1

今、最愛の君に贈る銀の弾丸 完結

ポイント
169
オススメ度
8
感情ボタン
  • 16
  • 0
  • 0
  • 1
  • 1

合計:18

吸血鬼や狼男、現代に蔓延る異端者を抹殺する一族、銀の家系に生まれた樫村ミツル。

ミツルは銀の銃を目の前の吸血鬼に向け、撃ち放つ。

たとえそれが最愛の幼馴染だったとしても……。

投稿された表紙はありません

この物語の表紙を投稿する

目次

すべてのコメントを非表示

銀の一族

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「殺して、ミツル」赤い血で口元を真っ赤に染めたヤヨイはそう乞う。

手に持った銀の銃を僕はもう一度、しっかり握る。

外さないように、祈るように。

「許してくれなんて言わないよ。……さよならヤヨイ」

ダンッ!!

銃声が満天の夜空に響いた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

<続いてのニュースです。昨晩未明、暁町3丁目で男性の変死体が発見されました。男性の体内からは血液がほぼ残っておらず、警察は12日に起きた猟奇殺人との関連性も含めて捜査しています>

曇天模様の薄暗い光がカーテンから差し込む朝食の時間、リビングに重苦しい空気が流れる。

「父さん、これって吸血鬼の……」僕の正面で険しい顔でパンを口に運ぶ男に話しかける。

「お前は知らなくていい」会話を遮断するように父であり警視庁の特別対策課課長でもある樫村譲一は言う。

銀の一族。吸血鬼や狼男、この世には人智を超えた『異端者』がいる。その異端者を排除するために300年前から脈々と続いてきた退魔の家系の一つが僕の生まれた樫村家だった。

「はい…」

父が家を出た5分後に僕も仏壇の母の写真に手を合わせ家を出る。

「いってきます」

太陽を隠すねずみ色の空。曇り空は好きだった。人間の見せたくない部分を隠してくれる気がして。

大通りのバス停に行くと、見知った顔がいた。

「おはよ、ミツル」いつもと変わらない笑顔で声を掛けてきたのは三笠ヤヨイ、小学校から高校までずっと同じの幼馴染だった。真っ黒なロングの髪に黒いセーラー服、控えめに出た肌は驚くほど白い。

最近、どんどん綺麗になっている気がして話すのが若干気まずい時がある。

「おはよう」

「…お父さんと喧嘩でもした?」僕の顔を覗き込むようにヤヨイが言ってくる。

「違うよ…」僕は思わず顔を背ける。

「ふーん。ま、いいけど」

フォンフォンフォンと人の不安を煽るようなパトカーの音が遠くから聞こえる。

音は次第に近くなっていき、僕たちの前を通り過ぎて行った。

「何かあったのかな?」ヤヨイが不安そうにパトカーが通り過ぎて行った道を見つめる。

「……分からない」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

教室に入るとクラスメイトたちが一様にざわついていた。

「どうしたの?」僕はスマホをいじっていた仲のいいクラスメイトに話しかける。

「お、樫村!ニュース、ニュース。昨日の殺された変死体、うちの3年の青山先輩らしいんだよ」

クラスメイトが興奮したように話す。

「え?」

「なんか高校の裏門に警察が来てたってほかの奴が言っててさ。今、高3のやつらが取り調べ受けてるらしい」

うちの高校に吸血鬼がいる可能性があるってことか?

まさか…ありえない。吸血鬼は太陽が出ている間は行動がかなり制限されるはずだ。

昼間、授業を受けている生徒はほぼシロのはず。

警察が目星をつけるとしたら学校を休みがちな生徒だが、それはもう1件目の変死体が出たときに僕が調べた。うちの高校で1か月以上学校に来ていない生徒は一人もいない。うちは県立の小さな高校で見落とす心配もないはずだった。

父さんもそれくらい知っているはず……なのにどうして?ただの事情聴取の一環か?

