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山椒魚の王様をペットにいたしまして 完結

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合計:8

とある国の姫に仕える私は、段差に躓き持っていた姫様のアクセサリーをぶちまけてしまった!驚異的な反射神経でほとんどのものをキャッチしたのだが、一つのティアラがこぼれ落ち、どんなファインプレーが起きたのか、ティアラは窓から飛び立ち外階段を跳ね、芝生をコロコロと転がって言った。死ぬ気で追いかけるも追い付かず、減速しないそれは城の外へ。
追いかけて、追いかけて、そして池に落ちる姿を見送った。
絶望し、項垂れていると足元から声。
「お嬢さんお嬢さん、何か困りごとか?」
一匹の山椒魚が、つぶらな瞳で私を見上げていた。

お姫様が蛙に毬を拾ってもらった同日、とあるメイドは山椒魚に出会っていた。

『蛙の王子様』のパロディになります。 
当初のテーマは『水槽が欲しい』でした。

1位の表紙

2位

目次

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拾いましょう

「あっ!」

そう言った時には時すでに遅し。手に持っていたアクセサリーケースが宙を舞う。

ごきげんよう。私はとある小国の我が儘な姫に仕えるしがないメイドです。

 状況を説明します。

 何故だか機嫌のよろしくない姫様は気分転換におしゃれをする、などと言い出し、下っ端メイドの私にアクセサリーを衣装ケースから持ってくるよう言いつけた。

 正直、今日城から出る予定がないのなら着替えようとするなよ、と言いたいが私はしがないメイド。面倒などと言って首を撥ねられるのはごめんだ。

そうして城のなかをアクセサリーケースを持って歩いていた。

しかしぼうっとしていたからか、窓から見える空が綺麗だったからか、私は杜撰な石造りの廊下の段差に足をとられたのだ。

キラキラと舞うアクセサリー。

 頭で考えるまもなく、つけていた白いエプロンで宙を舞うアクセサリーたちを、魚を漁る職人さながらに回収したのだ。生まれてこのかた、こんなに早く動いたのは初めてな気がする。

 何が言いたいかと言うと、私は頑張った。最善の対応をした。

 努力むなしく、エプロンが届かなかったものが一つ。

ティアラだ。

 教養もない私にすら、高価なものだと人目でわかる。悪趣味なほどにつけられた宝石、キラキラと輝くプラチナ。

その悪趣味ティアラは窓の外へと羽ばたいた。

 「ああああああああっ!!!」

 私の絶望など知らず、ティアラは外階段をバウンドしながら徐々に下へと落ちていく。

 「あああああっ………!」

 「ミーシャ?どうしたの?」

 後ろからかけられる声。失態がバレたと絶望しながら振り向く。

 「あ、アンちゃん!」

 「え?」

 振り向けば同期のメイド、大天使アンジェリーナちゃん。神はまだ私を見捨てていなかった。

 「アンちゃん!ほんっとうに申し訳ないんだけど、このアクセサリーたちを姫様のところに持って行ってもらっても良い!?」

 「え、別にいいけど、ミーシャは?」

 「私はちょっとやらなきゃいけない使命があるの!ごめんね!帰ったら詳しく話すから!」

 一方的に言ってごめん、アンちゃん。でも私は凄まじい勢いで転がっていくティアラを見失うわけにはいかないの。

 はしたないとかそういうことは気にせず、ティアラを追って窓から外階段へ飛び降り、その後ろ姿を追った。

 *********

 おかしい。これはおかしい。しかし誰に聞こうと返事などあるわけがない。

 木の生い茂った森の中、私は全力で走っていた。

 自慢ではないが、私はとても淑女とは思えないほど運動能力が良い。この国に来る前まではあらゆる国を流浪する民であり、毎日がサバイバルであった。そんな仲間たちの中でも抜きんでて身体の動く私は仲間内で山猿などと揶揄されていた。

 この国に来てメイドを始めて数年。まだ体は鈍っていないと言える。

 そしてそんな私が走り続けて数分。いまだ私のはるか前を行くあのティアラは一体何者なのだろうか。

 もはや加速でもしているのではないかと思えてくる。そもそもここは別に坂道でも何でもないどころか、道は悪く木の根が這い、石が転がるような場所なのだ。なのになぜあのティアラはあんなにも早く転がっているのか。呪われたティアラなんて、きいてない。

 正直もうあんな不気味なものを追いかけたくないが、あれを持って帰らなければ私の首が転がることになるし、無理やり任せてきたアンちゃんにも迷惑がかかる。

 木々の数が減り、森が開けてきた。そして更なる絶望感が私を襲う。

 池だ。

 化け物ティアラの進行方向には緑に濁って底など到底見えるはずのない池が鎮座ましましていた。

 「やばっ……!」

 加速するわがまま姫のティアラ、追う私。

 からの、ホールインワン、である。

 ぽちゃん、とあっけない音を立てて、美しくも恐ろしいティアラは藻のはった池の底へと姿を消した。

 「そん、な……、」

 息を切らせて池の淵から覗きこもうとも、ティアラの姿はかけらも見えない。

 化け物じみたティアラなのだから重力に等負けず、いっそ池の上を滑走してくれた方が良かった。今まで摩擦力を完全無視していたのに、なぜ池にたどり着いた瞬間に重力という自然法則を思い出してしまったのだろうか。

