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彼女の決意 完結

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大学三回生になって急に「思い出作りがしたい」と言ってきた彼女。二人はいくつもの思い出を作っていく。そして迎える大学生活の最期。驚愕のラスト。作者渾身の大どんでん返し!

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 「私、思い出作りがしたい」

 大学三回生になったとき、いきなり彼女はそう言った。どこか遠くにでも就職するつもりなんだろうか。そのとき僕は、そんな風に考えていた。

 「そういえば、遊園地って行ったことないな」

 思い出作りの第一弾。ディズニーランドには何度か行っていたが、一番近い遊園地には行ったことがなかった。

 「あっ!ホントだ!行こう行こうー」

 平日だったこともあってか、人は少なかった。アトラクションにもすぐ乗れてしまう。千円で買った三脚を置いて、二人が写った写真をたくさん撮った。どちらもディズニーランドでは考えられないことだ。

 「夏は、海に行きますか?」

 彼女から誘ってきた。でも元々インドアな二人。彼女の水着姿はとても新鮮だったが、浜辺に出てからは痛い目を見た。疲れきって帰った旅館。敷かれた布団に倒れ込んで、しばらく声も出なかった。疲れすぎて眠ることも出来ない。

 「フフッ」

 彼女が笑い始めた。僕の方も自然と笑いが込み上げてくる。

 「私たち、海、向いてないね!」

 どこにそんな体力が残っていたのか、僕たちは寝るまで笑い合った。

 秋は有名なお庭に行った。入場料千二百円。紅葉が美しいことで有名なお庭だった。人が多くて落ち着いて見ることは出来ず、三脚も禁止だったから写真もあまり撮れなかった。それでもお互いの手帳の中には、美しい色をした紅葉の葉が一枚ずつ入っている。

 「スキーはやめとこう」

 「スノボもやめておきましょーう」

 海の反省点を活かして、冬は温泉旅行に出かけた。近場の温泉にして交通費を浮かし、露天風呂がついている客室を選んだ。

 「贅沢ー」

 可愛い姿だな、と思う。

 「あのさー、ひとつお願い」

 「なぁに?」

 「髪、おろして?」

 湯に髪が浸からないよう、彼女は長い黒髪を上げていた。

 「えっ、なんか嫌だよそれー」

 「お願いです」

 「ん~」と唸りながら、それでも彼女はゴムを外してくれた。水面に彼女の髪が浮かぶ。美しかった。

 「歌人ならなんか詠めるくらい綺麗」

 「なにそれ褒めてるの?」

 彼女の上気した顔に、その表情がよく似合った。

 春、僕たちはお花見をした。

 「外でお酒飲むの初めてかもー」

 「えっ、部活とかでしない?」

 彼女は文芸部だ。

 「インドアですものー。というか、怖いし。何かあったら」

 こういう、リスクに対して敏感なところが僕は好きだった。

 「でも美味しいもんだね」

 「今日は格別」

 川べりを埋める桜。ソメイヨシノはあまり好きではなかったが、今日の桜は格別だった。

 「海をリベンジしたいです!」

 なぜか彼女はいきり立っていた。

 海に着いて分かった。彼女は水着を新調し、安定性の高いビニールのボートを用意していた。

 「ゆらゆら浮かびたくて!」

 去年はビキニだったが今年はワンピース。露出は減ったが背中が大きく開いていて、背中と黒髪のコントラストが際立っていた。

 「来年もその水着がいいな」

 胸から絞り出した質問だった。僕たちは大学四回生。彼女が就職で遠くに行ってしまうのなら、果たしてどう答えるだろう。

 「えへー、うん!」

 僕の予想に反して、彼女は明るい声で答えた。

 「私、思い出づくりがしたい」

 彼女の真意はどこにあるのだろう。僕にはそれを直接尋ねるだけの勇気がなかった。

 就職活動が本格的に始まると、僕も彼女もあっさり地元の第一希望に内定が決まった。彼女は英語が得意だから、てっきり海外にでも行ってしまうのかと思っていた。

 「カナダに、行ってみたいです!」

 二人きりの卒業旅行をしようと提案したら、彼女は開口一番そう答えた。理由を尋ねると、泊まる場所についてはアテがあるとのことだった。

 僕たちはカナダの田舎に住むご家族の家でお世話になることになった。

 「なんにもないよ!!!!(英語)」

 というメールとは裏腹、日本とはまったく違う気候が作った自然は、どこを見ても感動的だった。

 「スゴいね・・・」

 彼女は朝も昼も夜もそう言った。涙も流した。僕らは街にも出ず、一週間自然を眺め続けた。

 卒業式。

 僕らは当たり前のように卒業式を迎えた。僕はスーツだったが、彼女はエンジ色の袴姿だった。抑えた色合いに派手な装飾もしていない彼女は、かえって目立っていた。一際美しく見える。

 「おめでとうー!」

 「おめでとう」

 彼女が僕を覗き込む。

 「元気ない?」

 「いや、ちょっと・・・」

 彼女の言葉が、どうしても引っかかっていた。

 「大学最後の思い出じゃん!楽しも?」

 彼女の口から「思い出」という単語が出て、僕はついに彼女に尋ねる決心がついた。

 「三回生のとき、思い出作りがしたいって言ってたのは、どういう意味だったの?」

 彼女はきょとんとした表情をした。

 「ん?」

 「てっきり、遠くに就職するとか、いなくなっちゃうのかと・・・」

 今度は目を見開いて僕の眼を真っ直ぐ見つめてきた。

 「もしかして、ずっと気にしてた?」

 「うん」

 しばらく沈黙したあと、彼女は「ごめん」と言った。

 「どういうこと?ごめんって。なにか隠してる?」

 「ちがう、そっちのごめんじゃない」

 周囲の視線が集まっている気がしたが構っていられない。

 「言葉が足りなくてごめん!でも、訊いてくれれば良かったのに」

 彼女は一筋の涙を流した。それでも笑っている。

 「どういうこと?」

 「なんで大学卒業までなんて、自分で区切っちゃったの?」

 「えっ?」

 「私はー、あなたとー、これからもずーっと思い出を作っていきたいと思ったからそう言ったの。私たちの思い出作りはこれからも続くんだよ!」

 僕は呆気に取られていた。テレビの見すぎだったんだろうか。

 「ひょっとしたら不治の病なのかもしれないとか、考えてたよ」

 「なにそれ、馬鹿みたい」

 彼女は目線を逸らして涙を拭った。

 「だから、これからもお願いね!」

 「こちらこそお願いします」

 僕らは互いにお辞儀をした。

 「こんなこと言わすなバカ!」

 彼女はアニメの台詞のようにそう言って、僕の胸に飛び込んできた。近くや遠くから、拍手の音が聞こえてきた。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/10/02)

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たしかに、卒業で区切ってしまう思い込みによる失敗は多いと思います。
その後だって、十分思い出づくりができるのに。もっと深い囚われる方のなにかと絡めて考えてしまう。

思い出づくりって、純粋で軽いノリで幸せを求めないとできないのかもなぁ。

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渾身のハッピーエンドです。いくつものホラー&バッドエンドをボツにしました。どんでん返さない作品にポイントを付けてもらえて、とても嬉しいです。

作者:山羊文学

2018/10/2

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とじる

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