「はい、みんな席について!」担任の麻田が入ってきて僕たちは席につく。女性だが男勝りな性格で冗談も喋る、生徒からも好かれているほうだと思う。

「みんなも、もう事件のことは知ってると思うけど2年生は関係ないから。ただ警察の人が来ているから校長室の前は今日一日立ち入り禁止、分かった?」麻田はそう言い、いつものように授業を始めた。

でも、先生のチョークを持つ手は震えていた。

――――キーンコーンカーンコーン。

終わりの鐘が鳴る。教室では運動部が部活が急遽休みになったのもあって浮かれている。

麻田は帰りのホームルームでなるべく団体で帰るようにと呼びかけていた。

帰り際、そんな麻田の言葉がよぎって隣のA組を覗くとヤヨイがまだ教室の窓際の席にいた。

「…ヤヨイ、帰らないの?」

席に座るヤヨイに声を掛けるが、僕に気づいてないのか俯いている。

「ヤヨイ!」

「えっ!あ、ミツル。…どうしたの?」

「だから、まだ帰らないのって。……一応、まだ殺人犯がうろついてるかもしれないし、一人で帰るの危ないだろ…?」

「…ありがと。やっぱり優しいね、ミツルは」

「いや、そういうんじゃないけど……」少し顔が熱くなるのが分かる。

「警察が話聞きたいって」ふたたび俯きヤヨイが話す。

「は?ヤヨイに?…でも2年は関係ないって麻田が…」

「ほら、殺された青山先輩、剣道部だしさ。私、部活のマネージャーだから多分話聞きたいんだと思う……。帰りはお母さんが車で来てくれるから大丈夫だから」

「…そっか。分かった……」

少し困り顔で心配しないでと言ったヤヨイは翌日、学校に来なかった。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

予兆

事件が起きた翌日、A組を覗いてもヤヨイは来てなかった。

仲のいい女友達に話を聞いたら体調不良で休みと言っていたけど……。

「小学校も中学のときもあいつ皆勤賞だったよな……」

昨日の放課後、警察の聴取で何があったんだ?

放課後、家に直帰せず電車に乗る。季節はもう冬で車窓からは夕陽があっという間に沈んでいく。

暁町3丁目の駅に降りる。閑静な住宅街で元々人通りも少ない町がいつにも増して静かに感じる。

マスコミだろうか?レポーターの女性がカメラマンを帯同させ、広場付近を町に向けて歩いていった。

駅前のチェーンの喫茶店に入ると注文したカフェオレを受け取り、窓際の席に座る。

変死体が見つかったのは暁町3丁目の噴水広場、駅から数分も離れてない街のシンボル的な場所でよくも堂々と……。

いやこの読みは違うか。腕力、跳躍力、視力、全てが闇夜の中で研ぎ澄まされ超人的な力を得る。それが吸血鬼だ。

殺害場所は奴らにとっては屋根の上でも可能だ。獲物を見つければハンターのように相手を狩る。

ドスッと重そうなバッグをテーブルの上に置き、僕の横の席に帽子を目深くかぶるとした男が座った。

「久しぶりですねぇ、銀の子」特徴的な話し方をする情報屋の大森がそう僕に話しかけた。

「大森さん、久しぶり」

「君から呼んでくれるとは思っていなかったよ。ふふふ」身体をユサユサと揺らし、大森は笑う。

「僕の通ってる高校の先輩が殺されたのは知ってるよね?大森さんの情報だと誰が怪しまれてるの?」

「まったく遠慮を知らない子だねぇ。まぁ君には昔、助けてもらった恩もあるし話してあげようか。……最近、名護市のあるバーでねぇ吸血パーティというのが開かれているんだよ」

「吸血パーティ?」話がいきなり脱線した。どういうことだ?

「トマトジュースや赤ワインなど血を真似ている飲料を飲み吸血鬼になりきるジョーク性の強いパーティだと主催者は言っている。だがねぇ、実際は違う。そこでは本物の吸血鬼たちの集まりだと私は思うのだよ」

「……なんでそう思うんですか?」

「やぁ、そんな怖い顔をしちゃいけないよぉ銀の子」おもむろに大森は僕に顔を近付けてきた。「そこの女性客の一人に私は会った。本当の血の匂いがした、と言っているんだよぉ。だからこそ私は考えたぁ、本当の吸血鬼が集まるのをカモフラージュするために一般人も数人紛れ込ませたんじゃないかって」

