」

 暫く見つめ合って、二人同時に笑った。

 その後、部活を終えた美雅にも経緯を話し、何の蟠りもなく笑っている二人を見て美雅も明音の友人となった。こうして、明音・雅美・美雅の関係はクラス委員から友人へと変化したのだった。

 この日を境に、三人はよく一緒に出掛けるようになった。互いの家にも行き来するようになって、明音はおかしな事に気がついた。

 明音が二人を家に招待した時、家族はどちらかが明音の彼氏だとは微塵も思わなかった。誤解されなかったのはいいが、娘に彼氏なんか出来ないと思われているのは少しショックだった。

 雅美の家でも誤解はなかった。雅美の両親は他界していて十歳年上の兄と二人暮らしだった。雅美の兄が誤解しなかったのは、美雅のことも当然知っているからだろう。ちょっとだけ明音は違和感を覚えたが気になる程ではなかった。それよりも、雅美の家の大きさに驚いてしまったのだった。

 最後の美雅の家での出来事は……明音を驚かせた。

 実の親でさえ彼氏だとは思わなかったというのに、美雅の家では思い切り彼女に間違われ、大歓迎された。まだ高一なのだから今までに彼女がいなくてもおかしくはないのだが、初めて女の子を連れてきたと涙まで流されてしまったのだった。不釣り合いな女だと拒絶(少し心配していた)されなかったのは良かったが、大袈裟な程に喜ばれるとは想像だにしなかった。

(こんなに喜んでくれて心苦しいけど……)

 ただの友人だと告げることは申し訳なかったが、恋人ではないのだから美雅のためにもちゃんと説明して納得してもらった。

 その代わり……

「ねぇ、明音ちゃん、美雅の彼女にならない?」

「まだ、気持ちは変わらない?」

 と、どういう訳か家にお邪魔する度に両親に迫られたのだった。

 その理由が判明したのは、何度目かの雅美の家でだった。

「え?今なんて……」

 聞き間違いかと思い、明音が訊き返す。

「俺と雅美は付き合っているんだ」

「……恋人として、よね?」

「ああ」

 明音の言葉に美雅が答え、雅美が頷く。二人の顔を見る限り、からかっている訳ではないようだった。

 この場には雅美の兄もいるのだが、何も言わないところをみると、知っていて認めてくれているのだろう。

(ああ……だから……)

 そして、美雅の両親は知ってはいるが認めていないということなのだろう。

(私が初めてお邪魔した時、あんなに歓迎されたんだ)

 だからと言ってあからさまに妨害をしないのは、嫌ってしまうには雅美の事を知り過ぎているからなのかもしれない。きっと、嫌いにはなれないのだろう。

 自然に別れられるように、美雅の目を女に向けようと必死だったのだ。その対象が明音だったのは、二人と親しくなれたのが明音だけだったから。友人になれたのなら……と思ってしまうのは仕方がないのかもしれない。

(川田くんのご両親には悪いけど、二人を引き裂く気は全くないのよね……)

 同性の恋人同士だと聞かされても、明音に嫌悪はなかった。自分は雅美に恋しているというのに何故かホッとした。

 まだ短い間だがずっと一緒にいて、何となく二人が只の幼馴染・友人には思えなくなっていたから、恋人と知って自分でも驚くくらいにストンと心に落ちてきて、納得してしまった。

(告白、受け入れられる訳ないよね)

 元々OKを貰えるとは思っていなかったが、まさか、こんなオチがあったとは……とおかしくなってしまう。

(よく、大沢くんに恋してる私なんかを友達にしてくれたよね、二人共。二人の方がよっぽど心が広い)

 二人共、明音を本当に友人だと認めてくれていた。自分には勿体ない友人だと明音は思う。

(どこに行くのも三人一緒で……あれ?)

