「今日も一日よろしくお願いします」朝のオンラインミーティングを終えると、台所で本日2杯目の珈琲を淹れてパソコンに向かう。2020年は世界を震撼させたウィルスによって、急速に働き方が変わった。私の会社でも一部の部署を除いてリモート化が進んだ。会社に出勤しなくなってどれぐらい経つだろう。当初、側に上司や先輩がいない状態で仕事を進めることに不安を感じていたが、やってみるとオンライン上でも案外スムーズに質問や相談ができる。今となっては、わざわざ出勤せずともオンラインで完結できるスタイルが日常となった。ただ、1Kの手狭な部屋の中で一日を過ごしていると、時折この世界にいるのは自…続きを読む
お気に入りのリュックを背負い、私は通い慣れた小学校の裏にある小高い丘を目指して歩く。12月ともなると流石に寒い。今頃は家で炬燵に入り、バニラアイスを食べながら録画したバラエティ番組を観ているはずだったのに、どうして私は夜勤明けの身体に鞭打って丘の頂上を目指して歩いているのか。今日は雲ひとつ無い青空で気持ちの良い天気だった。子ども達が寒さを吹き飛ばすかのように元気よく公園で走り回る姿を横目に、私は一目散に家へ帰ってシャワーを浴び、カーテンをぴっちり閉めてベッドに潜り込んだ。疲れ切った身体を横たえ、あと少しで深い眠りに入るところでスマホが着信を告げる。鳴り響くコール音を無視…続きを読む
知佳(ちか)はリビングに置いている収納付きのテレビ台から、高校の卒業アルバムを取り出して、テレビの真正面に位置するソファに深く腰掛けた。そして、手にしたアルバムをソファの座面に置くと、背もたれに掛けてあるベージュ色のひざ掛けを広げて、足元全体を覆うように被せてくるむ。肌寒さが感じられる季節になると、知佳は足を冷やさないように必ずひざ掛けをするようにしている。隙間がないようきっちりとくるめたことを確認してから、知佳は再びアルバムを手にして、一枚一枚ページをめくった。 一学年全員で撮影した集合写真やクラスごとに分かれて撮った写真などを見ていると、当時の記憶が蘇り、ページをめくる度に懐かしさが…続きを読む