 そもそも私がほうっとしていたのがいけなかったのだ。そんなんだから、足を取られてアクセサリーたちをぶちまけることになってしまった。

 悔めど悔めど、ティアラは帰らず。

 血の気が引き、鳩尾が冷たくなった。

 もういっそこのまま城へは帰らずどこかへ逃げてしまいたい。もとはサバイバル区域で生活してたんだ。このまま着の身着のままに逃げ出しても、きっとやっていける。

 でもアンちゃんは違う。今彼女はあのわがまま姫のところに居るのだ。私のせいで。もし今私が逃げてしまえばアンちゃんが殺されてしまうかもしれない。

 「ああ、もうどうしよう……、」

 スカートが汚れることさえ気にせず膝を突いた。ジワリと湿る膝が冷たい。

 この池は、冷たいだろうか。考える。

 私は泳げないわけじゃない。だが池に潜ったことはない。それもこんな少し先も見えなさそうな池になど。

 だがもう、あのティアラを持ち帰る以外に生きる方法はないのだ。

 「いける、かな。」

 ぼんやりと池に身を乗り出す。

 濁った水は、私の顔を反射させることさえもない。

 「お嬢さん、お嬢さん、」

 「……へ?」

 どこからか聞こえた声。あたりを見るが、人影はない。

 「私、私だ。お嬢さんの足元にいる。」

 自分の耳よりも低い位置から聞こえる声。恐る恐る視線を下げていく。

 「そう。私だ。それはそうと、お嬢さん。何かお困りか。」

 どこか気取ったようで、同時に高慢さを感じさせる声。

 その声の主は私の足の側にいた、真っ黒いサンショウウオだった。

 「サンショウ、ウオ……?」

 「いかにも。私はサンショウウオだ。正しくはオオサンショウウオに分類される、人間のお嬢さん。」

 サンショウウオ、いやオオサンショウウオは人間の言葉でそう返事した。

 先ほどの絶望は一瞬にして困惑に塗り替えられる。

 サンショウウオがしゃべった。しかもこのサンショウウオ、やたらデカい。サンショウウオと言えば大きくて20センチくらい。だがこのサンショウウオは明らかに50センチは超えているように見えた。

 「オオ、サンショウ、ウオ……さん。」

 「ああ、だからそう言っている。そんなことより、お嬢さん。何か困りごとがあったんじゃないか?」

 人語を解す、ファンタジーオオサンショウウオの言葉に現実へと引き戻される。

 そう、私にとってオオサンショウウオが言葉を話そうが文字を書こうが空を飛ぼうが関係ないのだ。目下の問題はこの池の中に落ちたティアラなのだから。

 「……姫様のアクセサリーを運んでいたら躓いて、中身をぶちまけたんです。その中の一つ、ティアラだけが窓から飛び出し、ここまで転がってきたんです。そして、ついさっき、この池の中へとダイブしてしまいました。」

 「それは、困った。」

 「ええ、困っています。とても。姫様にばれれば私の首は簡単に飛んでしまうでしょう。」

 一人と一匹、池の淵から覗きこむ。たくさんの宝石の飾りのついたティアラが自然に浮き上がってくることはまずないだろう。

 「一つ、オオサンショウウオさんにお願いがあります。」

 「聞くだけ聞こう。」

 「池の深さって、わかります?」

 「……そんなことを聞いてどうする。」

 「私に潜れる深さであれば、潜ります。無理そうなら、首は諦めて城へ帰ります。」

 オオサンショウウオはびっくりしたような顔をした。表情なんて読み取れないはずなのに、何故か驚いているとはわかった。

 「君は愚か者か。こんな池に君のような人間が潜れるわけがない。このままとんずらするのが良いだろう。」

 「私一人ならそうしてました。しかし城には今私の友人であり同僚である子がいます。私が帰ってこなければ、おそらく彼女が責め苦にあうでしょう。」

 ふむ、とオオサンショウウオは考え事するように唸った。ぬらぬらとひかる身体をぼうっと見ながら池の深さに思考を割いた。手は届くだろうか、息は持つだろう、戻ってこられるだろうか。

 「お嬢さん。そこは私にそのティアラを取ってくるように頼むところじゃなかったか。」

 「初対面のサンショウウオさんにそんなことを頼むほど非常識じゃないと思ってます。」

 サンショウウオはまた低く唸る。流石にサンショウウオに取ってきてくれなどと頼むことはできるほど私の神経は図太くない。そもそもサンショウウオは頼むのが当然、といった風だが人間が両生類に何かを頼むなど異常事態の極みではないだろうか。たとえその両生類が人の言葉を話すとしても。

 「……取ってきて、とお願いすればオオサンショウウオさんは取ってきてくれるんですか?」

 「交換条件を飲むのであれば、取ってきてやろう。」

 にい、と笑うサンショウウオは存外愛らしい。端を持ち上げた口がどことなくひょうきんだ。人間の顔であれば、きっとあくどいのだろうが。

 「交換条件、とは?」

 「お嬢さんが是といえば、教えよう。」

 「……ちょっと卑怯じゃない?」

 「まさか!至極親切だとは思わないか。ティアラがなくては君か君の友人が死にかねないのだ。それに比べれば、私が条件を伏せることなど些事、易いものだろう?」

 何となく、交換条件がろくでもないものだと察する。そうでなければこうも隠そうとはしないだろう。食べ物か、寝床か、はたまたメスのサンショウウオか。オオサンショウウオの願いなど、人間の私には想像もつかない。

 だが私には選択肢などないも同然だ。

 「その条件というのは、誰かの命にかかわるものですか?」

 「ああ、誰かを殺せだのなんだのと言う物騒なものでは決してないと約束しよう。」

 もう一度池を見る。やはり底は見えない。

 日が傾きかけ空がほのかに朱に染まる。直に夜が来る。私が池に潜り、運よくティアラを見つけられたとしても、帰るときにはきっと寒さに凍えるだろう。

 得体の知れないオオサンショウウオの言うことを聞くか、このままのこのこ城へ戻り、首を飛ばされるか。二つに一つ。

 やはり、何もかも命あってのことだと、私は思うのだ。

 「……条件が何であれ、飲みましょう。」

 「ほう!言ったな。」

 「オオサンショウウオさん、池の中に落ちてしまったティアラをどうか取ってきてください。」

 「喜んで!」

 ぼちゃん、と音を立てて、オオサンショウウオは池の中へと姿を消した。

 池のふちに座り込み、オオサンショウウオの帰りを待つ。誰もいなくなった森は風に揺れる木の音だけで、先ほどまで人の言葉を話すサンショウウオの存在などまるでなかったように穏やかだった。

 まるで狐か何かに化かされたような白昼夢に感じられた。

 ふと、さきほどのオオサンショウウオが白昼夢だったら、私は一人ここで戻って来るはずのない彼を待ち続けることになる。日が暮れてしまえば、森から出られなくなってしまうかもしれない。背筋に寒気が走り、傾いていく夕日に焦りを覚えた。

