夏美へ毎日お仕事お疲れ様。小学生の時のバレンタイン覚えてる?当時、夏美が私にくれたチョコレートがとっても苦くて文句を言ったのを今でも覚えているわ。今食べたいくらい。そう思えるってことは、私たち大人になったってことよね。25歳。節目のバレンタインデーとして、毎日頑張ってるあなたに特別なチョコをあげる。あの時好きだったホワイトチョコ、今も好きかしら?今年のバレンタインが、あなたにとって特別なものになりますように。聡子よりよし、手紙が書けた。あとはデパートのバレンタインフェアで一目惚れしたこのチョコと一緒に届ければ完了。私は小学5年生の時に親友だった夏美にチョコレートを送ろう…続きを読む
幼稚園のお遊戯会でお姫さまを演じたとき?安い衣装に身を包みちょっぴり唇に紅をさし満面の笑みでセリフを言った私は誰よりも自信を持った顔だった。小学校の運動会で組体操をしたとき?校庭を裸足で踏み、上にいる人を支えみんなでピラミッドを成功させたときは痛い気持ちはどこかに飛んでいき達成感に満ち溢れた顔だった。中学校の卒業遠足で夜中まで話したとき?早く寝なさいと言われたけどナイショ話と妄想話はずっと止まらず一晩中笑った顔だった。学生時代じゃなくて大人になってから?初任給でブランド物の鞄を買ったり少し高級なレストランでランチをしたり逆に子どもの頃みたいにずっとゲーム…続きを読む
今日も私は短い話を書く。少女が駄菓子屋に行き好きな駄菓子、特にコーラ味のゼリーをたんまりと腕に抱えてレジへ持って行く。そしておばあちゃんが電卓を打った後で10円足りなくて泣く泣くゼリーをひとつ戻すありふれた話を、丁寧に、丁寧に。昨日は彼氏と別れた友人の薬指を噛む話。先週は少食に見せていた女の人が炒飯と餃子をぺろりと食べた話。私はそんな話を書きながら涙が出てきた。ああ、懐かしい。覚えているうちに書き起こせてよかった。あなたは一体どこに行ったの?親友の様子を見るためいつものようにアパートを覗くとそこはもぬけの殻だった。なんで私に何も言わずに引っ越したの?私…続きを読む
「いつものお願いします!」行き慣れた地元の中華のお店で、私はいつものように注文をする。ここの店は全部美味しいけど、特にチャーハンの味付けが私好みで、青のりが少し入った和風チャーハンを出している。歯に青のりがつかないよう、少し気にしながら食べる癖がついていた。「はあい、チャーハン、ラーメン、餃子ね。」仲良しの店員のおばさんがそういうとじっと私を見た。おばさん、私がいつもと違って濃い赤のリップをしているのに気づいたかな。私は今日、かなり気合の入った格好をしている。少し濃いめのメイク、髪の毛は軽く巻いて、ミニスカートを履いている。「今日はいつもと格好が違うのね」「そうなの、実…続きを読む
「次は青山一丁目」電車のアナウンスの声が聞こえた時には私の降りるべき駅が2つもすぎていることに気がついた。「ああ、集中しすぎた」読んでいる本を閉じた。友人に勧められたレストランでランチをしようと思っていたのに、よりにもよって若者の駅についてしまった。ここの駅にはテレビで見たような若者の好むレストランしかないのだろう、と私が周囲を見渡すと、私と同年代くらいの人がドアの前に立っていた。私は自分に向いている駅まで乗っている気でいたが、その人を見てハッとした。私に向いているとは誰が決めたのだろう。私の年齢、性別、職業…それらから導き出される適切な場所は、私の意思ではなく誰かが勝手に決…続きを読む
大学に行くため、私は東京駅から東京メトロ丸の内線の池袋方面の電車に毎日乗っている。改札に向かうため、東京駅の賑やかな構内を制服の高校生、スーツの社会人と共に歩く。私は歩きながら少し前髪をいじり、乱れていないかを確認する。もしかしたら雪乃さんに会えるかもしれないからだ。電車に少し乗ると、すぐに大手町駅についた。私は降りる人の邪魔をしないよう少し端に避け、ホームを探した。「あっ」1つ離れたところの並び列に雪乃さんはいた。今日も変わらず素敵だ。初めて彼女をみた時、雪の結晶のチャームが付いたピアスをしていたため、私は勝手に「雪乃さん」と呼んでいる。たぶん私の1〜2個上の先輩で、私…続きを読む
「もしも、何か1つお願い事が叶うとしたら何をお願いする?」ママが私に問いかけた。私は「うーん」と考えて「りんごがいっぱいの世界にしたい」と言った。りんごの世界はね、春夏秋冬どの季節でもりんごがおいしいの。春のりんごはさわやかな味だからお外で食べるのにピッタリ。夏のりんごはちょっぴりすっぱくて汗をかいたときに食べるとおいしい。秋のりんごは少し苦くて大人の味。冬のりんごはとびきり甘くて幸せになれるの。あとね、人間だけじゃなくてうちにいる金魚の餌もりんごになるの。金魚鉢もりんごになって真っ赤な水槽で真っ赤な金魚が泳ぐ姿はみんなが大好き。りんごのキャラクター…続きを読む
「もう嫌だ…」私は友人宅でビールを飲みながら声を漏らした。目から出る水を口から含む水で調整して水分量を保っている。おっと、鼻からも。「男運なかったね」友人が優しく慰めてくれる。持つべきものは女友達だ。夫から離婚を切り出されたのは夕飯の後だった。いつも通りにご飯を食べていつも通りに食器を洗っていたら「俺たち、合わないと思う」といきなり言われた。心当たりがないわけではなかった。なんとなくすれ違いちょっとしたこだわりのズレからお互い違和感を感じていた。幸か不幸か子供はおらず私たちは結婚して1年で離婚した。現実を受け止められず離婚して1週間経つが結婚…続きを読む
side:アルファ時々思い出すことがある。お前と過ごした無敵な日々を。その度俺は中学生の時によく聞いていたこの曲を聴く。出会いは中2の春だった。俺は歌うことが好きだった。中学の時に教室で歌っては「うまい」ともてはやされていた。好きなアーティストの曲を歌うことが多かったが、特に反応が良かったのは学校あるあるを歌った替え歌だった。替え歌にハマった俺は歌詞を考えられる相方を探していた。あまり話したことがない、前の席のやつに「1+1が3になるときってどんな時?」と質問してみた。前の席のやつは変な顔をしたが「父親と母親がいて、子供ができた時1+1=3になる」…続きを読む
塾で試験勉強をしていたらずいぶんと遅い時間になってしまった。でもまあ、家でやるよりも集中できるし気になる他校のあの子もいるから一石二鳥だと思っている。塾から出ると月が見えた。「あ、満月」声が重なった。声の方を向くと気になる彼女がいた。「今日って中秋の明月なんですよ」そう言って会釈をする彼女。いつもだったらこのまま帰るけど今日の僕はもう少し勇気を出せる気がする。「あ、あの、こっちの道を通ると建物に遮れないで月が見えるんですよ」僕は今世紀最大級に勇気を出した。風が彼女の髪とススキを揺った。「そうなの?気になる。」月にいるうさぎが笑った気がした。彼女と一緒…続きを読む