樹海の中にひっそりと建つ、半壊の屋敷。まるで捨て置かれたように薄すらと佇む廃屋から、絶えず聞こえる不気味な音。それは主を失くしたブリキ人形が奏でる、不吉で不毛な不協和音。“guiii, guiii, gagaga”軋む身体に油を差す。メッキの剥げたプレートに錆だらけの歯車。ボロ雑巾の方がまだ幾分かマシにも思える状態を辛うじて維持しながら、人形は自身を修理している。“guiii, guiii, gagaga”油に塗れた関節部をカクカクと折り曲げては伸ばし、身体によく馴染ませる。若干の動作改善はされるものの、所詮こんなものは応急処置でしかない。最低限の動きをほんの一瞬で…続きを読む
オレにはアニキがいる。ただし本当のアニキじゃねぇ。血の繋がりっていうのが無ぇアニキだ。えーっとつまり、【ニセアニキ】。いや違ぇ。血が繋ってない本当のアニキじゃなくても、オレにとっては"本物"のアニキだ。つまりそのー、【アニキ二世】。いや違ぇ。一世なんかいねぇし、そもそもアレだ。アニキってのはどっかの王さまみてぇなセシュウセイじゃねぇ。あぁ思い出した!【兄貴分】ってやつだ。ほらよく言うだろ? 兄貴分とか弟分とか。オレはさいしょ【兄気分】って覚えてたんだよ。なんか兄っぽい気分になることだと思っててよ。まぁいいや。そんでYO、オレはアニキと2人で故郷から遠く離れたこ…続きを読む
昔から姉が羨ましかった。 キラキラと輝く黄金の瞳に、メラメラと揺れる緋色の髪。一族の王家に代々受け継がれる宝石の様な美貌に加え、いつも明るく無邪気にはしゃぐ姿は自然と周囲を魅了して沢山の笑顔に包まれていた。細くしなやかな脚で草原を駆ければ友人たちが後に続き、力強く荘厳な両翼で大空を飛翔すれば歓声が上がり、情熱的な所作で舞踏を披露すればその美しさにあちこちでため息が漏れる。“Reina・Salamandra(焔竜の姫)”という身分は同じでも、姉と私の人生は天と地ほどの差があった。 姉の炎が羨ましかった。 眩い赤色は夕闇さえも消し飛ばしてしまうほど煌煌と燃え盛り、その様は周囲を華麗に惹き…続きを読む
阿 :なな。さっき小耳に挟んだんだけんど、オレには何のこっちゃサッパリ分かんねぇんだ…。吽 :何が分からんて?阿 :べっぴんさんらがそこの広場で飲み食いしながらよ、『すご~いっ、めがじょっき!』つって大はしゃぎしてたんなら。吽 :待て待て。今オメェ“めがじょっき”っつったか?阿 :それなそれな。吽 :“めがじょっき”ってなんだら?阿 :だけん、それが分からんからオメェに聞いたんだて。吽 :オメェそのべっぴんさんら見てたんなら、何を指して言ってた?阿 :それがよ、遠目で良く見えなかったさ。吽 :そらオメェの目が悪いんだて。阿 :うるさ…続きを読む
魔術師をご存じだろうか。 いや違う、それは手品師だ。こちとら種も仕掛けもございません…って、こういう台詞はいかにも胡散臭くてソレっぽく聞こえてしまうからやめておこう。なにせ、世界は嘘や偽り、欺瞞やハッタリに満ち溢れている。物事がどんなに“白”だろうと、少し言い方を変えるだけでいとも簡単にそれは“黒”く染まってしまう。歴史の至る所でそれは証明され続けてきた。まったく難儀な世の中だ。どいつもコイツもオレに疑いの眼差しを向けてくる。いや違う、オレが悪い訳じゃない。聞き手の捉え方に問題があるんだ。断じてこちらに責任はない。断じてだ。 失礼、話を戻そう。手品をひけらかす者でも詐欺を働く者でもない、…続きを読む
終業のチャイムが鳴ったと同時に誰よりも早く帰り支度を始める。それをどんなに手早く済ませたとしても、終礼のホームルームが終わるまでは教室から出られないのだが、はやる気持ちを抑えることはできない。 未だ教室に姿を見せない担任に焦らされつつ、制服のポケットからそっとスマートフォンを取り出して画面を操作する。1番上にブックマークしたとある小説投稿サイトを開き、お気に入りボタンから彼のプロフィールページを開く。時刻は15時30分を過ぎたところ。普段ならそろそろ新作を上げてくるはずだが、昨日読んだ作品以降まだ投稿はされていない様だ。 親指の腹を画面に押し当ててズズっと擦りページの更新を何度か行う。す…続きを読む
さ サノさんおめでとうございます 。 0 の 野を越え山を越えたどり着いた 。 0さ 三百の超絶景に高まるテンション んの 覗いて気付いて急ぎ投稿したのさ さサノさんへあめだま100章、累計投稿300超、W達成、おめでとうございます🎊🎊これだけの数を積み上げることの凄さは勿論の事、『あめだま』という小さな1粒をこんなにまで大きな結晶にした事、本当に素晴らしいと思いますっ☆☆☆また、御作を通じて私も含めた沢山の作家仲間が繋がっていることも本当に素敵な事だと感じていますッ!常に第一線で活躍するサノサノを応援しています=3旅スケ@ロボ部員…続きを読む
暖色に染まった葉が静かに舞う季節。 僕は竹馬の友である彼とゆっくり歩いている。公園に生い茂る木々は自慢の黄金色を持って天を覆い、上空を反射したかのような同色の絨毯が足下一面に敷かれている。秋が織り成す天と地の鏡面の狭間を友人と並んで進みながら、視線は先ほどから前方に見える小さな影に向けている。無邪気に駆け回るその様子とは対照に、僕は素っ気ない態度で隣で歩調を合わせる彼に尋ねた。「今いくつだっけ? 」「もうすぐ2歳。早いよなー、ついこの前生まれたばっかだと思ってたのに」 友人は感慨深そうにも呆れている風にも読み取れる声で答えた。小学生の頃から見続けてきた彼の顔は、ここ数年で随分と…続きを読む
歩みを止めず進み続ける時に軽快に時に重苦しくそれでも変わらないのは歳を重ねながら前進し続ける人生と言う名の大きな旅だ長い戦いを続けている出口はまだ見えないけれど今日、大きな進展を迎えることができたそんな吉日に見たお題は「旅人」僕にとって大切な言葉思わずタップした投稿ボタン書かずにいられないこの気持ちに思わずニヤケ顔を晒す歩みを止めず進み続けるその先に待つのは良い事ばかりではない辛い事や苦しい事が、この先も訪れるだろうでもそれがどうした嬉しい事、楽しい事、ワクワクする事それらはただ待っているだけではなく自分から進んで見つけに行ってたハズだ…続きを読む
気が付いた時には、彼女ら姉妹は跳んでいた。いや、跳躍した高さを的確に表すならばもう”飛んでいた”と言うべきだろう。およそ生身の人間では届かない高度で体が宙を舞っているのだ。ならばこれは飛行の類に他ならず、故にこれを見ている者が2人以外にもいたならば、それはもう口をあんぐりと開けて驚いたことだろう。「…ねぇ。どう思う梨香? 」「…うーん。この現象、私が名前を付けるとしたら、”MIYASHITA - FLY HIGH”」「YES────、ってそうじゃないんだなー妹よ」あり得ない跳躍からゆっくりと降下してコンクリートタイルに着地した2つの影は、その場に両膝をついた。「あれ…続きを読む