今年の冬は寒い。
モノコン2021予選通過作品
「この美しい空の下であなたと」nana
https://monogatary.com/story/276546
【もう一度生まれる】はそこそこ読まれてたんですけど、すみません。削除しました。四年ほど前に某新人賞の2次で落ちた作品なんです。改めて自分で読んで、選評通りの欠点が見えてしまったので、きちんとブラッシュアップさせる事ができたなら再び投稿するかも知れないです。読んで下さっていた方、大変申し訳ございません。
〇RAYARD MIYASHITA PARK・施設内 自由と活気のあふれる、渋谷の商業施設。多くの若者たちが買い物を楽しんでいる。 あなたは立ち止まり、ぼんやりと白いパネルを眺めている。 後ろから男が声を掛けてくる。 男 「ごめん。お待たせ。」 男、買い物袋を提げている。 あなた「何、買ったの?」 男 「奮発しちゃったよ。一眼レフのカメラ。」 あなた「馬鹿じゃないの?世界が終わるっていうのに一体何を写真に残すって言うの?」 男 「……」 男、袋からカメラと一緒に見覚えのある風景が表紙になっている旅行案内雑誌を取り出す。 あなた、男が何を考えていた…続きを読む
「人を殺したときどんな気持ちだったんですか?」咲希が無垢な表情をしながら、その表情とは余りにもかけ離れた言葉を発する。虚を突かれた俺は一瞬、押し黙ってしまう。そんな俺を見ながら咲希は敢えてといった様子で言葉を重ねる。「ねぇ、ゴエモンさん。人を殺したときどんな気持ちだったんですか?」俺は試されている。俺の返す言葉次第で、この状況は有利にも不利にも傾き得る。「別に。大したことなかったよ。」咲希の目を真っ直ぐに見据えながら、俺はできる限り平坦なトーンで言葉を紡いだ。「アハハ。思った通りの反応だ。」咲希はきっと俺がどんな反応を示していたとしても同じ言葉を返したのだろう。…続きを読む
『あなた、世界で一番不幸そうな顔してますね。』 星の形をした、恐らく手作りのものと思われるチョコレートを頬張りながら、目の前の少女は呟く。 星空と月が綺麗に輝く冬の海辺で、僕達はその光を一身に浴びながら、同じ時を過ごしている。 何処か現実味のない白く透き通った肌が、大袈裟なまでにキラキラと光を放つ夜空に反射して輝いて見える。 『こんな夜遅くに君みたいな若い子が出歩いていたら、ご両親が心配するよ。』 僕は彼女の身を案じた。それは紛れもなく本音だったのだが、何よりも今この場に彼女の存在がある事が僕にとって不都合だったからだ。 『私の方が心配してるからここに来たんだよ。』…続きを読む
クラスで一番の人気者の修司に告白された。私のテンションは最高潮に盛り上がり、そのまま空だって飛べるんじゃないかと思う程だった。中学二年生になり、そろそろ彼氏の一人でもって思っていた矢先のまさかのサプライズで、私はきっと前世で相当な徳を積んだんだなって自分に言い聞かせていた。クラス内の序列においても精々一軍半の自分に、ピラミッドの頂点に君臨する修司がまさかの告白。私の返事は決まりきっていたのに、敢えて『少し考えさせて。』とワンクッション置いた。 『色々考えたんだけど、私も修司が好き。』って伝える。そんな近い未来を自分の中で描いていたからだ。修司も何となく私の意図を察してくれたのか、『分かっ…続きを読む
快晴という名前にピッタリな眩しい笑顔の持ち主だった。その日、快晴は大学でサークル仲間の佐藤さんとレンタカーで京都へと向かっていた。初夏の青く澄んだ陽射しの中、高速を降りて一般道に合流し、一つ目の交差点で杖を付いたお婆さんが信号無視をして飛び出してきた。咄嗟にハンドルを右に切ったタイミングで後ろからトラックに追突された。頭を強く打った快晴は意識不明の重体。佐藤さんは右腕の骨折と頸椎捻挫の負傷は負ったが、致命傷には至らなかった。バイトに行く準備をしていたら、携帯が鳴った。快晴のお母さんから電話が来るなんて珍しい。この前、『夏休みに入ったら何処か旅行に行きましょう。』って話してたからその…続きを読む
仕事終わりにいつも乗っている東京メトロ丸ノ内線。僕はこの電車でいつも見かける女性に恋をしている。僕はその人の事を心の中でメトロと呼んでいる。何となく響きがメーテルっぽくて女性的に感じたし、メトロ車内でしか会う事がないからだ。どことなく某映画のエルメスさんの様な気品も纏っている事から冴えない自分自身の事を電車男に置き換えた妄想なんかもした事がある。酔っ払いに絡まれて困っているメトロを冴えないオタクの僕が勇気を出して飛び出していって......なんて都合の良い事は起こる訳もなく、僕はいつもただただ彼女の横顔を少し離れた位置から見つめる事しか出来ないでいる。メトロは終点の池袋で下車す…続きを読む
夜の静寂は日中の喧騒で誤魔化されている嫌なものを明確に浮き上がらせる効果がある。だから私は夜があまり好きではない。私は彼氏の声を夜に聞くと耳を塞ぎたくなる様な不快感に襲われる。勿論、面と向かってそんな失礼な事をする訳にはいかないので、頭の中でモスキート音などのもっと不快な音を反響させて日中の喧騒の代用にしている。聞く人によってはハスキーだとかシブいといった好意的な受け取り方をする事もある。事実私は友人から彼氏の声を褒められる事が割と多い。勿論、日本にはお世辞という文化があるので、特徴的な部分を適当に持ち上げているという線も否定は出来ないが、少なくともそういった人達は彼の声に不快感を覚えてい…続きを読む
『いつだって僕は君の中に居る。だからゆっくりおやすみ。』朝起きると、いつも私は泣いていた。とても幸せでとても悲しい夢を見ていたって事だけは分かるけど、内容はどうしても思い出せずにいる。未曾有のウイルスによって休校を余儀なくされた私は形だけ勉強をしてる感を出して、空想の世界に浸る事が日課になっていた。外出する事さえ制限された内に籠る生活から羽を伸ばすには空想の世界に逃避するしか術が無かったのだ。今日も空想の世界で一人の男の子と草原を駆けている。高校生にもなって、静かに語らうよりも駆け回っている様を想像しているのは、行動を制限されているストレスから自分を解放しようという心理が働いている…続きを読む
空が泣いている。この分厚い雲の上では絶え間なく星が輝いているはずなのに、私はそれを見る事が出来ない。このまま雨が一ヶ月以上も降り続いたら、雨によって地表に水が溜まり、やがて雲にまで到達してしまうのではないかと心配させられる様な激しい雨が降り続いている。勿論、現実ではそんな事はあり得ないが、もしそうなったら当然日本列島は沈没するし、雲の上まで行く手段を持つ極限られた人間しか生き残る事は出来ないだろう。授業中にそんな事を妄想する私はどこか他のクラスメート達と馴染む事が出来ず、教室では常に孤立している。別に寂しいという感情はない。これが私にとっての当たり前だから。いつもと同じ日常だから。別に…続きを読む