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おもいでは花びら 完結

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童話に挑戦してみました。実際に子どもたちへの読み聞かせにも使ってもらえるような作品にしたいと思っています。読んで頂けるとうれしいです。

—— ある小さな島で、フヨウの花が咲くと、空から何かが降ってきます。夏の終わりのある日、朝の始まりとともに、物語が始まります ——

1位の表紙

目次

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1. 初めてのあいさつ

 ある小さな島でのできごとです。

 夏から秋にかけて、このあたりには、フヨウの花がたくさん咲きます。フヨウは、白やピンクの5枚の花びらが、朝に開いては、夕方にはしおれてしまう、一日花(いちにちばな)です。でも、次から次へとたくさん咲くものですから、あたり一面に咲いたフヨウの花が、夏の暑さを忘れさせてくれます。

 そんな、たくさんのフヨウの中に、今まさに、花開こうとしているつぼみがありました。ようやく自分の番が来た。つぼみは、花開く瞬間を、心待ちにしておりました。いったい何が見えるだろう。いったい誰と出会うだろう。

 さて、朝日を浴びて、空を向いて、目を開けたときのことです。太陽の中に小さな黒い点が見えました。そして、その黒い点は、ふらふらと揺れながら、だんだん大きくなってくるではありませんか。

 なんだなんだ!? 黒い点だと思っていたものは、こちらに近づくにつれて、黄色いかたまりとなってきます。どんどん速く、どんどん大きくなってきます。フヨウはわけがわからず、でも開いたばかりの5枚の花びらを、閉じることもできません。

「あーっ! あぶない!」

 フヨウは思わず声をあげました。黄色いかたまりが、白い花びらのまさにその上に、どすんと落ちてきたのです。

「ごめんなさい! おはようございます!」

 黄色いかたまりが、ぺこり、ぺこりと頭を下げます。

 フヨウは何が起きているのか、さっぱりわかりませんでした。それでも、やっぱり、朝の空気がすがすがしいので、

「お、お、おはようございます!」

 フヨウにとって、それが、初めての朝のあいさつでした。

修正履歴

  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/10/21)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/10/14)
  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/10/13)

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2. 桃色のフヨウ

 夏の終わりのある日の朝、フヨウの上に落ちてきた黄色いかたまりが、ぱたぱたと何かをふるわせながら、一生懸命にうったえています。

「右のはねをなくしてしまいました! それでうまく飛べなくて、わたし、落っこちてきちゃったんです!」

 そうです。落ちてきたかたまりの正体は、黄蝶(きちょう)、黄色いはねのちょうちょでした。

 黄色ちょうちょが、朝の食事をしていると、鳥が一羽飛んできて、ぱしりと捕まえられそうになったので、上へ、下へ、右へ左へ飛んで逃げました。けれども、そのとき片方のはねを失ってしまったそうです。

「それは大変だ!」

 フヨウは驚きました。そして、黄色ちょうちょがなぜ落ちてきたのか、事情が理解できました。こんなときはどうしよう。フヨウは考えました。

「まずは、これを飲んで落ち着いて、それから考えましょう」

 そう言うとフヨウは蜜を一杯、片ばねの黄色ちょうちょにすすめました。

 蜜は甘くてとろとろしています。朝まだ早い時間でしたので、蜜は冷たく、黄色ちょうちょはそれをゆっくり飲むと、しっかりとした気持ちになりました。

「ありがとう。おかげておなかもいっぱいになって、気分も落ち着きました」

 黄色ちょうちょがお礼を言うと、フヨウは少し照れたのか、白い花びらは、わずかに桃色を帯びたように見えました。

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とじる

3. どうやって

「ごちそうさまでした。それでは、わたしは行こうと思います。お世話になりました」

 黄色ちょうちょは、おいしい蜜のお礼を言って、別れをつげて、飛び立とうとします。

「行こうって、どこへ行くんだい?」 

 フヨウは素直に尋ねました。

「どうやって……、行くんだい?」

 今度は、心配そうに尋ねました。

 すると、黄色ちょうちょはしっかりと踏ん張っていた前あしの力を抜いて、ちょんちょんと、下の地面をさしました。

「それはいけない!」

 フヨウは大きな声で言いました。ここから地面までは、黄色ちょうちょの体の何十倍もの高さがあります。片方のはねだけでは、飛ぶこともできません。一度落ちてしまったら、もう二度と、蜜を飲むこともできません。

