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ものちゃんは魔法使い!? 完結

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実は、ものちゃんは時間を操る魔法使いだった?

1位の表紙

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 それは、九月から十月に日付が変わったばかりの深夜のことだった。

 編集部にコンテストスタッフの一人が駆けこんできた。

「大変だ!」

「どうした?」

「結果発表と同時に公開する動画が、手違いでまだ出来てないって連絡が!」

「ええ――!」

 その言葉に、編集部の全員が驚いて声を上げる。そして、そのまま固まった。ただでさえ徹夜作業でギリギリだというのに、追い打ちをかけるアクシデント。全員が途方に暮れても仕方がないだろう。

「ど、どどど、どう、どうしよう……」

 駆けこんできたスタッフが、焦りでどもる。

 その焦り様を見て、編集部の面々は落ち着きを取り戻した。

「どんなに急いでも間に合わないよなぁ……どうする?」

 編集者の一人が、やっしーに問いかける。

「ん?別に慌てる必要はないと思うよ」

 答えて、やっしーが何もない空間に目を向ける。

「おーい、ものちゃん」

 やっしーがその場にいない、ものちゃんを呼んだ。

「はいは~い、呼ばれて飛び出……」

「ストーップ!全部言うな!アウトかもしれないから!」

 言い終わる前に、やっしーがものちゃんを止める。

「……ああ、著作権か」

 陽気に現れたと思ったら、少し考えて真面目な顔で答える。

(あ、真面目な顔、できるんだ)

 などと、緊張感に欠けることを考える。

「で、何だ?」

「あ、そうそう。ちょっとトラブルがあって公開に間に合わないんだ。だから……そうだな、二日ほど時間を戻してくれないか?」

 その言葉を聞いて、周りの皆がハッとした顔をする。ものちゃんの能力をすっかり忘れていたのだった。

「そっか、ものちゃん、魔法使えるんだっけ」

 それを思い出して、皆の顔から焦りが消える。

「OK」

 答えて、どこに持っていたのか、丸型で上にベルが二つ付いた目覚まし時計を取り出した。

「では、いくか」

 言って、ものちゃんが目覚ましをセットする。声は賢者だと言わんばかりの威厳があったが、自分と同じくらいの時計をセットしている姿はコミカルでしかない。

 皆が笑うのを堪えていると、大きなベルが鳴った。

 音がおさまると、編集部には違いないが、深夜ではなく昼間の喧騒があった。

 机のパソコンに目を向けると、日付は一週間前。

(随分と戻してくれたな。ついでにサービスもしてくれたみたいだ)

 日付を戻しただけでは結果は変わらない。だが、進捗状況を確認すると、動画以外の全てが上がった状態になっている。

 出来上がっている物はそのままに、時間だけを戻してくれたらしい。

「あ、やっしー、そこのやつチェックしてくれる?」

 女性スタッフが隣のパソコンを指さして言う。いつもと変わらない態度で。どうやら時間を戻したことは覚えていないらしい。

(覚えてるの僕だけ?……ま、いいか。ものちゃんの不思議を考えたらキリがない)

 深く考える事はやめにして、仕事に取り掛かる。

「これで、余裕で間に合うな」

 そう呟いた時、先程よりは小さなベルが鳴った。

「……しー」

 小さな声が聞こえる。

「……っしー」

 声が段々と大きくなる。

「やっしー、起きろ!」

「うわっ!」

 耳元で聞えた大きな声に驚いて、やっしーは椅子から落ちてしまった。

「な、何?」

「この忙しいのに居眠りとは、いい度胸だ」

 同僚の男がこめかみを僅かに引き攣らせて言う。

「あははははは……」

 結果発表を翌日に控えて、皆忙しくしているのだから反論は出来ない。

(……夢か。そうだよな、ものちゃんが時間を戻すなんて事できる訳ないよな)

「おばけでも働いてるというのに、いい御身分だな、やっしー」

 背後から、恨みがましいものちゃんの声がする。

(ものちゃんが恨むとシャレになんないって)

 と、内心で大汗をかく。

「ま、まぁ……明日の発表にはギリギリ間に合いそうだし、いいじゃないか」

「明日?結果発表は二日後だろ。寝ぼけてるのか?」

 やっしーを起こした同僚が呆れて言った。

(えっ、確かに前日だったはず……)

「お、ものちゃん、レトロな時計持ってるな」

 同僚が、背後のものちゃんに声をかける。

(時計?)

 あの時計とは限らないが、何故か同じ物だとやっしーには思えた。

「寝汚い相棒がいるからな。これは必需品だ」

「確かに」

 ものちゃんの答に、同僚は笑って自分の席に戻っていった。

「……なぁ、ものちゃん」

「なんだ?」

「それって……鳴るのか?」

 恐る恐る訊いてみる。

「当り前だろう。鳴らなければ目覚まし時計の意味がない」

「そ、そうだよな」

 当然な答にビクついて、ものちゃんの方に目を向ける事なく、やっしーは自分の椅子に座り直した。

 今は、ものちゃんを見る事ができなかった。

「……」

 そんなやっしーの態度に文句を言う事もなく、ものちゃんが離れていく。

 気配が遠ざかって、ほっと息をついた。

 お茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。

 気持ちが落ち着くと、笑いが込み上げてきた。

(ものちゃんが魔法使いだなんて、どこからそんな発想が出てきたんだ?色んな物語を読んだからかな)

 応募された物語をずっと読んでいたせいで、そんなおかしな夢を見たのだと自分を納得させる。

(いくらおばけが不思議な存在だからって、時間を操る力なんてある訳ないのに)

「さて、真面目に仕事しますか」

 呟いて、頭を仕事モードに切り替える。

 そんなやっしーを、ものちゃんがずっと見ていたことには気づいていない。

 そして、

 遠くでベルが鳴った。

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とじる

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