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ひだまり 完結

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僕の大好きなひだまり。それは……。

1位の表紙

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 ぽかぽか暖かいお日様の光が身体を包む。

 そよと吹く風には金木犀の甘い香りがする。

 僕の大好きな節子さんの好きな香りだ。

 僕はあまり好きではないのだけど、大丈夫なフリをしている。

 だって、節子さんの好きなものは嫌いになれない。

 節子さんは僕の初恋の人だから。

 陽ざしが気持ちよくて、うとうとしてると、上から声が降ってきた。

「またここにいたんだね」

 またと言われてしまう。

 いいじゃないか。

 このひだまりが好きなんだもの。

 眠い目はそのままに、短く返事をする。

「今日はいい天気だから、ひなたぼっこには最適だよね」

 ミシッと床を鳴らして、僕の隣に腰かけたのは、節子さんの娘の奈美だ。

 節子さんには似ていない。

 どうやら父親の方に似たらしい。

「お前はここがお気に入りだね」

 奈美が僕に手を伸ばしてくる。

 その手をヒョイと交わして、僕は庭先に下りた。

「ちょっとくらい触らせてくれてもいいじゃない。今のお前のご主人様は私なんだからね」

 勝手なことを言う。

 僕のご主人様は節子さんだ。

 そりゃあ、今、僕に餌をくれるのは奈美だけど、それでも僕がご主人様と認めるのは節子さんだけだ。

 捨てられてドロだらけになってた僕を優しく抱き上げてくれた節子さん。

 僕はその瞬間、恋に落ちた。

 節子さんは僕の声をちゃんと聞いてくれる人だった。

 僕も節子さんの声がちゃんと聞けた。

 嬉しい声。

 悲しい声。

 心配そうな声。

 驚いた声。

 いろんな節子さんの声を、僕はちゃんと聞き分けられる。

 節子さんも僕の声を、ちゃんとわかってくれた。

 不思議とつながってる。

 そんな気がした。

「やっぱり母さんにしか懐かないのかな。もう母さんはいないのに」

 ぽつりと寂しそうな声がして、奈美が去っていく。

 その背中を見送ってから、僕はまたお気に入りの縁側に戻る。

 いつも節子さんが座っていた場所に、寝そべる。

 柔らかな膝枕はないけれど、温もりが残ってるような気がする。

 僕を撫でる優しい手の温もりも。

 今はもう触れてはもらえないけれど――

 

「ニャア……」

 会いたいよと鳴いてみる。

 けど、節子さんの返事はない。

「ニャア……ニャア……」

 寂しいよと鳴いてみる。

 そうしたら、僕を包む陽の光が強くなった気がする。

 もう節子さんには会えないけれど、

 僕には節子さんの残してくれたひだまりがある。

 もう一度、「節子さん」と鳴いてから、僕は身体を丸めて温もりにまどろんだ。

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1

猫の心理描写が秀逸デース! 思わず涙が出ました。

2

メーヴィス・クイーンさん、コメントありがとうございます!
心理描写が秀逸だなんてもったいないお言葉、嬉しいですヾ(。>﹏<。)ノ゙✧*。

作者:イチゴ姫

2018/11/3

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