 どこかに出かけたり、それぞれの家で勉強をしたり、友人となってからは三人一緒だった。そして、明音は気がついてしまった。

「私……お邪魔虫だったんじゃ……?」

 ぼそりと明音が言った。

 知らなかったとはいえ、恋人同士の間に割り込んで、思い切りお邪魔虫だ。

 明音の言葉に二人は顔を見合わせ……笑った。美雅に至っては爆笑している。

「な、何?」

「お前って、ホント、おかしな奴だよな」

「どこが!」

「そこは、俺達が、デートする為の、隠れ蓑に使ったのか、って怒るところだぜ、普通」

 美雅が言う。途切れ途切れなのは、笑いながら話しているせいだ。

「へ?」

 言われて、少し考えてみる。

「……確かに」

 そう、普通なら二人が明音と友人となったのは関係を誤魔化す為、一緒に出掛けていたのも好奇の目を向けられない為、と考えるだろう。

「隠れ蓑だとは思わないよ?もしそのつもりなら、三人じゃなくて二人で出掛けるか私の存在は無視するかしてるでしょ?」

(イケメン二人にブス一人で逆に目立っていたしね……)

 男二人で変に思われない為……にしては目立ち過ぎていた。それに、二人は常に明音を気にかけて優先してくれていた。

「あ、それとも、注目されるように仕向けて『俺(僕)の恋人はこんなに可愛い(格好いい)んだ』って自慢したかった?」

 からかうのではなく、至って真面目に訊いてくる明音に、今度は二人共が爆笑した。よく見れば、雅美の兄も笑うのを必死に堪えて震えている。

「お前、最高に良い女だな」

「本当に」

 二人に言われて、明音が顔を赤くする。

「あ、ありがとう……」

「そんな三沢さんだから友人になりたかったし、打ち明けようと思ったんだよ。初めて挨拶した時に直感でいい関係になれるって思ったし」

「雅美の直感は大当たりだったってことだな」

「……」

 二人の言葉は、明音の心を歓喜で満たした。

 これまでも明音はいじめに遭っていたということはないが、友人はあまりいなかったし、こんな風に思ってくれる人は皆無だった。

(見た目も心もイケメンすぎだよ、二人共)

 異性には外見で中身も判断されがちで、今まで全く相手にはされなかったが、二人は揺るぎない恋人がいるせいか、最初から中身をみてくれていた。

 そして、明音が雅美に恋していると知っていて、普通に友人として接してくれている。

 騙されたとは微塵も思わない。明音の心には感謝しかなかった。

(……よし!)

 そんな二人に何かお返ししたくて、明音は決心した。

「川田くん、今日、ご両親は?」

「ん?二人共家にいるぜ」

 今日は日曜日で出掛けている可能性もあったが、在宅していた。

「それじゃ、行こうか。二人共」

「え?行くって……?」

 立ち上がった明音に雅美が訊いてくる。

「川田くんの家よ。二人の事を認めてもらいましょ」

 言うが早いか、明音は部屋を出て行こうとしている。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

「ま、待て、さっさと行くなよ」

 先に出た明音を、二人が追いかける。

 最後に、雅美の兄が慌てて追いかけた。

「いらっしゃい、明音ちゃん」

 美雅の家(実は隣)に行くと、明音はいつも通りの歓迎を受けた。

 居間のソファーに落ち着いて、明音は前置きもなく本題を口にした。

「川田くんと大沢くんを認めてあげて下さい!」

「突然、何?明音ちゃん」

「私、さっき二人の事を知ったんです。それで、二人の事を認めて欲しくてお願いに来ました」

 明音の言葉に、美雅の両親は呆然としている。

「……何故、あなたがそんな事を?」

 疑問に思うのも当然だろう。本来、明音には全く関係ないことなのだから。

「私は大沢くんに振られてしまいましたけど、今でも好きです。川田くんも恋愛ではないけど好きです。好きな人には幸せになってもらいたいんです!同性ではリスクの方が多いのは私も、当然、二人も解っています。それでも、二人でいることを望んでいるんです。世間に受け入れられないとしても、せめて、ご家族だけは受け入れて認めて欲しいんです!」