そういって大森はまた大きな口を吊り上げるように笑った。

背筋がゾクッとする。

「その女性は警察には行ってないんですか?真実を話せば…」

「愚問だねぇ。バーは会員制で個人情報の開示を求められる。女性客は災難だねぇ、吸血鬼のコミュニティに情報が完全に回ればいい鴨だ。街は夜、吸血鬼のテリトリーとなるんだから。……店を出るとき、ある一人の男に言われたそうだよ。ここでの出来事は忘れてくれと、でなければあなたに不幸が訪れるからとねぇ」

「さっきから話がそれてる。僕が聞きたいのは…」大森は分厚い手で僕の言葉を静止した。

「分かってますよぉ。……結論から言いますとねぇ、銀の子、あなたは今回はこの事件から身を引くといい」

「なぜ?」

大森はバックから一枚の写真を取り出して僕に見せた。

「……嘘だ」

「嘘ではありませんねぇ。その女性から話を聞いた数日後、バーの近くで張り込んで撮った写真ですのでぇ」

写真にはそのバーであろう場所から出てくるヤヨイの姿が写っていた。

「デタラメだ。ヤヨイは吸血鬼じゃない…!その証拠にあいつは昼間、普通に学校に登校してきているだろ!」思わず椅子から立ち上がり僕は言う。

「おやおやぁ、銀の一族ともあろう人が知らないとは…」大森は変わらず勘に触る笑い方で話してくる。

「何がだ!」

「半吸血鬼ですよぉ」

「………え?」

「人間と吸血鬼の間に生まれた子供。普通の頭で考えても見てください、生まれないなんて可能性はないんです。……さらに奇妙なことに三笠ヤヨイの父親の情報はどこを探しても出てこないんですよぉ、これが」

「……」

点と線が歪な形で繋がる。

警察は高校に3年生の事情聴取に来たんじゃない、完全にヤヨイを犯人だと思い込んで動いている。

今の父さんは相手が子供だろうが女だろうが、吸血鬼ならば殺す……。

三笠があぶない……!!

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 1拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 1怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

衝突と絶望

気付けば僕は喫茶店を出て、夜の町を疾走していた。

走りながら何度もスマホでヤヨイに連絡したが一向に繋がらない。

「親父よりも早く…はぁ、はぁ…ヤヨイに会わないと…」

暁町2丁目の開けた大通りにでるとパトカーのサイレンが聞こえた。

町を赤く染めるサイレンを目印に通りを曲がると、錆びれた10階建てほどのマンションの下に3台ものパトカーが停車していた。

「ヤヨイはあのマンションにいるのか?」

目を凝らすと数人の捜査官の中に父さんがいて、今まさにそのマンションに入っていこうとしている。

父さんのいる特別対策課。相手が異端者であれば武器の無制限の使用を許可されている武装集団でもある。そんな相手に正面突破はあまりにも無謀すぎた。

夜空を仰ぐ。

錆びれたマンションは隣のマンションとかなり隣接し、高さも同じくらいだった。

「屋上からなら……」

隣りのマンションに入り、エレベーターに乗る。

エレベーターで昇れるのは11階までで、そこから非常口の扉を開け、屋上に駆けあがる。

バンッ!!

重い扉を押し込むと風が一気に吹き込んでくる。

「はぁ、はぁ……」

屋上に出ると人影が見えた。夜空にかかった厚い雲の隙間から月の光が差し込む。

妖しく、しかし驚くほど綺麗な赤い目をした三笠ヤヨイがそこに立っていた。

「ミツ…ル……」

僕の顔を見るや否や、ヤヨイは目の前で倒れた。

「ヤヨイ!!」

僕はヤヨイの元に走っていき、倒れた身体を抱き起こす。抱えたヤヨイの身体は体重がかかっているはずなのに驚くほど軽い。

「…私を庇ったら、ミツルもあぶない…よ」苦しそうに息をしながらヤヨイが話す。

「お前は人なんて殺してないだろ!……逃げるんだ、一緒にここから」

「……いいの、私はもう吸血鬼だから」

「喋るな!」

「……1年前、16歳の誕生日から身体がおかしくなり始めた……。食べるもの全部吐いて。朝と昼、身体がすごい怠くて……。お母さんが泣きながら教えてくれたの……全部」

「……」

「その日から、お母さんの首から血を吸った…。喉が渇いて我慢できなくて……死んじゃいそうで……。でもお母さんの身体も限界で私……」

「もういいから…やめてくれよ……!!」僕もヤヨイも泣いていた。二人して、あの時みたいに……。

バンッ!!