 身を乗り出して、早く帰ってきてくれと願っているとそれが通じたのか、池からぷくぷくと気泡が上がった。

 「オオサンショウウオさん!」

 「これで良かったか。随分と趣味の悪いティアラだな。」

 例のティアラを加えて現れたオオサンショウウオは、びたびたと水を滴らせながら池から這い上がった。

 「ありがとうございます!これで死なないで済みそうです!」

 パッと検分しても、特に欠けているとか傷が付いているということはない。あれほどの高さから落ちたというのになぜ無傷、と思わないでもないが、ないに越したことはない。

 「さあ私は君の願いを叶えてやった。君にも私の願いを聞いてもらおう。」

 「何ですか?」

 ニヤニヤと笑うオオサンショウウオに身構える。

 正直、ティアラは戻ってきたし、このままとんずらしてしまいたいとも思う。サンショウウオの生態には詳しくないが、私より足が速い、なんてことはないだろう。だがしかし、相手がサンショウウオと言えど人の言葉と思考を持ち、そのうえで約束をした。そして相手はその約束を守り、私の願いを叶えてくれたのだ。このまま立ち去るのは、不義理が過ぎる。

 「なに、無茶なことではない。私を同じ食卓につかせ、君と同じ食事をとり、同じ寝室で寝かせてくれ。間接的に君の命を救ったのだ。それくらい安い物だろう。」

 オオサンショウウオは大きな口で愉快そうに笑った。

 ふむ、と考えるように唸るのは私の方だ。

 「……まず一つ良いですか。」

 「何だ。何を言おうと君に拒否権はない。」

 「いえ、そうではなく。同じ食卓につくのはおそらく不可能です。私は他の使用人やメイドたちと基本的に食事をとります。そこにサンショウウオであるあなたを連れていくことは流石にできません。食事は同じ食卓、というのは無理です。私の部屋、ではいけませんか?」

 「……良いだろう。」

 笑いを引っ込めたサンショウウオ。怒っているわけではなさそうなので、言葉をつづける。

 「それから、同じ食事、と言いましたが、同じ食事で大丈夫でしょうか。サンショウウオにとって毒になるものとかありますか?同じ食事にするといっても、私が貴方と同じ食生活をするわけにはいけませんから。」

 「……特にない。人間の食べ物と同じで良い。」

 随分と人間臭いサンショウウオだ。いや、生きた虫でなければ食べないと言われるよりはるかに良いのだが。

 今後の食事については食堂から食べ物を自室に持ってくることになりそうだ。

 「それじゃ、これからよろしくお願いしますね。」

 「……そんなに簡単に言って良かったのか。」

 話がまとまったところでオオサンショウウオはぽつりと言った。思わず怪訝な顔をする。今更何を言っているのだろうか。

 「自分から私が断れない条件を出して、何言ってるんですか。」

 「いや、それでも、こんな醜い両生類を自分と生活するのは、嫌だろう。」

 居心地が悪そうなこのオオサンショウウオは、その傲慢な口調に似あわずずいぶんの劣等感に苛まれているようだ。

 「オオサンショウウオさんはまあ一般的に見て気色悪いとは思いますよ。婦女子は特に両生類とか昆虫とかは好きませんし。哺乳類、鳥類以外には可愛いの基準が厳しいです。」

 ぬらぬらとてかる身体は十人中十人が気持ちが悪いと眉を顰めるだろう。おまけにオオサンショウウオさんは大きい。百歩譲って、普通サイズのサンショウウオはイモリやヤモリのようでかわいらしい。しか全長50センチを超えるオオサンショウウオさんは気持ち悪いとか以前に怖がられる可能性もあるだろう。

 十人中十人が気色悪いと言っても、百人いれば、一人くらい愛らしいと称する人がいてもダメではないだろう。

 「でも私は嫌だとは思いませんし、よくよく見れば愛らしいとも思いますよ。」

 「愛っ……!?」

 「愛らしいと思いますよ。正直、ご飯のために生きた虫を取って来いとか言われたらどん引いたかもしれませんが、オオサンショウウオさんは人間みたいですから。せいぜいルームシェア位にしか思いませんよ。」

 黙り込むオオサンショウウオ。どうもこのオオサンショウウオは両生類のくせに人間がごとくあれこれ考えすぎるきらいがある。

 「まあ約束は約束です。お城へ行きましょう。養ってあげますから。」

 「……私をヒモかなにかのように言うな。」

 「違いましたか。」

 「……もういい。約束通り、しばらく世話になるぞ。」

 自分から言い出したくせに、どこかしぶしぶ、という空気を器用に醸し出す面倒なオオサンショウウオ。四足でノタノタと歩くオオサンショウウオを拾い上げた。

 「な、なにをする!?」

 「歩くの遅いんです。早くしないと日が暮れてしまいます。」

 流石にまだ素手で掴み上げる勇気がなく、付けていたエプロンでオオサンショウウオを包み抱き上げる。エプロンの汎用性高い。

 「そういえば、同じ寝室で、とも言ってましたが、やはり水瓶かなにかが必要ですかね?」

 「は?」

 「だってオオサンショウウオさんは両生類でしょう?干からびたら死んじゃいそうじゃないですか。」

 「……水瓶をよこせ。」

 態度も身体も大きなオオサンショウウオさん。

 この時の私は、人間の言葉を話し、理性とプライドを持つ、世にも珍しいペットを手に入れたとしか思っていなかったのだ。 

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1

素晴らしい

きょんきち

2018/10/4

2

きょんきち様コメントありがとうございます!励みになります。
最後までこんなゆるゆるギャグ調で進んでいきます
よろしければお付き合いお願いいたします!