 そこまで言って、明音はソファーを立って、その横で正座する。そして……

「お願いします!」

 額が床につく位まで頭を下げて土下座した。

「俺からもお願いします!」

 その隣で、雅美の兄も同じように土下座した。

 そんな二人を呆然と見つめていた雅美と美雅も、明音達とは逆のソファー横で土下座した。

 そんな四人を、美雅の両親は何も言えずにただ、見つめていた。

 四人が頭を上げる気配はない。

「……頭を上げなさい、四人共」

 予想外に優しい声音に明音が初めに、そして三人が頭を上げる。

「本当はね、解っていたのよ。何をしてもこの二人は別れないって。最後まで味方でいるのは家族しかないっていうのもね。だからって素直に認めるのも何だか悔しくてね……」

 言って、フフッと笑う。

「負けたわ。明音ちゃんを見てたら意地を張ってるのも馬鹿らしくなっちゃった。雅美くんに恋してる明音ちゃんが二人のために一生懸命なんだもの……認めてあげるわ」

 その言葉に、美雅と雅美が顔を見合わせる。

「本当に……?」

 美雅が訊き返す。

「ええ。幸い、美雅は一人息子じゃないしね。雅美くんも」

 その言葉通り、美雅にも兄がいる。その兄も超絶イケメンで、雅美の兄もイケメンなので美形兄弟としてこの四人は有名だった。

「二人共、明音さんを大切にしなさい。こんなに親身になってくれる友人は、この先も彼女だけだろう」

「解っています」

 美雅が答えて、雅美が頷く。

「ありがとうございます」

 美雅が代表で言い、四人がもう一度頭を下げた。

 雅美の家に戻って、兄の雅貴(まさたか)が皆に紅茶を差し出したところで、ようやく全員力を抜いた。

「……何て言うかビックリした」

 美雅がポツリと呟く。

「うん。でも……認めてもらえて嬉しいよ。ビックリしたけど、全部明音ちゃんのおかげだ。ありがとう」

「……」

 雅美の言葉に、何故か明音が驚いた顔をする。

「……あ、ごめん!馴れ馴れしかったよね」

 意識せず、普通に名前を呼んだ事に雅美は気がついた。

「……いい」

「え?」

「それ、良い!私の事はそう呼んで!」

 その呼び名に、明音は食いついた。

「いいの?」

「うんうん、凄くいいよ」

「ふ~ん、じゃ、俺は明音って呼ぶか」

「……呼び捨てなの?」

「俺が明音ちゃんなんて呼んだら気持ち悪いだろうが」

「ま、確かにね」

 美雅の言い分に、うんうんと頷く。

「仕方ない、呼び捨てでいいよ」

「……何か上からだな」

「いいじゃない美雅。僕ら明音ちゃんには頭が上がらないよ、この先もきっと」

 雅美に言われて苦虫を噛み潰したような顔をしたが、反対意見は出なかった。

「明音ちゃんも僕たちの事、好きに呼んでいいよ」

 僕らだけじゃ不公平だしね、と雅美が言う。

「そうね……」

 言われて考える。

(二人と同じようにちゃん付けと呼び捨てでもいいけど、何かしっくりこないなぁ……名前のままだとダメなのかも……)

 たっぷり一分考えて、決めた。

「じゃ、マーくんとヨッシーって呼ぶことにする」

「どこのゲームキャラだよ、それ」

「いいじゃない親しみやすくて。僕らもそれでいいよ明音ちゃん」

「じゃ、決まり!」

 雅美と明音だけで盛り上がって決定したが、美雅も嫌な顔はしていない。案外気に入ったのかもしれなかった。

 先程までのシリアスな空気は吹き飛んで、ほんわか和やかムードになったその時、

「明音ちゃん」

 兄の雅貴も二人と同じ呼び名で、明音に声をかけた。

「なんですか?雅貴さん」

 明音の方の呼び方は最初に会った時のまま。お兄さんではなく名前で、と最初に言われたのだった。

「俺のお嫁さんになってくれない?」

「……え」

「もちろん、今は年齢的に無理だけど、それまでは恋人で」

 言われてことをすぐには理解出来なくて、暫く呆然としていたが、

(今……何て?お嫁さん?恋人?誰が誰の?……私が雅貴さんの?)

 ようやく、意味を理解する。

(私が……?)