錆びれたマンション側の屋上の扉が開き、フェンスを飛び越えて、父さんやほかの捜査官が僕らを囲んだ。

父さんの手には樫村家に受け継がれる銀銃・フェンリルが握られている。

「三笠ヤヨイ、連続猟奇殺人事件の容疑者として逮捕する!!」父さんがフェンリルをつきつけながら言う。

「父さん!違う!!ヤヨイは!!!」

「容疑者は高校生の少年を人質にして、逃亡を図る可能性もある!目を離すな!」

「…ふざ…けんなよ。僕を人質にしてる?…どう見ても違うだろ!!!よく状況を見ろよ!!5年前の父さんなら、そんな馬鹿な判断しないだろ!!!」

僕の言葉を聞いても父さんは微動だにしない。ただ冷たい目で僕の手に抱かれるヤヨイを見ている。

「ミツル、よく聞け、三笠ヤヨイはもうお前の幼馴染でもなんでもない。お前が排除すべき異端者だ」

なんで、そんな言い方しかできないんだ。

なんで、父さんは僕を言葉を聞いてくれないんだ。

子供だから?なんで、僕が銀の家系だから?ヤヨイが吸血鬼だから?どうしてそうなる!!ふざけるな!!不条理だろ!!

なんで大好きな子を見殺しにしなきゃならないんだよ!!!!!!!

「――――ごめん、ミツル」

首元に焼けたような痛みが走る。

ヤヨイが僕の血液を吸う。

ドクン、ドクンと心臓が急速に脈をうつ。

周りの捜査官たちが一斉に発砲する。

撃つな、ヤヨイを撃つな!!

……どうか逃げてくれ。

視界がぼやけブラックアウトする寸前、聞いたんだ、僕は、確かに。

ヤヨイの言葉を。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 3拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