作者:秋澤えで

2018/10/4

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とじる

飼育しましょう

バタバタと白いシーツが風に揺れる。

そのシーツが干された裏庭を、私は籠を持って這いずり回っていた。

 「……み、ミーシャ?何してるの?」

 「あ、アンちゃん!そっち行ったから捕まえて!」

 「行ったって何……キャアッ!?」

 草むらから大きく跳躍した蛙が、挙動不審な私の様子を見に来たアンジェリーナの前に躍り出た。決して大きいとは言えないサイズだが、アンジェリーナは婦女子に相応しい悲鳴を上げた。彼女の前で固まる蛙を素手でぱっとつかみ取り籠に放りいれる。こういう時、私との女子力の差を如実に感じる。

 「な、なに!なんでミーシャ蛙を追いかけてるの!?」

 「あのさ、前にオオサンショウウオを飼い始めたって言ったでしょ?基本的には私たちと同じものを食べるんだけど、図書室で生態を調べたら生きた虫や蛙が好物って書いてあったの。」

ティアラを池のそこから持ってきてくれた割と紳士的なオオサンショウウオさんと暮らし始めて数日。彼のおかげで私もアンジェリーナも罰を受けることはなかった。感謝してもしきれない。そんな彼は宣言通り、私と同じものを、私と同じ部屋で食べて、同じ部屋で寝泊まりしている。

しかしながら改めて彼、オオサンショウウオのことを調べていたら、ずいぶん彼は無理をしているように思えたのだ。一つあげると、食事である。図鑑曰く、オオサンショウウオは生きた餌しか食べないという。ミミズや幼虫、カマキリなどの虫類のほか、蛙や魚も食べるらしい。

だが私はしがないメイド。頻繁に肉、またそれに準じるたんぱく質をあげることは難しい。彼は何の文句も言わず、パンをもそもそと食べているが、あまり我慢させるのは飼い主として不甲斐ないので、こうして仕事後に彼の食料の調達に繰り出したのだ。虫は流石に生理的に触ることができないが、蛙なら、ぎりぎり許容範囲内だ。

すでに籠の中には戦利品で詰まっているのだが、今のアンジェリーナの反応を見て、それらを見せてよこすのは自重しておく。きっと繊細な彼女は籠の中を見れば卒倒してしまうだろう。

 「……サンショウウオって肉食だったのね。」

 「うん。私も知らなかった。ただ虫とか食べてそうな顔してるけど。」

 本人、いや本サンショウウオが聞いたら激怒しそうなことをしれっという。

あのオオサンショウウオはサンショウウオのくせにやたらとプライドが高いのだ。

 「蛙……そうよ、蛙で思い出したわ。」

 「なに?アンちゃん蛙飼い始めたの?」

 「そんなわけないでしょ、あんな気持ちの悪いもの!」

 身震いして腕をさするアンジェリーナ。流石に同じ両生類を飼うものからすれば胸が痛い。いや、ペットの両生類のために蛙を乱獲する私が言えたことではないのだけど。

 「いえ、むしろミーシャ知らないの?このお城の蛙の話。」

 「王様蛙に変えられちゃった?」

 「そんなわけないでしょ!不敬罪の極みよ!慎みなさい!」

ほんのブラックジョークのつもりだったが、見事に引っ叩かれてへこむ。アンジェリーナが陰で王様のことを頭スカスカ木偶の坊、という意味を込めてトーテムポールと呼んでいることを、私は知っている。

 「それがね、あんたがサンショウウオを持って帰って来た日、王様や姫様たちが食事してた広間に、蛙が来たの。」

 「蛙が来た。」

 「しかもその蛙しゃべるのよ!」

 「蛙しゃべるの。」

ほとんどオウムと化しながら話をきいていくと、金のまりを池に落とした姫は池の淵で泣いていた。しかしそれを見ていた蛙が交換条件を出して金のまりを取ってきてくれた。とってきてくれたのにそこは流石のわがまま姫、早く走れない蛙を置き去りに、城へ走って帰ってきたらしい。そして知らん顔で晩御飯を食べているときに件の蛙が広間を訪れた。

 蛙は姫に「同じ食器で食事をとること、同じものを食べること、同じベッドで寝ること。」を条件に出していたのだという。

 王様は、約束を破った姫に怒り、蛙の望むようにさせ、姫は泣く泣く蛙との同居生活を送っているらしい。

……聞けば聞くほど聞いたことのあるお話しで。

 何から何まで、かのオオサンショウウオと同じではないか。

 多少異なるところもあるが大方同じ。何かつながりでもあるのだろうか。

 「アンタ気を付けなさいよ。一応その図々しい蛙も客人。アンタのとこのサンショウウオが食べたら一大事よ。」

 「それは本気で一大事だね……、気を付けておく。」

 思わず冷や汗をかく。姫の客人をメイドのペットが食べたなんてことがあったら一発断頭台だ。しかもあのサンショウウオ、夜中になると水瓶を抜け出して外を徘徊している。歩いた後は水跡が付くというのに、まだ徘徊が私にばれていないと思っているようで、可愛らしいので放置していたが、これはまずい。騒ぎになっていないということは、まだオオサンショウウオさんはかの蛙を捕食してはいないらしいが、早急に注意喚起が必要だろう。

それ以前に、と籠の中に姫様の蛙が混じっていないか物色する。ゲコゲコ、ケロケロ鳴くばかりで、人語を解すものはどうやらいない。

 安堵したのも束の間、籠の中身に気が付いたアンジェリーナが絹を裂くような悲鳴を上げ、半狂乱で籠の中身を外へぶちまけた。

 「あああー、アンちゃん……、」

 「なにアンタ気色悪いことしてんのよ馬鹿ぁ!」

ゲコゲコケロケロ飛び散った。

 *********

 「今日お昼の蛙捕まえてきたんですけど、食べます?」

 「わたしは君と同じものを食べる、そういったはずだが?君もその蛙をたべ、おいやめろ。蛙を頭に乗せるな。気色悪い!」

 「ゲコ。」

 一匹だけ、部屋に連れ帰った蛙をオオサンショウウオさんに見せるとあからさまに嫌そうな顔をされた。ツンデレか遠慮でもしているのかと思ってピタピタ顔に当ててみたが、果てしなくブーメランな罵倒と共にがち切れされたため、仕方なく窓から蛙を放り投げた。ケロケロと鳴きながら離れていく。生きが良い方がいいと思って生け捕りにしていたのが功を奏した。

