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雨宮降子は雨を降らさない 完結

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雨宮降子は雨を降らす能力を持っている。しかし金はしっかり徴収する。値引きは一切しない。

今日も雨を降らせたいというネガティブな考えをもった人々が雨森事務所には訪れる。

1位の表紙

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新宿歌舞伎町の通りから一歩外れた神代通り、その雑居ビルの3階にある雨森事務所には珍しく客がいた。

「お願いします!雨宮さん。明日、雨を降らしてほしいんです!それも全国B級グルメフェスティバルが中止になるくらいの豪雨を」

「1時間、10万」顔を覆うほどの長い黒髪に幸薄そうなオーラを漂わせる雨宮降子(あまみや ふるこ)は目の前の髪の薄い中年サラリーマンにそういった。

「一時間10万!?…あのぉ、もう少しお安くできませんかねぇ…。実は私の会社からは40店以上の店を集めろって言われてたんですが、未だに半分しか出店してくれる店がなくて……」中年サラリーマンがゴマをするように手と手を擦りあわせる。

ドン!!

デスクの上のタバコや飲みかけのビール、ビタミンサプリが宙に浮き、床に落ちる。

「ひぃいぃ!!」

「じゃー、帰れ、ハゲ。あたしの能力をなんだと思ってる」

「わ…分かりました。6時間で60万ですね、はい。よろしくお願いしますよ、ほんと」

男は安心したような、落胆したような、そんな足取りで事務所を出て行った。

降子はタバコに火をつけ、スマホでB級グルメフェスと検索した。

ホームページには去年のフェスの活気ある写真が何枚も載せられ、コメント欄にはまた来年も楽しみにしています!と言ったポジティブな言葉が書き込まれている。

デスクのうしろのホワイトボードに黒のマジックで日時と時間、そして天気を書く。

11月12日日曜、午前10~午後16時、予報・雷雨。

「ふん、どうせあたしは人を不幸にする女だ」降子は窓を開けてタバコの煙を外に向けて吹く。

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  • 誤字、脱字の修正をおこないました。(2018/09/08)

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必ず晴れにしてしまう能力女子との対決が読みたいです。

sacman

2017/11/16

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とじる

「ふーるこ」

気色の悪い声だと、溜息をつき雨宮降子は居留守をつかう。

「おい降子、いるんだろー?」事務所の扉はガラス戸になっていてシルエットがくっきりと分かる作りになっていた。声も身体も大きな男だ。

「ったく、いねーのか。折角、新宿の毎日行列ができるっていう噂のシュークリーム買ってきたのによ」

ガチャ。

「ほら、いるじゃん」短髪で大柄だが日に焼けた身体は引き締まっている。それでいて顔は童顔の火野俊平が扉を開けるといた。

「トイレだよ。トイレ。気づかなかった……」

「あー、そうですか。てっきり俺は居留守をつかってたんじゃないかと思ってさ」

「ふん」中学時代から変な勘の鋭さだけはあったなと降子は鼻で笑う。

降子にとっては数少ない友人の一人だった。

「で、今日はなんの用だ?」デスクに両足を乗せ、振子はビールをゴクリと飲む。

「昼からビールってオッサンかよ、お前。コーヒーねーの?」

「冷蔵庫から勝手に取れ。うちは基本セルフだ」

「ったく」渋々、俊平は事務所の隅にある冷蔵庫に歩いていく。「おまっ!!酒しかねぇじゃねーか!」

「うるっさいなー。じゃあ横のコンビニで買ってくりゃいいだろ。クソ消防士が!!」

「はぁー……、お前なー、そろそろその言葉づかいも直して行けよ。折角可愛い顔してんのに、それじゃいい男見つかんねーぞ?」

「ほっとけ!!お前こそどうなんだよ!」降子はデスクの上の空の缶コーヒーを俊平に投げた。

カコン!といい音がして俊平が体勢を崩す。

「あ、避けろって……。……?」

ムクリと起き上った俊平の顔は降子が引くほどにやけていた。

「俺、結婚します!」

「…は?」

「いや、スピード婚。半年前に知り合った子なんだけどよ、趣味とか価値観とかフィーリング合いまくりで。そのままゴールイン!!」

「…あ、そう。おめでと……」

「なんだよ。真っ先に報告しにきたのに素っ気ねーな」

「いや、あのチビ俊(しゅん)が結婚する日がくるなんて、神様も随分優しいなって」

「もうチビじゃねーよ。それに……」

プルルル!!言葉を遮るように俊平のポケットから携帯が鳴る。

「はい、火野です。…はい。……はい。分かりました。すぐに戻ります」

「晴れ男の出番か?」

「むしろ消防士なら雨男に生まれたかったぜ!――じゃな、シュークリーム今日中に全部食えよ」

バタバタと階段を降りる音を立てて俊平は事務所を後にした。

「そりゃ、お互い24だもんね。……結婚も考える年か。あのチビ俊がねー」

降子は椅子に深く腰を掛け、2本目の缶ビールを開ける。

柔らかい睡魔が降子を襲う。

『降子、お前また雨降らしたろー!』ヤンチャな同級生が教室で降子の肩を押す。

『ふ…降らしてないよ』幼少の降子の周りにいつの間にか同級生が集まってくる。

『嘘つけ!お前とクラス6年間一緒だけど、毎年運動会の日は雨だろー』

雨降りふるこ、雨降りふるこ~、雨降りふるこ~~!!