決断よりも残酷な愛を

―――――――――――――

暁町が全部見渡せる丘の上の暁ヶ丘公園。

「お母さん…おかぁぁあさん……!」

ブランコに揺られて、12歳の僕は泣いている。

古い記憶だ。

きっとこれは父さんと同じく捜査官だった母さんが死んだ5年前のときの夢。

「ミツル、こんなとこにいたんだ」

夢の中の僕はうしろから聞こえるその声に気付いて、腕で涙を拭う。

「ヤヨイにはカンケイないから……」

キィ、と音を立て隣のブランコにヤヨイが座る。

「ミツルのお母さんのカレー、私、大好きだった。甘くて、お肉は柔らかくて…温かかった…から」

そうだった、ヤヨイのお母さんも仕事が忙しくて、よく母さんと僕とヤヨイで三人で夕飯を食べていた。

「……それが、どうしたんだよ……」分かっていた、最初から。涙ぐんでいたヤヨイの目を見て。

「わたしも…一緒に泣かぜでよ…!!」

口を大きく開けて鼻水を垂らして、ヤヨイが泣く。

つられて僕も大声で泣いた。ヤヨイのお母さんが心配して迎えに来るまで僕らはずっと泣いていた。

夕焼けがあまりにも綺麗すぎて、雲に覆われてしまえと思ってたことを何故か思い出した……。

―――――――――――――――――――

天井は真っ白だった。手には管が刺され、その管を目で辿るとパックに入った血が輸血されていることが分かった。

病院……、そうかヤヨイに噛まれて…。

意識がクリアになっていく。横の椅子には果物ナイフでリンゴを切っている途中の担任の麻田が座っていた。

「樫村くん…!…今、お医者さん呼んでくるから…!」

ガッ、部屋から出て行こうとする麻田の服の袖を僕は掴む。反動で果物ナイフが床に落ちた。

「いいよ…先生」

「え、どうして?」

「だってお見舞い、来たんじゃないでしょ?」

僕がそう言うと麻田は戸惑ったような顔をする。

「何言ってるの?樫村くんが倒れたって学校に連絡が入って、駆けつけただけよ?」

「違うね。僕を殺しに来たんだろ?でもビビってできなかったってとこ?」

「せ…先生をからかうのも大概に…」

「吸血パーティ。そこが始まりでしょ?」麻田の言葉を遮り言う。

「…何言って…」

「先生さ、あの日いたんだろ。その場所に」

「……」麻田は黙り込む。

「チョーク、震えてたよ」

「………」

「2件目の変死体の報道があった初めての登校日、あんなに怯えてたの麻田先生だけだったよ?ほかの先生たちは青山先輩が死んだのもあって沈んではいたけど怯えてはいなかった。……あれって次は自分かもって思ったからでしょ?」

僕は立て続けに話をする。

「僕が倒れたことも伝わってるってことは情報は筒抜けだ。先生は今、吸血鬼に脅されてる。違う?……僕を殺せば先生の命は助けるとでも言われて」僕は話を続ける。

「……私には」麻田がポツリと小さな声で話し始める。「私にはどうすることもできないじゃない……。弱いんだもの、人間は」

「人間だとか吸血鬼だとかそんなの理由にならないよ……。曲がりなりにも先生名乗ってんだったら生徒を守ってくれよ!!」

「…そう…ね…。ごめんなさい」麻田の片目から涙が一粒流れる。

輸血用の管を外し、床に両足をつける。

……よかった、歩ける。

歩き出す、一歩ずつ。部屋をでて向かわなきゃいけない。

「どこ行くの?」麻田が言う。

「……決まってる」

あの時、屋上でヤヨイは最後に言った。

もう人間には戻れない、だから僕に……。

……僕に殺してほしいと。

「僕はこの手でヤヨイを撃ちにいくんだ…」

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 2拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

シルバーブレッド

丘の上の暁ヶ丘公園までの坂道は落ち葉で埋め尽くされていた。

12歳から、ヤヨイと一緒に泣いたあの日以来、公園には来ていなかった。

でも空はあの日と同じ残酷なくらい綺麗な夕焼け色に染まっている。

僕の手には母さんが使っていた銀銃・ヘルが握られている。父さんの銀銃・フェンリルの兄弟銃でもある。母さんも銀の家系に生まれた人だった。そして誰よりも異端者を殺すことを躊躇う優しい人でもあった。

優しすぎたから異端者との戦いで殺されたと父さんは思ってる。

5年前から父さんが感情の一切を殺すようになったのもきっとそれがあるから。

でも僕はそんな母さんが好きだ。優しいから殺されたとは思わない、銀の一族は常に死の危険に晒されている。それは父さんもほかの一族の皆も同じはずなんだ。

母さんの銀銃は温かく、でもとても重みがあった。

丘の上についた時、日はすっかり沈んでいた。

冬の冷たい風が吹き、落ち葉どうしが擦れた音を立てて舞い上がる。

公園の一番大きな木の下に僕の血で口を真っ赤に染めたヤヨイがいた。

「……ヤヨイ」

「……もう…無理なの。自分でも制御できない……!!早く…私を…」

自分で掻き毟(むし)ったようにヤヨイの首元は血だらけだった。

「殺して、ミツル」ヤヨイはあのとき屋上で言った言葉をもう一度、僕に乞う。

手に持った銀の銃を僕はもう一度、しっかり握る。

外さないように。祈るように引き金を引く。

「許してくれなんて言わないよ。……さよならヤヨイ」

ダンッ!!銃声が満天の夜空に響いた。

赤い血がヤヨイの胸から溢れる。

そして眠るように、大樹を背にして倒れた。

僕はその場に立ち竦む。

ただ静かな闇が訪れる。

『吸血鬼との戦闘は一瞬の判断が生死を分ける、影を捉えろ、ミツル』

母さんが死ぬ前、一度だけ父さんが僕に教えてくれたことを思い返す。

――――ビュ!!

