S.ゆうに氏は数日の徹夜により、眠るということを忘れてしまった。この家の周りには沢山のビルヂングが立っているから、平野部みたいに草がなびく音が聞こえることもないし、鈴虫が泣いていることもない。どうしたって落ち着くことのないこの周辺には、飲み会帰りの酔ったサラリーマンが嘔吐した跡が残っていたり、食べかけのまま捨ててあるハンバーガーのバンズのカスやストローが落ちていたりする。午前3時ゆうに氏は一人で、トイレの我慢対決をしている。昨日の彼の我慢記録と対決をするのだ。木の作業用デスクを前にして、黒の椅子の上で尿意を催すのを待つ。やがて尿意が発生したら、一度目をつぶったまま深呼吸をして体の動揺を…続きを読む
僕は小学校の頃、理科のお祭りという小学校のイベントで、川の生き物の観察をしたことがある。そこではメダカをはじめとした小さな魚はもちろんのこと、ナマズや鯉と云った大きな魚を観察することもできた。水槽に入ったその魚たちは、水槽によって来る生徒たちを気にせずにゆうゆうと泳ぎ続けている。僕は、窓際に置かれたその水槽に光が差し込んだ時メダカのしっぽが反射して光っていることに気が付いてしばらくその美しさに魅了されていた。そのしっぽをよくよく観察していると、そこにはいくつもの卵が連なっていた。透明なのに少し濁りがあって、中には目のような黒い点が見える卵。人間の自分が未だかつて体験したことのない性交をこの魚た…続きを読む
ぶくぶくぶく。ざわざわざわざわ。きらきらきら。ふゆうのうみいは、ちゃっとさみいくて、こえもきこえん。ぷかぷかういて、ゆらゆらゆれとる。あなたにい、でんわんしていいんようんなら、かけるよん。なんちいったてえ、そりゃあいわんといかないことだってえ、たくっさんあるよお。うみいもぐったときいは、そりゃあもう、あぶくうみたいにいきえちゃうようなあ、きいもしたさあ。ひとおはなくなりゃせんのやあ、うみいにはいるとお。さかなあは、いっぱいおってえなあきらきらかがやきようてさあ。なんちゅうてもきそわんでいいのよお、うみいのなかじゃあ。あなたはあ、きたひいのためにさあいったひのこともすっかりいみ…続きを読む
ハァハァと息を切らしながら僕の中で、言葉は渦巻く。もう少しだけ、先に行きたい。行きたいんだけど、この先の、この道を渡りたいけど渡れない。土が湿っぽくなっていて、カブトムシの小屋の匂いを感じる、大きな湖の真ん中に僕はいる。岸から、ここまで結ばれた長い橋は、向こう岸まで続かない。この重い荷物を背負いながら、疲れ切ったボロボロの体でこの湖を泳ぐか?それ以外の手段は?ミズウミノミズ、シタカラワイテ、チョイトアガッテ、フンスイ、ワタレ。(๑•̀ㅂ•́)و✧うわぁーーー!気付いたら、後ろに自転車に乗ってるひとがきて、僕にどいてって言った。ココからは〜どうするんですか?此処からは、自転車に乗った…続きを読む
先生は綺麗なのに今日も授業をしない。僕の先生は、くしゃみをして今日も授業をサボる。「はい、今日も頑張ろうかねー。ハックション!今日学校に行く途中の道でさ、ユリの花を見たんだよ。私,そのせいかもしれないけど、くしゃみ止まんないんだわ。例のユリアレルギーってやつ?ハハッ、そんなのあるかってさ。馬鹿なこと言ってないで、早く授業しろって感じっしょ。みんなもう少しでテストっしょ?どうせめんどくさいだろうからさ、私がテストのコタエ教えてやんよ。なーんてね。あ、そうだ!そういえば、先生さあ、この前みんなに話したあの魚、水族館で見てきたよー。すっごい良くてさ、可愛かった。…」先生は魚が好きで授業中によく魚…続きを読む
空にはいくつの雲が見えるんだろうと空を指さして数えているといつのまにか、夕方になった。けっきょく数えている途中で、どの雲を数えたかわからなくなったので、雲を数えるのはやめにした。ここには、街中ではあまり聞こえない虫の声が聞ける。大きな声で鳴くカラスが、赤い夕日に染まっていく空を飛んでいると思うとジリジリと鳴くヒグラシが小さな身体のツクツクボウシと共鳴しあっている。そこまで耳を澄ますと今度はスズムシのリンリンと鳴く声が聞こえてきて秋を感じて嬉しくなる。辺りを見回すと、飛行機の音がしてくる。ああ今日も無事に帰って来てくれて良かった。素直にそう思う。この緑地から見えるビル群には、今日も沢山の人…続きを読む