彼女は、目立たなくて大人しい女の子だ。友達も少数で、クラスにさほど馴染んでいる様子もない。季節はもう、9月の頭だっていうのに。僕は彼女と会話をした事がない。でも、目の前に佇むのは確かに―――彼女で。僕を放課後の教室に呼び出したのも確かに―――彼女で。今、そのいつも俯きがちな頭は、まるで僕に赤い頬を知られたくないかのようにいっそう下を向いている。いくらこういうのに疎くても、この状況がどういう状況かは、わかっているつもりだ。目標の大学に行くために、高校3年間は勉強の事しか頭に無かった。え、恋人?彼女?鼻で笑ってやるよそんなもの、勉強の妨げになるに決まっているじゃな…続きを読む
「セイジ」くんは、とても星がすきな男の子だった。家の近所にすんでいた、とても無口な少年。短い指で星座を結ぶのが上手だった。あれはおひつじ座。あれはかに座。私の星座「乙女座」もちゃんと指で結んで、見せてくれた。正直その形がちゃんと乙女の姿に見えるかと言われれば、そういう訳でもなくて。―――幼い私には、セイジくんの結ぶ星座は、よくわからなかった。私とセイジくんは、毎日のように二人で遊んでいた。どちらの両親も共働き。よくセイジくんは私の家に来ていたので、夜遅くまで彼は私の家にいて、一緒に家のベランダからたくさんの星を見た。無口で、笑わない男の子だったけど、星を見つ…続きを読む
イルカを喪ってから、1年が経つ。今でも俺は海に来ると、どこかでアイツが泳いでいるんじゃないか、と思うのだ。「イルカ」というあだ名は、当時ガキ大将だったベンちゃんがつけた。小学校6年生の時に転校して来たアイツの泳ぎがあまりにも速かったからだ。今思うと彼にしては中々いいネーミングだったのではないかと思う。イルカは普段はあまり人と話す事が無く、話せば話したで気難しい性格なので知らず知らずに人を遠ざけていた。地元の中学に入っても、その性格は一向に変わらなかった。実際、俺もイルカと最初に話したのは、中学1年に上がってからだった。夏の水泳の時間だけ、イルカは皆のヒーローに…続きを読む
霊感なんか、全く無かったんだけれども。偶然見えたのは、哀しい事でしかなかった。「アンタさぁ、もしかして、死んでる?」半透明なその少女は、俺の問いかけに頷く。これがアイツとコンタクトをとった、最初だった。この高校に入ってすぐの事。玄関口にいつもひっそり佇んでいたこの少女が幽霊だと気づくまで、そんなに時間は掛からなかった。周りの物より薄いヤツが、生きてるモンなんて普通思わないだろう?最初は疑ったさ、自分の目を。でもいつも玄関を通る度に半透明でいつも同じ場所にいるヤツなんて限られて来るし。それに、アイツと目が合うたび、背中から何か這い上がってくるこの感触。第六…続きを読む