 「そういえば、勝手に夜、城の中を徘徊するの、控えてもらえませんか。」

 「なぜだ。迷惑はかけていないだろう。」

 「いや、迷惑ではないのですが、貴方が大事件を起こす可能性があるので。」

 水瓶から顔と両手を出し首を傾げるオオサンショウウオさんは愛らしい。

しかしうっかりかの蛙を夜食に食べたとあれば、笑えないのだ。

 昼間アンジェリーナから聞いた人語を話す蛙のことを話す。

みるみるつるりとしているはずの額に皺を寄せるオオサンショウウオさん。反応を見る限り、やはり知り合いらしい。しかも、あまり仲はよろしくないようで。

 「食べちゃダメですよ。」

 「だから蛙は食わんと言っているだろう!」

 「じゃあ危害を加えてもダメです。そうなれば私も貴方もここにはいられませんからね。」

なにより、その蛙は夜の間は姫の寝室にいて、その寝室の警備はネズミ一匹通すことなく、ネズミよりはるかに身体の大きいオオサンショウウオさんなど無論、忍び込むことなどできないことを伝えると、不機嫌そうに水瓶の中へ沈んでいった。 

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/10/08)

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本当に素晴らしいですね!


後半はネズミよりはるかにでしょうか。

青楊

2018/10/7

2

青楊様コメントありがとうございます!励みになります!
誤字の御指摘ありがとうございました!助かります。変更いたしました

作者:秋澤えで

2018/10/8

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とじる

うちの子と他所の子を比較しましょう

「姫、姫、私にそのクッキーを分けてください。」

 姫の客人たる、人語を解す両生類、蛙の姿を見たのは、庭でアンジェリーナからその話をきいた次の日のことだった。

 姫様の豪奢を極めたティータイム。その優雅な光景にそぐわない客人。そう蛙である。ついついガン見してしまうが、他のメイドたちはもうすでに慣れたらしく、微かにその醜い蛙に顔を顰めているが、さして気にした様子もない。

 「……どうぞ。」

 嫌悪感を隠しもしない姫様は蛙の前にいくつかのクッキーを置いた。約束をしたために、このように同居という事態に陥っていて、自業自得としか言えないが、わがまま姫にはちょうどいい。王も灸をすえてやる、といった意図があったのかもしれない。まああのトーテムポールにそんな考えがあるかは謎だが。

 「姫、姫。私にはそのクッキーは大きすぎます。私の口に丁度いいくらいに、割ってはいただけませんか。」

 「っ……、」

ぐしゃり、姫は片手でクッキーを握りつぶした。粉々になるパティシエ特製クッキー。無残だ。

わがまま姫も、姫だが、それに対するこの蛙も蛙だ。いくら約束をしたとはいえ、図々しい。蛙の面に水とはまさにこのことだろう。わがまま姫と面の皮の厚い蛙。お似合いではないか。

 数分もすればしゃべる蛙にも慣れてきた。きっと他のみんなも諦めの境地なのだろう。

 約束をしたとはいえ、下賎な両生類の身。果たしてあの蛙はいつまでこの城に留まるつもりなのだろう。王の教育的指導が済み次第、速やかに追い出されそうなものだが。

 「姫、姫、私も紅茶が飲みたいです。私にも一口ください。」

 「っ!ミーシャッ、この蛙に紅茶をいれなさい!!」

 「はい、ただいま。」

ぼけっとしていたところに飛ぶ命令。条件反射的に身体を動かし、一番小さなカップに紅茶を注ぐ。本当に面の厚い蛙。そしてどこまでも意固地な姫様。おそらく蛙は姫様の口を付けた紅茶をもらおうとしていたのだろう。それに気づいた姫様がそうはさせるかとすかさず私に命令をした。なんとも不毛な攻防戦である。さっさとあきらめてしまえばいいのに。

 「ありがとう、お嬢さん。お嬢さんはさっきから私のことを随分とみているけれど、私が気持ち悪くはないのですか?」

 「両生類は、そこまで苦手としていませんので。」

 嘘でも本当でもないセリフを白々しく吐けば、蛙はぎょろりとした黄色い目をぐりぐりと動かしてから、へえ、と一つ声を漏らした。

 思わず寒気が走る。

 脊髄反射的に、気持ち悪いと思った。今にも叩き潰してしまいたい衝動に駆られる。だがここで潰してしまえば、私の首が飛びかねない。姫はきっと怒ったふりして喜ぶだろうが、王様は怒るだろう。

 両生類は両生類でも、うちのオオサンショウウオさんとは雲泥の差だ。身内びいきいや、飼い主びいきと言われてしまえばそれまでかもしれないが、少なくとも、オオサンショウウオさんに見られてこれほどの不快感を抱いたことはない。単純な見た目の気持ち悪さはきっと似たり寄ったりなのに、この差は一体何なのだろう。

なんだか急に部屋にいるオオサンショウウオさんに会いたくなった。夜行性の彼はきっといま水瓶の底で眠っているのだろうが、これがまたなかなか可愛い。

 可愛いと思えるから、私はてっきり両生類が好きな人間になっていると思っていたが、この蛙を見て考えを改める。

 私は別に両生類が好きなわけじゃない。オオサンショウウオさんが好きなのだ。

あの図々しく、品もなければ優雅さもない蛙と傲慢だがなにげに紳士的かつ常識的なオオサンショウウオさんでは、同じしゃべる両生類でも似ても似つかない。

 仲がよろしくないという二匹。オオサンショウウオさんがパクリとあの蛙を丸呑みにするところを夢想した。

 ********

コックから借りた古いレシピ本をベッドに寝っ転がりながら捲る。

 「唐揚げ……カレー……シチュー……刺身、は無理だな。」

 「さっきから何をぶつぶつ言ってる。」

 怪訝な顔で水瓶から顔を出すオオサンショウウオさん。やはり可愛い。何というか、気持ち悪いのにどこかかわいらしさを滲ませる。

 「なるほど、キモ可愛い……、」

 「何だ?」

 「いえ、蛙の調理の仕方を調べてるんです。」

 「……喰うつもりか。」

 「私と同じものを食べるのでしょう?」

 「蛙を食べるなぞ、気が知れんな。」

 一応サンショウウオは蛙が大好物なはずなのに。

コックに話をきいてみれば、存外蛙の調理法は見つかった。かつて肉があまり手に入らなかったころ、蛙は重要な蛋白源だったらしい。いわく、十分に美味しくいただけるとのこと。グルメなオオサンショウウオさんでも、ちゃんと調理すればきっと食べてくれるだろう。