頬をかすめる一閃。大きな影が背後に現れる。

影を―――その瞬間を捉える。

「これでいいだろ、父さん」

ダンッ!!!!!!!!

吸血鬼を滅却するシルバーバレッドが“今度こそ”命中する。傷口が血が混じった赤い煙を上げながら蒸発していく。銀銃の弾は吸血鬼の体細胞を死滅させるまで体内に残り続ける。

「あうぐぅううううううう!!!!!!!!!!!!」

目の前に姿を現した髪の薄い中年男性。

おそらく吸血パーティの主催者で、全てを裏から操っていた黒幕。

麻田が僕を殺そうとしたとき、やっと分かった。なんでこんな単純なことに今まで気付けなかったんだろう。

「やぁ大森さん、シルバーブレッドの痛みはどうだい?ヤヨイを殺した瞬間の弱った僕をずっと狙ってたんだろ?」

「ぐっ…!!なんでどうして分かったぁああああああ!!!!!!!!」

吸血鬼の大森の真っ赤に染まった目がさらに変色し、黒く血走る。

「最初からお前の目的は銀の一族、つまり僕だったんだ。麻田に僕を殺させようとしたのがその証拠だ。僕を消せば警察の目は完全にお前が殺した青山先輩に近いヤヨイに向けられる。だからお前は僕の連絡にわざと乗ってきたんだ」

「餓鬼が、すべて分かった上でこの場所にきたというのかぁああ!!!」大森は苦痛に顔を歪ましながら叫ぶ。

「情報屋、っていう知り合った頃からの肩書にすっかり騙されたよ。お前を2年前、吸血鬼から助けたのは僕だったけど、あれはただの仲間割れだったってところ?お前が吸血鬼だと仮定すれば全て辻褄が合うんだ。考えてみれば大森、お前は知りすぎていた。警察すら掴んでいない吸血パーティ、女性客の麻田先生の情報、そしてヤヨイを半吸血鬼だと知っていたのは吸血鬼どうしのコミュニティのおかげってところじゃないか?」

「ぐっ!!」

「さらに言えば、ヤヨイのバーから出てくる写真。あれもただの加工だろ?実際はヤヨイはバーになんて行っていない。お前がヤヨイと僕の関係を知って利用しようとしたから“あえて僕に見せたんだ”」

「ぐ…ぐひひ……。ひひひひひひひひいひ!!」大森はタガでも外れたのか口から血を噴き出しながら狂ったように笑い出す。

「そうだよぉ!!!私がぁああ!!すべて!仕組んだ!!でぇも!!お前は失敗しただろぉ??お前はぁ大事な、大事なヤヨイちゃんを殺してしまったんだからぁあああ!!!!!それだけで私はぁ満足だぁあああ!!!!銀の一族に一矢報いてやったんだからぁなぁあああああああああああああぁあ!!!!!!!!!あぁ……ぁ……」

ドサッ!!

叫び終えた瞬間、シルバーブレッドが心臓まで到達したのか、なにか線が切れるように大森はその場で死んだ。

大森の死を見届け、僕はヤヨイの倒れた木の下まで歩いていく。

……弾は2発入っていた。銀の一族が異端者を殺すためだけに使うシルバーバレッド、そしてもう一つ。

ヤヨイからスースーと寝息が聞こえる。

もう一つは異端者であろうと殺すのを拒んだ母が発明した睡眠弾。それに血のりまでつけたスペシャル版。

「……ありがとう、母さんのおかげで大事な人を守れた」

フォンフォンフォン!!!

パトカーのサイレンが遠方から聞こえる。

銃声が聞こえて駆けつけてきたのか。

「避けられないよな、やっぱり……」

丘の上にパトカーが何台も停車する。もちろんその中には父さんもいた。

修正履歴

  • 内容に影響のない範囲で、一部表現の変更や追記をおこないました。(2018/03/03)

修正履歴を見る

  • 2拍手
  • 0笑い
  • 0
  • 0怖い
  • 0惚れた

コメントはありません

コメントを書く

とじる

オススメポイント 8

つづけて SNS でシェアしてオススメシポイントをゲットしましょう。

とじる

このページの内容について報告する

送信中

送信しました

文字数の上限を超えています。