「え、ええ――!」

 理解して、驚いて声を上げ、そのまま固まった。

  ◇ ◇ ◇

「マーくん、起きなさい」

「明音ちゃん……今日は休講なんだから……もう少し……」

 答えてはいるが、目は閉じたまま。

「う~ん……別に寝てても構わないんだけど、今日は二人揃って休講になったからデートするって言ってなかった?」

「!」

 明音の言葉に、雅美が飛び起きた。

「そーだった!」

 今は同性カップルに対する意識も変わったが、それでも二人は外では恋人同士だと分かるような事はしない。その分、家の中では呆れるくらいにいちゃついている。

「ほら、雅美」

 言って、美雅が下着を投げる。

 それを受け取って履いて、雅美もクローゼットに向かった。

 その間に、明音がシーツを取り替える。

「ご飯は出来てるから、食堂にいらっしゃい。ちゃんと顔を洗ってね」

「はーい」

「……お前はオフクロかよ」

 素直に返事をする雅美に対して、毎回皮肉で返す美雅。これも今では当たり前の光景。

 あの雅貴にプロポーズ(?)をされた衝撃の日、明音は気づいたら頷いていた。流された感はあるが、ちゃんと付き合いを重ねて、卒業と同時に結婚した。

 美雅と雅美も密かに付き合いを続けて、卒業と同時に美雅は雅美の家で暮らすようになった。今、この家では四人が家族として暮らしている。遠慮は全くなく本当の家族以上に家族となっている。

 雅美への想いは確かに『恋』だった。早々に失恋してしまったが、『初恋』はいつまで経っても恋のまま。そして結婚式の日、雅美への『恋』は『思い出』へと昇華した。

 傍から見れば、明音は雅美に恋をしながら雅貴と付き合っていた強かな女かもしれない。しかし、それは違うということは、明音本人はもちろん、雅貴も雅美も美雅も知っていたので、誰にも蟠りはなかった。

 洗面所に向かう二人を見送って、明音はキッチンへと向かう。朝食を温めながら不思議な縁を思う。

(たまたま三人が委員になって、友人になって……家族になるとは思わなかったな)

 そう考えてクスリと笑う。

 人並以下(と思っている)の容姿の自分が、まさか三人のイケメンと家族になるなんて、それ以前に結婚出来るなんて夢にも思わなかった。

(つい、口から出てしまった告白がこんな結果になるなんて、本当に不思議)

 あの告白がなければ今の関係は無かった。

 そして、外見ではなく内面を見てくれた二人には感謝しかない。

(恥ずかしくて言えないけどね)

「何笑ってるの?明音ちゃん」

「ニヤニヤして気持ち悪い奴だな」

 洗顔を終えて、雅美と美雅が入ってくる。

「マーくん見てニヤついてるあんたには言われたくないわよ、ヨッシー」

「……」

 外では多少なりとも気を張っている分、家ではどうしても顔が緩んでしまう。その自覚があるから、美雅は反論出来なかった。

「家での二人を見たら、幻滅する女の子いっぱいいるでしょうね」

「ウルセーよ」

「でも大丈夫よ、私はどんな二人でも愛してるからね~」

「……兄さんの次に、でしょ」

「当然」

 雅美達が家では遠慮なく恋人しているので、明音も遠慮なく惚気ている。それを悪い事だとは誰も思わない。

「食器はそのままでいいよ。今日は久しぶりのデートでしょ、楽しんでらっしゃい」

「うん、ありがとう。ごちそうさま、明音ちゃん」

「ごちそうさま」

 食べ終えて、二人が席を立つ。

「それじゃ、いってきます」

「はい、いってらっしゃい」

 並んで出て行く二人を、笑顔で見送る。

 初恋は色褪せない綺麗な思い出となり、これからは毎日が大切な思い出となっていく。

「さてと、さっさと家事を終わらせてのんびりしよっと」

 伸びをして、まずはキッチンへと向かう。

 キッチンの窓から見える空は、爽やかで気持ちの良い青だった。

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1

今日的な問題と、そして物語としての面白さを上手く絡めた作品だと思いました。
登場人物に、極端なわざとらしさが見られず、すっと納得するような自然な姿勢で書かれているのが、とても好感を持ちました。
明音ちゃんは、周囲に心ないことを言う人間だって多かっただろうに、曲がらずまっすぐ、優しい子なのがとても救われます(´;ω;`)
心から応援したい物語です!!

大久保珠恵

2018/9/30

2

大久保さん、コメントありがとうございます!明音の事をそう言って頂けて、とても嬉しいです(´∀`)
この物語はとても難産でしたが、大久保さんのお言葉で頑張って良かったと思いました。°(°´∀`°)°。

作者:時間タビト

2018/9/30

3

楽しく読ませていただきました。
ハッピーエンドは大好きです。
スタッフK

4

スタッフK様 コメントありがとうございます!楽しんで頂けて嬉しいです(*´ω`*)

作者:時間タビト

2018/10/11

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とじる

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