 生理的に不愉快な蛙をからりと揚げるには、いつ攫えばいいだろうか。

 「今日、昨日お話しした人の言葉を話す蛙と会いました。」

 「ほう、それでどうだった。」

 「図々しく不愉快でしたね。特に理由のない不快感に襲われました。」

 「ふん、だろうな。あのような物体、視界に入れるだけで不快だ。」

 吐き捨てるように言ったオオサンショウウオさん。親戚なのか知り合いなのか知らないが、随分と見知った仲のようだ。

 不快な蛙。あの蛙はいったいどんなつもりでこの城にいるのだろうか。

 見た目だけはいいわがまま姫だが、結局はわがまま姫だ。正直、あの姫と四六時中いたいと思う蛙の気が知れない。

 「……オオサンショウウオさんはどうしてこの城にいるんですか?」

 「……わたしが君の落としたティアラを拾ったからだろう。」

 言外に答えるつもりはないとピシャリと言われた気分だ。わざとらしくすり替えられた答えはあからさま過ぎて追及する気にもなれない。

 「そういえば、城の中をむやみに歩かない方が良いですよ。」

 「それは昨日聞いた。」

 「オオサンショウウオは食べるところが多いそうなので、コックさんに見つかったら捌かれちゃいますからね。」

 「さばっ……、ふん、そんなへまなどしない。」

 「どうだか。」

 不機嫌そうに、ぱしゃんと尻尾で水面を打った。

 両生類にしては表情豊かでわかりやすいうちの子は可愛いと再認識した夜。

 奇しくも同じ夜、我慢の限界の来た姫様がベッドにもぐりこんだ蛙を壁に叩きつけていた。

 呪いが解ける。 

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/10/08)

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1

アンジェリーナがアンジェリカに変身してるであります!

青楊

2018/10/7

2

青楊様誤字の御指摘ありがとうございました!変更いたしました!いや本当にキャラクター名の誤字は本当申し訳ないです……ありがとうございました

作者:秋澤えで

2018/10/8

3

いえいえ(>_<)
申し訳ないだなんて(>_<)
こちらこそ申し訳ないと思いながらも、本当に素敵な作品でしたので(>_<)
でなければスルーしてました(^^

青楊

2018/10/8

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とじる

ペットのことを知りましょう

 この世は全く複雑怪奇。面妖な事柄で満ち溢れている。

 蛙が王になったとな。

 息を切らせたアンジェリーナに言われた時は、彼女が寝ぼけているのかと思ったのだが、それが事実だと知ったのは翌朝、大広間に集められたときだった。

 城の者が集められた大広間。壇上にはトーテムポールこと、我が国の王、わがまま姫。そしてわがまま姫のすぐ隣には見覚えのない金髪金眼の若い男が堂々とたたずんでいた。蛙は、いない。

 「アンちゃん、あの青年は誰?」

 「蛙よ。」

 「蛙。」

 蛙、蛙、金髪金目の青年に蛙らしさはない。紛うことなき人間だ。唯一面影があると言えるのは金色の目だけ。ただそれももう不愉快さは帯びていない。

 「皆様、このたびはお世話になりました。この国の隣、ルルヒ王国の王子フロッシュ・フェアディーンストと申します。」

 醜い蛙の容貌とは似ても似つかぬ見目麗しい王子は恭しく頭を下げた。王族とは思えないその丁寧さに

いい意味でも悪い意味でも広間はざわついた。

 フロッシュ・フェアディーンストと名乗った青年はつらつらと事の次第を語る。

 ルルヒ王国の王子はつい先日、悪い魔法使いに蛙に変えられてしまったらしい。そして蛙になった王子は森で途方に暮れていたところ、うちの姫様が池の側で泣いているところを発見する。あまりにもかわいそうなので、話を聞くと金の毬を落としたとのこと。そこで王子は姫のために池にもぐり毬を取ってきてあげた。そして姫に頼んでこの城で過ごしているうちに、姫の優しさによって魔法が解け、昨晩もとの姿を取り戻したそうな。

 軽くキャパシティオーバーする。魔法とはいったい何なのか。優しさなどというもので解けるものなのか。そもそも魔法使いってなんだ。そんなものいるのか。魔法自体噂に聞くものの実際にあるとは思っていなかったし、ひとかけらも信じていなかったが、蛙が人の言葉を話す世の中だ。人間が蛙にされていてもおかしくないのかもしれない。感覚がおかしくなる。

 「大方は王子様の言う通りよ。ただ優しさで、っていうのは嘘ね。」

 「まあ姫様全然優しくなかったしね。散々目の敵にしてたし。……じゃあなんで魔法が解けたの?」

 「昨晩寝室に来た蛙を、とうとうブチ切れた姫様が壁に叩きつけたらしいの。」

 「うへぇ、」

 「それで魔法が解けたみたい。」

 「解けちゃったの。」

 壁に叩きつけられて解ける魔法とはなんぞや。ご都合主義もいいところだ。もしかしたらあの蛙の態度はわざと姫を怒らせるためだったのかもしれない。なんにせよ優しさとは対極にある解決方法だ。

 魔法がどういうものなのか分からないが、解けたのならきっとそういうものなのだろう。

 「私と姫は婚姻することになりました。しかし一つ問題があるのです。」

 「昨日の今日、壁に叩きつけられたのに結婚決めた王子すごい。」

 「きっと上の方々の思惑がいろいろあるのよ。」

 すでに決定されたような姫と王子の婚約。皮肉一色であったがお似合いであるのだ。まあ丁度いいのだろう。

 どうであれ、一使用人である私たちには些事である。姫が嫁ぐために国を出るならば、一緒についていくメイドが選ばれるのだろうが、私は生憎彼女のお気に入りでもなければ有能な使用人でもない。よって私には全く関係ないのだ。

