初めて物語を書いたのは小学校の国語の授業。宿題で原稿用紙10枚分の話を書いた。題材は「学校の怪談」。登場人物は友人や親など身近な人ばかり。担任の先生が「続きが読みたくなりました」てコメントをくれたのを今でも覚えてる。次に書いたのは20代になってから。当時のとても私的な心情を全部吐き出したような内容だった。正直、泣きながら書いてた。そんな作品に運良く目を止めていただいて、出版をすることになった。そして今も、新しいものを作り出そうと書いている。とても疲れるし、しんどいなと思う時もあるけど、何故か書くとこを辞めたいとは思わない。それは自分が、沢山の物語に力をも…続きを読む
『死人に口なし』なんて言いますけどねえ。とんでもないことでさあ。 現にこうして、貴方様とアッシはお互いの言ってることがわかるじゃあありませんか。 え? 分からない? だんなぁ、嘘ついちゃあいけませんぜ。 アッシの話に応えてる時点で、旦那はちゃあんと、アッシの声が聞こえてるって分かってるんでさあ。 今日旦那のところに化けて出たのは、他でもねえ。ちょいとアッシの身の上話を聞いてもらいたかったんですよ。 アッシはね、売れない刀職人の家に生まれたんでさあ。父親は、怒るとそりゃ怖い人でね。 悪さをしては、刀を鍛える金槌で叩かれたもんでさあ。 そんな家なもんで、アッシも親父の跡…続きを読む
大好きだから。君にもこの気持ちをわかって欲しかった。でも、いくら言葉で伝えても君には全然届いてないみたい。いつもスマホをいじって気のない返事をする。もっとこっち向いて。ちゃんと話を聞いて。『好き』をちゃんと受け取って。言っても言っても伝わらない。なんでこんなに好きなことをわかってくれないのか、どんどん君が分からなくなっていった。それが寂しくて寂しくて、ふと気がついたら君が倒れて鼻から血を流していた。怯えた顔で何かを叫んで暴れてる。妙に右手の拳が痛い。何かにぶつけたっけ?ああ、怖がらないで。大丈夫だよ。叫ばないで。好きって言うから、ちゃんと聞いて。…続きを読む
目覚ましが鳴る前に起きてしまったので、折角だからオシャレな朝ごはんを食べようと思ってパウンドケーキを焼くことにしました。 小麦に無塩バター、砂糖、卵、牛乳。 これだけを混ぜて焼くだけです。 ナッツとドライレーズンを入れて少しアレンジを加えてみました。 オーブンで焼いていると、いい香りがキッチン中に広がって夢見心地な気分になります。 焼き上がったケーキはふっくらとしていて、焼き色も綺麗についています。 今までの中でも1番の出来です。 型から外して、食べる前に粗熱を取ることにしました。その間にティーカップにお湯を張って、ポットに茶葉を入れて、紅茶の準備もしました。 …続きを読む
お侍様が刀を持って闊歩する時代。 周りの反対を押し切って、私はネイリストになった。皆んなと同じように、決められた相手と若いうちに結婚して家庭に入って子供の世話をするなんて嫌。 もっと自由に自分の人生を謳歌したい。 少し町の外に出れば道端に死体が転がってるような世の中だもの。明るい気持ちを取り戻せるようにお洒落をすることだって大事だと思う。 都に移って自分の店を構えたはいいけど、さあ困った。なかなかお客さんがついてくれない。 流石に都は感性が優れてある人が多い。 田舎の私が考えた、野暮ったいネイルのデザインなんか見向きもされなかった。 閑古鳥が鳴く日が続いてこのままではい…続きを読む
「久しぶり」 軽く手を上げた俺に向かって、その子はゆっくり視線を合わせた。「……申し訳ありません。ワタシの中に貴方に関するデータが見当たりません」「あぁ……そうだよな。今起動したばかりだ。俺は、君のマスターだ」 俺の言葉を聞いて、その子はモーター音をさせながら復唱した。「了解致しました。貴方がマスターですね。登録します。お名前を教えていただけますか」「覚えてないかな?」「申し訳ありません。ワタシのデータベースには、現在どなたも登録されておりません」「そう、か。ダメか……」 思わず目を伏せて項垂れてしまった。 まるで人と見間違うほど精巧に作られたこのロボットは…続きを読む