その青年は、粛々と藁靴を編んでいた。 ミシミシと時折響く恐ろしげな家鳴りが「早う、早う」と仕事を急かしているように感じてしまうのか、どうにも心が逸って仕方がない様子ではあったが、それでも一切手を抜く事は無く、一目一目確かめるように丁寧に藁を編み進めていた。 薄闇の中、1人寂しく炉端にて、囲炉裏の炎を友に歯の根も合わぬ程に凍えながらも、ただただ一心に。青年は、もう1週間近くも藁の深靴を編む手を止めてはいなかった。キュッ、キュッ、と、目を詰める小さな音だけが狭い山小屋の中に静かに響いている。 ふらり囲炉裏の炎が揺れ、薄暗い室内でゆらりゆら影が動いた。 と、同時に、ピュウと隙間風が頭上を通…続きを読む
モノガタリドットコムに初めて投稿する。ログインに難航し、横書きに手間取り、ああでもないこうでもないと試しているうちに締切日の日付変更線が迫って来る。偶然、後から修正出来る事を知ったが後の祭り。投稿した時は既に締切日の翌日になってしまっていたという為体。どうせ締切日過ぎていて審査対象外ならば、こうなったら気の済むまで修正しせめて仕上げようと誓う。…続きを読む
此処に、外道一人在り。 腐れ外道であった。 その外道、およそ常人が及びもつかぬ領域までも暴力を極めし男。 彼の振るう暴力の多くは外道同士のヘドロの底に沈め合うような裏社会での争いであり、時に獣をも凌ぐのではないかと思われるその圧倒的な剥き出しの力は名うての鬼たる悪党どもを長年恐怖に戦かせ傅かせるには充分な破壊力であった。 しかして外道は、唯一無二の存在として長い間揺るぎ無く暴力社会の頂点に君臨していた。 そのような暴力の化身が何故捕まらぬか。 それは、彼が強き者にしか興味が無かった故。そうして珍しくもない話、彼の後ろ楯がと或る有力者であったが故だった。 しかし因果な事に、彼…続きを読む
蒼穹を持て余す待宵草のようだ。 ふとそう思い、我ながら馬鹿馬鹿しくなって目を閉じる。 そうして私は『曇り空が一番好きなの』とあの人に囁いたけれど、あの人は全く聞いちゃくれなかった。 その代わりに、「また明日」と言葉を濁して、今日も家に帰ってゆく。 私の世界が花開くのは、あの人が仕事終わりに面会に来て下さる夜の間のほんの数時間だけ。 夜だけ咲いて朝には萎む。 私に似ているあの花も、きっと青空が嫌いな筈。…続きを読む
拙者は、上り詰めねばならぬ。 それが、それこそが男として此の世に生を受けし者の行くべき道であるが故に。 拙者は、上り詰めねばならぬ。 まずは忍者走りの修行。 音を立てずに素早く走るのじゃ。 此れは、決して人目のある場所で修行を始めてはならぬ。 他人様の迷惑にならば即座に上忍より御叱りを受ける故。 次に、高く跳ぶ為の修行。 此れは、伸びゆく草を使う。草が伸びるに従って高く跳べるようになるという寸法じゃ。決して、ある日突然、御近所の老人会の婆様に草むしりをされていたとて泣いてはならぬ。 逆に、上手く溶け込み草むしりを手伝い、情報と飴ちゃんを入手するのだ。 何故だか上忍…続きを読む
「刑事課長! 全員アリバイがあります!」 ……ほう、それで? 「よって自殺ではないかと」 何故かな? 「ですからアリバイが」 私が聞いたのはアリバイの事ではないよ。 「は……?」 何故に、遺書と全員にアリバイがあるというだけで自殺と決めた? 「それは」 刑事なら第三者の犯行も疑うべきなのに。君は……。 君は、全く疑わずに自殺と断定したね? 「あ……た、確かにハハハ」 む……。 ……ところで君、アリバイは? 「あ、アリバイが無かったら、何だってんですか!」 実は私も無いんだ。…続きを読む
「そもそも、季節は4つと決まっている訳じゃないのに、5つ目の季節を作れという試験問題はおかしいと思います」 国語の試験中に突然立ち上がりそう教師に意見したのは、クラスで一番の変わり者である立花口君だった。「そこ、サービス問題のつもりで作ったんだけどなあ……。まあいいよ。現代日本の一般的常識に照らし合わせて素直に考えられないのならば、飛ばして宜しい。他の生徒の迷惑になるからすまないが以後私語は控えるように」 国語の教師は、彼のような面倒臭い質の生徒の奇行に慣れっこなのか淡々とそう答えて上手く場を収めた。 教室内は少しだけざわついたが、数分も経たずに元の静けさを取り戻してゆく。 立花…続きを読む
序幕・1 ――嗚呼、あの人を殺してしまった。 閉じた瞼もそのままに、少女は只ひたすらに自らの犯した罪を振り返りては悔いていた。 ――嗚呼、娘を殺してしまった。閉じた瞼を開く勇気も無く、男も又、少女と同じく偏にその罪を後悔していた。 6畳1間の簡素な和室には、男と少女の汗ばんだ体が横たわっており、微塵も動かない。 彼らは親子だが、少女はその事実を一切知らなかった。 親子は同じ部屋に居ながらにして正に孤影悄然そのもので、誰かに助けを求める心の余裕も丸切りなしといった塩梅であった。 ――まさか自殺サイトで知り合った女が生き別れた娘だとは……御釈迦様でも気付くめえよ、チ…続きを読む
文章を書くのも三度の飯より睡眠より好きな私ですが、読むのは其れ以上に好きなので、特に好きな作品をマイペースにご紹介出来ればと思います。 ネタバレはなるべく避ける所存でございますが、どうしても其れが混じってしまうというような際は文頭に記しますので、其の際はネタバレがお嫌な方は御手数ですが飛ばして下さいませ。 他人様の作品ですので、作品に対する御批判は一切受け付けません。 私の稚拙な紹介文等に対する御批判でしたら、甘んじて受けさせて頂く所存でありますので、物書きとしてせめてオチだけはつくよう言葉を選んで、其れは御存分に……。 ただ好きだという気持ちだけでご紹介させて頂いておりますので、…続きを読む
操作ミスで同じものを二つ投稿してしまいました。しかも消し方が解り兼ねます。大変申し訳ありませんが、二つ目の方の内容を変更し謝罪文に変える事で対応させて頂きます。見苦しいお目汚しをしてしまい、大変申し訳ありませんでした。…続きを読む