 姫の輿入れが決まれば仕事は山の様にあるだろう。さっさと広間から出て仕事に取り掛かってしまいたい。

 「悪い魔法使いはきっと、私が元の姿に戻ったと知ったら再び私に魔法を掛けようとするでしょう。そして姫にも危険が及ぶ可能性がある。……皆様には魔法使いの捕縛を手伝ってもらいたいのです。」

 ざわめきが大きくなる。当然だ。私たちは魔法使いの捕縛など本来の仕事でもなければ魔法使いの存在さえ絵空事だと思っていたのだ。

 「そんなことできるわけないでしょ……っていうか魔法使いを追いかけたりなんかしたら私たちまで蛙にされちゃうかもしれないじゃない。」

 「それね。勝手にやっててくれればいいのに。あの王子が蛙だろうと人間だろうと私たちには関係ないもんね。」

 王子と姫が蛙にされようがされまいがどうでも良い。強いて言うなら魔法使いがいるかもしれないという場所に寄りつかないことだ。

 他人事のようにアンジェリーナと囁きあいながらこのありがたいお話が終わるのを待っていた。

 「魔法使いというと恐ろしく思うかもしれない。だが今その魔法使いもまた、魔法にかかり山椒魚の姿をしているんです。」

 再びざわつく広間。しかし私はそれどころではなかった。

 「サンショウ、ウオ……?」

 「……ミーシャ、アンタ山椒魚飼ってるって言わなかった?」

 「……か、飼ってる。オオサンショウウオさん。」

 「……しかもあの蛙王子が城に来たのと同じ日じゃなかった?」

 嫌な汗がダラダラと背中を流れる。心当たりがありすぎる。私のサンショウウオが客人の蛙を食べてしまうのではないかと危惧していたが、それどころでは無かった。諸悪の根源だった。

 「普通のサンショウウオではありません。人の言葉を話し、体長も50センチほどで大きい。しかし結局はサンショウウオ、四足で鈍く動くことしかできません。」

 「……アンタのサンショウウオ、喋ったりしない?」

 「……あのね、アンちゃん。」

 「うん。」

 「しゃべる。」

 「……そう。」

 アンジェリーナはそれだけ言って、騒ぐことも誰に知らせようともしなかった。ジリジリと後ずさり、扉へと下がる。

 「あの魔法使いを野放しにしておくことはできません!今後私のような被害者を出さないためにも、一刻も早く捕らえなくてはならないのです!」

 「王子!その魔法使いはどこに?」

 使用人通路扉をそっと後ろ手に開けて、私は走り出した。

 「サンショウウオの姿をした魔法使いは、この国とルルヒ王国国境付近の森の中に!」

 私が飼っていたのは、オオサンショウウオなどではなかったようで。

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とじる

逃げましょう

 「サンショウウオさん!オオサンショウウオさん!」

 「んん……?まだ朝も早いだろう、どうした。」

 誰もいない城の廊下を全力疾走し、自室に戻る。夜行性のオオサンショウウオさんは水瓶の底で沈んでいたが、たたき起こす。

 「どうしたもこうしたもありません!貴方サンショウウオじゃなかったんですね!」

 「っなぜそれを!」

 「魔法使いだなんて知ってれば連れてこなかったのに!」

 「……は?」

 目を丸くするオオサンショウウオさんをリンゴを収穫するときの背負う籠に突っ込み、そのまま走り出す。荷物をまとめる時間などない。サバイバルでもきっと何とかやっていけると信じて、城の敷地から出て、オオサンショウウオさんを拾った森へと入って行った。

 「……おい、止まらないか、」

 とにかく城から離れたくて、とにかく足を動かす。幸い城から出たのは午前中。日が出ている間に、進めるだけは進んでおきたい。

 「……い、おい、ミーシャ!」

 「あああああだからうるさいですね!さっきから背中でごちゃごちゃと!今は逃げるのに集中しなくちゃいけないんですよ!」

 「ひとまず落ち着け!君は何か勘違いしてる!それにここは森の中だ。隠れる場所はいくらでもある。急いで遠くへ離れるよりも身を隠しながら動いた方が良い。」

 「煩いですね、唐揚げにしますよ!」

 「土地勘のない君がむやみやたらに動き回るより、私の話をきいた方が良い。違うか?」

 籠から顔を出したオオサンショウウオに諭される。

 誰のせいでこんなことになっているのか、このサンショウウオは本当にわかっているのだろうか。しかしながら正論と言えないでもないうえ、私自身、状況を飲み込めているかと問われれば曖昧な点も多い。仕方がなく動かし続けていた足をようやっととめ、大きな木の陰に腰を下ろし、籠を湿った地面に置いた。

 「やれやれ、今朝は一体なんだと言うんだ。」

 「あれですね。オオサンショウウオがしゃべってると思うと可愛いのに、サンショウウオに化けた人間がその口調でしゃべってると思うと、神経逆なでされる気分になります。」

 「……ミーシャ、何をどこまで知ってる。」

 間の抜けた顔をしたオオサンショウウオが大真面目な顔を作ってみせる。

 これは人間これは人間、そう心の中で唱えるも眼前には絶妙に愛らしいオオサンショウウオがいる。愛憎入り混じって横っ面を張りたくなった。

 「昨晩、姫の客人である蛙が、人間になりました。蛙は隣の国のルルヒ王国の王子だったそうです。」

 「……やはり、フロッシュ・フェアディーンストだったか。」

 「知り合いで。……フロッシュさんは先日悪い魔法使いにより蛙に変えられたそうです。それで森を彷徨っているときに姫に会い、城に来ました。」

 掻い摘んだざっくりとした話だが、おそらく当事者たる彼にはそれで十分だろう。自身の記憶で十二分に補てんできる。いつかのように、眉間らしき部分にキュ、と皺を寄せて唸るように言う。

 「なぜ、呪いが解けた。」

 「私は魔法とか呪いとかよくわからないので、確かには言えません。」

 「聞かせろ。」

 「王子いわく、姫のやさしさだそうです。ただ蛙が王子に戻るところをたまたま目撃した友人いわく、優しさもクソもなく、我慢の限界になった姫様が蛙を壁に叩きつけたそうです。その途端、蛙が王子になった、とのことです。」