「落ちたらどうなるかは、わかっています。けれど、これ以上、迷惑をかけるわけにはいきません」

 黄色ちょうちょは、申しわけなさそうにそう言うと、中あしと後ろあしの力も抜いて、今にも落ちていこうとしていました。

「だめだ!」

 フヨウは叫びました。

「きみが落ちていくのなら、ぼくだって落っこちるぞ!」

 このとき、どうやって落ちるつもりだったのか、それはわかりませんが、フヨウの真剣な響きに、黄色ちょうちょも思わず、前あし、中あし、後ろあし、すべてのあしに力をぎゅっと入れなおして、白い花びらの上に、とどまったのでした。

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4. 花として

「ここに、いたらどうだい? 蜜ならたくさんあるし、きみひとりくらい、どうってことないよ」

 フヨウは穏やかに、明るくそう言いました。

 黄色ちょうちょは、踏みとどまってはいましたが、どうしてもフヨウに悪い気がして、やさしい言葉をかけられるほど、余計にそう思ってしまうのでした。

「蜜が、おいしくなかった?」

 フヨウが、ちょっとずれたことを聞くので、黄色ちょうちょは少しおかしく感じました。

 でも、すぐにまた、申しわけない気持ちがもどってきて、うつむいてしまいました。

「蜜は、とてもおいしかったです」

 それから、フヨウの方に向き直って、こう言いました。

「でも、せっかく蜜をいただいても、わたしはもう飛べません。花粉を、運ぶこともできません」

「花粉を運んで、また別の場所で、花を咲かせてあげることは、できません」

 黄色ちょうちょはそう言うと、フヨウの悲しみを増やさないように、ほほえむのでした。

 フヨウは黄色ちょうちょの話を聞くと、花としての自分の一生と、同じ仲間のフヨウの一生と、黄色ちょうちょの一生と、他のちょうちょの一生などを、静かに考えるのでした。静かに、静かに考えるのでした。

 しばらくして、フヨウはゆっくりとした口調で言いました。

「いろいろな生き方があって、いいと思うんだ」

「花粉を運んでもらわなくたって、ぼくは、かまわないよ」

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とじる

5. 出会ったときから

 それからフヨウと黄色ちょうちょは、たくさんの時間を過ごしました。

 頭の上に、高くのぼった太陽を見上げたり、暑くて大変だねと言ったり、柔らかい風に、ゆりかごのように揺られたり、強い風に吹き飛ばされそうになったり、蜜を求めてやってきた蜂たちに、仲間の他のフヨウを紹介したり、雨が降らないかと心配したり、遠くで聞こえる波の音を聞いたりしたのでした。

 こうして、一緒に過ごし始めてから、半日ほどが過ぎました。

 空には、コムクドリたちの小さな群れが飛んでいます。彼らがムクドリの群れに混じって、今夜のねぐらの木々を探し始めると、夕方がやってくる合図です。一日がもうすぐ終わります。そして、フヨウの花がしおれるときが、やってきます。

「そろそろ、お別れだ」

 フヨウは、残念そうにつぶやきました。首もとの力もなくなってきています。やがて黄色ちょうちょの重みにも、たえられなくなってしまうでしょう。空のだいだい色が、悲しみのように広がっていきます。

「わたしがずっといて、本当に、迷惑ではなかった?」

 黄色ちょうちょが、遠慮がちに尋ねました。

 

 フヨウはこのときばかりは、首もとにも力が入って、こう答えました。

「もしも、たくさんの出会いがあったなら、それもきっと、いいものだったろうねえ。けれども、変わらずにずっと一緒にいることも、とてもいいものだねえ」

「花開いた瞬間から、ぼくはきみと一緒だった。きみとぼくは、ひとつの命のようなものだったねえ」

 フヨウがそう言い終わった瞬間です。強い風がみっつ、びゅうっ、びゅうっ、びゅうっと吹きました。

「ああっ!」

 フヨウは、とても悲しい、ちぎれそうな声をあげました。でもそのときにはもう、黄色ちょうちょは、吹き飛ばされていました。というのも、フヨウの白い花が、根もとから取れてしまわないように、黄色ちょうちょはそっと、あしの力を抜いていたからです。

「ありがとう! 今まで、たくさんのことを、ありがとう!」

 黄色ちょうちょは、少しでもフヨウの見える宙(ちゅう)にとどまろうと、片ばねを懸命にはばたかせながら、そう言いました。けれども、風はとても強く、遠くの地面へと、ただ流されていくばかりでした。

 落ちていった先は、深く茂った草の中です。その中で、黄色ちょうちょは、片ばねをふるわせ続けていました。しかし、フヨウにはもう、何も見えず、何も聞こえないのでした。

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