昔、『プログラマーズ・ポケット』という、きわめて個性的なパソコン雑誌があった。 隔月刊のマニア向けの雑誌だったのだが、その中に「一行プログラムのコナー」というのがあった。一行二五六文字という限られた文字数で、どれだけのプログラムが組めるかを競い合うという、毎回2ページのコーナーだった。(未だに謎なのだが、なぜか、コーナーがコナーと表記されていた)。 僕は中学3年の時、一度だけ、このコーナーにプログラムを採用されたことがある。1987年8月号に掲載。機種は超マイナーなLC‐Neo。言語はBASICで書かれた、たわいもないプログラムだ。 文字を入力すると、画面上にいろんな大きさのい…続きを読む
澤井幸太郎『幻の拳法 其の壱・蝦夷手の研究』 (楼村社・昭和6年) うーん、まあまあ面白かったです。 これは、昭和初期に少年向けに書かれた本なのですが、まあ、なんというか、人を 食った仕掛けのある本でして、表向きは澤井幸一郎という拳法家(柔術家)が大正の 終わり頃、「蝦夷手」(えぞて)という幻の拳法をもとめて、東北、北海道から樺太、さら には沿海州(現在の中国黒竜江省あたり)まで遍歴するというルポルタージュなわけですが、現在ではその「ノンフィクション」性は否定され、ある種の「奇書」、トンデモ本 として扱われています。 つまり、ノンフィクションの体裁をとった「小説」として読むべき本…続きを読む
『エムエスエクス』感想 プルポン長島『エムエスエクス』(すぱる4月号)読了。 妙に感激。 ネット上では難解だ、難解だという書き込みを見るが、まあ、難解ではないと思います。 それは、僕とプルポン氏が同世代で、なおかつ彼と同じように80年代に一世を風靡した(?)「MSX」という家庭用コンピュータのユーザーだったからでしょうが、ちっとも難解ではなかったです。 作中で描かれるMSXユーザーの卑屈なまでのファミコンへの反抗心と矜持、それでも『スーパーマリオ』はやってみたいというジレンマ。 あと、少年から男へと変わらざるを得ないと分かったときの、その心の葛藤はよく分かりますね それ…続きを読む
金原塩之介『荒野の坊ちゃん』(蒼英社文庫) いやー、面白かったです。 この小説は、タイトルからもわかるとおり、夏目漱石の『坊ちゃん』のパロディでなんですが、黒沢映画でも「荒野」とつけばたちまちウエスタンになってしまうように、これも夏目漱石文体でありながら、まごうことなき西部劇なんですね。 漱石文体でのパロディ小説としては『贋作《坊っちゃん》殺人事件』とかが面白かったのだけれど、西部劇というのは思いつかなかったなあ。 漱石文体が意外と西部劇に似合うということを発見いたしました。 冒頭からして、こうです。「親譲りの二丁拳銃で、子供の頃からソンブレロかぶってゐる」 これは言うまでも…続きを読む
「《ヨウカイ》が来るぞ!」 インカムのヘッドホンからランタオの叫ぶ声が聞こえた。 掘削中の縦穴の中にいたサンフーは、今壁面につきたてたばかりのセラミック製のシャベルから手を放すと、急いで縄梯子を登って、すこし離れたところにある基地車へと向かった。 古い時代のトレーラーを改造したベースカーの、コンテナ側面の梯子をかけ登り、アンテナ台の上によじのぼる。 くん、と鼻を鳴らした。やばい。 風が湿ってきている。 サンフーは接近してきつつある、《ヨウカイ》の姿をみとめようと、荒野を見わたした。「父ちゃん、《ヨウカイ》って、どっちだよ!」「四時方向!」 ランタオの怒鳴るような声が聞こえる…続きを読む
金原塩之介『荒野の坊ちゃん』(蒼英社文庫) いやー、面白かったです。 この小説は、タイトルからもわかるとおり、夏目漱石の『坊ちゃん』のパロディでなんですが、黒沢映画でも「荒野」とつけばたちまちウエスタンになってしまうように、これも夏目漱石文体でありながら、まごうことなき西部劇なんですね。 漱石文体でのパロディ小説としては『贋作《坊っちゃん》殺人事件』とかが面白かったのだけれど、西部劇というのは思いつかなかったなあ。 漱石文体が意外と西部劇に似合うということを発見いたしました。 冒頭からして、こうです。 「親譲りの二丁拳銃で、子供の頃からソンブレロかぶってゐる」 これ…続きを読む
『陰陽師』で有名なSF作家・夢枕獏が、まだ「エロ・グロ・バイオレンスの旗手」としてしか語られなかった頃のこと。 彼は著作の中で「実はアインシュタインの有名な公式《e=mc2》と、般若心経の《色即是空 空即是色》は同じことを表しているのだよ」てな事を言っていた。 確かにアルバート・アインシュタイン博士が残した相対性理論に係わる有名な公式e=mc2 は今や、ある種の呪文のように無教養な我々の間にも浸透している。 というか、実際にこの「e=mc2」を呪文として利用していた新興宗教団体だってあったのだ。 大阪と和歌山の境界線あたりに「ひとついし学団」という新興宗教団体の本部があった。 新…続きを読む
十一歳の時だった。 ぼくは母に連れられて見知らぬ街の団地に行った。 公園で一人で遊んでいると、とんがった目をした奴と出会った。 外国人みたいな雰囲気をもった年上の少年だった。 見たこともない、赤いような茶色いような、つめえりの学生服をきちんと着ていた。 きっとこの近所の中学だろうと思った。 ずっと一人で立っていて、なんだかとてもさみしそうに見えたのでいっしょに遊ぼうと僕が言うと、「遊んでやってもいいが、一つだけ条件がある」 と、彼は言った。「なに?」「ぼくは命令されるのがキライだ。ぼくに指図するな」 照れ隠しだとしても、おかしなことを言う奴だと思った。 僕に…続きを読む
夜、近所の自動販売機の前で 弟と会った。 二人で、歩いて帰ってきた。 踏切が見えてきた。 レオが死んだ、踏切だった。 白いレオは そこで真っ赤になったのだった。 そこで、ひっそり レオは息絶えたのだった。 今、その場所には はげしく はじけるように あお草が しゃしゃり出ていた。 レオの血の にじんだ大地に わかい緑が 生まれ出ている。 僕と弟は、 緑色と オレンジ色の快速電車を 無言で見送った。「もう、慣れたよ。」 電車と警報機の騒音の中で 聞こえづらかったのだけれど、 たしかに、弟が そう つぶやいたのが聞こえた。…続きを読む
バイクで急いでいると 急に車の流れが遅くなった 道路の歩道寄りのところに 激しく何かが動いているのが見えた 車に轢かれた 小さな猫だった 上半身が血まみれだったが 下半身は無傷で のたうちまわっていた 上半身はぐちゃぐちゃなのに 下半身は勢いよく もんどりうっていた 僕はそれを横目で見ながら ああ、なるほど と納得して そのまま走り去ろうとした 自転車に乗ったおっさんが 自転車から降りて ばったんばったん 下半身だけで跳ね回っている子猫を見ていた 走り去りながら どうして僕は 平気なんだろう と思った 昔の僕なら どう思ったのだろう…続きを読む