 「叩っ……!それで元に戻るのか!?」

 「わかりません。ただ戻ったのならそれが答えなのでしょう。」

 信じられない、という風に目を見開く。

 可愛い、いや可愛くないという場違いな感情のせめぎあいは鉄面皮の下にしまい込む。詐欺だ。両生類詐欺だ。

 「……ひとまずわかった。だがなぜそれで私が追い掛け回されることになった?」

 「それは貴方が王子を蛙に変えたからでしょう。それで二度と変えられまいと躍起になってるんです。」

 「……はあ?」

 心底わからない、怪訝さを何時間も鍋で煮詰めて凝縮したような顔で間抜けな声を上げた。少し驚く。彼のことだからせせら笑うとか、自分が王子を蛙に変えたことをわざとらしく鼻にかけるかと思ったのだが、彼はひたすら困惑しているように見えた。

 「違うんですか?悪い魔法使いさん。」

 「はあああ!?何で私が魔法使いなんだ!私だって被害者だぞ!それに私たちを爬虫類に変えたのは魔女だ!なにより私があいつに呪いをかけたなら何で魔法使いの私までこんな両生類になってると言うんだ!」

 怒髪天を突く勢いで憤慨するオオサンショウウオ(仮)さんはびたんびたんと太い尻尾を地面に叩きつける。思ったより音が出て、慌ててその苛立たし気な尻尾を掴み地面に抑えつけると一瞬で静かになった。急所であったらしい。 

 しぼみこんだオオサンショウウオさんに問う。

 「それじゃあ、蛙の王子に恨まれ、こうして追い掛け回されているあなたは、いったい何者なんですか?」

 ぐ、と押し黙り、それから何度か大きな口を開閉させた。だがそれは声にならない。流石にオオサンショウウオに読唇術を使うのは無理があった。全く読み取れない。

 「ダメだ。どうやら自分で自分の正体を言うことは、呪いの関係からできないらしい。」

 「ご都合主義な呪いですね。」

 「言い訳じゃない。だからこそフロッシュのやつも、呪いが解けるまで口が聞けたのに自分の正体を周りに言わなかったんだろうさ。」

 「なるほど。」

 オオサンショウウオ(仮)さんの話を要約すると。

 フロッシュ・フェアディーンストさんとオオサンショウウオ(仮)さんは、同一の悪い魔女に呪いを掛けられ、それぞれ蛙とオオサンショウウオに変えられてしまったらしい。それから同じくこの国とルルヒ王国の国境付近をうろついているときに、姫と私に遭遇した。そして今、想定外の呪い解除魔法(物理)によってオオサンショウウオ(仮)さんより先に蛙の王子様の呪いが解けてしまった。なお、なぜだか詳しいことはわからないが、オオサンショウウオ(仮)さんは蛙の王子に心底恨まれているようである。

 「呪いの解き方は蛙の王子様もオオサンショウウオさんも知らなかったんですか?」

 「…………いや、」

 「知ってるなら早く戻りましょうよ。」

 酷く居心地悪そうに視線を彷徨わせ、意味もなく前足を足踏みさせる。やはり可愛い。

 「知っているには知っている。だが具体的な方法がわからないのだ。」

 「具体的?」

 「…………真実の愛があれば元の姿に戻る、そうだ。」

 「あい、」

 魔法とは、いったいどのようなものなのだろうか。

 真実の愛(笑)でも解ける。

 殺意を乗せて壁に叩きつけても戻る。

 どこのだれだか知らないが、魔女よ、少々適当過ぎはしないか。

 「真実の愛とは何だ!?何なんだその漠然としたものは!?そもそも両生類における真実の愛とは何なのだ!?」

 「魔法とは不思議なものですね。」

 うがああっ、と吠えながららしくもなく乱心するオオサンショウウオさんの尻尾をがっと掴む。すぐに静かになった。急所なのであまり触っては可哀想というのはわかるのだが、いかんせん、掴むとシュンと縮こまるオオサンショウウオさんは他に類を見ないほど愛らしいため、自重する予定はない。

 「それで、これからどうしますか?ここにいてはいずれ見つかります。」

 「ああ、ルルヒ王国へ向かう。」

 「ルルヒ王国?」

 ルルヒ王国と言えば、件の蛙の王子の国ではないかと顔を顰める。

 「そっちには私の部下がいる。」

 「サンショウウオですか?」

 「人間だ。……すくなくとも、王国まで辿り着き、事情を知っている者と出会えればフロッシュは私を不当に捕らえることはできない。」

 なるほど、道理でわざわざ蛙の王子がルルヒ王国ではなく、この国の人間にオオサンショウウオさんの捜索をしようとしたのかわかった。オオサンショウウオさんは本当は捕まえていいような人間ではないのだろう。おそらく、オオサンショウウオの姿をしているうちに魔女の汚名を着せ、始末してしまおうという算段なのではないだろうか。

 どうもちぐはぐな話だ。なぜちぐはぐになっているかと言えば、オオサンショウウオさんにかけられた、自身の正体を話せない、というものに起因するのだろうが、如何せん、どこまでがセーフのラインなのかわからない。彼は明確に自分が誰だか言っていないが、少なくともルルヒ王国の人間でなおかつ誰かの上に立っている人間だとわかった。やはり魔法というものはわからない。

 「簡単に言うとまあひとまずこの国の脱出、亡命ですね。」

 「ああ、道はわかる。とにかく少しずつ進んでいくぞ。」

 方針がまとまったところで、オオサンショウウオさんを再び籠に入れ、歩き出す。

 言いふらしていたつもりはないが、きっともう私があるサンショウウオを飼っていたことはバレているだろう。本を借りた履歴、コックから聞いた話、隠滅も口止めもしてこなかった。

 このまま森を抜けるのが早いか、国の人間が私たちを見つけるのが早いか。

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良い話で勉強になりました。透明感のある表現力に驚きました。いいと思います。

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あふりかのそら様コメントありがとうございます!励みになります!
のりと勢いの話ですが、そういっていただけてうれしいです。

作者:秋澤えで

2018/10/8

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とじる

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