むかしむかしあるところに……おじいさんとおじいさんが住んでいました。おじいさんは山に山菜採りにおじいさんは川に洗濯に出かけました。おじいさんが川で洗濯をしていると、川上からどっこいしょどっこいしょと中くらいの桃が流れてきました。「これはなかなかの桃だ」とおじいさんはおじいさんのお土産にと桃を持って帰りました。夕方になってやっと、おじいさんは山から山菜を背負って帰って来ました。「ほほお、ウチに桃なんぞあったかえ?」「いいえ、川で拾ってきました」「そうかえ、これは天然の桃かね。では、さっそくいただこうとするかね」おじいさんがご自慢の手刀で桃を真っ二つに割ると、中からおじ…続きを読む
この国ではヤマメが笑うと雨が降ると言われている。ヤマメは柔らかく温かい気候を好むからだ。晴れた日はあまりの暑さで、犬や猫の姿を道端に姿を現さない。日の当たらぬ場所に隠れ、出てこない。環境に適応できなかったたくさんの動物たちは死んでいった。悪いのは環境か、それとも適応できなかった動物たちか……いや、悪いのは全てあの動物だ。あの動物が自分たちのことしか考えず、自分たちのために行動したせいで、私たちの祖先たちも死んでいった。1番滅びるべき動物は、滅びることなく、さらに自分たちが適応しやすいようにこの国の姿を変えていった。……私が悪魔なら、真っ先にその動物を憎き姿に変えてやるのに。…続きを読む
太陽の光も月明かりも当たらない外の景色は見えない。真っ白な部屋に私は閉じ込められている。もうここにきて3年。部屋には家具家電おろか小さな紙くずすらない。1枚の絵が飾ってあるだけ。机もゴミ箱もベッドも必要ない。ここでは、勉強をすることも食事をすることも寝ることもない。だからゴミが出ることもない。「シュウーンシュエーン」周期で鳴く鳥の声は甲高い。この鳥が鳴いた時、ここでいう朝なのだろう。寝ることもないし、外からの景色はこの部屋からは見えないから、朝、夜という概念が存在するのかも分からない。3年もいるのにこの部屋については分からないことばかり。最近知ったのは、壁に飾られている赤と黒だけ…続きを読む
「今日は雪だから学校に行きたくない」とLINEをしたら「じゃあ俺も行かない!」可愛くないスタンプとともにそう返事がきた。「休んだら何するの?」「えー特に決めてないけど」「じゃあ紗友の家行っていい?」「別にいいよ。お母さんは仕事に行っていないから」これは、私と龍也が最初で最後のずる休みをした時の話である。「久しぶりだな~紗友の部屋に入るの。小学生の頃はさ、よく遊びに来てたけどね。高校とかになってくると、異性の部屋なんて気軽には入りづらくなる。別に悪いことをするわけじゃないんだけどさ……思春期ってやつ?」「分からなくもないかも……」「博美が遥人君の家に遊びに行…続きを読む
11月15日 16時24分「それじゃあ誠(まこと)、いってくるね!」「ああ、健闘を祈るよ」16時24分、俺にとって幼馴染みであり、友だちであり、恋心を注ぐ対象でもある星奈(せいな)はこれから戦場に行く。高校に入学してから2年間好きだった、サッカー部キャプテンに告白をしにいくらしい。「健闘を祈るよ」と言ったものの気持ちは複雑だ。星奈が勝利を収めた時、俺は自動的に敗北する。何も行動しないまま負け。不戦敗だ。だからといって、「負けろ~星奈負けろ~」とも願えない。彼女が負けて悲しんでいる姿は見たくないし、星奈が負けたからといって、俺の勝利は確定していない。共倒れの可能性もある…続きを読む
私はこの世のルールを作った神様が大嫌いだ。この世界では、男の子は女の子を、女の子は男の子を愛すことが美徳とされている。それ以外の選択肢は歓迎はされない。少数派と言われ、可哀想な目や哀れんだ目で見られる。「人が人を好きになる行為はどうしてダメなの? 」「それがルールで、それが当たり前で、それに従うことがモラルとされているから……」女子はS極、男子はN極と、私たちはまるで磁石だ。S極とS極は反発し合う。同じにS極に生まれたのに、1度も触れることができない磁石、可哀想すぎる。私は、彼女の黒さに触れることも白さを抱くことも、紅さに重ねることもできない。それどころか、想いを伝える…続きを読む
布団に入り、目を瞑ると毎日こんな願いをする。「明日は目覚めませんように。このまま眠るように死なせてください」この世界には飽きたのです。毎日同じ事の繰り返し、楽しいことはやりきった。これ以上楽しいこともあるかも知れないけど、その倍以上辛いことを経験しないといけない。私自身を現す四字熟語「同同同同」これから10年、20年、生きていたところで楽しいことなんてあるのだろうか。何を目的に生きる?何を目標に生きる?何の役目で生きる?役目をもらい目的を持ち、目標に向かって生きる。それをしたところで、志半ばで「死」を迎えることだってある。20年、あなたは怪我も病気も死ぬこともありま…続きを読む
「おはよう」って娘に声を掛けると、小さな娘は悲しそうに僕の顔を見つめる。おはようは、僕が家を出て、会社に行く合図だから。娘は会社を魔物だと比喩する。我が子ながらそのセンスに脱帽する。確かに、会社は、戦場だ。昔は「早く一人前になろうぜ!」と鼓舞し合い、切磋琢磨していた同期たちは、今や出世争いという名の戦のためにメラメラと闘志を燃やしている。昔のように信用することはできず、気軽に会社や上司の愚痴をこぼすことができない。強い上司の下については媚びを売る。「一生ついていきます!」なんて言いながらもその席が空くチャンスを今か今かと待っている。まるで戦国武将だ。かつては味方だった同…続きを読む
勉強をして理解しようとしてはいけない。感覚で理解できなければそれは本当の意味で天才になれたとは言えない。線を4本使って四角を作るわけだが、これが三角に見える物がいるという。不思議な現象である。それは四角として見えるように四角として作られ、四角として存在している。それがどのような角度で見れば三角に見えるのか……人で例えて見よう。左手薬指で対面する相手の鼻に触れ、相手の右目瞼一点のみを集中して見る。瞬きをせぬ相手であれば、懸命に生きる若人の作業着の泥のような眼球の色であるだろう。右手は髪の毛を掴む。肌とは違うぬくもり。安物の絨毯の触り心地を思い出す。蜜柑は転がるとも、西瓜は転がらぬと夏…続きを読む