同級生たちは面白がって降子を囲んでそんなコールをする。

『やめてよ…、雨、私だって降らしたくないもん……』降子はその場に屈み、耳を塞ぐ。

耳を塞いでも、雑音は収まらない。運動会なんて早く終わってしまえばいいのにと降子は思う。

『お前らー、なにやってんだよー!』

『わー、チビ俊だー!逃げろー!ゲンコツくらうぞー!!』

少し時間が経つと、周りから同級生はいなくなっていた。

降子より少し身長の低い俊平が目の前に立っていた。

『ほら晴れたぞ、降子』

『え?』降子が教室の窓から外を見ると、空は曇っていた。『…曇ってるよ、チビ俊の嘘つき…』

『ば…バカ!よく見てみろよ、あっちの空は晴れてるだろ!晴れ男のおれのおかげだな!』

ガクッ!

デスクに乗っけていた足が地面に落っこち、降子は目を覚ました。

「ふんっ…。あん時は格好よかったな、あいつ……」

目を擦りながらリモコンでテレビをつける。

<えー、こちら渋谷区の宇田川町付近のビルです!大きな黒煙が上がっています。原因は不明ですが、隣のビルにも燃え広がって大きな火災となっています!!多数の人が取り残されている模様です!!>

「あーあ、たいへんだ」他人事のように降子は寝癖のついた髪を掻く。雨を降らす能力も万能ではない。大気がある一定区域で不安定なら雨を移動させることができる。たとえば関東圏で千葉に降っている雨を東京に降らすのは簡単だ。しかし、今日は残念ながら日本全国、軒並み晴れ、雨を持ってくることなど不可能だった。

チビ俊たちに頑張ってもらおう、私の力は慈善活動じゃないとタバコに火をつけようとした時だった。

テレビが見覚えのある顔にクローズアップされていく。

「はい?」全国放送の中継に映っていたのは間違いなく火野俊平だった。

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とじる

『先輩、行かせてください!!』俊平は強引にビルの中に入ろうとしている。止められるのも当たり前だ、ビルの窓からは黒煙が立ち上り、上階のほうは炎に包まれている。

「何やってんだ、あいつ…」テレビの間近まで寄って、降子はその光景を見ている。

『恋人が!!』

まさか、と降子は思う。

『…結婚相手がいるんです!!この中に!!このビルで働いていたんです!!!!だから行かせてくれ!!行かせてくれよぉおおおおおお!!!!!!!!!!』

俊平の悲痛な叫びがテレビ越しに伝わる。

「くそ、なんだよその悪運!!!」

降子はすぐさまデスクに行き、ネットを開く。

「雨…今日雨が降っているところ…!!」

小雨じゃだめだ、ある程度の雨量があるところじゃないとあの炎は消せないと降子は自分の爪を噛む。

「日本は無理だ。海外…アジア圏…探せ、早く、私!!」

降子はネットで世界の天気予報を隈なく見る。

「あった…!!は?……オーストラリア、マッコーリー島?」

オーストラリアと日本との距離は6800キロ離れている。

そんな距離、雨を移動させることができるのか?と降子は髪を掻きあげる。

「やる……しかないだろ、私!」

ヘアゴムで長い黒髪を縛り、デスクのうしろのホワイトボードに文字を書きはじめる。

12月2日金曜 午後15時~18時 

「予報は…豪雨だ!!」

キュッ!と黒のマジックペンを走らせる。

ふたたび降子はテレビをほうを向き、状況を見る。テレビ越しには同僚に止められビルの前で泣き叫ぶ俊平の悲痛な姿が映し出されている。

「降れ……降れ…降れ!!」

渋谷区には依然として燦々と太陽が照りつけている。黒煙は尚も広がり、現場周辺は騒然としている。

「ちくしょう!!遠すぎるってのかよ!!!」降子はデスクを思い切り叩く。

「……あの馬鹿には、バカみたいな明るい笑顔が似合うんだよ。結婚相手がいなくなったら、もう二度とあの笑顔も見れないかもしれないじゃん……私は、そんなの……」

「いいから、降りやがれぇぇええええええええ!!!!!!!!!」

事務所の窓から差し込む光が影に飲み込まれていく。

それを見て降子は咄嗟に窓を開け、天を仰ぐ。

「やっと、きたか…」

まるで太陽に対抗するかのように何ヘクタールもある黒い雨雲が上空を飛んでいく。

<雨……?雨です!!雨が降ってきました!!それもかなりの降水量です!!>

テレビに再度目線を戻すと、ぐっしょりと濡れたレポーターがカメラマンを連れて、屋根のある場所に避難していた。

<こんなことあるのでしょうか!先ほどまで快晴だったのですが、今は驚くほどの雨がこの渋谷区に降っています!!>

<い…今、消防隊がビル内に入っていきました!!この雨で煙がだいぶ落ち着いたからでしょうか!!>

「あとはしっかりやれよ、消防ども…」ぐったりとした様子で事務所にあるソファに降子はうつ伏せに倒れた。

事務所の時計がカチカチと秒針を刻む。

「あぁー、あったま、痛い…」

どれくらい寝てしまったのかと降子は頭を掻く。

そうだ、火事の様子はと、つけっ放しのテレビを見る。

「……おいおい、これ以上テレビでアツイもん見せんなよな」降子はテレビに映る二人の姿を見て、くすりと笑った。

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