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夜空の観覧車 完結

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つばきファクトリーの「I Need You ~夜空の観覧車~」より。歌詞もメロディーも素敵なので是非。女性目線の歌詞を、男性目線で捉え直して書いてみました。

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 不思議だ。今まで遊園地は家族でしか来たことがなかったけれど、隣に彼女がいるだけでここまで景色が変わるものなのだろうか。

 ぼったくりだとしか思えなかった売店のクレープ屋が今では彼女の笑顔が見られる憩いの場だとわかったし、気分が悪くなるだけだと思っていたコーヒーカップも彼女と見つめ合えるドキドキスポットだと判明した。

 なんて素晴らしい場所なんだ、遊園地。遊園地、万歳。

「結構暗くなってきたね」

 横で彼女がポツリと呟く。その言葉の通り、遊園地は昼とはまた違った顔をみせていた。様々な色の電飾が今日という日を幻想的に照らし出し、僕らの間に流れる空気をロマンチックなものにしてくれている。多分。

「そうだね。えーと、じゃ、じゃあ次はあれ、行こうか」

「・・・うん」

 緊張で心臓が喉から飛び出しそうになるのを、必死に悟られまいと小さく深呼吸をする。

 僕らが最後に向かったのは観覧車だった。

 大体の恋愛イベントはここで起こる。ゴーカートに乗りながらキスをしたりはしないし、ジェットコースターに乗っている最中に見つめあったりもしない。

 つまり観覧車こそが恋人の聖地といっても過言ではないだろう。

 観覧車は常に回り続けている。だからこそ乗るのにはタイミングが重要となるわけだが、彼女はそのタイミングを少し掴み損ねているようだった。レディファーストを心がけているから先に譲ったのだが、間違いだったかもしれない。

 彼女は意を決したかのようにようやく観覧車に乗り込んだ。僕も後を追うように乗り込む。もしも出来ることならこの時彼女の隣に座ってしまえればよかったのだが、そんな度胸があるならすでに恋人関係になっている。

 僕は彼女の対面に座り、ドアを閉める遊園地のスタッフに小さくお辞儀をした。

「うわあ、綺麗だよ」

「おお、ほんとだ」

 段々と上昇していき、僕らは外の景色に感嘆の声をもらす。内心、どうしたら良い雰囲気に持ち込めるのだろうと考えていたのだが。

 そう、僕はこの聖地で彼女との仲を進展させるつもりなのだ。

 決め台詞はこうだ、「今日は本当にありがとう。また遊園地に行きたいんだけどどうかな?」だ。

 そんなことをシミュレーションしている間に頂上が近づいて来た。もうすぐ折り返し地点である。いつまでもボケッと外の景色を見ている場合ではない、残された時間は少ないのだ。

 口を開きかけたその時、突然彼女が立ち上がった。何故立ったのか理解するよりも先に、彼女が僕の横にすとん、と座った。シャンプーなのか柔軟剤なのか、とにかく僕の周囲では香らない匂いが鼻をくすぐる。

 これ以上緊張することはないと思っていたのに、心臓がドクリとはねた。彼女の方を盗み見ると、外の景色をみているのか視線はあわなかった。下のミニチュアみたいな街も綺麗だが、空にぶらさがっている三日月を眺めているのだろう。

 ドキドキしているのは僕だけなのだろうか、そう思った矢先に彼女の耳が真っ赤になっていることに気付いた僕はそのことが嬉しいやら緊張するやらで、降下していることに気付いた時にはもう地上がかなり近づいてきていた。

 男なら腹を決めろ。僕は高鳴る胸を押さえ、口を開く。決める、決めてやるんだ。

「あのさ」

「・・・なに?」

「今日は本当にありがとう。また遊園地に行きたいね」

「・・・うん」

 彼女は笑顔を見せなかった。いや、笑ってはいるのだが僕的にはここは今日一番の笑顔がみれると思っていたのだ。

 だがあと地面まで10秒もうない。それでも会話はそこから続くこともなく終わってしまった。スタッフの人が扉を開け、彼女が何も言わずに降りていく。あとを追うように僕も地上に出るが、自分が思っていたようなことになっていないのだけはわかった。僕らは遊園地にまた来ることだろう、今日と全く同じように。

  

 それじゃ、駄目なのに。何を言ったらいいのかわからない。彼女の背中が遠くなっていく。

「あ、あのさ」

 僕の声に彼女が振り向く。

何か気の利いた台詞を考えるが全く出てこない。彼女が不思議そうに顔を少し傾けてどうしたのと聞いた。そんな彼女はやっぱり可愛くて。

「好きです」

 時間が止まるとはこのことか、と思った。観覧車に乗るために並んでいた客たちのざわめきがピタリとやみ、彼女の動きもカチリと止まる。そして僕の心臓も止まってしまいそうだった。

 

 最初に動いたのは、彼女だった。ふ、と息が漏れたかと思うとそれは笑い声に変わっていき、しまいにはお腹を抱えて笑っていた。

 とりあえず僕も雰囲気に合わせて笑っていたのだが、気付くと彼女の目から涙がこぼれはじめたので慌てて駆け寄った。

「あ、え、ごめん、えと」

「うん、ごめんごめん、大丈夫」

 彼女は涙を手で拭うと、満開の花が咲くようにこれまで見てきたどの笑顔よりも素敵な顔で笑った。

「ありがと。私も好きだよ」

 僕がその言葉を飲み込むのに要した時間は何秒だったのだろう。何が起きたのかしばらく理解出来なかったので彼女が「聞いてる?」と言うまで反応すら出来なかった。

「え、じゃ、じゃあ・・・付き合って、ください?」

「はい、よろしくお願いします。・・・もう、なんでそんなに自信なさげなのかなあ」

 あまりにも呆気なく彼女が言うものだから、また僕の意識が遠くへと飛びそうになる。それを防いだのは彼女の右手だった。

 「ねえ、もう一度観覧車に乗ろうよ」と彼女に手を引っ張られ僕は再び列に並んだ。

 乗り込む直前、「もう恋人だもんね。頂上が楽しみだなあ」とこちらをみて彼女がニヤリとするものだから僕の心臓が暴れまわったのはいうまでもない。まあ、チキンな僕はハグするだけで精一杯だったのだけれど。

 その日以来、僕らの恋はゆっくりと回り始めた。ぐるぐる、ぐるぐると。上がったり下がったりはするけれど、それでも今も、ゆっくりと回り続けている。

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